ちぐはぐなのは
「いやはやしかし、こんな狭い空間で一対三とか考えてみたら非常に厄介というか面倒というかやはり少々こちらも浅慮だったが、とはいえ既に火蓋は切ってしまわれた以上はどちらかが戦意を失うか先頭の続行が不可能になるまでか、それともこちらが引けばいいという話なのですがさすがにそれはやりたくない。となればやはりこの不利的状況下を打破するしかないというわけで」
何かすっごい小さな声かつ早口に喋っていてそれが一種の攻撃方法なのかと思ったけれど、どうやらこれは愚痴のようなものらしい。しかし、驚くべきなのはそんなことを呟いているというのに目の前の彼はこちらの攻め手を全て捌いているということだった。
クロが最初に突っ込んで大きく振りかぶった拳を軽い調子で跳躍をして彼の肩に飛び乗った。
そこをリョーが狙い誤ることなく発射した水の弾丸は一発が胴体、一発が右肩、一発が左足というそれを足元の不安定さなんて感じさせない様子で半身になって肩と足を射線から外し、唯一避けようのない胴体への弾丸は小さく腕を動かすのと同時に弾けて霧散した。
僅かにリョーが稼いだ時間を惜しむことなく、立て直したクロが肩に乗っている足を掴むために手を伸ばせば、当然の如く掴まれないために跳躍。体が浮いた。
無論その行動を見守るわけは無く、私は床を蹴って体全体を押し込むように蹴りを繰り出す。しかし普通であれば必中と思われたそれをくるりと体を回転させて私の蹴りだした足裏と自身の足裏を合わせるなどという芸当で受け止め、こちらの蹴りの勢いを利用して後方へと跳んだ。
思わぬ方法で蹴りを止められた上にそれが空中だったこともあったが危なげなく着地する。
「まったくもってわかっていても冷や汗ものだ。ちょっと力加減を間違えてたら確実にバランス崩していたな。やっぱこういうのは視えてても実際にその通りに行くわけではないし、いくらこっちの能力が高いとか謳っててもスペックカタログ以上の何かを有しているからこんなところまでこれているわけだし、ほんと貧乏くじを引いたもんだ」
相変わらず表情の変化は無いのに口元だけは小さく動き、涼しい顔をしている。
隙があるような立ち姿だというのにこちらの全ての行動を何食わぬ顔で対処し、回避した。
「あいつ、強いわよ」
「めっちゃぼそぼそ喋ってるのにな」
「それ関係ないでしょ?」
クロの背中に隠れて相手を伺う。どうにもあれを相手取っているとおかしいと感じる違和感がある。
達観した態度なのに、時折見せる最適な動きと危うい動き。技術が無いわけではないのだけれど、技術が必要となる場面を潜り抜け、身体能力があるというのに身体能力に頼らない動きをする。ちぐはぐな動き。
三対一とはいえ、下手な油断は命取りになる。
そんな予感がした。