背後は崩れた
どんっ、と大きな音がして揺れた。
「な、なに!?」
「知らんが、ここで止まってると後ろからの増援に追いつかれるぞ!」
「うひゃ、撃ってきた~!?」
階段を駆け上がる最中、背後から追ってくる【対因子部隊】の銃撃を掻い潜っていた。
とはいえ、このまま順調に行けば五階層なわけなのだけれど、懸念すべきことが一つだけあった。
「とりあえず階段登りきったらどうすんだ!?」
「わかんないけど、追いつかれないようにするには走るしかないでしょ!」
そう、事前に仕入れられた【中央】の階層情報は四階層までのもので、その四階層も事前に学んだものとは違う構造をしているために、五階層における情報は何一つ無いどころか下手に動くのは危険という可能性まであった。
だからといって止まるというわけにはいかない。一度立ち止まれば銃撃の嵐に呑み込まれる。辛うじてリョーが私たちに当たりそうな場所に飛んでくる弾丸の対処をしてくれているけれど、それも時間をかけてしまえばやがてカバーしきれなくなるだろう。
「登り、き――」 がしゃぁあああああん!!!
った。
というはずだった私の声は、突如背後にあった壁が爆発した音によってかき消された。
大質量の瓦礫が階段を埋め尽くす勢いがわずかに気の緩んだ背を押して、床を転げまわった。
「げ、げほっ、げほっ。な、何が起こったの!?」
「つつっ、いきなり壁が爆発しやがった……」
「建物に穴が……」
幸いというべきか、私たちは皆無事だった。
瓦礫が背後の階段を埋め尽くし、その際に舞った粉塵は通しの良い穴へと出て行く。
「柏?」
その粉塵の影から、私を呼ぶ声がした。
反射的に声がしたほうを見る。
「桐峰……」
そこにいたのは、龍堂桐峰その人だった。