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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
130/187

その男は己が業を抱いて死ぬ


 【対因子部隊】にも秘密に行っていたのであろうこの地下施設は、警備体制という部分に関しては全て【因子保持者ファクター】だった。

 それだけに数を用意するのは難しく、先ほど彼が戦った十数人にも渡る被害者ファクターたちが戦力の大半を占めていたということになるのだろう。


 先ほど、モニタ越しに自身の欲望を発散していた白衣の者たちがいた部屋は結局のところ鑑賞室であり、何かしらの情報として得られるものは何も無く、ただ部屋の中を真っ赤に染めたという結果だけが残った。

 この地下施設はこの現在、桐峰のいる階層の下にもう一つの階層が存在する。だが、その一つ下ははっきり言って何も無いだろう。あるのは家畜のように造り、育てられた、人間の欲望を満たすためだけの者たちだけ。見世物小屋といってもいいだろう。


 「(あの男も、ここの存在を知っていてあえて見逃しているのだろう)」


 きっと、ここは先ほどのようなものたちが歪んだ欲望を満たすために作り出した施設なのだろう。そしてそれはこの【中央セントラル】の頂点にいるであろう男は知っていながらもあえて見逃している。きっと、それもまた人類という種を愛しているから、などという理由で。


 「止まれ」

 「これ以上の侵入は許さん」

 「ここで死んでもらう」

 「貴様がなんであろうとな」


 現れたのは屈強な肉体を持つ四人組。

 一人は頭部に対となった角を生やし、

 一人は全身が灰色の体毛に包まれ、

 一人は胸元まで隠すたてがみを有し、

 一人は四肢に鋭く巨大な鉤爪を持っていた。


 一目で彼らが【因子保持者ファクター】であるということがわかる。


 「聞きたいことがある」


 「こちらに答えるものはない」


 「なぜ、君たちは……」


 ――自らを不当に扱う者に従う?


 きっと、その質問が口に出たとしても彼らは答えないだろう。

 それに、意味は無いのだろう。彼らにとって、生み出した者に従うというのが当然の話で、逆らうという考えはそもそもない。

 無意味で無価値な質問。


 きっとこの施設を破壊し、【中央セントラル】を壊滅させたとしても、全ての元凶とも云えるあの男を殺したとしても、彼らが解き放たれることは無いから。






 そして彼は突き進む。

 積まれた四つの肉片を後にして。


 その先にある一室の扉を、彼は開けた。


 「ここまで、来たのか……」

 「貴方が、ここの管理をしているのか?」

 「そうだ。この施設は表には出せない実験方法を観察するために存在する」

 「あれが?」


 そこにいたのは、深い皺の刻まれた老人。

 その目の奥に理性を宿していながら、この狂気とも云える場所を管理している男。

 桐峰が短く伝えた一言で老人は察したのだろう。顔を歪め、苦悶の表情を浮かべた。


 「アレを見たのか……」

 「殺させてもらった」

 「ふん、あの畜生共が死んだのなら清々するわッ」

 「ここを管理しているのは貴方だろう。ならなぜ、見過ごす」

 「簡単なことだ。結局アレも人類の進化という部分においては重要なことだから、だ。【因子保持者ファクター】とは遺伝子を弄り、さらに他生物の遺伝子を組み込んだ次世代の人類。だが、そうあるためには欠かせない要素がある」

 「生殖機能か……」

 「その通り。当然の帰結だな。それゆえに、この下にある一室では造った【因子保持者ファクター】同士を交配させて子を孕むのかという実験が行われている。そしてそれを逐次観察するためだという名目で、あの者たちはあの部屋の様子を覗いていたのだろうよ。欲望を満たすという目的でな」

 「………………」

 「無論、それだけに留まるわけはない。直接手を出したものもいる。【因子保持者ファクター】には作り主に対して逆らえないように手が施されているからな。いってしまえば従順な奴隷であり、欲望のはけ口というわけだ。ここまで来れるということは、この部屋の外に待機していた【因子保持者ファクター】たちも殺してきたということだろう?」

 「ああ」

 「そうか。やはり、わしの傑作であるあの4体でも【リュウ】には勝てんか……」


 老人の表情には疲れたという感情がはっきりと浮かぶ。

 実際、彼はため息を吐いて目を瞑った。


 「既にここにある情報は全て開示できるようにセキュリティは解除しておいた。その代わり、二つわしの頼みを聞いてくれないか」

 「頼みにもよる」

 「なに、簡単なことさ。キミはここの情報を得るうちに解決策がわかる。有り体に言えば、この下にいる【因子保持者(あの子)】たちを殺さずに救って欲しい。それだけさ。そして、わしのことは殺せ」

 「……わかった」

 「結局、人が人を進化させるなど業が深いということなのだ。それをあの男は、何の意識も無く無邪気に、子供のように行っている。わしにはそれが恐ろしく、そしてかわいそうに思えるよ。……さぁ、一思いに頼む」


 老人が近づいてくる。

 だから彼は、握り締めた拳を老人の胸元へと留めて、力を込めた。


 どくん、と老人の体が跳ねた。


 「あり、が、……」


 力を失っていく眼で、老人は死ぬという最中で穏やかな笑みを浮かべ、そして崩れ落ちる。

 床へと体が落ちる直前に、桐峰は老人を支えた。

 ゆっくりと横たえ、開いているまぶたを閉じる。


 「………………」


 彼はそれを背に、コンソールへと向かった。



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