肉の宴
あまり良い描写ではないので、ご注意ください。
「あ、ぁ……」
「…………」
白かった廊下は紅く染まった。
桐峰が奇襲してきた相手ともう一人を殺したのと、増援が現れたのはほぼ同時。
最初こそ【因子保持者】がどのような能力を持っているのかもわからない状況で戦うのはリスクが高いと考えていた彼だが、早々にその考えを破棄。目に入った瞬間に抵抗する余裕も無く殺すという手段をとった。
都合十数名。
それが現在廊下に積まれている死体の数であり、哀れな犠牲者だった。
血に塗れた両腕を振って血を落とす。
室内で風が吹く。
それだけで彼の身体を伝っていた返り血が風に巻かれる。さすがに乾いて染み込んでしまった血までを落とすことは叶わなかったが、大分マシな様相になった。
増援も途切れたことで、足止めされていた彼は再び歩を進めた。
たどり着いたのは一つの部屋。
躊躇いなく、けり破る。
「な、なんだ!?」
「り、【リュウ】!? そんな、あれだけの【因子保持者】を送り込んだんだぞ!」
扉の奥にいたのは白衣を着た男たち。
その見た目は様々だが、それぞれがそれぞれ、共通しているものがあった。
「欲に塗れた目だ……」
そうとしかいいようがない。
何せ、桐峰に驚いて立ち上がった男の一人は、だらしなくズボンが降りており、その内側にある己の分身を露出していたからだ。
男しかいない空間で、そのようなものを取り出しているというのは語弊があった。彼らは部屋の中心にあるスクリーンを見ていた。
『あ、あぅ、んん、むぐぅ……!?』
『はぁ、はぁ、はぁ、へへへ、へへへへ!!』
『んぢゅ、ああああああ、あひゃ、いひゃひゃひゃ』
『ふぅ、ふっ、はっ、はっ、ふんっ』
そこに映されていたのは宴だ。
男と女が、交わる宴。
だが、そこに映っているのは普通の人間じゃない。
【因子保持者】。
人間の手によって生み出された人間。
遺伝子を改造することで生み出された理想的な人間は、その見た目もまた理想的なものが多い。
スクリーンに映し出されている女性は大人びた者や、明らかに子供といえるもの、他にも多くの女性がいた。
そして男性もまた、似たようなものである。共通している特徴といえば男性たちの中に容姿の整った者がいないということか。ほとんどが大きく腹の突き出たものや、筋骨隆々であり人間サイズではあるが遥かに大きなもの、中にはほとんど人間の原型を留めておらず犬や馬などの動物に近いものまでいた。
「………………」
彼は何も語らない。
部屋の中へと、一歩踏み出す。
「ひぃ!?」
「あぁああああ!??」
「たす、たた、たす……」
素人目で見てもわかるほどの殺気。それが白衣の男たちにぶつけられる。
一瞬にして恐慌状態に陥った部屋の中で、いきり立っていたモノは萎え、中には床に染みを作るもの、全身から冷や汗を流しながら涙と鼻水とよだれを同時に流し震えるもの。
一片の慈悲もない。
そう、言わずとも聞こえた。
パンッ、と弾け。
ゴトリ、と落ち。
ぐちゅり、と潰れた。
部屋の中は暗い。
その中で画面を点滅させたスクリーンが照らし出したのは、原型を留めていない肉の塊たちだった。