地下を行くのは
その男は隠れることをしなかった。
「ぎゃぁああああ!?」
「えぐぉ、げほぉ」
哀れにも彼の目の前に現れてしまった黒づくめの者達――【対因子部隊】のものたち――が肉を撒き散らして宙を飛べば、ひしゃげた腕で捩れた腹部を庇い地に伏せるものまで、死屍累々と化した場所がある。
「くそ、【リュウ】を近づけさせるなよ!? あいつらのようになりたくなければな!」
十人一組で部隊を作っている彼らは自分たちの部隊に被害が出ないように指示しながら、それぞれがそれぞれの携行している銃火器でもって応戦している。今、中に侵入している三人組に向けられている武器がアサルトライフルだけなのに対し、【リュウ】と呼ばれた男に向けられている武器はそんな生易しいものなどない。周囲の被害など度外視し、ミニガン、ロケットランチャーなどをはじめとした人間一人を殺すのに充分すぎるだけの兵器たちは彼に向けて全て放たれている。
しかし、掠れば致命傷というそれらは全て彼を傷つけることは無く、逆に撃った反動や引き金を引くことで動けなくなった彼らを男は倒していった。
妨害はほとんど無意味であり、迷う素振りを見せずに駆けて行く男は、【中央】の建物における一階へとたどり着くと、上へと向かうための階段を無視し、奥へ奥へと駆けた。
一階のエントランスは既に争った形跡があり、それがここに侵入した三人によって行われたことだとわかるが、それを気にしている余裕など今の彼にはない。
研究者以外立ち入り禁止と書かれた扉を見つけ、それを蹴りあける。
扉に掛かっていた施錠は抵抗むなしく砕け散り、折れ曲がった扉は道の突き当りぶつかって遂に止まる。
廊下を行き、突き当りを曲がればそこは壁と右に扉が一つ。立ち入りを禁止しているというのにあまり簡素なその空間を、彼は扉を開けるのではなく壁へと近づく。
そして壁に向かって躊躇いなく、拳をぶつけた。
建物の壁は本来ぶ厚く、殴った程度では表層が砕けるというのが関の山だ。しかし、その壁は音をたてて砕け散り、瓦礫が生まれる。そして、その奥には空間があり、下へと降りるための階段があった。
「さすがにここを変えるのは難しいのか」
彼がここに隠しの空間があるというのは協力者である女性から得た情報にあったからだ。本来はこの壁を開くための仕掛けがあるのだが、一々そんなものに構っていられるわけもなく、力技でもってその道を拓いた。
この下へと続く階段の先は、彼も知らない。しかし、彼女に言われた言葉が正しいのであれば、この先こそが【中央】における最大の闇である。
ある意味ではあの三人は上へと【対因子部隊】の目を向けるための囮に使ってしまったということになるが、それを気にしている暇は無い。
そして男は、深い闇の中へと潜っていった。