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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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【中央】攻略四階 11


 「つくづく、【因子保持者ファクター】っていうのは凄いと思うわ」


 そういって私は自分の手に巻かれていた包帯を取り外した。

 巻かれる前は爪が喰いこんでいたりと見ているだけであまりいい気分のしない指は、いまじゃ痛みよりも痒みがある。肉に喰いこんでいた爪は押し出されており、包帯を取り外した弾みに床へと落ちる。さすがに完全に生えたというわけじゃないけれど、ピンク色の指先は既に半ばほど爪が覆っていた。

 力を込めて拳を握ればさすがに上手く力がはいらない。引っ掻こうにも爪が無いのでは無理だ。けれど、それなりに軽いものであれば持つことは出来るだろう。

 一応は念のためということで、消毒液で軽く洗浄したら、指先だけを包帯で固定した。


 「戦闘になったら私に出来るのは脚を使うことぐらいね。銃は使いたいけれどもしもを考えると怖いから、止めとく」

 「となると、オレとリョーで突っ込む形になるな」

 「まぁクロだけでも充分な気もするけれど、早いに越したことは無いものね」


 「俺たちはどうすればいい?」

 「よ、用がなくなったから殺すとか……無いよな?」


 そう聞いてきたのは白衣の二人だ。確かに、この先に連れて行くのに彼らははっきりいって邪魔だし、私たちにとってこの階層を抜けるために協力をしてもらったということはこれ以上巻き込むわけにもいかない。


 「ええ、だから……そうね、ここでお別れになると思うわ。もしもだけど、ここを貴方が触ったっていう証拠は残るの?」

 「一応管理者のほうでは誰がここの端末を操作したのかは記録されているな」

 「だったら、私たちに脅されて泣く泣く従ってことにしなさい。それでも駄目なら……【因子保持者ファクター】の能力でって言えば大丈夫だと思うけれど」

 「それは構わないのだが、実質濡れ衣のようなものだぞ、いいのか?」

 「別に構わないわよ。どうせここがぶっ壊れたらその時点であなたたちが問い詰められることもないでしょうし」

 「……それもそうだな。わかった、ありがたく言い訳にさせてもらおう」

 「ええ。それじゃ、もう会うことは無いだろうけど、さようなら」

 「ああ」


 準備を整えて、部屋を出る。


 「さて、ここからは立ち止まってられないわよ」

 「オレが一気に駆け抜ける、ハクが道は指示してくれ」

 「じゃあボクはクロ君に付いて行くね~」

 「それじゃ、いきましょう」





 「そこを左、そしたらすぐに十字路だけどまっすぐ行って!」


 「あと少し、そこを右に行って左を抜けて次の曲がり角を無視してまっすぐ行ったら階段よ、気をつけて!」


 管理室を出てからは私がクロに向けて声を掛けるだけで、誰も会話はしなかった。

 危なげも無く指示通りに彼は走り、ついに目的の場所が目前となった。


 「リョー、水を!」

 「りょ~かい!」


 クロのすぐ傍へ寄り添ったリョーが、二人分の空間に水の幕を形作る。

 そして、見えた。


 「な、研究棟から侵入者が出現!」

 「今すぐに応援を呼べ! 総員は構えて撃てー!」


 私たちが彼らを認めるのと、彼らが私たちを補足したのはほとんど僅差。多少の驚きはあったのだろうが、すぐに彼らは銃を構えると、廊下一面が銃弾の雨で埋まっていく。


 銃弾は水に取り込まれるとその勢いを殺し水を抜けるころにはポロリと床へと落ちてしまう。たまたま突き抜けてもクロはほとんどの部位を【甲鱗】で硬質化させているようで、甲高い音をたてて弾かれていった。


 「うぉおおおおおお!!!」


 声を上げて、クロが黒づくめの男たちの中へと飛び込む。

 続くようにリョーが水の膜を前面へと押し出して一度【対因子部隊】の動きを鈍らせると、次々と彼らを殴り蹴り、あまっていた水でナイフを形作って切り裂き、戦いながら水を集めて造った短剣で装備を切り落とし、さらに束ねて短槍とし突き入れ、最後は普段から使っているような槍となり薙ぎ払った。

 クロは単純明快に力任せに殴り、時に掴んではそれを投げる。嵐の如きその様子は周囲にいる【対因子部隊】の人間が逃げ出そうとするほどだった。


 「くそ、せめてお前だけでも!」

 「舐めないで!!」

 

 そんな中で少しだけ俯瞰しながら戦況を観察していれば、嵐から逃げ出した黒づくめの彼らが私を見つけて襲い掛かってくる。けれど、その行動は恐れからなのか、精彩を欠いていたり、せっかくの武器を上手く活かせておらず結局猪突猛進に突っ込んできた相手を私は蹴り倒していった。


 戦況は私たちに有利に動いている。

 結局のところは人間である以上、【因子保持者ファクター】と真正面から戦えるわけも無く、廊下には人の山が出来ていく。


 「くそ、防衛網が突破されるぞ!?」


 あと少しで階段を通れる。そう思ったとき、背後から声が声があがった。

 振り返れば、こちらに走り寄ってくる増援の【対因子部隊】。


 「まず、クロ、リョー、一気に抜けるわ!」 

 「りょー、かいッ!!」

 「は~い!」


 追い立てられるようにして、一気に私は駆けた。

 そこにクロとリョーが道を開けるために彼らを押しのける。

 人一人が通れる僅かな隙間を走りぬけた。

 続いてリョーが周囲を薙ぎ払い、クロは手元にいた倒れているひとりを掴むと思いっきり増援の集団に向けて投げ込んだ。


 投げられた仲間に多少同様を示してしまい、足並みが乱れたのが決定打であり、私たちは遂に、四階から五階へと駆け上がった。



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