【中央】攻略四階 10
「研究員というのは自分にとって必要なことには厳しいが、それ以外のことに関してはルーズというか、どうでもいいと考えているタイプが多い。それだけにいちいち個人証と生体認証行うのも嫌だといってな。裏の方法として……開いたぞ」
「おいおい、いいのかよそんなこと教えて」
「毒を喰らわばというやつだ。協力するからには下手な隠し事は自らの死をもたらす。だったら、協力的に動くのが妥当だろう」
扉を入った先は、三階層で見たようなコンソールにパネルと、この階層と思われる映像が映し出されていた。とはいえ映像の中に黒づくめの男たちがいないという感じではこちらのほうだけを映している様子である。幸いというべきなのか、この部屋に人はいなかった。
そしてもう一つ、この部屋に少し特異なモノがあった。
それはガラスの筒だ。中は少し緑色の液体で満ちており、そして中には、
「これって、人間なの?」
数多の管に繋がれた人間がいた。
目を閉じ、服は着ておらず、漂うようにそこにいる。
生きているのかいないのかはわからない。
「人間ともいえるが、そうでないとも言える」
「どういうこと?」
「それは恐らく、【因子保持者】の成りかけだろう。一から【因子保持者】を造るよりも、人間の素体を用いて造ったほうが速いというのが考えだろうしな。しかし、ほとんどの者は移植した段階で拒否反応を示し死ぬ。そのカプセルの中身は、その一人だろう」
「よく、そんなことができるわね」
「人類のため、というのがここの理念だ。そのためならば人を使っての実験を行うというのはなんらおかしくはないということだろう」
「他人事みたいね」
「実際他人事だ。確かに俺もこいつもここの階層での実験に関わっているが、基本的に俺たちの役目というのは下っ端となんら変わらんからな」
肩を竦めているのを見て、少し苛立ちのようなものがわいたけれど、それは我慢する。いま欲しいのは情報であり、協力者だ。感情に身を任せて殴ったところで意味は無い。
ひとまずはコンソールに近づいて、操作を頼む。カメラを操作してもらい階段がある場所を見てみれば、案の定そこは黒づくめが階段を塞いでいた。
どうやら、階段の場所が共通の空間のようで、都度都度黒づくめの誰かしらがそこへいけば、何かを伝えている様子だ。
「あまり時間をかけてはいられないようね……」
「まぁそうだな。けど、下手に攻め込むと挟み撃ちをされる可能性もあるぜ?」
クロの言うとおりでもある。一気に攻め込んで強引に行くことも可能だけど、あまり時間をかけすぎると増援として現れた【対因子部隊】に挟撃されてしまう恐れがある。
「でもそろそろ~、ボクたちがここにいるってことバレそうだよね」
「……一か八かになるのは嫌だけど、あの包囲網を突破しましょう」