【中央】攻略四階 5
包囲網を突破するのは難しくなかった。
【対因子部隊】の彼らは私たちと一定の距離を保つように命令されているのか、牽制のための銃撃さえどうにかしてしまえばほとんど素通りしたようなものだった。
できるかぎり囲われないように移動を続けて、ようやく誰にも見つからず部屋へと逃げ込むことができた。
部屋を見てすぐさま確認するのはダクトへとはいるための格子を探すことだったけれど、それはすぐに見つけることが出来た。金具で留められていた格子はクロが強引に取り外した。
ダクトは結局のところ空気の通り道なので匍匐の姿勢になって一人通れるのがやっとの広さだったために水を操ることで色々と応用の利くリョーを先頭に、私が中間、クロが殿を務めることとなった。
「ダクトとかってもうちょっと埃っぽいというか汚れてる印象があったけど、あまりそうでもないのね」
本当なら服が埃まみれになることを覚悟して這いずっていたわけだけど、クロから預かったホタルイシの明かりで周囲を確認してみればそこまで埃があるようには見えなかった。
「一応この階層は生物実験とかをしてるんだろ。空気を綺麗にしておかねぇと不備が発生したときにややこしいことになるからじゃないのか?」
「まぁ確かにそう言われればそうね。……あれ?」
「なんだ?」
「私たちって、この階層で【対因子部隊】の人以外に出くわしたっけ?」
「……してねぇな」
「なんだかんだでも私たちはこの階層を駆けずり回って部屋も色々通ったわ。でも、入る部屋には白衣を着たような人なんて誰もいなかったし、廊下で遭遇することも無かった」
「けどよ、途中まではオレたちアイツ等に誘導されてたんだろ? だったら通らないような場所に移動させる事だって出来るだろ」
「確かにそうだけど、他にも実験施設の割にはあまりにも普通の部屋が多かった。何かしらの資料がありそうな部屋も、実験する為の道具も、機械も何も見た覚えは無いわ」
「ってなるとなんだ、この階層に実験する為の設備なんて存在してないってことか?」
「そんなのわからないわ。クロの言ったとおりここが本当は何もない階層という可能性もあるし、もしかしたら隠し部屋とかそういったのがあって入れないっていうのも考えられる。確かに私たちは【中央】に関する建物の構造をある程度把握してるけどそれが絶対に正しいとは限らないわ」
追われることに夢中で意識していなかったけれど、これはどうにもおかしい。何かしらの要因があるには十分すぎるぐらいには。
となると私たちが目指している5階層への通路も、頭の中に地図の場所にあるとは限らないわけだ。とはいえ色々とありすぎてしまったせいで現状を把握するのが手一杯で気づけばいま自分たちがどこら辺にいるのかもわからなくなってるんだけど。
「う~ん、この感じだとハクちゃんの予想があってることになるかも」
実のところあてども無くダクトを這いずっていると、会話には参加していなかったリョーが呟いた。
「どういうこと?」
「うん、さっきからダクトの格子越しに部屋の中を確認したりしてるんだけどね~、さっきから同じ感じの部屋が多くて。なんていうか、最低限の家具を置いてるだけみたいな」
「【対因子部隊】は?」
「時々チラッと見えることはあるけど~、今のところはボクらがどこへ行ったか把握は出来てないみたい」
「それなら作戦は上手く行ってるってことね」
「ハクちゃん、この後はどうするの~?」
「研究施設を探しましょう。もしかしたら、私たちの知らない場所があるかもしれない」
きっとそこが、この階層を抜けるための要になるはずだ。