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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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【中央】攻略四階 3


 「キャイン!?」


 それは甲高い声だった。

 人間にしては小さな黒い影はクロの蹴りをまともに受けて壁へと激突する。幸いとも云うべきなのその相手が五体満足であるということぐらいか。


 「い、いぬ?」


 壁からずり落ちたのは真っ黒な犬だった。

 どうして犬がここにいるのか、というのを考えるよりも早く今のが囮であったことに気づく。当然だ、いくらガスを充満させたとはいえそれが本当に効いているかどうかはわからない以上確かめる必要性が出てくる。しかしもし効いていなかったとき不意打ちを喰らえばせっかくの作戦が瓦解する恐れがある。故に、部屋の中に入れて特に支障の無いものを部屋へと入れて様子を見るのだ。何事も無ければちゃんとガスが効いており、もし効いていなければ奇襲しようと試みる相手は最初に部屋に入ってきた相手をよく確認もせずに襲い掛かるはずであると、判断するために。


 「クロ、作戦変更! 今すぐ逆の方の壁を壊してこの部屋を出る!!」

 「なんだかわかんねえが、了解!」

 「リョー、水の状態を維持したままクロの援護に!」

 「は~い。ハクちゃんはどうするの?」

 「とりあえず持ってる武器をばら撒いてあいつ等に気取らせないようにするッ!」


 言うなり私は持っていた銃を片手に、逆の手には手榴弾や催涙缶といった類の栓を抜いては思いっきり扉の外へと投げ込む。無論、部屋の内情を知られるのは厄介であるため一緒に煙幕も投げる。


 ここからは時間の勝負だ。相手は私たちがガス程度では動きをとめることができないと判断したはずだ。となれば次の手段はより確実な方法を候補に入れてくる。それはすなわち捕獲を諦めるということ。そして、対象を殺すとなればそこに躊躇いは不必要になる。

 ありったけの火力を含めた兵器をこの部屋の中へと叩き込むことが可能ということだ。

 いくらクロが頑丈でリョーが水を操ることで弾幕などを防ぐことは出来てもそれがずっと続けられるわけではない。いずれは磨耗した精神が能力を不安定にし満足に扱うことが出来なくなる。


 「くそ、相手の【因子保持者ファクター】の抵抗が激しい!」

 「止む終えん、後方に待機させていた部隊を前に出せ! あの部屋もろともに下敷きする!」

 「対象は要捕獲となっていましたが……」

 「構わん。こちらの被害が大きくなるほうが危険だ。【リュウ】がここにいる以上余計な損耗は避けたい」

 「了解しました」


 銃音が響き渡る中で、嫌な会話が聞こえてきた。

 クロとリョーを信じるしかないけど、間に合うかどうかも怪しい。


 「二人とも、今どのくらい!?」

 「だぁ、壁が結構ぶ厚い! 希望的には半分ぐらいだ!」


 マズイ。

 確かに部屋の厚さを考慮してなかったのは失敗だった。わざわざここに誘導したんだからこの部屋の壁を破壊して抜け出そうとする相手に対する処置がされていてもおかしくは無い。


 「準備完了しました!」

 「よし、構えー!」


 煙幕の中でも撃つ気だ。辛うじて白煙の中から覗いたソレは有り体に言えばランチャーとかそういうやつだ。普通は室内で撃つような代物ではない。それも廊下一杯に横並びになってまで。


 「クロ!」

 「多分あと少し!」

 「だったら今すぐソコどいて!」

 「はぁ!?」


 今扉の外はランチャーを撃った際の影響を受けないように銃撃が止んでいる。となればもうここを見ている意味は無く、今すぐにでもこの部屋から出るための打開策を叩き出すしかない。

 だから、私は自分の腕に意識を移し、さらに先端の手に移し、より細い指の先まで意識を傾ける。


 そしてそれは起こる。

 傍から見れば震えているかどうかもわからないそれは、触れればあらゆる物を分解する【超振動】。極短時間の、それも無意識的にだけしか使用できないそれを自らの意思で行使する。


 クロが壊していた壁に指を這わせる。何の感触も無く壁は粉になり、私はそのまま壁を掘る。結果的にはクロの予想は当たっていた。壁の厚さが丁度私の体が埋もれるかというぐらいのところで穴が開く。


 「出るわよ!」

 「おう!」

 「うひゃ~!?」


 なだれ込むように後ろから二人が穴を通る。

 同時に、穴の向こうから見える扉が勢いよく吹き飛び、続くようにいくつ物円筒状の物体が飛来して部屋の中を蹂躙していく。激しい揺れを起こし、壁は剥がれ、天井は崩落。


 「巻き込まれないようにここから離れるわよ」


 言うなり私たちは振り向くことなく部屋から離れるようにして逃げ出した。



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