【中央】攻略四階 2
その部屋は広くもなく、狭くもなかった。
その部屋は扉が一つしかなかった。
その部屋は云わば袋だった。
「行き詰まり、ね」
【対因子部隊】の人間たちに追い立てられるようにしてやってきたのはとある一室。今まで通ってきた部屋は入ってきた際の扉に加えて別の場所へと通じるためのもう一つの扉が最低でも一つあった。だけど、この部屋には今入ってきた扉しか存在していなかった。
「一応、壁を壊して外に出るって方法もあるが?」
「止めときましょう。こっちが派手に動けばこの階層にいる【対因子部隊】だけじゃなく桐峰の応戦に向かっているはずの奴らもこっちに来ることになる」
「でも~、このままだと不味いんでしょ?」
「ええ。考えられる可能性としてまず一つ――」
―― プシー
私自身の考えを言うために二人の目の前で指を立てたところだった。
部屋の天井から白い煙が噴出した。
「リョー、今すぐに水で私たちの周囲を包み込んで! 出来る限りあの煙は中に入れないで」
「わかった~!」
言うが早く私たちは煙から一番遠い場所に移動すると、リョーが水を操り外界との空気を隔絶させる。煙はこちらの様子など気にすることなく噴出し、部屋の中は白く染め上げられていくのを私たちは水の膜の中で見ていく。
「さっきの私の答えの一つは、今起きてることね」
「この煙か?」
「ええ。ただの煙幕ってことは無いでしょう。そうなればアレは効果はわからないけど睡眠性のものか催涙性のものかで、最悪は毒性のものでしょう」
「つまり奴さんらは自分たちの手で捕まえたりするのが難しいから、反撃をさせない距離からの銃撃で相手を誘導して逃げ場の無い個室へと逃げ込んだらそこへガスを注入して捕まえるか殺すかをするってことか」
「概ねその通りでしょう。もし催涙性の場合は部屋に煙が充満したタイミングで突入してくるはずだけどしてこない様子だしそれはないのでしょうね。となると睡眠性か毒性のものね。正直、リョーがいなかったら私たち危なかったわよ」
「そんときは部屋をでればいいんじゃないのか?」
「それこそそうなったらアイツ等の手で四方八方からの銃撃とかで蜂の巣ね。辛うじてクロは無事かもしれないけど銃撃されている間はまともに動けなくなるはずよ」
実際、クロの【甲鱗】は頑丈性こそ非常に高いが硬質化させた部位は動かせなくなるという弱点がある。無数の弾幕を凌ぐには関節にいたるまでの皮膚を硬質化させなくてはならないため、結果的にはそこに釘づけにされてしまい精神力が限界を向かえ【甲鱗】が解除された時点で終了となるだろう。
幸いというべきか、空気を仕切るだけの力をリョーが持っていたおかげで私たちは問題なく喋れているのだ。そしてこのおかげで場を好転させるための光明が射し込んでいるのも確かだった。
「多分、この煙が止まってからが勝負どころよ。アイツ等は真っ黒な防護服を身に着けているわ。となれば煙が止まってから少ししたところで何人かが部屋の中へ入ってくるはず」
「それを叩くってわけか」
「ええ。ある意味では人質をとることにもなるわね。どれぐらい彼らが仲間意識を持ってるのかはわからないけど普通は仲間が室内にいるのに毒ガスを充満させるとは思えない。となれば次に出てくるガスはほぼ確実に睡眠性のものでしょうし、それならまたリョーに守ってもらうことになるぐらいよ」
「まっかせて~」
そうしてガスが部屋に満たされてからしばらくして、噴出が止まった。
「……来る」
その言葉にクロとリョーは身構える。
「クロ、出来る限り呼吸は抑えて。リョーは万が一のためにここで水の膜を展開させたままでね」
「りょ~かい」
「ひとまず扉から入ってきたやつをぶっ倒したらどうする?」
「部屋に引きずり込む。そして様子見ね。さすがに爆発物を使うとは思えないし、味方を巻き込むようなことをするとは思えないけど……」
――ガシャ
扉が開く。
黒い影が部屋へと飛び込んでくる。
「今!」
「うらぁ!!」
「ッ!?」
私たちそれ目掛けて襲い掛かった。