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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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【中央】攻略三階 3


 さすがにあのような偶発的事故が二度起こるということは無く、私たちは目指していた部屋へとやってきていた。

 さすがに重要な部屋であるためか他の扉と違い頑丈そうな見た目と、一定の役職以上の人間しか入れない用に個人認証が必要になる。幸いにもこのロックを白衣の男は扉のセキュリティを解除できる立場の人間だったらしく、何事も無く開いた扉を潜り抜けて部屋の中にあるコンソール前へとたどり着いた。コンソールを操作するのにも個人認証が必要だが、それも男が認証を解除することで操作が可能になる。


 「あなた、【因子保持者ファクター】については知っているのよね?」

 「あ、ああ……」

 「彼らの体に毒や爆弾なんかが仕掛けられてることは?」

 「それは……知らない。初めて聞いた」


 椅子に座りコンソールに手を沿えた男は私の質問に目を合わせながら返してくる。その表情に怯えはあるが嘘をいっているようには感じない。この部屋に入れる人間は管理職以上の権力を持っている人間までのようで、その全員が【因子保持者ファクター】のことは把握しているらしい。そして彼らに合わせた薬物の開発や人並み外れた筋力などに耐えられる道具の開発は行っていたらしい。


 「【因子保持者ファクター】に効く毒を造ってたりはするの?」

 「いや、造っていない……はずだ。少なくとも私はその類の開発をしたことはない。ただ――」

 「ただ?」

 「この建物は階層ごとに管理が違う。だから他の階層で何をしているかなんてほとんど知らないし、知っているとしてもそれは私よりも上の役職のものたちぐらいだろう」

 「そう。なら【因子保持者ファクター】用の解毒剤はどれぐらいある?」

 「それなら初期型データから現在に至るまでに32種だ」

 「ならその解毒剤のデータと詳細を見せて」

 「わかった」


 白衣の男は声を震わせながらも迷い無くコンソールを叩いていき、次々と現れる解毒剤の画像を映し出してはその効果と経緯なんかを話していく。確認をとるのは私だけで十分だったので、クロとリョーには扉の入り口を見張ってもらい出来る限り早くデータを流し読みしていった。


 「これで29種目。神経毒のものだ」

 「……次」

 「30種目。出血毒」

 「……次」

 「31と32はほぼ同型のものだ。薬物による依存状態に関するもの」

 「……なるほど」


 高速に流れていくデータと画像を頭の中で反芻させる。

 クロの体内を常に流れているのは遅効性の毒だ。そしてその効果の一つには眠気を与えるというものがある。それをふまえれば出血毒について扱った解毒剤は除外できる。次に神経性のものと薬物についてのものだが、この中で即効性があり使用する際には早急な処置が必要になるというものも除外。

 そして残ったのは中間から後半にかけてある解毒剤たちだ。その多くが神経毒や薬物依存性をどうにかするといったものが多い。【因子保持者ファクター】は結局のところ免疫力も人並み以上だ。それだけに必要になる薬も自然と絞られていく。


 「確かクロのは遅行性のやつだったから……ねぇ、この中でゆっくりと作用する毒を解毒するものはある?」

 「それは……これだ。少しふるいものだが、【因子保持者ファクター】の免疫力を上回る遅行毒を喰らった際に解除するためのものがある」

 「それを詳しく見せて」


 そういってモニタに映し出されていた多くの解毒剤の情報が消え、一枚のウィンドウだけが残される。目wを通してみればそれは毒の効果を投与してからしばらくの間だけ停滞させるものらしく、解毒薬というよりは停毒薬という評価がされていた。多分、これならクロの全身を回っている毒を一時的にだけど気にしなくても良くなる。


 「この薬、今この部屋ないにはある?」

 「ほとんどは無い。残っているのはサンプル用のものが数本だけだ。残りは回収部が廃棄するということで持っていった」

 「なら、残っているのを頂戴。二本ほど」

 「わかった……」


 男は椅子から立ち上がり薬品が保管されている棚をあけると、両手に一本ずつ握って持ってきたものを受け取る。


 「確かこの薬は血管を経由して投与するタイプのものだ」

 「注射式ってわけね。クロ、根本的な解決にはなってないけど目的に沿ったものがあったわ」

 「本当にあったのかよ……」

 「とりあえず一本。効果は貴方しかわからないから、本当に効くのかはわからないけど」

 「まぁいいさ。特に気にせず射ち込んでもいいのか?」

 「あ、ああ構わない。そこらへんはちゃんと設計したことがあるから大丈夫だ」


 私から薬を受け取ったクロは迷う素振り無く腕に射ち込んだ。

 透明なシリンダに満たされた薬液が彼の腕の中へと入り込んでいき、全て無くなったところで引き抜く。


 「どう?」

 「そんなすぐに効果がでるものとは思えないけどな。何か変化があれば言う」

 「わかったわ。とりあえずはこの階層でやることは終えたけれど……。あ、貴方も協力してくれてありがとう」

 「そ、それなら構わないが……その、」

 「大丈夫よ、殺しはしない。だけどこの部屋から出るのはオススメしないわよ。どこかに隠れる場所があるならそこに隠れるか誰にも見つからずに逃げる自信があるなら別に構わないけど」

 「い、いや、私はこの部屋にいる。ああ、君たちについても別に上に報告はしないよ」

 「別に報告されてもさっきの騒動である程度は伝わっていそうだけどね。まぁそう言ってくれるならお言葉に甘えるわ」


 それだけ言って、私たちは部屋を出た。【対因子部隊】や【因子保持者ファクター】がこの部屋を取り囲んでいるという様子は無い。敵から襲われないというだけでも十分に助かるので、早々に私たちは三階層を後にした。



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