【中央】攻略二階 4
「オォ、オレ様ノ相手ハオマエカ?」
「そぉだよ、ぶっとべ!!」
三人が分かれての戦い。
集団戦の中での白兵戦を行うという状況は奇妙であったが、個々としての能力が優れている【因子保持者】たちにとっては余計なことを考えず目の前の敵に集中できるという意味では両方の陣営にとって願ってもいないことだった。
クロが相手取ったのはトカゲの因子を持つ男。
大分因子よりの姿をしているというのはそれだけ身体能力も人並みはずれたものになっているだろう。しかし、金剛玄にとって敵がなんであろうと関係ない。いえることは己の全力を出して相手を打倒するという事だけ。ただの人間であればどうしたって脆いくてすぐに終わってしまうだろうが今目の前にいるのは自分と『お仲間』であり、戦うべき敵である。ならば全力を賭すだけの価値がある。龍堂柏やリョーカ・ブルーノの時ももちろん全力で力を振るってはいたが、慣れた相手ということもあって手の内が晒されてしまっていれば対処もされてしまうわけだから思うようにはいかないことの方が多かった。
だからこそ、
「ウォオォ!?」
真正面からぶつかってくれる相手に彼は歓喜した。
腕を前面に出しガードの姿勢をしていたトカゲ男をガードの上から思いっきり殴りつけて吹き飛ばす。
驚嘆の声を上げた男はしかしガードを崩さず、態勢も浮くことは無く床に足を着けて後方へと滑っていった。
「凄イナ、オレ様ココマデフッ飛バサレタノ初メテダ」
「だったらたっぷり味わっていきな」
「ソレハ御免被ル。シィアア!!」
「速ッ、重ッ!?」
クロの一撃に対する反撃は早かった。
だらりと下げた両腕を床について伏せたかと思えば四肢を総動員して自らの肉体を弾丸の如く撃ちだした。
技術はなく、力任せの体当たり。されど全体重を乗せたそれは力に自信のあるクロでも驚くほどの重みがあった。
「アリ、思ッタホド吹ッ飛バナカッタ?」
「んな簡単にやられてたまるかッ」
「凄イ凄イ! サスガハコンナトコロマデ侵入スルダケハアルナ! サァモット楽シモウ!!」
「力比べたぁいい度胸だ!」
そして始まったのは泥仕合。
互いに最初の一撃こそガードしていたが、そんなことは既に頭にない。全身使って全力の殴って蹴ってぶつかってと、避けたら負けだとでもいうかのようにノーガードで戦っていた。
とはいえそこは【因子保持者】、能力を使うことは当然でありクロは当然の如く【甲鱗】を使っている。殴られた時の衝撃はあろうと表面的なダメージは皆無。クロから言わせて貰えばこっちを全力で殴っておきながら拳も膝も割れてないトカゲ男の頑丈さに舌を巻くほどだ。
腕を蹴り、腹を殴り、額をかち合わせ、どちらかがどちらかの服を掴めば力任せにぶん投げる。
傍から見てればまぁ酷いもんだろうが当の本人たちはそんなことを気にするわけも無い。
「っっっらあああああ!!!」
「カァアアアアアアア!!」
鈍い音が響く。
互いの頬を殴りつけた音だ。
ぱき、という音が鳴った。
「ガァ、負、ケタ……」
崩れ落ちたのはクロの頬を殴ったことで遂に拳が割れて出血したトカゲ男。
「はぁ、はぁ、はぁ」
対するクロも傷はかすかにあるが疲労困憊。
「あぁ、手助けはちょっと休憩してから、だな……」
まだ続いてるであろう二人の戦いを後ろにして、クロは床へと座り込むのだった。