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Factor  作者: へるぷみ~
白い少女の物語
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変化の日、止まった日々、動き出した日


 『少し遠くに行きます。

  必ず帰ってくるけれど、僕がいない間に家に何かが起きたときのためにこれを残しておきます。

  君を連れて行かない僕を責めてくれていい。しばらくの間でも君を一人にしてしまうことを許して欲しいとも思わない。僕は僕のために、君を一人にする。だけど、必ず君の下へと帰ります。


  龍堂桐峰』


 ある日桐峰は姿を消した。一つの手紙と一冊の本を置いて。

 少しずつ家にいる時間が減ってからいずれそうなるのかもしれないと思っていたけれど、それでも彼は私に直接何かを告げることは無く、こうして一枚の手紙が置かれた一方的な別れだった。

 多少は予感があったとはいえ、その手紙を見た私の心は大きく掻き乱された。手紙を読んだ日は何かをする気にはなれなかった。気づけば日が暮れて、いつの間にか流れていた涙はいつの間にか乾いていた。翌日はあまりいい目覚めではなかった。起きれば夢だと思っていても、テーブルの上には昨日読んだ手紙と本は変わらず置かれていた。彼が……あの人が帰ってきたということも無かった。


 「本……読まなくちゃ」


 それでも、何もする気が起きなくなっても、コップに一杯の水を含んで喉を潤し、手紙と一緒に置かれていた本を読む。

 本の中身はこの家に関する記述と、緊急時の対象方法。他にも家の周囲に掛けられた警報装置についてなど多くのことが書かれていた。手書きで書かれた文字と図に目を通していくうちに、沈んでいてた心は少しだけ普段に帰ってきた。その分本を読み進めていくうちに彼がどこかに行ってしまったということも実感して辛かった。


 一通り読み終えたらお昼になった。朝に一杯の水を飲んだだけだったせいか、昨日何も口にしていないこともあって体は空腹を訴えてくる。とはいっても食欲はなかなかわかなかったため温めたミルクにクッキーを食べて空腹を誤魔化した。午後は本にあった家の点検すべき場所や家周りを散策した。本に書かれていた地図はわかりやすく書かれていたのと、よく森の中は遊びまわったこともあって印のある場所を探すのは苦にならなかった。

 そうこうしている内に夜になって、夕食を食べる。痛みそうなものを優先して調理して食べた。あの人がいつ帰ってきてもいいように2人分用意したけれど、その日帰ってくることは無かった。


 朝は昨夜残ったものを食べる。ようやく心のどこかで整理というか、諦めのようなものが着いた。そういえばシャワーを浴びていなかったことに気づく。シャワーを浴びて新しい服に着替え、着ていた服は洗って干した。あの人の服は無かった。


 時間は過ぎていく。夜はいつも2人分用意する。いつ帰ってきても温かいものが食べれるように。残ってしまったら朝に食べればいい。

 勉強することも、運動することも今まで続けていたとおりにはやるけれど、前に比べて森を駆け回ったりはしなくなった。勉強は基本的に本を読むのが中心になった。食べ物とかが足りなくなったらシェルターに買いに行く。お金に関しては倉庫に残されていて、これを全部使ったらあの人は帰ってくるかもしれない一瞬思ったけれど、それだけのお金を使う場所なんて思いつかなかったしそんなことをしてもあの人が帰ってくることは無いっていうのは自然と理解していた。それに私はお金を手に入れる手段を知らない。なくなってしまえばそこでおしまいだ。食べ物を買うことも何も出来ない以上、死ぬしかない。それではいつか帰ってきたあの人を悲しませてしまう。あの笑顔が、見れなくなってしまう。それだけは嫌だった。


 この荒れた大地で、水はそれなりに貴重だ。だから飲めるレベルの水というのは取引に使えるというのは前々から気づいていた。お金が稼げない以上、買った本を再度売ることでお金が手に入るように、家の周りや家に備え付けられているものから得られる物を売ることで少しだけ生活するのに必要なお金が減っていった。


 時間は経つ。

 大きく変わってしまったあの日から、空白のように進んでいく日々を過ごしても。

 朝と夜は何度も訪れるけど、それは同じ時間を繰り返しているわけではないのだ。

 そうして時間は過ぎていく。

 変化の無い日々を私は動かさない。だけど、私が止まっても世界は動き続ける。


 「助けて!」


 叩かれる扉。

 助けを求める声。

 その叫びが、私の日々をまた大きく変化させることを知ることなく私は扉を開けた。



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