【中央】攻略二階 3
「わかっていることだけど相手は【因子保持者】。一筋縄じゃいかないわ」
「目がみえねぇのにこっちの動きが見えたってのが厄介だな」
「推測だけど音を聞いてるんでしょう。今喋っている声音もそうだけど、足音、呼吸音、服の衣擦れとか、あまり現実的じゃないけど音一つとっても情報はいっぱいあるわ」
「けどよ、それならさっきの閃光手榴弾が効いてなかったのはなんでだよ?」
「光に関しては恐らく彼女は対策も何もないから、気をつけなきゃいけないのは結局音だけに絞られるのよ。だから最初から防音対策のとれる道具か何かを持っていたんでしょう」
「あとはあのとんでもねぇ声だ。部屋がそれなりに狭いとか近くにいたのもそうだが、あれやられたらほぼ詰みだぜ」
「そうなのよね……耳を塞げばいいかもしれないんだけど、それだと両手が塞がっちゃうし。最初から耳栓をしておくというのは悪くないかもしれないけど、わざわざ狭い空間から広い場所に移ったのが気になるのよね」
「単に楽しみを先延ばしにしたいからじゃねぇの?」
「それでも、よ。あの場面で私たち二人を殺しても、リョーが残ってるもの。……悩んでても仕方ないわね。行きましょう。桐峰と合流できるのがいつかわからないけど、上を目指すことに変わりはないもの。クロ、広間に入るときには気をつけてね」
「あいよ」
簡単な会議を終えて、準備もある程度整えたら、クロが広間へと続く扉の前へと立つ。
開けるぞ、という視線に頷いけば彼は思いっきり扉を蹴り飛ばした。
がごん、という音を引き連れて中折れした扉が広間を転がっていく。
部屋に飛び込み周囲を警戒して、前を向く。
「うわぁお、だぁいたぁんだねぇ」
「敵地に乗り込んでいるんだ、見つかっていなければ穏便に、見つかってしまっているなら派手にやるのは当然だろう」
「デモヨ、侵入者ッテアノ【リュウ】ジャネェノカ?」
「確かに【リュウ】も侵入者だ。しかし、そこにいる我らの【因子保持者】もまた侵入者ということだ」
「ナルホドネェ」
そこには、待機部屋にいた女性の他に二人の男性がいた。しかし、どちらもその外見は人間というには人間ではなかった。
一人は荒っぽく生えた茶髪の中から対となった耳があり、本来の場所に耳は無い。肘から先は髪同様茶色い毛に覆われており、爪は鋭かった。
もう一人は【因子保持者】というのがわかるが、私には本の中で見た蜥蜴男という言葉が思い浮かぶ。さすがに尾はないが顔を着ている服の隙間から覗く光沢のあるそれは鱗と呼ぶべきものだ。目は奥は細く、時折チロチロと飛び出す細い舌が人とは違うものをより際立たせる。
「全員【因子保持者】なの?」
「無論だ。人間とは違う容姿、違う肉体を有しているものが人間であるわけがなかろう」
「ヒヒッ、オレサマナンテコンナンダシナ!!」
「それに、貴様らも我らと語らいに来たわけではなかろう。我らは貴様らの敵であり、この奥に行きたくば我らを倒さなくては叶わんぞ」
「マ、戦ウシカ能ガネェカラナ、オレサマタチ」
「えぇ、別にあたしはぁ、戦うことしかできないわけじゃないよぉ」
「ケケケッ、嘘イエ」
「お前は弱者を嬲るのが戦うよりも好きなのだろうが」
「まぁ、そうともいうねぇ」
既に彼らは戦闘態勢だ。
全員が殺意を迸らせながらこちらを見ている。
「やるしかないみたい」
「そりゃそうだろ。誰が誰相手にするんだ?」
「まぁ一番素早そうなのはあの犬っぽい人だし、私が担当する」
「クロ君、どっちにする~?」
「あー、あの女は多分オレ勝ち目が薄いかもな。結局こっちの攻撃が当たんねぇんじゃどうしようもねぇし」
「は~い、じゃあボクがあの女の人とね」
「一応、不利になったら合流も視野に入れましょう。無理に一人で背負うのはリスクが高いもの」
「善処する」
「は~い」
こちらの話が終わると、どうやら律儀に待っていてくれたらしい。
「相談は終わったか?」
「ええ、待ってくれてたのね」
「我としては戦えるのであればそれでよいし、この建物に入り込んだ侵入者の足止めが出来ればそれでもよい。故に我らを警戒して相談することによる時間稼ぎが出来ている時点で仕事は出来ている」
なるほど、確かに私たちはこの二階層を抜けるのに今現在足踏みをしている。
「だったらさっさと上に行かせて貰うわよ」
「無論、そのようなことはさせんッ」