【中央】攻略二階 2
「ぐぁあああああ!!」
「め、めが、みえねぇ!」
「あ、が……」
中にいた男たちの悲鳴が木霊した。
それと同時にクロが突入。私も続く形で部屋の中へと入った。
「おらぁ!」
部屋の中をよく見れば壁に沿うように縦長のロッカーが置かれており、中央の開けた部分では突然の出来事に目や耳を奪われた者や一番近くにいたであろう人物は泡を吹いて失神していた。
クロは気絶していない一人の腹を思いっきり殴れば鈍い音と共に口から黄色い液体を吐いて動かなくなった。私も別の男の後頭部を殺さないように持っていた銃のストックでぶん殴る。その際にがき、という音が鳴って男は崩れ落ちた。
「中は三人だけか……」
「とりあえずは――」
この瞬間、私もクロも完全に油断していた。
だけど運が良かった。向かい合っていたクロの背後にあったロッカーが音を立てないようにゆっくりと開いたことに気づいたから。考えるよりも早く叫ぶ。
「っ、伏せて!!」
「うぉお!?」
険しい剣幕で叫んだ私に驚きながらもクロは咄嗟に膝を曲げ、前のめりになって転がると彼の胴体があった場所を鋭い線が奔った。
「ありゃりゃ? 気づかれちゃったぁ?」
そこにいたのは女性だ。
まず特徴的だったのは目隠しをしているということ。それは私が閃光手榴弾を投げる際に咄嗟に身に着けたというものではなく、普段から使用しているのであろうことが彼女の態度から窺い知ることが出来た。そしてもう一つ、振るわれた剣を握る手――正確には指の間――には人間のものとは違う膜のようなものがあった。そして確信する、彼女は【因子保持者】であると。
「あの一瞬で気づいて、ロッカーに身を隠していたっていうの?」
「んぅ、ちょぉっと違うかなぁ。あたしぃ、あなたたちがこの階層に来たときには気づいてのよぉ」
「気づいていて、倒れている彼らに伝えなかったの?」
「うん、だってぇあいつらあたしのこと犯そうとしてきたからねぇ。いくら【因子保持者】っていっても女だしぃ、あたしって目が見えない上にそんなに力も強いほうじゃないしねぇ」
「なら、どうして――」
「そいつらには何の感情も抱いてないし、反抗したらあたちがもっと酷い目にあっちゃうからねぇ。上には逆らえないのがあたしたちだもの。それに……」
「それに?」
「うん、あたしぃ、人間嬲るのって好きなのよぉ。こんな、ふう、に、ねぇ!!」
さっきまでの飄々とした喋りと雰囲気なのが一転して殺意の籠もった一撃が部屋の中で暴れる。目隠しをしているからなのか、彼女から滲み出る狂気は恐ろしく、部屋の中でしかも目隠しをしているというのに正確無比に放たれる一撃一撃はこちらが見えているようにしか感じない。
しかも、
「せぃ!」
「うわっとっぉ」
「どらっ!!」
「ひゃ、あぶなぁい」
軽々とこちらの攻撃を避けている。
しかも驚くべきなのはこちらの攻撃に合わせて避けているのはなく、こちらが攻撃する瞬間には既に回避動作に入っているということだ。
「ほぉら、はんげきぃ」
「効くかッ!」
「ありゃ、かったぁいのねぇ。こんなのあたしじゃ手に負えないわぁ」
「だったらおとなしくぶっ倒れろ!!」
「それはいやぁよぉ。だから、一旦下がらせてもらうわねぇ」
「させる――」
「させるのよぉ。Ahaaaaaaaaaa!!」
後ろに下がった女性に対して前に詰めようとしたクロ。しかし、一歩を踏み出すよりも早く彼女の口から放たれたのは強烈な音だった。
頭を殴りつけるかのごとき音の波に反射的に耳を塞ぎ、体を動かせなくなる。
「ッ!!?」
「ぐぉ、耳が!」
「それじゃ、早くこっちにきてねぇ」
動けない私たちを放って、彼女は私たちが入ってきた扉とは別の……広間へと向かう扉へと彼女は消えていった。
「大丈夫、ハクちゃんクロ君!?」
さすがにあの音のは驚いたのか、部屋の外で待機していたリョーが駆け寄ってくる。
「ええ、大丈夫。特に何かされたというわけじゃないわ」
「オレも、一応は大丈夫だ」
「それにしても、さっきの凄い音はなんだったの?」
「部屋の中に一人だけ【因子保持者】がいたの。ソイツの仕業」
「その人は……」
「広間に行ったわ。動けない私たちを無視してね」
「ありゃどちらかってーっともっと遊びたくてあえて、って感じだな」
「あー、そうね。それが正しいかも」
「それでハクちゃん、どうするの?」
そんなものは決まっている。
「広間を通るしか道は無くて、そしてそこに敵がいるなら、ぶっ倒して進むだけよ」