侵入
運よく下水道内で【中央】の関係者とは出会うことなく私たちは目的の場所へと着いた。
そこには梯子があり、天井へ光を向けて見れば四角く縁取られた部分がある。
クロが先頭に梯子を上り、縁取られたところを慎重に押せば光が差し込んだ。
僅かに見える視界で周囲を見渡した彼は蓋をずらし、身を外へと出した。
「大丈夫だ。今のところは人の気配はない」
「了解」
彼が言うなり私もリョーも早々に梯子を上りきる。
下水道を出た先は壁の内側だった。建物の影に隠れる形でそこには下水道へ行くための蓋があり、影の外は壁から照射されている光が眩く照らしている。
どうやら無事に入り込むことが出来たようだ。
「【中央】内に入ることは出来たが、こっから建物内に入るのはどうするんだ?」
「今私たちがいる場所は下水道入り口の場所が南から少し東よりの場所から北上して西に動いた場所なの。ちょっとややこしい言い方になっちゃったけど、まぁ下水道口を南に見立てたらそこから北西の位置にいるってこと。で、建物内に入る方法なんだけど――」
「侵入者だ!」
「っ!?」
「嘘、バレた!?」
「ひとまず下水道に戻るかッ?」
「それは危険だわ。待ち伏せされてる可能性だってある。下手に戻れば袋のネズミになるかもしれない」
「じゃあどうすんだ?」
「さっきの声ってどこから聞こえた?」
「ん~、声がはっきり聞こえたし外からじゃないかな?」
「外から……。なら、それは――」
「【リュウ】が出た! 繰り返す【リュウ】が出た! 【対因子部隊】は至急出動しろ!」
「桐峰!」
「なんつーか、タイミング良すぎだろ……」
「そんなことはどうでもいいでしょ。それなら混乱が生まれるわ。今のうちに動くわよ!」
「は~い!」
普通に侵入するなら警戒があって難しいけれど、桐峰が【中央】を強襲をすれば私たちにとって彼が陽動をしてくれていることになる。この機を逃すわけにはいかない。
走りながらも頭の中で見取り図を広げ、侵入場所を考える。背後の光で照らされている空間に行くというのはまず論外。となれば建物回りをぐるりと回るけれどこのまま行けば出くわす可能性がある。
「確かこの先に……あった!」
進んだ先にあったのは侵入口の一つである扉。普段であればそこには警備がいる。しかし、今は違った。
扉の前には黒づくめの【対因子部隊】の隊員が一人。
「クロ!」
「おう。せぇの!!」
「な、だ、し――!?」
たった一人ならどうとでもなる。
突然現れた私たちに驚いた様子の相手をクロが前に出て思いっきりぶん殴る。【因子保持者】としての能力を十全に発揮した殴打はくぐもった声の男を一撃で沈黙させた。