【中央】への侵入
明るいうちは廃墟や岩陰で過ごし、夜は真っ暗闇の荒野を歩く。
それを5回繰り返した。あれから二度野生動物たちに襲われたが、特に問題も無く対処できた。
「あれが、そうなの?」
「みたいだ、な」
「おっきいね~」
そして遂に【中央】と思しき場所へとたどり着いた。
方位磁針を見てみれば、赤い針は確かに正面を向いている。が、その正面にある【中央】だろう建物は非常に大きかった。加えて建物の要所には赤い光が点々とし、建物を覆う壁の頂点には周囲を照らす光があった。
「結構距離があるはずだけど、明るいわね」
「そうだね~。でもあんなに目立つおかげで簡単に見つけることができたね」
「まぁ周囲にシェルターがあるわけでもなさそうみたいだし、隠す理由もないからかもな」
言われてみればクロの言うことは中々的を射ているように感じた。
結局のところ今の人間たちは皆シェルターへと引きこもってしまっている。確かにシェルター間での命を賭けた人の行き来はあるだろうが、それでもそれは近く同士のシェルター間での話だ。ケヴィンの見せた地図によれば【中央】周辺にシェルターは存在しない。つまりどんなに明るくどんなに大きくとも見るものがいなければ隠す意味も無いということだ。こんな世界だからこそ出来ることなのだろう。
「今ってどれぐらい?」
「ん~、もう少しで明るくなり始めるかな」
「この周辺に廃墟とかは……」
「ないな。少し戻ることになるが、身を隠すには十分な場所があったはずだ。そこに戻るか」
「そうね。そうしましょうか。【中央】がどういうのかさえわかっていればそんなに難しくないもの」
そんなわけで、私たちは一旦戻ることにした。
夜が訪れた。
「それじゃ、行きましょう。【中央】の明かりが見えたら明かりを使わないようにしましょう。下手にあちらに見つかる要因は増やすべきじゃないもの」
「わかった」
荒野を歩く際に使用していた光源であるホタルイシは、明かりこそ小さいが闇の中では十二分に目立ってしまう。【中央】を警備している【対因子部隊】に見つかるわけには行かない以上、可能性の芽は出来る限り潰す必要があった。
「そういえばハクちゃん、【中央】への侵入はどうするの?」
「予定よりは少し遅れているけれど、それでも大きな差ではないはず。予定していた場所から侵入を試みることになるけど、桐峰がどうしているかわからないのよね」
「昨日見た感じだと特に騒がしい感じはしなかったね~」
「まぁ見つからないことに損は無いから、目的の場所へと行きましょう」
歩くうちに【中央】の明かりもはっきりと見えてきた。そこでクロはホタルイシを袋の中へとしまう。
たちまちあたりは足元が見えないぐらいに暗くなるけれど、そこは【因子保持者】としての能力を使うことで特に問題なく進むことが出来た。
そして、外壁のすぐ傍まで見つかることなくたどり着く。
「ここね」
そこは水が流れていた。
恐らくは【中央】内で発生した諸々を流すための場所。
つまり、下水道だった。