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Factor  作者: へるぷみ~
青年はその因縁を睨みつける
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魔物


 魔物と呼ばれるものがいる。


 人間がシェルターから出るのに防護服どうぐが必要なのに対し、野生動物たちは己の肉体を適応させることだけが苛酷な環境化で生き残るための唯一の手段だった。

 そんな中で、異常発達ともいえる成長を遂げたものたちのことを魔物と呼んでいる。

 目撃例はほとんどない。なぜならそれを目にするのはほとんどが防護服を身に纏った人間だけであり、彼らが一度魔物と出くわそうものなら無事ですむ保障などどこにもないのだから。


 異常発達の主な特徴は同一とされるほかの個体に比べて一、二周りは体躯が大きい。群れを成すようなものであれば当然そいつが群れのボスとなるのは当然の帰結といえた。


 「(どこにいる?)」


 故に、私が探すべきは群れのボス。

 闇夜に紛れていながらでも動き続けている奴らは小さな光源をその身に受けて影を生み出している。あとはその影の中でも一際大きいやつを見つけ出す。

 判断材料の一つに襲い掛かる直前に行われた遠吠えをしたやつがいる。あれが恐らくボスだ。同じところにい続けるとは思えないが、クロが奴らを声を上げて地を砕いてと注目を集めている今がチャンスである。


 「すぅ――」


 一つ深呼吸。

 自分の中で眠る力を呼び起こす。

 変化は一瞬。五感は研ぎ澄まされて、肉体は軽やかに。


 「ハッハッハッ」「グルルルルゥ」


 場に満ちる獣の吐息、鳴き声、地を蹴る音。

 臭いは獣独特のものなのか、敏感になった嗅覚に少し辛い。

 視野が広がる。暗かった周囲は白く照らされる。

 光源となっている中心に近いほどに獣たちの姿はくっきりと見える。


 その中で、クロたちを囲うように襲い掛かる獣たちとは違う動きをするヤツがいた。

 クロは前方方向から襲い掛かってくるほとんどの獣を散らしており、背後を気にしている様子は無い。リョーも荷物を守っているからか、包囲を狭める三頭に注視しておりクロを気遣う余裕はなさそうだ。


 そいつは、他の獣たちに比べて遥かに足音が小さい。


 「…………」


 息を殺し、ゆっくりゆっくりとクロの背後へと回り込む。

 それに気づけば、回りの獣たちの動きにも合点がいった。彼らがボスに指示されて注意を引き、その間にボスが仕留めるのだ。体格はクロよりも二周りはある。圧し掛かられでもすれば瞬時に抜け出すのは難しいだろう。それにクロは獣の爪牙から身を守る【甲鱗】がある。心配は無いが、もしもを考えれば放っておくわけにはいかなかった。


 徐々に徐々に、ボスはクロとの距離は縮めていく。


 私はボスに気取られないよう、近づいていく。


 そしてボスとクロの距離がボスの体躯とほぼ同じぐらいの距離になるのと同時。


 「グルァアアアア!!」 跳ぶ。

 「はぁああああ!!」 ボスが跳躍したのに先んじて私は跳躍していた。


 「うぉお!?」


 背後から聞こえてきたボスと私の声に、クロが驚いて振りむく。彼の顔前には大口を開け、彼の皮膚へと爪を突立てんとする前足が伸びる。

 私は奇襲という隙を見せたボスの横腹めがけて、走りと跳躍の勢いを乗せた蹴りをお見舞いした。

 めき、という音がなる。


 「ギャンッ!」


 横槍を入れられたボスは短い悲鳴を上げて地面を転がった。

 その声に、その姿に、周囲にいた獣たちがあからさまな狼狽を見せた。


 「おらぁ!」

 「えい~」


 その隙をクロもリョーも見逃さなかった。

 クロはすぐ目の前でたじろいだ獣の一匹を掴みあげると、混乱して固まっていた獣たちの中へ投げ飛ばす。仲間の体重に投げられたことによる勢いが足されたそれは獣たちを弾き飛ばした。

 リョーは足が止まった三頭をすかさず水の槍を撓らせ、三匹まとめて薙ぎ払った。三重の悲鳴が上がり地を転がる。


 そこからの展開は早かった。

 死んではいないだろうが起き上がってこないボスの様子と、尋常ではない反撃を喰らってしまった獣たちは我先にと散り散りに逃げていった。

 獣たちが全て逃げたのと同時に起き上がったボスはしばらくの間こちらを唸りながら様子を伺っていたようだが、こちらが何もしなかったらそのうち去っていってしまった。

 それが顛末である。


 「ふぃ~、いきなりでびっくりしたね」

 「まぁ野生動物如きにやられるわけはないんだがな」

 「とかいって、クロってばさっき圧し掛かられそうになってたじゃない」

 「いや、そこはハクが何とかしたんだから問題ないだろ」


 ハプニングは確かにあったものの無事に切り抜けたこともあり、空気を明るかった。


 「さ、それじゃあ行きましょう。明るくなる前にどこか隠れられる場所にいかないと」


 荷物を背負い直す。

 私たちは夜の闇を再び歩き出した。


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