闇に光る双眸
夜になった。
必要となる道具を背負い、先頭をクロにして彼がホタルイシを腰に提げて歩く。私とリョーはその後ろで互いが常時確認できる位置取りをして彼の後を付いて行く。
ここから徒歩の移動で【中央】に向かうにはどうしても4日は掛かる計算だ。しかしそれは順調にという言葉が先頭についた場合であり、場合によってはそれ以上掛かる可能性がある。
地図と、ケヴィンに渡された方位磁針を頼りにしての移動だ。ひとまずは赤い針が指す方向へと向かえばいいとのことであり、クロに方位磁針は渡してある。
「暗いね~」
「本当ね。クロの腰にある光源がなかったら何も見えなかったんじゃないかな」
考えてみれば、夜の外を桐峰と住んでいた家の窓から覗いた事はあっても、実際に外に出たことは無かったと思う。あの時は家の中から指す明かりのおかげでそこまで暗いとは感じなかったのだ。考えてみれば人類は皆が【シェルター】へと籠もってしまった。昔は荒野で朽ちていく廃墟から煌々ととした明かりが夜を極彩色に染め上げていたというけれど、今此処にそれは無く闇は広がり続けるだけだ。
歩いている。
だけど、どれだけの時間が経っているのかはわからない。どれだけ進んでいるのかはわからない。ただ前に向かって歩いていることだけが確かだった。
それがどれだけ経ったからだろうか。
暗闇は言葉を少なくする力があるのか。
私たちはひたすら無言に進んでいた。
「止まれ」
突如、前を歩いていたクロが声を出して立ち止まった。
前を歩く彼がそういうということは何かが起きたということだ。
「どうしたの?」
「囲まれた」
「……それって、もしかして?」
「あぁ。どうやら俺たちが肉眼じゃ捉え切れない位置からついて来てたみたいだな。そんで、囲いが出来たから縮めてきたようだぜ」
そういわれて周囲を見渡してみれば、私たちを中心とした僅かな光源に照らされてなのか、囲いを作り上げた奴ら自身がそうなのか。暗闇からこちらを伺う一対の双眸。それが計10つあった。
それは獣の眼。暗く静寂な中で聞こえてくる独特な息遣い。
「リョー、クロ」
「あいあい~。じゃあボクは荷物を中心に守っているね」
「オレは前だ。恐らくはただの獣だろうし、傷つけられることは無いだろ」
「うん、お願い。私はクロのサポートをしながら動くから」
こちらが戦闘態勢に入ったからだろう。先ほどまでこちらを伺っていた獣の一頭が遠吠えをあげた。
それに呼応して、周囲の獣――この鳴き声は犬だろうか――が動き出した。