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Factor  作者: へるぷみ~
白い少女の物語
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シェルターで出会う子供たち


 桐峰が出かけるようになってから少しして、彼が家にいなくなる時間が少しずつ延びてきた。最近では日を跨いで帰ってくることもあれば、朝起きてもいないことがある。夜一人で寝るというのはとても辛かったけれど、彼を困らせたくなかった私は夜寝るときと朝起きるときは頑張っていた。もちろん日帰りで帰ってくるときもあったし、そういう日は起きたときにいつも私のそばにいてくれる。それだけでも十分だった。


 今日は桐峰は夜帰ってくるのは難しいって言っていた。少し遠くにいくと言っていたからケヴィンの所にいくよりも遠くなんだろう。あまり意識しないようにしているけれど、家に帰ってくるときの彼は時々頬や腕に小さな傷を作っているときがあった。服も一部がボロボロになってしまっていて、私はそれを当て布をしたり縫ってふさいだりしたりもする。そうしたときに彼は喜んでくれるけれど、そのあとに浮かべる悲しい笑みが印象的だった。


 桐峰があまり家にいないようになってから、食事の買い物や他にも足りなくなったものを買うためにシェルターに行くようになった。何度か桐峰にシェルターの行き方と入り方、お金のやりとりは教えてもらったので大分慣れてきた。


 「いらっしゃい」

 「これと、これ。あとは――」


 シェルター内での売買はそれぞれに役目があるらしく、家畜を育ててる人たちが肉屋さん、農家をしている人たちが八百屋さん、あとは高価だけど魚を育てて売っているのが魚屋さんだ。雑貨や本などの日用品とされるものは大きなお店にまとめられていて、そこは人と人で買うのではなく選んだ品の分だけのお金を出すと自動で運ばれてくる。ちなみにそこでは売ることも出来て、読み終えた本や使いかけの品を売る用の場所に置くと買ったときよりは少し安くはあるがお金が返ってくる。


 「あれ、白いねぇちゃんだ」

 「こんにちは」

 「おねーちゃんおかいものー?」

 「うん、そうだよ」

 「すっげー、おれらより少し大きいだけなのにかあちゃんたちかわんねことしてんだな!」


 既に読み終えた本を売った帰りに男の子と女の子に出会った。どうやらこの近くの家の兄弟らしくて、私が一人でシェルターに来るようになってから時々出会うようになった。今では少しだけお話しをするようになった。私の主な話し相手は桐峰ぐらいで、時々ケヴィンがいるけれど彼と会うのは基本的に時々なので頻繁に話す間柄ではない。そう考えてみると、ちゃんと話す人……本や以前桐峰に聞いた話だと友人と呼べそうな子はこの2人ぐらいな気もする。


 「でさー、コイツがな――」

 「もーにーちゃんそーいうこといってー、ママにいっちゃうよ」

 「ふふ」


 2人はよく色んなお話を聞かせてくれる。私はあまり話せることが思いつかないからちゃんとお話できてるから心配だけど、この子達はあまり気にしていないようだった。


 「あそうだ、このねーちゃんのひらひらしたのにはいてんのってなんだ?」

 「スカートだよにーちゃん。みーちゃんだってはいてるでしょ?」

 「うっせ、そんなどっちでもいいだろ。それよりもさ、おれがはいてるズボンとはちげーみたいだけど」

 「これは……スパッツっていうの。女の子はスカートの下は下着だから、君みたいに人のスカートを勝手に捲っちゃったり、風や激しく動くと見えてしまうのを見えないようにするために履くの」

 「ち、ちげーし、おれめくったことなんてねーし!!」

 「えー、でもにーちゃんよくみーちゃんの後ろから近づいてスカートめくってるよー」

 「ばっか! いうんじゃねー!」

 「きゃー! それじゃあね、おねーちゃん」

 「こら待て! じゃあなー白いねーちゃん。おら、逃げんなー!」

 「うん、またね」


 風のようにやってきて風のように去っていった2人を見送って、私は家に帰る。そういえば彼らは家族だ。本だと血が繋がっている人を家族っていうらしい。それじゃあ私と桐峰はなんだろうか。家族……なのだろうか。かーちゃん、まま、それは自分を産んだ母体を指す言葉だ。あまり気にしたことはなかったけど、私にお母さんと呼べる人はいるのだろうか。桐峰は一緒にいると安心するけれど、お母さんでも、お父さんでもない。あの兄妹のような関係、に近いのだろうか。



 夜は静かだった。彼のいない夜は静かで少し冷たい。寒いのは苦手だから布団の中では自然と体は丸くなる。私自身の温もりは小さなものだけれど、それでも出来る限り温かさが欲しいから体を抱いて目を閉じる。


 「きり……み……ね」

 「………………」


 意識が落ちる寸前に感じたのは、頭の上のった大きくて、安堵に満たされる温もりだった。




 

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