第6話 PVPと言う名の蹂躙戦
送らせながら更新です。
初のPKからのPVP戦です。
2018/06/21 誤字:プレイヤー名『アキ』と『サキ』と混ざってたので『アキ』に統一させてます。
餓鬼扱いされて怒る不良冒険者達。
いやいや。だったらこんなことしてるなよ?
口に出そうになるのをこらえてクイックでナイフを選択。
「悪いが面倒なんで早く終わらすぞ。人待たしてるんだ」
低い前傾姿勢に移行する俺の姿を見て3人のうちの一人が大盾を取り出して防御の姿勢を取る。
他の二人はその後ろで別々の武器を構えてこちらが盾を避けて回り込むのを狙う体制だろう。
目の前の3人は大盾の後ろへ隠れているためこちらからは見えないが、後方二人も俺の姿が見えていないはずだ。
気配探知系統のスキルがあったなら困りものだが、見た限りはそこまで強くないしどうにかなるだろうと結論付ける。
「どれ、行きますか!」
獣のように地面を這うように接近する俺に大盾を構える冒険者は腰を落として立ちふさがる。
「クイック」
横薙ぎに振るう形で振り被った右手のナイフを攻撃の直前に交換。
手に持つのはつるはしだ。
そのまま横へ振られたつるはしはナイフよりもリーチが長く先が曲がっているため、先端が盾を掻い潜る形となった。
結論からいえば
「いてえぇぇぇ!?」
脇腹につるはしの先端が突き刺さる形になった。
先端の重さで遠心力が増しているつるはしは大盾を横へ押しやると同時に切っ先を冒険者の脇腹へと突き刺さる形で停止したのだ。
追い打ちをかけるように身体を大きく晒してしまったサキトへ背後の二人が慌てたように襲いかかる。
「この野郎!良くも仲間を!」
リーダーとは違う。下端臭溢れる冒険者が繰り出すナイフを、遠心力に任せた足で蹴り飛ばしてリーダー格の冒険者へと矛先を逸らす。
俺しか見てなかったリーダーは突然矛先の向いたナイフに慌てて俺への攻撃を中断、下端の武器を回避することになった
そしてそのまま距離を空けて地面に落ちていた装備を取り寄せてスロットへ格納(これは武器を持つと自動でスロットへ収まった)
「ちくしょう!いい気になるなよ!ファイアボール!」
相手も武器をクイックで切り替え杖を取り出すと詠唱と共に火球を打ち出してくる。
見た目が剣士だからその攻撃は想定してなかった!
慌ててその場から飛びのき回避するが、大きく姿勢を崩してしまう。
「いただきっす!」
下っ端がその隙を狙って同じく装備を切り替えたのか槍で遠間から刺してくる。
サキトはその槍の穂先を掴むとそれを支えとして一気に起き上がり、下っ端の腹にナイフを突き刺した。
相手は皮鎧を着込んでいたため致命傷にはなりえなかったが、わずかながらダメージが入ったのか、それとも人に刺されたという恐怖心からか槍を手放し痛がるように転げ回る。
図らずともスナッチの成功判定となったようで、下っ端から奪い取った槍をそのまま『投擲』スキルを使用してリーダー冒険者へ投げつける。
「くそがっ!」
飛んできた槍を慌てて回避するもその隙に死角から伸ばされた鞭がリーダーの持っていた杖を弾き飛ばす。
「よそ見をするなよ?」
投擲スキルの再使用までまだ大分あるが、この戦いでこれ以上このスキルを使用することは無いだろう。
サキトは未だ痛がる下っ端にクレイモアを突き刺して経験値に変えると、残る一人となったリーダー冒険者と相対する。
「なんなんだよテメェは!俺達のプレイにケチつけてんじゃねえよ!このゲームで他人のプレイスタイルにケチつけるのが禁止されてるのくらい知ってんだろうが!?」
「それなら他人に対しての過度な接触やプレイスタイルの強要。そして異性への不必要なフレンド登録の強要に現実世界の情報の収集行為。これらもまた違法行為である事を知っているな? それに今回の俺の行動はお前のプレイスタイルにケチを付けているわけじゃない。これが俺のプレイスタイルでそれがたまたまお前のプレイスタイルと相反しただけの事だ」
こともなげに告げられたその言葉に、リーダーは剣を拾うことも忘れて怒りに肩を震わせている。
「ちなみに俺はログインしてまだ数時間の新参者だが、なるほど。弱い者虐めしかしてこなかったから戦い方を忘れたのだろうな。第2の人生でも生きるのは過酷だとは思うのだがどうやら弱者から搾取することで生きながらえてきた寄生虫のような存在だったか?」
余りの罵詈雑言に、さすがに周りのプレイヤーもドン引きしている。
しかし目の前の不良冒険者の耳にはすでにその言葉は届いていない。
散々好き放題言われ、つるんでいた仲間は全てやられた。
街中のPK禁止がこのゲームでは定められていないからと言って好き放題してきたが、いきなりの奇襲で二人が、続く戦闘で五人が瞬殺された。
決してうちらが弱いわけじゃない。
装備こそまだ揃えていないが、それぞれが専門とする職業と役割を決めてそこそこの実力があると自負している攻略組プレイヤーだ。
それなのに明らかに初級装備しか持っていない目の前のプレイヤーは何なんだ?
それに見ただけでも槍にレイピア、百歩譲ってクレイモアなら戦士か騎士の職業に就けば装備条件としては当てはまる。
しかし『鞭』と『つるはし』この二つに限っていえばありえない。
鞭はテイマー系、つるはしは生産職、それも工夫職専門の装備のはずだ。
考えられるのはチート。
しかし公然と姿を見せている以上その可能性は薄い。
運営の監視下にあるこの町でそんな事をすればすぐさま垢BANされるからだ。
攻略組や他の生産職が就いた事のないレア職に就いたプレイヤーなのか?
どちらにせよここまでコケにされて黙っていられるほど人間が出来ていない。
「構えろよ新米!俺はクラン『紅十字』のマスターアカツキ!」
「一丁前に吹くじゃないの。じゃあお言葉に甘えて『新米』のサキトだ」
爪先で蹴りあげた剣を腰溜めに構えるアカツキと言う不良プレイヤー。
対して拾ったレイピアの切っ先を相手に向け、ナイフを逆手に持って半身の構えをとるサキト。
先ほどから騒いでいたプレイヤーやNPCも今は息を止めて二人の動向を見守る形に入っている。
「っ!」
「しっ!」
二人同時にダッシュを発動させて距離を詰める。
アカツキの持つ剣は幅広のブロードソードだが、見た限りでリーチは同じ。
向こうは横薙ぎに斬り払う動きをしてきているのに対し、こちらは引絞っての直突を放つ。
早さは互角。
先に剣先が届いたのはアカツキのもつブロードソードであった。
ガリッ!!という音と共にその切っ先が身体にわずかに食い込む形で止まる。
「ちくしょうが…、そのツラ覚えたぞ…」
ナイフに当たったブロードソードがその勢いのままナイフを脇腹に食い込ませる。
その痛みに耐えながらレイピアを相手の胸に突き刺す。
きっとアカツキの目の前にはHPが全損していく様が見えているのだろう。
「ネチケットを守れば次はフレンドとして出逢ってやるよ」
無数のポリゴン片となって砕け散ったアカツキの周り、ギャラリーとなっていたプレイヤー達からはねぎらいの拍手が、そしてその後ろには助けられた二人の女性プレイヤーの姿と、こちらに敵意をこもった眼で見つめるNPCの視線。
街中での戦闘行為が招く結果を知ることができただけでも収穫はあるか。
アカツキ他冒険者達8人を倒した事による経験値の取得の他、スナッチで手に入れたプレイヤーの一人が装備していた槍が戦闘報酬で手元に残った。
見てみれば4レベルも上がっている。割と格上の相手との戦闘だったので経験値の身入りとしてはどうなのだろうか?
とりあえず手に入ったステータスを割り振る事にする。
―――――――――ステータス―――――――――
名前:サキト 性別:男
種族:魂人種 Lv:4→8 スキルポイント:15→5(スキル使用により減)→25
HP(体力):20→26 MP(魔力):26→32
STR(力):7→10(+10)
MND(精神力):16→20(+0)
DEF(防御力):6→8(+2)
AGL(敏捷):8→9(+0)
HIT(集中力):7→9(+0)
LUK(運):10(+0)
スキル
『スキル補正EX』『鑑定』『クイック』『投擲』
『剛腕』『ダッシュ』『スナッチ』『空き』『空き』
所持金¥19800
―――――――――――――――――――――――
手に持っていたのがレイピアだったからか攻撃力の補正が変わっている。
『駈け出し冒険者のレイピア』
装備条件:STR5
攻撃力:+10
駆け出しの初級冒険者が用いるレイピア。初心者でも取り扱いしやすい様に簡素な造りになっていて取り回しがしやすい。素材は鉄の鋳造品なため切れ味はないに等しく、先端で突き刺す事に特化した装備だ。刀身が細いため撃ち合いには向かず別個で盾を装備する者が多い。
そしてスキルブックを購入して素寒貧だったのだが、相手一人につき固定で¥2000ほど貰えたようだ。
嬉しい事にPK行為ではあるが『一回戦闘を行ってみよう※戦闘の形式、勝敗は関係ありません』のクエストもクリア扱いになり追加で経験値とお金が手に入った。
さてこれからどうしよう?
「ようサキト。でよかったよな?」
そんな時、遠巻きに眺めていた連中の中から軽く手を上げながら一人の男がやってくる。
背中にドでかい大盾を背負っている事から谷の奴だろう。キャラ名はタクだったか?
「タクか?このゲームでは、はじめましてだな。」
ステ振りも終わりウインドウを消しながらタクと向かい合う。
「それで、又聞きだが話は聞いたぞ?どうするんだこれ?」
周囲は物珍しげに話を伺う野次馬プレイヤーと、明らかに敵意を向けているNPCがいる。この中でアイテムよこせとはさすがに言いにくいな。
「野次馬もうっとおしいし、俺もこの世界について色々と聞きたいからどこか別の所、の前にアイテムを保管できる場所ってないか?」
アイテムを貰おうにもアイテム欄の半分を占める装備品を片づけなければ話にならない。
「それなら町の外へ出る転移門の近くにプレイヤーホームへ飛べるポイントがある。とりあえずそこまで行くついでに簡単に状況を説明してくれ」
タクの言葉に頷いてその場を去ろうと歩き始めたが、すぐに目の前に二人の女性が立ちふさがった。
言わずもがな助けた二人のうち青髪の女性プレイヤーだ。
「あのあの!先ほどは助けていただきありがとうございました。私はシノ。隣の子はアキと言います!」
青髪の女の子がシノ。金髪の子がアキね。
金髪の子は何か気に入らないのかむすっとしているが、シノによって強引に頭を下げさせられている。
「気にすることは無い。俺の為でもあるし、ああいったネチケットはゲームをプレイする上での基本だ。この世界は『第2の人生』なんだろ?相手が好きにするならこちらもそれに従ったまでだ。君達二人が気にする事じゃない。それにその程度で他のプレイヤーにとやかく言われる覚えもないしね?」
結果的にこちらにおいしい結果になったのだから問題ない。
「…あんた」
ぼそりと金髪のアキという女の子が口を開く。
「あんたの強さって何なの?明らかに初期装備でSTRとDEF無視した攻撃力ってチートって言われてもしょうがないってレベルだよ?」
そういえば俺もそれは気になってたな。
格上の相手にたとえ剛腕スキルにクリティカル出したとはいえ一撃で倒せるわけがない。
最後のアカツキというプレイヤーに刺したレイピアも心臓の位置だとはいえ攻撃力が不足していたはずだ。
「実は俺にもわからないんだよね?なにかしらの条件はあるんだろうけど」
話を振られた本人からでた言葉に周囲で聞き耳を立てていた者たちも落胆の声を上げる。
「考えられるのは職業と種族の組み合わせとかだけど、どちらもそういった要素は無いからなぁ。職業が少し特殊な気もするけど関係するのは装備に制限がないくらいのものだし。それでも装備条件が足りなければ意味ないからねぇ」
そんなサキトの疑問に、タクが答をくれた。
「サキト。お前はこの世界における制限項目いくつ外してる?」
制限項目とはログイン時に設定していたゲーム内における各種の描写などの制限事項のことだ。
「えっと、たしか目につく限りの項目のチェックは全て外していたはずだがそれがどうした?」
サキトの告げた言葉にタクは呆れ顔、他のプレイヤーは奇異の目を向けてくる。
そこまでおかしい事だろうか?
「おそらくはその制限項目の解除に伴っての事だと推測できる。この世界における制限項目は血しぶきや解体の省略など子供やそういったスプラッタなモノに苦手な人にも楽しんでもらえるようにプログラミングされているだろ?」
つまりはHPという概念もその項目のどこかに存在していたと?
「リアル指向が度を越しているこのゲームの事だ。どこまでも現実に沿った世界観を演出するなら可能性としてはあるだろう。命のやり取りもまたそういう事だからな。解体も持ち運べるように特殊なインベントリに格納はできるが、自分で解体するか持ち込みだろ?そういった項目を解除している人たち向けの施設がある事からも俺の推測は多分間違っていないと思う。」
大変だぞ。とタクは告げる。
「もしも対人だけでなく外でモンスターと戦闘になったら確実に息の根を止めるまでは襲い続ける可能性があるんだからな。俺らの見えているHPバーが意味をなさないならの話だが」
そういえば自分のHPはメニューにあるが、相手のHPは見えなかったな?
「普通は相手のHPも見えるもんなのか?」
「モンスターに限って言えばそうだな。プレイヤーのは表示させておくかの設定は変えられるしPT組んでいれば自動で表示される設定だ。そうしないとヒーラーが仕事できないからな」
メニューで試しに探してみると、たしかに表示の項目はあるがなぜか黒く反転されて選択できないようになっている。
「あるけど反転していて選択できないな。やっぱり初期の設定のせいか?」
「キャラメイクし直せば直せるがどうするよ?」
タクの言葉に首を横に振り「このままでいい」と告げる。
「元々の目的がこの世界でどこまでリアルなのかの確認と、どこまでできるのかを確かめるのが目的でもあるからな。かえってこの方が面白い」
サキトの言葉にタクはため息をつきつつも「そうか」とだけ呟いて先を歩き始める。
キングスにタクを紹介後、二人の女性プレイヤーとも別れを告げてアイテムの受け取りの為に噴水広場を後にするのであった。
「そういえば武器の攻撃力は関係あるのかな?」
サキトの疑問にタクも疑問を返す。
「知らん。だが、今回の戦いを遠目から見る限りじゃ生身の体にぶつけた場所と鎧に当たった場所ではダメージに差があったのは事実だな」
鎧にナイフが当たった時は簡易だがダメージ判定が入ったらしく大げさに驚いていたが、生身に当たった部分については急所なら一撃死だった事は間違いない。
「そこも含めて今後要確認だな」
着いたぞ。とタクに言われて見てみれば、町の外へ出る為の門とその側に始まりの町宿屋と書かれている建物が見えた。
「ログインプレイヤーの数だけの宿屋なんてないからPTを組んでなければ宿屋内で自動的に隔離された空間へ移動して泊まれるようになっている。アイテムボックスもそこにあるからいらないモノはこまめに預けるといい」
タクに言われて宿屋の中へ入ると、背後にいた筈のタクが見えなくなり、言って聞いた隔離空間の意味を知る。
「いらっしゃい。泊まりかね?」
カウンターにいた宿屋の主人であろう男性NPCに話しかけられたので、とりあえず値段を確認。
1泊¥200、1週間で¥1200と若干安くなっている。
とりあえずしばらくはこの町で色々やってみたいので1週間申し込み料金を割き払いしておく。
「これがカギだ。ゆっくりとくつろぐといい」
笑顔でカギを渡され、指定された部屋へと入ると、質素ながらも必要最低限のものは備え付けられた部屋であった。
クッション性は無いがベッドもあり、タクが言っていたアイテムボックスも置いてあった。
アイテムボックスに触れると、自動的にアイテムボックスのウインドウと自分のインベントリが表示され、どちらに移動するか選択できるようになっていた。
とりあえず手持ちの装備のうち使わない武器の類と生産、商人系のアイテムを全て預けすっきりした所で宿屋から出る。
外で待っていたタクは出てくるなりこちらへ向けてトレードの申請を出してくる。
ちなみにどうやって行うのか聞いてみたところ「ググれカス」と返された。
しょうがないので調べたところ、メインとなるウインドウのフレンド欄から選択できる事が解った。
それ以外だと商売マットによる販売か露店アイテムを利用した売買しかできないらしい。もちろんNPCへの売買は普通にできる。
タクから渡されたアイテムは、最前線攻略組が使用していただけあってほとんどが強化されている装備で埋められていた。
何気にアクセサリのアイテムや素材アイテムがあったので確認してみると、一緒にPTを組んでいるプレイヤーからも提供があったらしい。
「まぁ、序盤からその強さのアイテムなら負けなしだろうが、サキトは設定が設定だから油断しない事だな。襲われたら敵モンスターの息の根が止まるまで絶対に油断するな。俺達だと倒したところでポリゴン化して拡散するがお前さんのは死体が残る。アイテムの効率はサキトの方が利率は良いだろうが最初のうちは生き残る事に専念するんだな。またなにか用事があれば連絡よこせよ。ある程度ならレクチャーできると思うから」
そういってタクはPTが待っているからと最前戦へ戻っていった。
できる事なら情報交換の他に一緒に狩りをしたかったのだが。
それにしてもPK行為は町のNPCの好感度が下がると言われていたはずだけど宿屋のNPCの対応が普通だったな。最初の噴水広場でのあのNPCの敵意の籠った視線は何だったのだろう?
気にはなるが、今度は外でモンスター相手に戦闘をしてみたいのも確かだ。
一旦宿で装備を整えてから外でモンスターとの初バトルを試してみるか。
それにせっかくの素材アイテムもある事だし、アイテムにあった携帯炉や調理キットも使ってみよう。
「忙しくなるぞ!」
嬉々として宿屋へ戻るサキトだが、町の中では白髪のプレイヤーには気をつけろという噂が広まっているのを本人はまだ知らない。
割と早く蹂躙させてしまいました。
作者のセンスのなさに自分自身が脱帽ですorz
これからも不定期更新で申し訳ないのですがお付き合いくださると幸いです。
サキトの2LOでの立ち位置についてもがんばって練っていきます!
次回をお楽しみに