第3話 チュートリアル
本日3話目
ここで一旦区切ります。
目の前に広がる光景に呆然とし、これが仮想現実の中なのかと疑問すら湧いてくる。
噴水から出る水も、衣擦れの感触も風の音も、それが作りモノなんかじゃない現実の世界と同じように五感に響いてくる。
どんな作り込みをすればここまでの仮想現実を構築できるのか?
すでに開発者としての自分はボロボロに打ち砕かれている。
たったの一目でここまで打ちのめされた。
ふとこの世界における自分のアバターを確かめてみる。
噴水の水に反射した自分の姿は作成時と同じ白髪と赤い瞳、見た目は現実の自分の姿そのままなので若干のコスプレ感はあるが仕方がない。いずれ慣れるとして次は自分の服装だ。
簡素な上下お揃いの服と皮靴。腰には小振りのナイフが挿してある。
これは全職種キャラ共通で支給される耐久値のないいわゆる初期装備という奴だ。
最初のスキル選択で武器関係のスキルを手に入れた人はそれに関する初期装備が支給されるらしい。
さっそく鑑定を使用して調べた結果がこれだ。
『布の服』
装備条件:なし
防御力+2
何の変哲もない布でできた服。裸でないだけマシという程度のものだが身だしなみは最低限でもした方が人として好ましい。この装備は上下1セットになり着脱は上下共に行われる。また装備としては肌着に該当するためこの装備の上に防具を着用することもできる。
『初心者用ナイフ』
必要装備条件:STR1
攻撃力+2
攻撃から剥ぎ取りまで何でもこなせる万能ナイフ。万能ゆえに全ての性能値は低く、お金があるなら別の武器を持った方がよいだろう。万能で頑丈。このナイフの利点はこれに尽きる。
これが俺の現在の装備している全てになる。どうやらステータスの横にあった(+2)は服とナイフを装備した時に入る補正値らしい。
初期装備だけに貧弱だな。
そういえば最初にチュートリアルができるって言ってたよな?
視界の右下に何やらアイコンがあり、視線を意識するとメニュー画面が開かれた。どうやら視線で意識するだけで操作は可能のようだ。
自分が調べたいクエスト関連の項目を探すと、メニューが点滅しているのですぐに把握できた。
『チュートリアル初心者編』こちらを開始しますか? YES or NO?
視線でYESを選択。
『それではチュートリアルを開始します』
眼前にそのメッセージが表示され『最初の目標』冒険者ギルドへ向かおう。という表示とギルドの場所を示す視界左上に表示された。
「これの案内通りに進めばいいわけか。おお、意識すればある程度画面の配置は動かせるんだな」
その項目を意識すれば矢印の位置を道に沿った形に変更したり、HPとMPをバー表示に加えて数字で表現させてみたりと、できうる限りのカスタマイズをギルドに到着するまで続けてみた。
「ここが冒険者ギルドか。なんかお約束の酒場的な作りだな」
何度か他のプレイヤーが出入りしているのを確認しつつ中へとはいっていく。
すると中に入った途端に視界に表示されていた『冒険者ギルドへ向かおう』という表示の上にクリアという文字が入り少量ながら経験値とお金が手に入った。金額は¥1000
この世界でもお金は日本円表示で、外国サーバーだとその国に応じた金銭表示に代わるみたいだ。税率とか円相場とかどうなるのだろうか?
今回貰えた経験値で一レベル上がりスキルポイントというモノが5ポイント手に入った。
どうやらこのゲームは自分で努力して手に入るスキルの他に、ポイントで交換できるスキルもあるようだ。
当然と言えば当然で、努力しても魔法とか手に入らないからな。
更に1レベル上がってステータスにランダムで1ずつ2ポイントがどこかの項目に振られ、更に1ポイント自分で選択できるみたいだ。
ランダムで振られた2ポイントはそれぞれSTRとAGLに、手動で割り振るのはHITにしておこう。
―――――――――ステータス―――――――――
名前:サキト 性別:男
種族:魂人種 Lv:2 スキルポイント:5
HP(体力):15→17 MP(魔力):20→21
STR(力):5→6(+2)
MND(精神力):15(+0)
DEF(防御力):5(+2)
AGL(敏捷):5→6(+0)
HIT(集中力):5→6(+0)
LUK(運):10(+0)
スキル
『スキル補正EX』『鑑定』『空き』『空き』
『空き』『空き』『空き』『空き』『空き』
所持金¥1000
―――――――――――――――――――――――
ドアの前から少し離れてステータスの操作が終わり、クエストが変化しているのに気づく。
次の目標:冒険者ギルドでギルドカードを作成しよう。
このゲームだと冒険者ギルドで発行するギルドカードを見せるのが身分証の代わりになるそうで、一度発行すれば自動的に廃棄不可アイテムとなってウインドウの一部になるみたいだ。
ようは他人に見せる為の名刺みたいなものだな。
受付に座っているのは耳のとがった狐族だと思われる獣人の女性だった。
「すいません。ギルドカードの発行手続きをしたいのですが?」
狐耳の女性はこちらへお辞儀すると、一枚のカードを差し出した。
「ようこそ。こちらへ必要な情報を入力してください」
渡されたカードには最初のキャラ作成で入力したのと同じ内容を記入するようになっていた。
同じ内容を記入し、受付の女性に返すとカードリーダーの様なものに通して何やらラミネート加工をしている。
再度返されたものは文字通りラミネート加工されたかのように滑らかに仕上げられた一枚のカード。
「こちらがサキト様のギルドカードになります。個人情報になりますので変更事項がありましたらギルドカードを持って冒険者ギルドか他のギルドまでお持ちください。無くす事は無いと思いますが、万が一無くした場合は速やかに冒険者ギルドか最寄のギルドまでご連絡ください。」
丁寧な口調で説明されて受付から離れたら、またもやクエストがクリアになる。
手に入る経験値と今回は¥3000貰えた。レベルアップはしなかった。
続いて表示されるクエスト内容は『装備を整えよう』とある。そして他にもいくつかのクエストが新規に出現する。
『装備を整えよう』と表示されているクエストを選択すると、さらに『武器と防具を装備しよう』とあり、装備欄の枠が表示されている。
枠は右手と左手、頭部から始まり腕部に胸部、腰部に脚部、アクセサリーの枠が耳、指、首と3箇所ある。
全て埋めなくてはいけないのだろうかと思ったが、注意書きでいずれか3つの項目を埋めればクリアになると書いてある。
試しに初期から装備扱いとなっていた初心者用ナイフを右手に選択してみる。
『右手に初心者用ナイフを装備しました。クエストクリア3/1』と表示された。しかし布の服はインナー扱いの様で装備には入れられなかった。
見渡すとギルド内にはアイテムを販売している場所があったので覗いてみる。
「いらっしゃい。新米の冒険者だね?何がお望みだい?」
「まだ始めたばかりで、何が売られているのか気になって少し見させてもらっても?」
販売所の店員(多分NPC)のおっさんは豪快に笑いながら構わないぞといって奥へと引っ込んでいった。
そういえば受付の狐耳の獣人もNPCだったのかな?
最初に装備を鑑定してから使ってなかった鑑定スキルを使用して獣人の女性を見てみた。
『レベルが足りない為鑑定は失敗しました』
あれ?失敗した。
どうやら相手のレベルが高くて鑑定が失敗したみたいだ。
あきらめて売られているアイテムに対して再度鑑定を試みる。
『ポーション』¥100
飲むか傷口にかけるかして使用。飲んだ方が回復量は多いが味は美味しくない。濃度によって回復量の上限が変わる。
基礎値:HP回復量30
『解毒ポーション』¥200
一般的な毒物に対して効果のあるポーション。特殊な毒には効果が低い。主に虫系の毒に対して効果を発揮する。飲んだ方が効果が高いが恐ろしくマズイ。
基礎値:通常毒、麻痺毒
『薬草』¥30
ポーションの原材料になる野草の一つ。そこらへんに生えているが新芽の部分の方が効果が高い。そのまま食べても効果はあるがとても低く青臭い。
基礎値:HP回復量5
等など、アイテムは始まりの町らしいラインナップだな。
装備の方を見ていくと
『鉄の剣』¥1500
装備条件:STR10
攻撃力:+15
鉄製の剣、ロングソードとも言われている。ナイフよりもリーチが長く初級の冒険者がよく使用している。鉄製の為錆び易く、また刃こぼれしやすい。
手入れには砥石か専門の職人の手による整備が望ましい。
『鋼のダガー』¥4000
装備条件:STR7、AGL6(どちらかでも装備可能、性能が一段階減)
攻撃力:+9(装備条件がどちらか満たしていない場合+6)AGL+1
鉄を鍛錬した鋼で鍛えられたダガー。鉄製のモノよりも丈夫で耐久度が減りにくい。手入れを怠ると錆びるのは変わらない。STRの低い冒険者が持つメイン装備か予備として所持している者が多い。
『木の盾』¥500
装備条件:STR5
防御力:+4
鉄の枠に硬い材質の木を嵌め込んだ簡素な盾、近接職の駆けだし冒険者が手慰みに所持することが多い。木製の為軽いが壊れやすく、その材質ゆえに修理はできない。始まりの町周辺ならこれでも大丈夫であろうが…
『鉄の盾』¥1500
装備条件:STR10
防御力:+12
木の盾の表面に薄い鉄の板を張り合わせたもの。初級の冒険者が木の盾の代わりに所持することが多く、簡素な造りながらその重さは冒険者に安心を与えてくれる。しかしながら魔術的加工はされていないので注意する事。
『ラビットケープ』
装備条件:STR3 AGL5
防御力+3 AGL+4
始まりの町周辺に生息する魔獣『ラビットシーフ』から採れる毛皮であつらえられたケープ。防御力はほぼないが暖かく、また装備者の敏捷をわずかながら上げてくれる。駆けだし斥候職の冒険者が愛用する装備。見た目通りあったかフワフワで女性に大人気!
『レインコート』
装備条件:STR3 MND3
防御力+3 MND+2
表面に撥水作用のある『ガマの油』を塗り雨の日でも服がぬれる事がない。また『ガマの油』に含まれる微量の魔力が装備者のMNDにわずかながら影響を与えてくれる。微妙に生臭い。
おおー。鑑定しただけでも色々出るわ出るわ。
技量で変化するってことは鑑定スキルもレベルを上げれば他の項目が出現するのだろうか?
初期装備だと紙装甲だから何か買って装備を整えたいが金がない。
ある程度商品を吟味し、クエストで得た報酬¥4000内で治まるようになるべく良い物を探そうと考え、ふとここで買う必要はないのではないかと閃いた。
「よく考えれば俺の他にもプレイヤーがいるんだし、ゲームとくれば露店でアイテムを販売しているプレイヤーもいる。噴水広場にそれらしい露店も並んでいたし、もしかしたら店売り品よりも安くて性能の良いやつもあるかもしれないな」
現実世界の様なゲームにはまっていたが、文字通りゲームの世界なのだ。
俺よりも前にゲームを始めている奴もいるし、俺の同僚も俺より先に個人的にゲームを開始していたはずだ。
そういえば最近仕事を休みがちだったはずだがもしかしてどっぷりハマってるのではなかろうか?
たしかゲーム内で電話をかけるには…ああ、あった。
ゲームに似つかわしくないコール音の後、開いたメニューウインドウから暢気な声が聞こえてくる。
「お~。なんだ?サキっちじゃないの?俺今忙しいんだけど?」
開口一番聞こえてきた背後からは恐らく戦闘中であろう金属音が響いてくるし、「ちょっと戦闘中になに電話してるの!?あんた壁なんだから早く戦線復帰してよ!」と恐らく仲間であろう他のプレイヤーの声も聞こえてくる。
「悪いな谷。仕事をさぼってゲーム三昧な貴様の事は後で上司に報告するとして、俺も2LO始めて今チュートリアル中なんだわ。まだ金ないしチュート内容で装備を整えようってのがあってさ。ぶっちゃけるとなんか装備くれ。俺の装備できる範囲ので」
「上司への報告をなしにしてやるなら格安で譲るぞ?」
「ふざけろ。電話口の様子だとそこそこレベルも上なんだろ?使わない初級の装備で良いんだよ。タダで流せ。上司への報告は流す装備の質と価値で決める」
電話越しに小さく舌打ちが聞こえてきたが、背後の女性プレイヤーがまだ終わらないのかと怒号が飛んできたので「わかったよ。始まりの町の初期ログイン場所の噴水で、時間は今から3時間後で良いか?」
「それでいい。キャラ名はサキトで容姿は白髪に赤目のキャラだから」
「了解。俺はキャラ名タクで容姿はフルプレートにどでかい盾担いでるからすぐわかる」
お互いの容姿を簡単に説明して電話が終わる。
さてチュートリアルの途中だけど待ち時間までまだ間があるし、露店でも冷やかしに行こうかね?
ここまで読んで下さりありがとうございます。
誤字脱字は気づき次第直していきますが、もし気づいたら報告してくださると幸いです。
なるべくもう一つの作品と合わせて更新していたいと思いますが不定期更新でもお付き合いしていただければと思います。
2017/04/22 読んで下さった方からの指摘で、ある程度進んだプレイヤーが初期装備を持っているものなのかとありました。ご指摘ありがとうございます。
より正確には今では使っていない装備の中で低レベルでも装備できそうなアイテムと言う意味です。
そのため初期装備ではなく初級の装備と言う表記にしています。
ある程度進んでいるプレイヤーならスキルのレベル上げに装備やアイテムの制作を行っているだろうというのを考えての行動だと思ってください。
ちなみに作者はスカイリムでひたすら鉄の短剣を鍛えてスキル上げしてました。