第17話 アリアドネの森
お久しぶりです。エエホントニ…
『アリアドネの森』
毒や行動阻害系の効果を持つ攻撃を多用してくるモンスターが多数生息する
初心者殺しとして有名な森。この森は幾多の罠と古代の遺跡とに彩られたロマンのフィールドである。
(2LO異世界旅行記より抜粋)著:三雲 薫
「あ~なるほどね~そりゃこうなるわ~」
森に入ってしばらくした後、俺は突如として逆さ釣りの状態で高い木に宙づりの状態にされた。
そして先ほどまでなかった無数の気配と這い寄ってくるカサカサとした足音。
またたく間に地面は蜘蛛やらムカデやらの害虫に、木や空中にはこれまた蛇やら蜂やらといったモンスターたちが。
釣られた足を見れば極細の糸が足首にかかるようにして付けられている。
蜘蛛の巣とかに磔にされなかっただけマシかな?両手は動かせるし片足も無事だ。
周囲には気持ち悪くなるくらい虫があふれているわけだが、それでも鑑定で見た限りではレベル10位が一番多い。
先ほどから蜂が尻の針で突き刺してくるが、両手に持つ双連刃でいなしつつ迎撃を続けている。
倒した敵は地面に落ちて他のモンスターたちに捕食されていく。ああもったいない、素材の剥ぎ取りが~。
たまに毒液を飛ばしてくる奴らもいるが、そこはインベントリーから取り出した草原狼の皮を広げて盾代わりにする。自由度が高いってホントに便利だわ。
普通のゲームじゃ素材アイテムなんてこういった戦闘で有用性ないからな。それでも皮の数は有限だ。無くなれば毒になるし現状解毒剤など持っていない。
そもそも市販の解毒剤があったとしてこのゲームの事だ。そのモンスターに特化した解毒剤を持ち歩かなければいけないとかありそう。
いやこの運営なら絶対やりかねない。
何度目かの蜂との攻防の途中、蛇が飛ばした毒液が宙づりになった原因である蜘蛛の糸?を溶かした事により地面に落下した。
もちろん下には今か今かと俺を捕食しようと待ちかまえるその他大勢。
しかしインベントリから取り出したアイテムが戦況を一変させた。
落ちているさなかにアイテムを使用。一瞬の光の後に現れたのは一匹の巨大な狼だ。
『草原狼王』
その名前がサキトの名前のすぐ下に表示されパーティへの加入が完了する。
そして蹂躙が始まった。
共に落ちた筈なのにその巨体から先に地面に降りた狼王は尻尾の一振りで周囲のモンスターを弾き飛ばした。
あのモフみを身体全身で味わいたいが、ひとまず殲滅することを最優先で行動を開始する。
クイックで双連刃から交換したのは黒金のククリ刀。さらにもう片方の手には鎖鎌を下げている。
変則二刀流でサキトもダッシュを発動させて敵陣へと斬り込んでいった。
「だーっ!疲れた!」
何十分と戦い続け、ゲームで疲れないはずの身体に疲労を感じるのを疑問に、草原狼王の尻尾に倒れ込む。
狼王の出現可能時間はもう幾ばくもないが、せっかく味方になったのだしこのモフミは堪能すべきものだ。
「もっふもふや~!」
尻尾に抱きつく様に堪能しているサキトを他所に草原狼王は倒したモンスターたちを集めて器用に爪と牙で解体している。
たまに肉などを食べているのだがまぁ虫とか蛇とか好んで食べようとは思わないので放置している。
やがて時間が来たのか遠吠えのような鳴き声と共に草原狼王は消えていく。
「待って!モフミ!モフオ!モフコ!俺のモフモフ!」
半ばハイになっているのか一つの尻尾に三つの名前を付けて呼ぶ主人をかわいそうな目で見ながら草原狼王の姿は完全に消えた。
『草原狼王:再召喚可能まで後12時間後』
銀狼の下に新たに草原狼王の再召喚可能時間が現れ、カウントが始まる。
これで本当にソロになってしまった。
「さすがに早まったか?一旦町に戻るしかないのかな?」
草原で手に入れた狼の毛皮も残り少なく、新たに手に入れた素材は扱いが難しそうだ。
町に戻ればきっとおそらく多分だろうが草原狼王の話題で盛り上がっているはずだ。
トレード不可だしインベントリに入れておけばバレる事はないだろう。
「一回最初の町に戻るか~。この道逆走するのメンドクサイな~」
周囲のモンスターはあらかた片づけたがリポップする可能性が高いので注意して元来た道を引き返す事にしたのだった。
予想通り道中すれ違ったパーティの会話の話題は草原狼王のテイムの内容だった。
半ば予測していたが、他のゲームの先入観が邪魔をして『ボスモンスターのテイムは不可能』という暗黙のルールが蔓延っていたそうだ。
もちろん俺の設定のせいかもしれないが、そこはこれから検証好きなプレイヤー達が解明していくことだろう。
町に戻ると一通のメールが来た。
どうやら現実で接続している携帯端末からの様で、次回作のゲームを元に公式HPを作ったので確認してくださいと言う後輩の女の子からだった。
後輩ちゃんといつも読んでいるし携帯にもそれで登録しているので実のところこの子の本名を忘れていたりする。
以前企画したアプリの制作者一覧にも本人の意向かメンバーのいたずらか『後輩ちゃん』で載っていたので会社で社員証を見ない限りきっと思い出す事はないだろう。
「とりあえず『後で確認します。報告ありがとう』と…」
メールに返信しながら宿屋に戻りアイテムを全て預ける。
恐らく使わないであろう素材類は残しておいて解体所でバラしてもうことにしよう。そうしよう。
草原狼王によって大雑把に解体された素材を解体所に持って行ったら、案の定親方に渋い顔をされた。
「こないだのゴブリンや狼と違って随分と適当なバラし方だな?」
切断面から俺の手際じゃない事は丸わかりなので「すいません」とだけ言っておく。
「モンスター。それも傷口から見てある程度大型。爪や牙による傷が深い事から狼系統のモンスターだと解る。なるほど、お前さんがテイム者か…」
なんとも、傷口からモンスターの種別まで当てちゃいましたよこの人。
「ふぇ?じゃあサキトさんがあのアナウンスの当事者なんですか!?」
後ろで血に慣れてきたのか傷口を親方と一緒に見ていたリンナが驚きの声を上げる。
「静かにしろい。道理でこそこそと入って来たと思った」
「ふえぇ~。サキトさん凄いです!」
若干呆れ顔の親方と何やら尊敬のまなざしで見つめてくるリンナ。
「まぁ成り行きでな。吹聴しないでくれると助かる」
「「了解だ(解りました!)」」と二人の言質を取って解体を依頼。ついでにあの森の話で何か知っていないか情報を得る。
「森のモンスターに毒かけられてさ。手持ちの皮を盾にして防いでたんだけど何か良い方法ない?」
親方は解体の手を止めずに「俺は冒険者じゃねえんだが」と口にする。
「それなら提示版とかどうですか?情報とか色々上がってますけど?」
リンナの提案に首を横に振る。なるべくそういう情報は見たくはない。いらない所でネタバレとかあるし。
「なるべくそういった情報サイトは見ないようにしているんだ。楽しみが薄れるからな。足や人脈を使ってこの世界を楽しみたい」
サキトの言葉にリンナはまた「ふえぇ~」と言葉を漏らす。口癖なのかね?
「まっいいか。しばらくは武器の耐久値やこれから手に入るだろう素材で色々とやるつもりだから素材の解体が終わった報告のほかにも何かあったら連絡くれ」
リンナにそう告げてサキトは解体所を後にする。
「あっ貴方あの時の!」
「ちょっと!いきなり失礼だよ!」
しばらく人ごみを避けるように入り組んだ路地を散策していた俺に話しかけられた言葉は、どこか聞き覚えのある二人の女の子の声であった。
お久しぶりです。
ホントニオヒサシブリデス。PCに触る機会がなく更新が遅れました。
見捨てずに今後ともよろしくお願いします。