第16話 草原狼王テイム成功!~余談 とある新人プレイヤー達の茶会~
お久しぶりの更新です。
月島朱里ことプレイヤーネーム『アカリ』は目の前の光景を見て絶望していた。
話は少し前に遡る。
クラスの中の良いグループと始める事になった『2LO』。
裕福な家庭が入れる有名進学校に通っていた私達は、フルダイブ技術が進歩した現代においても高価とされる『ガイア』と、両親の同意のもとに作成された書類を持ってソフトを手に入れる事ができた。
初めて体験した2LOの世界は、私たちを魅了するのにそう時間はかからなかった。
チュートリアルを終えた後、初めて手に取る武器にはしゃぎ、外でのモンスターとの戦闘に驚き、少し怖いながらも倒せた時の喜びを仲間達と共有した。
そして気づけば草原を超えて森の近くまで来ていたのだった。
気付いた頃にはもう遅い。
幾度となく戦ったはずの草原狼の強さが徐々に上がっていた事に。
じわじわと減っていた回復アイテムに。
そんな中での草原狼王との戦いは圧倒的に不利な状況から始まったと言える。
まず最初の誤算は前哨戦だった草原狼達からの奇襲による盾持ちの前衛、片瞑篭(プレイヤー名:マイマイ)と回復役だった緒方奈央(プレイヤー名:ナオ)の離脱。
突然草むらの中から三匹の草原狼が飛び出し、不意を突かれたナオがそのうちの二匹に咥えられて連れ去られた。
もう一匹はマイマイの喉笛に食らいつきクリティカルが出たのかその一撃だけでポリゴン片となって消えていった。
最悪なのは回復アイテムが残り少なくなった時に奇襲を仕掛けられた事だろう。
回復アイテムも乏しく、回復役もすでに死に戻り。大盾を持っていた前衛も自分を守ることもできずに死んでしまった。
むしろ前哨戦でここまで戦えていたのが奇跡に近い。
途中でどこからか聞こえてきた遠吠えでなぜか草原狼たちは去っていったが、むしろその時出てきたボスがやばすぎた。
前足の一振りで唯一残った前衛職の野上圭太(プレイヤー名:K太)の体力が8割持って行かれた。
それも大剣の腹でガードした上でだ。
とっさに遊撃二人の田中篤(プレイヤー名:ナカタ)と月神命(プレイヤー名:ツクヨミ)が手持ちの残り少ないポーションをK太に投げて体力を回復させる。
少しでもヘイトを稼ぐために私もMP回復用のポーションを飲んでファイアストームを詠唱する。
幸いに雑魚はいなくなったし誰も私の魔法を邪魔する奴はいない。
少しばかり発動に時間がかかるが私が覚えられた魔法の中で一番の威力だ。
「喰らえ!ファイアストーム!」
なけなしの魔力を全部込めてぶつけたファイアストームは、確かに草原狼王にダメージを負わせたはずだ。
ボスの頭上に表示されているHPがわずかに減ったのが確認できたから。
そう…わずかに減ったのだ。
私の最大火力の魔法でわずかに…。
それから先は地獄の様だった。
ほんのわずかな時間だったはずだ。
まずナカタが回避をミスって一撃でポリゴンに消えた。
その後K太が何度も攻撃を加えてヘイトを保ちつつ全員が持久戦を覚悟に戦っていた。
ツクヨミも手持ちの投擲武器を適時加えてボスの攻撃の出鼻をくじく事に成功していた。
私だって手持ちのポーションを二人に投げて回復役の代わりにがんばっていた。
でもその戦闘もちょっとした事から終わりを告げる。
「ごめん!もう投擲武器がない!」
ツクヨミの悲壮な声に二人は思わずボスから注意を逸らしてしまう。
逸らしてしまったのだ…。
『草原狼王は畏怖の咆哮を行いました』
『自身よりレベルの低い相手に対し低確率で麻痺の効果』
ログに表示されたのを確認するも、ボスの咆哮に身を竦ませ思わず目をつぶってしまう。
そして目を開きボスの方を向いた時。K太は巨大な顎に咥えられ、そのまま噛み砕かれた所であった。
「イヤァーッ!」
思わず出た悲鳴。ポリゴンとなって消えるK太の破片を邪魔そうに払い悲鳴をあげたアカリに目を向ける草原狼王。
そして不意にヘイトがあらぬ方向へ向く。
それは職業が『抜け忍』というツクヨミがヘイトを稼ぐために捨て身の特攻に移る直前、突如ボスの身体に赤い槍が突き刺さったからだ。
ヘイトが移動したのはその槍がボスにヘイトを移動させるのに足るダメージを与えたからに過ぎない。
ツクヨミの目の前に一つのウインドウが表示された。それは本来のPTリーダーだったK太が倒された事によるリーダー権限の移動によるもの。
『他プレイヤーによる介入がありました』
『PT加入の申請があります』
『PTの編入を認めますか?(認めない場合別PTとして本戦闘終了まで待機状態となります)』
『Yes or No』
とっさにYesをのボタンを押す。
「横槍悪いな。雑魚倒し終えたらあんた達の大剣持ちが死んだ所だったからついつい出しゃばった」
PT用チャットに新しく人が増えていた。
デスペナ中のマイマイとナオ、さっきやられたK太とナカタは強制的にPTから外されたのか黒く反転している。
戦闘中はデスペナされたプレイヤーはPTチャットに参加出来ないみたいだ。
新しく表示されたプレイヤー名はサキト。
見れば先ほど草原狼の群れが去っていった方向から一人のプレイヤーが歩いてきた。傍には白銀に輝く毛並みの草原狼を連れている。
最初に聞こえた咆哮はあの狼が放ったものなのだろうか?
「俺の名前はサキト。こっちの狼はルルってんだ。まぁ一種の召喚獣とでも思ってくれれば良い。所でとりあえずここは俺がヘイトを持つからあんた。えっとツクヨミか。ツクヨミはもう一人のアカリと言うプレイヤーの所まで行って距離をあけさせてくれ」
視線の向けた先、ボスはサキトに視線を固定しているが、まだ攻撃範囲内にはアカリが声もなくしゃがみ込んでいる。
「確認したな?あー、手持ちの武器は一つあいつに刺さったままだからこっちで攻めるか…」
クイックと呟くとサキトの両手には左右で長さの違うダガーが現れる。
「こっちは試し斬りすらしてないんだけどなぁ」
呟く声に不安が残るが、ここはサキトというプレイヤーの言う事を信じるしかない。
「頼むよ。手持ちのアイテムもほとんど残ってない。最悪僕達がここから逃げるだけの時間を稼いでくれたらいいから…」
デスペナでロストするアイテムと経験値を考えたら出来ればゴブリンと草原狼の魔石は確保しておきたいところだ。
それに先ほど群れで離れていった草原狼を倒してきたならば自分たちよりもベテランなのだろう。
「テンプレだけど『別に倒してしまっても構わんのだろう?』って言ってみるさ」
気楽に両手のダガーを回しながら草原狼王へと駈け出して行く。
「ボサっとしてるなよ!?とっとと動け!」
銀色の毛並みをしたルルという狼と共に左右から挟み込むように挟撃を開始する。
彼らがヘイトを稼いでいるうちに急いでアカリを助けないと。
草原狼王が完全に目標をサキトへと変更、身体を相対させる。その身体には赤い槍が突き刺さり、継続ダメージを与えているように見えた。
実質、紅竹槍の先端は細かい返しが付いており突き刺した後抉るように引き抜きダメージを与える作りになっている。
そのせいか刺した後抜くのが結構メンドクサイ。
双連刃を構えたサキトは視線の端でツクヨミがアカリの元まで辿りつけるように少しずつ距離を離す。
牽制としてルルは時折吠えて狼王の注意をアカリに向かないようにさせている。
睨みあうこと数秒、先制は狼王の飛びかかりだった。
高く跳び上がりこちらへ向けて体重を乗せた攻撃。
単調だが図体がでかい分範囲が広い。
「『ダッシュ』!」
高速で相手の攻撃範囲から逃げる為にスキルを使う。わずかな時間だが狼王が遅くなり自分の視界が高速で移動する。
次いでとばかりに避けた隙に足の腱に対して双連刃を叩き込んで離脱する。
ボスだけあってやはり硬い。相手の皮膚に赤い筋こそついたもののダメージは微々たるものだろう。
「ダガーじゃ軽いか。なら初合わせでこれならどうだ!」
双連刃を組み合わせて溝へ嵌めこみ一振りのショートソードを完成させる。
左右でバランスの違う歪な剣はダガーよりも重く、一撃の攻撃力がアップする。
ダッシュの効果が切れる直前、投擲と共に発動させ、クールタイムが終わった一つのスキルを発動させる。
「『剛腕』!」
一時的にSTRを上げた一撃は確かに狼王の身に赤い血飛沫を負わす事に成功する。
「よし!っと!?」
後ろ足にダメージを与えた油断から狼王の尻尾の薙ぎ払いに巻きこまれる。
モフモフを堪能する間もなく勢い良く弾き飛ばされるサキト。
何度か地面をバウンドして転がりながらも体勢をすぐさま戻して攻撃に備えた。一撃でやられなかったのは、レベルとタクから貰った防具類のおかげであろう。
制限を外しているのでもろに(それでも死ぬほどではない)痛みを感じる設定にしていたので気分としては車に撥ねられたような感じだ。
「生きてる。俺グッジョブ!」
見ればルルが狼王を引きつけてくれているので、すぐさま回復用の出来の悪いポーションを数本開け、がぶ飲みする。
自分の体力がどれほどなのかゲージを確認することができないが、きっと自分で判断するに赤ゲージにギリギリ達していない黄色ゲージまでと言ったところであろう。
それもポーションを飲んだら痛みも取れた恐らく全快。ゲームすげー!
「っと感動している場合じゃない。あの二人も戦闘圏内から逃げたみたいだし、これからは本気でやるか!」
サキトは再びクイックを使用して一本の鞭を取りだした。
「リアル指向ならボスでも獣である以上はテイムの対象だよなぁ?」
パシン!と快音を響かせて鞭を鳴らして狼王を威嚇する。
そしてこちらまで駆けてくるルルが、徐々に光となって消えていく。
画面の端に表示されていた召喚可能時間が切れてしまっていた。
「助かったぞルル!またよろしく頼む!」
最後に一啼きしてルルは消えていった。
二人もいなくなり、ルルも帰ってしまった。つまりは一対一の戦いだ。
「さて、テイムってどうやればいいんだろう?」
とりあえず襲いかかる狼王を回避しつつ身体の各所に鞭を入れていく。
ペシン! パシン!と蠅叩きの様に音を鳴らしていたるところに入れていく。
「なんか肉を軟らかくしている気分だなっと」
ダメージを与えられているか判断できない為、肉を叩くと言う意味で黒金の鎚を装備して変則二刀流で対応する。
「間違えて倒したらリポップするのか? ゲームだからそこら辺はあまり気にしないでおきたいけど俺の設定だとあやしいのも事実なのよな?」
襲いかかる牙と爪の猛攻をヒラリヒラリと避けながら目や鼻に鞭を叩きつけ、怯んだ隙に飛び出ている爪に鎚を振りおろす。
もう何度繰り返したか解らない作業だったが、前足の爪を全て叩き割った時に草原狼王の動きに致命的な隙が生まれた。
叩きつけた前足を滑らせ横倒しに倒れ込んだのだ。
『部位破壊ボーナス。草原狼王が転倒。起き上がるまでの間与えるダメージ量増加。テイム確率増加』
未だにテイムの方法が解らなかったので、その隙を使って素早くヘルプを参照してテイムの仕方を調べて見た。
『テイム方法』
野生のモンスター相手に鞭、もしくはテイマー用の装備、アイテムを用いて一定以上のダメージを与えると稀に自動発動される。プレイヤーが相手よりもレベルが高いほどテイム確率上昇。ある一定の制限を外している者以外ボスモンスターのテイム、捕獲は成功しない。
おおう。
条件的には問題ない。ネックなのは相手とのレベル差か…。
「死なない程度に痛めつけて死にそうならポーションで回復させて捕まえられるまで繰り返すか」
草原狼王は不気味に笑い始めたサキトの姿にわずかにたじろぐものの、フィールドボスの意地があるのか逃げ出さずに牙をむき出して襲いかかってくる。
爪のない前足の攻撃は肉級パンチに変わり、うっとおしいとばかりに顎を砕き割られた草原狼王は、こちらへの敵意を持ちつつもすでに死に体で地面を掻く状態になってしまっている。
「やりすぎ?まぁ手持ちに回復アイテムあるし?敵でも効くよな多分?草原狼でも効いたし…」
契約指輪をちらり見してから草原狼王へポーションをいくつか投げつける。
近寄ると攻撃されるかもしれないので念のためだ。
『草原狼王が起き上がってこちらを見ている。テイムが可能です。』
『Yes?orNo?』
「ようやくテイム可能か。消耗品の処分に一役買ったと言えば良いか?」
なんか一昔前のゲームで似たような場面があったような気もするが、とりあえずYesを選択する。
『草原狼王をテイムしました』
その表示が出ると共にゲーム内にインフォメーションが流れる。
『皆様。このたびは2LOをプレイしていただきありがとうございます。先ほどフィールドボス草原狼王がテイムされました。これにより各所フィールドボスの配置が変更になります。普段とは違う縄張りに進出するモンスターもいる為プレイする際はお気を付け下さい。ではこの第2の人生を存分にお楽しみ下さりますよう制作者一同心から祈っております』
そうしてインフォーメーションは止み、ボスの消えたフィールドは静寂に包まれた。
もしかしてやっちゃったかな?
インベントリにはボスをテイムした証として『草原狼王の召喚石』というアイテムが現れた。
『草原狼王の召喚石』(特殊イベントアイテム)
フィールドボスである草原狼王が封じられた召喚石。通常の召喚石とは違いプレイヤーのMPを継続消費することで召喚可能。モンスターの強さは戦闘時のプレイヤーの強さに応じて変わる。しかしフィールドボスとしての能力は失われておらず。その実力は狼王の名に恥じぬ草原の覇者の如し。
※譲渡、破棄、売却不可。このアイテムはインベントリの数には反映されません。
めっちゃ壊れ性能っぽいんですけど使ってみないと詳細が解らないな。
まぁこれでソロでも実質一人と二匹のモフモフパラダイスができたと考えよう。
それにしてもフィールドボスにテイムを試みた者がいない訳でもないだろうに?もしくはボスはテイムできないのが普通だとか考えられていたとか?
大抵のゲームならボスやイベントモンスターはテイムの対象外なのが普通だと思うが、このゲームの主旨で行くならむしろやってみろと言いたげな気がしないでもないのだが。
「気にしても仕方がないし武器の性能も確認は出来た。森の中も興味あるけどさっき逃がした子達は無事に帰れたかねぇ?」
一応PTチャットはONの状態なので試しに話しかけて見る。
「こっちは戦闘終了だ。そっちは戦闘圏外に逃げ出せたか?」
少し遅れてPTチャットのウインドウから男女の声がそれぞれ聞こえてきた。
「こちらは無事です。ボスとの戦闘中だったために一定範囲から外へは逃げ出せないようになっていましたが、それも先ほどのアナウンスと共に解除されました。」
「あの!助けていただきありがとうございます!それに私達何もできなかったのに討伐報酬が貰えちゃったんですけど…」
申し訳なさそうな声で告げてくるアカリというプレイヤーに気にすることはないと声をかける。
「元々飛び入りはこちらだ。文字通りの横槍失礼した。アイテムが取れたのならそれはダメージを与えられた君達の頑張りによるものだろう。私もそれなりに稼がせてもらったから気にしなくても良い。機会があればまた会おう」
まだなにか言おうとしているみたいだったが、色々と問い詰められるとめんどくさいからPTから離脱する。
PTチャットも離脱と同時に自動的に切られたので良しとしよう。
さて、名前は知られたからしばらく街に戻るのはやめて。
「だとすると森の中しか選択肢はないんだけど…」
色々と消耗しているし、なるべくなら落ち着いた場所で一息つきたいねぇ?
ボスを倒した?あと開かれるように見えてきた森を見て、ため息をつきつつ武器を持ってサキトは森の中へと足を踏み入れるのであった。
場所は戻って始まりの町『ファスト』
サキトは気にもしていなかったがプレイヤーが滞在できる町や国にもきちんと名前が設定されている。
サキトはもちろんのこと、他にいくつかあるサーバーでも最初に転送されてくるのは始まりの町であるここ『ファスト』になる。
ちなみにサキトが進んでいった森、始まりの町ファストから北に位置する、正式名称『アリアドネの森』を超えれば『貿易都市セカンダリア』という現在解放されているエリアでは西に位置する『王都アースガリア』の次にでかい町となる。
東へ向かうと荒野が続き、その先には『鉱山の町ガスト』。さらに先には鍛冶生産職垂涎の鉱山である『フィリア鉱山』が存在する。
残念な事に始まりの草原を抜けた四方の内、南側は未だに未実装なのだが、見た目上はいくつかの村が点在しているのが確認できている。
なぜ南側だけ未実装なのかは2LOのグラフィックやシステムの都合上、実装の際は最低でも1週間以上の超巨大アップデートが必要となるからである。
すでに王都アースガリア実装、貿易都市セカンダリアの実装と二回の超巨大アップデートを超えてきた2LOだが、それでもアップデートにかかる時間にプレイヤー側からの批判の声が多く、未だに南側の実装に踏み切れていないのが実情であった。
ちなみにファストからセカンダリア、アースガリアに向かう道中もNPCが暮らす村々が点在しているが、基本は実際に足を運ぶ事でしか村に行くことはできず、転移するための結晶も存在はするが、村々には実装されていない。
運営曰く「第2の人生甘えるな」だそうだ。
閑話休題
さてその始まりの町ファストではあるプレイヤー達が集まってNPCが切り盛りしている喫茶店で時間を潰していた。
正確に言えばデスペナ中なのでなにもすることができない為解除されるまで反省会を行おうという事になったのだ。
参加者は唯一の生還者でもありあの草原狼王から何気に討伐報酬を手に入れてきたツクヨミとアカリ。
そして残りのデスペナによってファストの噴水広場まで強制的に転送されてしまった4人だ。
丸いテーブルに並べられた食べ物を食べながらの反省会は、とりあえずデスペナによって喪失したアイテム類の確認作業から始まった。
「あ~、魔石一個ロストしてるよ。あとはお金と毛皮類かな?そっちは?」
「私はアイテム類のロストはないけど、その変わりに経験値がゴッソリ減っているわ。また稼ぐの手伝ってくれないかしら?」
「デスペナも人によってランダムなんだねぇ?僕は毛皮とゴブリンからとれた錆びた武具類のロストと全装備の耐久値の半減かな?これ一番被害でかくない?」
「お前達はまだいいだろうよ。こっちはあの狼の噛みつきで武器と上半身の防具の破壊によるロストだってよ。デスペナで金まで半分ロストしてるし…どうやってこれで戦えってんだ…」
上からマイマイ、ナオ、ナカタ、K太の発言である。
草原狼王に噛み砕かれたK太の被害が一番ひどいが、他の仲間も散々のようだ。
「僕たちはなんとか助っ人に助けてもらえたからアイテムのロストは無かったよ。むしろ討伐報酬を貰って申し訳ないくらいだ」
「ツクヨミの言うとおりね。彼がいなかったら全員今日の頑張りが無くなるかもしれなかったんだから」
アカリとツクヨミの言葉に、他のメンバーもその助っ人に対しての質問にシフトしていく。
「でっ?でっ?その助っ人プレイヤーさんはなんて名前なの?姿は?特徴は?武器は?」
マイマイの身を乗り出すような質問にどもりながらも二人は知りえる限りの特徴を上げていく。
銀髪で赤い目。真っ白な装備で傍らに狼を連れている。武器は双剣に投げ槍、それと鞭。立ち回りが武芸者じみてかなりすごかった等。
最初こそ熱心に聞いていた四人だが、サキトというプレイヤーの動きを聞いているうちにその顔に怪訝な色が浮き出てくる。
「本当にそんなプレイヤーいたの?超高レベルプレイヤーなんじゃないの?」
「いやマイマイ。レベル差が圧倒的に開いているとドロップ率にも明確な差が生まれてくる。恐らくは同レベル帯、もしくは少し上くらいじゃないかな?」
基本寄生虫プレイを良しとしない運営がレベリング対策に設定しているのがレベル差による経験値及びドロップアイテムの調整だ。
レベル差が激しいプレイヤー同士でパーティを組んだ場合、経験値取得及びドロップアイテムに凶悪なまでの制限が付く。
それは例え10レベル離れていたとしても運営酷いとまで言わせるほどだ。
ゆえに先輩プレイヤーは後輩プレイヤーに対して一緒にパーティは組めないが、アイテムによる支援を可とすることで天秤を保っているのだ。
最初にタクがサキトとパーティを組まなかったのもそれが理由の一つだ。
中には『自活してこそ2LO!』と告げるプレイヤーもいるが。そのプレイスタイルは誰にも何も言わせないのがこのゲームの暗黙のルールでもある。
「だったらよ?その人呼んでみようぜ?多分ファストに戻ってきてるだろ?」
K太の言葉にアカリは首を振る。
「残念ながらそのまま森の中へと消えていったのよね」
「初見殺しと名高いアリアドネの森にボス倒して直行ってありえないよね?」
普通はボス戦の前後で装備の見直しや回復アイテムの確認などをするものである。
ましてや森の中と言う明らかに戦略が限られてしまう上にクセ者ぞろいの森のモンスター相手だと考えただけで恐ろしい。
「まぁ、彼の場合はあのアナウンスのせいもあったのかもしれないけど…」
アカリの言葉に四人はファストに戻されてからしばらくして響いたアナウンスの事を思い出した。
先ほどまで自分達が戦って負けた相手がテイムされたというのだ。
それこそボスモンスターやイベントモンスターはテイムすることができない存在としてMMORPGでは常識と思われてきた。
しかしアナウンスはその常識を打ち破ったのだ。
誰がそんな事をやったのか?
その話でファストの中は一色に染まった。
もちろん四人もその話で盛り上がっていたのだが、そんな四人の前に草原狼王の素材を持って現れたのがツクヨミとアカリの二人であった。
ゆえに二人の話す内容に一概に賛同しがたくても現実をすでに知ってしまっている以上認めなくてはならないのだ。
おそらくはレベルなどでは測れないプレイヤー自身の身体能力によるPSによる実力。
ゲームの世界でアシストを受けた自分たちよりも立ち回りがうまい事から現実での場数も積んでいるのではないだろうか?
ナオ 「元猟師の人とか?」
K太 「猟師が槍や鞭持って狩りをするかよ?原始時代じゃあるまいし。それよか元ヤンの可能性のが高いだろう?」
ツクヨミ 「それにしては対応が丁寧で好感が持てたよね?」
マイマイ 「てかイケメンだったの?」
アカリ 「ゲーム内の顔や身長とかは大きく変化出来ないからマイマイの希望的に見ればイケメンではあったね?」
ナカタ 「強くてイケメンってリア充かよ。てか今どきイケメンって死語だろw」
ワイワイと騒ぎながら彼等はデスペナの時間が過ぎるまでカフェでお茶におしゃべりにいそしむのであった。
みなさんお久しぶりです!
夏の間に投稿すると言ったな。あれは嘘だ!というわけではなく時間が取れずPCを立ち上げるヒマもありませんでした!老骨(PC)と共に今後も連載は続けていきますのでどうぞよろしくお願いします。