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第12話 再びのEX

調合、錬金→次は鍛冶! ←今ここ!

 調合と錬金のスキルを手に入れたサキトは、鍛冶場の前で仁王立ちしているドワーフ族と思われる男性と話していた。


 正確に言えば言い争っていた。


「だから鍛冶場は公共の施設だろ!なんで使って悪いのさ!」


 サキトが鍛冶場に入ろうとしたところ、扉から一人のドワーフ族のNPCが現れ道を塞いできたのだ。


「黙れ!鍛冶スキルも持たないようなひよっこに大切な鉄火場を貸せるものか!」


 そもそも鍛冶スキルは鍛冶場で鍛冶をしない事には手に入らないスキルなのだから土台からして無理な話なのである。


 その旨を話しても鍛冶場には入れさせないとの一点張りで退く気配がない。


 最初はバグかと思い運営にメールしてみたが、返答は『仕様です』の一言だけ。さすがにこれは困るのだが。


「じゃあどうすりゃ鍛冶場を使わせてもらえるんだよ?鍛冶場で実際に鉄打たなくちゃスキルなんて手に入らないだろうが?」


 サキトの言葉にドワーフは鼻で笑うという返答で返してきた。


「鍛冶場で得られるスキルだけが全てだと考えているようなひよっこだからワシはお前に鍛冶場を貸すわけにはいかんのだ!調合所や解体所の職員はやさしかったかも知れんがワシの守る鉄火場は鉄を打った事のない素人には絶対に貸さん!」


 帰れ!とまで言われて鍛冶場から追い出された。


 さすがにこれでは鍛冶スキルを手に入れるのは無理そうだな。


 一旦宿に戻ってアイテムでも整理するか。


 宿屋に戻る途中もなんで鍛冶場を利用できないのかについて考えてみた。


「少なくとも一度も鍛冶をした事のないプレイヤーには鍛冶場は解放されない。そして鍛冶スキルを得るためには鍛冶場で鍛冶をしなくてはいけない。鍛冶を行うためには鍛冶場を利用しなくてはいけない……くそ、話が堂々巡りだ」


 宿屋へ戻るために最初のログイン地点であった噴水広場を横切ろうかと足を踏み入れる。


 今日も広場は露店が軒を連ねていた。


 そして初日にいろいろと教えてくれた串焼き屋のおっさん。名前は…キングだったな。も相変わらず屋台で販売をしているようだ。


 見た限りだと今日は巨大な寸胴鍋を使用している事から鍋物系だろうか?


「おういらっしゃい。なんだサキトか。今日はもつ鍋の日だぞ喰ってくか?」


 見れば味噌で味を整えられたもつ鍋が寸胴鍋に煮込まれており。周りでは美味しそうに食べている者がいる。


 相変わらず人気のようだ。


 ログインしてから何も口にしていない事を思い出しのでキングに一杯注文し、鍛冶場であった出来事を告げる。


「ほぅ。鍛冶場を使用するための前提条件として鍛冶をした事がある者に限るねぇ?確かにそれだと鍛冶スキルを取るためのクエストの条件がおかしく思えるな?」


 キングはしばらく考えていたが、ふと思いついたのか顔がニヤケ面にかわる。


 正直おっさんの笑顔は気持ち悪い。


「もつは旨いがおっさんの笑顔で食欲半減だぞ?」


 サキトの言葉に周りで食っていた他の者たちも賛同する。


「うるせぇ!せっかくヒントを教えてやろうと思ったがそんな態度じゃ教えるのをやめるぞ!?」


 やはりおっさんはこのクエストのクリア方法に思い当たる節があるようだ。


「悪かったよ。もう一杯もつ頼むからヒントだけ教えてくれ」


 サキトの言葉と共に渡された器にもつを盛りつけながらおっさんは自分の体験談を話し始めた。


「俺は元々料理のスキルなんてもっていなかった。神殿で職業を選んだ時は狩人の職業を選んだからな。最初のスキルは教えられないがとあるクエストでとあるNPCに飯を食わせるというクエストが発生した事があった。詳細は省くが内容は自身が料理した物を食べさせるという内容だ」


 もちろん俺は料理スキルはない。と再度おっさんは前置きする。


「最初は知り合いの料理スキル持ちプレイヤーが作ったモノを見せたがすぐに見破られた。しかたなく俺はそのプレイヤーから調理キットという名のアイテムを借りて狩人の職で手に入れた肉を焼いて出してクリアしたわけだ」


 その時の料理の出来は今思えば酷いに尽きたが相手はそれで納得してくれたらしい。


 初心者用調理アイテムを手に入れて調理を続け料理スキルを手に入れたという事だ。


 おっさんのやり込みに周りのプレイヤー達は拍手する。


 そしてなんとなくおっさんが言いたい事が解った気がする。


「まぁ、これがヒントになるかは解らないが参考にはなったか?」


 おっさんの言葉に「充分だ」と答えてサキトは器を返す。ちゃっかり完食しているのはさすがと言えよう。


 今思えば恐らく調合所でも解体所でもきっと同じような条件を出されていたはずなのだ。


 それが鍛冶場の時だけ前提条件をクリアできていなかっただけ。


 おそらく調合所は必要なアイテムをもっていなかったから入れた可能性が高い。


 それは何かと言われれば


 宿屋に戻り該当すると思われるアイテムを取り出す。


『駈け出し生産者の携帯炉』

 鍛冶や調合で使用できる小型の炉。持ち運びできる代わりに使用できる範囲が初級アイテムに限る。調合は別に鍋等の調合キットが必要になる。初心者で鍛冶を行う者は最初にこの炉で練習を積み実力を付けるのが習わしだ。

 鍛冶を行うならば熱したモノを鍛える鎚と金床を。周囲の安全を考えるなら携帯鍛冶場が必要。(代替品も可)

 使用範囲:鍛冶(銅~鉄のナイフまで)調合(初心者用調合キット)


 一気にアイテムが手に入ったため詳細を確認していなかったが、よくよく見れば答はすでにアイテムの説明文の中に入っていた。


 おのれ運営!


 調合用のアイテムキットはもってなかったので入って作業できたと考える。


 自分の不甲斐なさを運営のせいにしてとりあえずタクから貰ったアイテムのうちすでにインゴットになっているモノを複数取り出す。


 使用範囲が銅から鉄なのでそれらの他にミスリルインゴットと表示されているものを金床代わりに、金鎚の代わりに『黒金の小槌』という小型のハンマーを取り出す。今のSTRでギリギリもてる武器だが、とりあえずこれで代用できるだろう。


 さすがに宿屋の一室で炉を起こすのは問題なので、一旦宿屋から出て作業ができそうな場所を探してみる。


 噴水広場で何人かの鍛冶プレイヤーの姿が確認できたが、他の住人が迷惑そうに見ているのを確認できたのでそこでの作業も諦める。


 やはり鍛冶を行おうとすると音も出るし火元にも注意を図らなければならない。


 打ち鳴らされる鉄の音が噴水広場に響き、近くにいた女性が抱いている赤ん坊が泣きだした。


 女性は赤ん坊をあやしながらいまだ鉄の音を響かせているプレイヤーに迷惑そうな視線を向けた。


 当のプレイヤーは逆に泣き始めた赤ん坊を迷惑そうに睨みつける。


 『街の問題を解決しよう』 

1.街で食糧が足りなくて困っているらしい。食料品を取り扱っている店に行って話を聞いてみよう。


2.街で薬が足りなくなっているらしい。薬を扱っている店に行って話を聞いてみよう。


NEW!

3.噴水広場で住民が困っている。話を聞いて悩みを解決してみよう


 突然視界にクエストがポップされ、以前受けていた内容に新たに条件が付け加えられた。


 このクエストは街で発生した新しいクエストが自動で追加されるのだろうか?


 とりあえずNPCの女性に話を持ちかけて見る。


「うるさいですね。これでは赤ん坊がかわいそうだ」


 わざと鍛冶をしている男性プレイヤーに聞こえるように声をかける。


「ああ、すいません。最近噴水広場に無許可で露店を広げている方が増えて困っているんです」


 一緒に赤ん坊を相手しながら鍛冶をしているプレイヤーに聞こえる声量で会話を続ける。


「たしかに、冒険者ギルドの隣に生産系の施設があるにも拘らず広場で作業をしているのは私も人としてどうかとも思いますし。許可を取っているならまだしも近所迷惑を考えないでそういった事をしているプレイヤーを見ていると同郷の者として恥ずかしい限りです」


「いえいえ。そういった方がいる中でもあなたみたいな方もいるって解っているので、ごく少数の方だけがああいった事を平気で行えるのですね?」


 いつのまにか話は派生していき、近くにいたNPCはもちろん、他の女性プレイヤーまで話に加わり井戸端会議in噴水広場が開催された。


 段々と話が膨らむにつれて、鍛冶をしていたプレイヤーや勝手に露店を開いていたプレイヤー達は井戸端会議をしていた者人達から白い目で見られ始め、気の弱いプレイヤー達はそそくさと荷物をまとめて逃げ出していた。


「くそ!ゲームなんだから良いじゃねえかよ!」


 何人かのプレイヤーはこちらへ歩み寄ろうとしたが、数人の女性プレイヤーに囲まれるとこれまた怖気づいて逃げ出して行った。


「いやぁ、女性はおっかないいですねぇ」

 

 特に最初に話し始めた所にいた鍛冶プレイヤーなどは真っ先にこちらへ近寄って喧嘩を売り始めたので、赤ん坊を守るため近くの女性プレイヤー達に声をかけて『O・HA・NA・SHI!』してもらった。


 ログイン初日みたいな騒ぎはしたくはなかったのだが、あまりに話を拡大しすぎた感がある。


 ここらで収束を図るべきだろうか。


 何気にクエストもクリア扱いになっているし。


 『街の問題を解決しよう』 

クリア!

3.噴水広場で住民が困っている。話を聞いて悩みを解決してみよう

報酬:広場利用許可証


 いいのかな?会話しただけなんだけど……。


 広場利用許可証は説明を読んだ限りは噴水広場の一角で商売を行う事ができるようになる許可証のようだ。


 広場で屋台をやっている商人系のプレイヤー達は皆これを使っているのだろう。


 そして逃げ出したプレイヤー達はこのクエストを無視しているのだろうな。


「ところですいません。鍛冶の道具を持っているのですが鍛冶場に行っても鉄を打った事がないプレイヤーは利用できないみたいなんです。どこかでそういった作業に適している場所はありませんか?」


 女性プレイヤー達と共に赤ん坊をあやしていた最初に話しかけた女性NPCになにか知らないか聞くと、どうやら案内してくれるらしい。


 みんなにかわいがられていた赤ん坊を受け取り共についていくと、向かった場所は鍛冶場の前。


 赤ん坊を抱いたまま門の近くまで行くと最初に鍛冶場で押し問答していたドワーフっぽい男性NPCが出てきた。


 男性NPCは自身より背の低い女性NPCを見ると慌てた顔で奥へと引っ込む。


 なにやら大声で「おやかた~!」と叫んでいるようだ。


 やがて奥から先ほどの男よりも我体の良いおっさんが出てきて女性の前に立ちふさがった。


 おいおい。身長差があり過ぎるだろう。美女と野獣ってこういうのを指すんだろうな。


「あなた」


「おう、どうしたこんな昼間に?」


 あなたって!この人旦那かよ!?


 赤ん坊を男に渡しながら女性は要件を告げる。


「先ほど噴水広場で違法に鍛冶作業を行っている者がおりました。専用の作業場所以外で鍛冶を行うのは『携帯鍛冶場』を使用していない限りは犯罪だという事を理解していない者の様です。他にも同じ場所で無許可で商売を行う者もおり広場が荒れています。外から来た者達の無知のひどさは目に余りますので、街の代表者の一人として次の議題で対策をお願いします」


 どうやらこのおっさんは鍛冶場の偉い人のようだ。


 そしてこの女性『かなりおっかない』


 言葉の節々に棘があり、非難している上に内容が正論。おっさんもその気迫が伝わっているのかタジタジだ。


「幸いにも今日はこちらの冒険者さんが取り成してくれて事なきを得ましたが、なんでも最初鍛冶場を利用したくてこちらへ来たら追い返されたとか?初心者でも利用料金さえ払えば初心者でも貸して差し上げられる施設のはずでしたわよね?」


 えっ?そうなの?なんで俺駄目だったんだろう?


「もちろん今でもそうだ。ちょっと待て?その男は鍛冶の道具はもってたのか?携帯炉と携帯鍛冶場をもっていればどこでも最低限の鍛冶はできるだろ?」


「すみません。正確には携帯炉は持っていたのですがその携帯鍛冶場がなくてこちらに伺ったのです」


 横から口をはさみ、事情を説明(多少の嘘を含む)する。


 実際は携帯炉の説明見てなかったし。


「そういうことか。それはすまなかったな。携帯炉と携帯鍛冶場は基本セットのアイテムなんだが、たまに携帯炉だけあればいいと考えている奴がいてな」


 あの駄女神!必要なアイテム入れてないとか!?


「神殿で職業を決めてもらった際に女神から与えられたアイテムに入っていなかったのでそういうモノが必要ないのだと思ってました」


 サキトの言葉に二人は顔を見合わせてため息をついた。


「最近女神様達もお前達の対処で忙しいのかそういった報告が神殿関係者から多く寄せられているのは知っていたが、こうなると一度神殿関係者とも話し合いが必要か…」


 おっさんは頭を掻きながら思案顔になる。


「それよりもあなた。こちらの冒険者さんに鍛冶場の利用許可を与えてくれないのかしら?」


 女性の言葉にようやく思い出したのかおっさんは赤ん坊を女性に返すと俺の方へ向き直り深く謝罪をしてくれた。


「そうだな。すまなかった。事情も知らずに追い返したりして。対応したのがだれかは知らんが後で全員に再度良い含めておく。今回に限っては設備の使用に必要な代金は徴収しない。家内も坊も世話になったみたいだし謝罪とお詫びだ」


 そう告げておっさんは更に部屋の隅の袋を取り上げてこちらへよこしてきた。


「ちと数は少ないが鍛冶をするうえで不必要なクズ鉄だ。ここの設備で再度精錬すれば純度は低いが鉄が獲れる。鍛冶の練習にでも役立ててくれ」


 もらった袋を鑑定すれば


『クズ鉄×99』

 鍛冶を行った際に出た鉄の屑。そのままでは使えないが精錬し直せば鉄が手に入る。



 タクから貰った素材の他にも鍛冶素材が手に入ったのは嬉しいな。


「ありがとう。俺はサキト。たまに施設を利用するからその時はよろしく頼む」


 クズ鉄をインベントリに収納しておっさんと握手を交わす。


「奥さんもありがとうございます。おかげで鍛冶場が利用できます」


 奥さんとも握手を交わして母にしがみついていた赤ん坊とも握手をする。


「それではまた。なにかあったら主人でも私でも相談に乗りますから気軽に話して下さいな」


 そう言って女性は赤ん坊を抱きながら街の中へと消えていった。


 そして現れたクエスト達成の表記。


 今回は何のクエストにも絡んでなかったはずだけど?


 表示されたクエスト名を眼で追って驚き再度見直してしまった。


『EXクエスト:鍛冶場の仲良し夫婦』

 母子が広場で困っている。話を聞いて問題を解決し、街の平和に貢献しよう。

※クエスト完了時の住人との親密度によって報酬に変化有り。

 クリア報酬:中級携帯鍛冶場、鍛冶師の上級鎚


『中級携帯鍛冶場』(譲渡不可)

 EXクエスト報酬 鍛冶場での問題を解決したお礼の品。通常の携帯鍛冶場よりも小型だが遮音性、通気性に優れた逸品。この鍛冶場で作られたアイテムにはランダムで効果が付与されるようになる。

※装備者の技量により付与成功率変動。スキル未所持者が使用しても付与効果なし


『鍛冶師の上級鎚』

装備条件:STR20

攻撃力:+40

 上級職の鍛冶師が振るう金鎚。鍛冶の他武器としてもその見た目に違わぬ威力を発揮してくれる。

※鍛冶で使用すると付与効果確立上昇(大)


 再びのEXクエストか!なんか遭遇率最初の街にしては多くないか!?


 しかも報酬のアイテムはかなり良い物ではないのですか!?


 おっさんに見えない所で小さくガッツポーズをしてしまった。


 しかし中級携帯鍛冶場は使用できるが上級鎚はいまのSTRでは使用条件を満たしていない。


 はやくレベルを上げてSTRに振らなくては!


 とりあえず鍛冶場を利用できるようになったのだし、ここはもろもろ置いといて鍛冶に集中するとしますか?






お久です!


ようやくPCに少し触れました。


不定期で申し訳ありませんが今後ともお付き合いください!

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