第11話 調合と錬金
えっ?リンナってプレイヤーだったの!?←今ここ
リンナをなだめすかしてようやく人心地ついた頃。親方に鍛冶や調合を行う場所があるかを尋ねたところ、冒険者ギルドに隣接している建物が『鍛冶場』、『調合所』と呼ばれる建物だという。
生産拠点になりそうな場所は密集させておくことで方々歩きまわる労力を減らし、必要なモノを融通するのにも向いているのだという。
「解体したモンスターの素材も売る場所で値段の変動があるからなるべく高い店で売るのが大事だぞ」
どうやら売買にも一癖ありそうな予感がする。
親方の説明の後に新規にクエストが発生した事でもそれが解る。
『鍛冶をしてみよう』
始まりの町にある鍛冶場で鍛冶をしてみよう。鉄は熱いうちに打て!0/3
※鍛冶の成功、失敗にかかわらず規定回数をこなせば成功
報酬:鍛冶スキル、鍛冶鎚、鉄鉱石
『調合をしてみよう』
始まりの町にある調合所で調合をしてみよう。0/3
※調合の成功、失敗にかかわらず規定回数をこなせば成功
報酬:調合スキル、錬金スキル、初級錬成炉、
生産系スキルとそれにかかわるアイテムの報酬は素晴らしく魅力的だな。
タクとその知り合いから素材を大量に貰っているからこのクエストはすぐにでも始めたいところだ。
「じゃあ早速行ってみるとするか。親方、リンナ。また獲物が手に入ったら解体依頼するから」
手を振りながらサキトは解体所を後にした。
「リンナ。お前さんもたまには外に出て身体を動かしてきても良いんだぞ?解体師は解体でもレベルが上がるようになるが戦闘経験は積んでおいたほうが良い。モンスターの動きや行動で解体する時の手順や効率が上がったりもするからな。」
服の皺や癖と同じで片がつけばそこが解体する時にナイフが入りやすくなるそうだ。
「ふぇ~。今度サキトさんか一緒にやってる友達にでも声かけてみますぅ」
外でモンスターと戦うのを想像したのか情けない声を上げつつもやる気を見せるリンナに親方は笑いながら「じゃあ他に客もいないし少しばかり戦闘の基礎を教えてやろう!」とリンナを引きずり冒険者ギルドの訓練場を目指して歩きだすのだった。
隆一は冒険者ギルドの隣にある草とフラスコが描かれた看板を見て調合所だと判断して中へと入る。
中へ入ると青臭い匂いとわずかに漂う病院の様な香りに「再現度高いなやっぱり」と人知れず呟いた。
「いらっしゃいませ!調合所兼薬師ギルドへようこそ!今回は登録ですか?それとも調合部屋のレンタルですか?」
受付のお姉さん?は狐耳の獣人さんであった。しかもプレイヤーさんだ。
リンナの失敗もあったので試しに聞いてみたら教えてくれた。
名前はターニャさんというらしい。
その話をすると「あぁ、たまにありますよね?このゲームの出来が良すぎて見分けがつかないんですよね(笑)」と賛同してくれた。
ちなみに狐耳は種族特性の『聴覚強化』というスキルの時のみ稼働するようで基本はアクセサリの様なものらしい。
さすがに人間にない器官を使用可能にしたらノーベル賞ものだ。
しかし通常の耳とは感覚がリンクされているようで、触られると普通の耳のように感覚は感じるそうだ。
試しにモフりたいと言ってみたらハラスメントコードになりますよって言われてしまった。
Yes ケモ耳 No タッチだな!
話が逸れたが、調合所がなんなのかも解らなかったので最初から説明してもらう。
登録とは自分が作成したアイテムを商品として登録するか。
仮に同型品ができた場合は先に登録されていた方が特許が取れる。
無限の組み合わせが存在するそうで、同型品以外の登録で弾かれた人はほとんどいないらしい。
ほとんどというのは、唯一の例外で転売ヤーが店売り品を登録しようとして弾かれて牢に入れられたくらいだそうだ。
どこの世界にもいるもんなんだな。
鑑定スキルが高い人はアイテムに誰が作成したものなのかが表示されるらしい。俺の鑑定では未だに出てこないのでもっとレベルを上げる必要があるみたいだ。
調合部屋というのはその名の通り調合器材が予め備え付けてある部屋であり、これも調合や錬金術のスキルがあればより良い設備レンタルできるそうだ。
スキルを持ってない俺は最低限の設備がある部屋をレンタルする。
部屋の中には調合に使う鍋やコンロ、すりこぎなどそれらしい調合器具が置かれている。
俺はインベントリから一つのアイテムを取り出し使用する。
アイテム名は『駆け出し生産者の心得初級編(本)』。職業を選択した後に貰えたアイテムのうちの一つだ。
本と言う事で使用するといっても実体化させて内容を確認するだけなのだが、どうやらこのアイテムは初級編らしく調合・錬金術・鍛冶・木工といった生産系アイテムの成功率アップと初級で作れるアイテムのレシピ集のようだ。
今回は調合と言う事で本の中にあった回復薬であるポーションを作成しようと思う。
材料は薬草と水、魔石の粉末らしい。
魔石の粉末はどんな魔石でも良いのですりこぎで細かく砕いた粉末。これは調合ギルドの受け付けも販売していたな。
今回はもったいないが手持ちのゴブリンの魔石を使用してみよう。
手持ちの魔石をすりこぎに入れて棒で叩くと割と簡単に砕けた。
手に持った感触は固かったが、やはり調合アイテムだからだろうか?
深く気にせずに塊が出ないように細かく砕いていく。
砂状になったら次は薬草を細かくみじん切りにする。
この時根元の所まで綺麗にみじん切りにするのを忘れずに。
そうして細かくなった薬草を魔石を混ぜて沸騰させた水の中へと流し込みある程度煮詰まるまで混ぜ合わせる。
最初は草からにじみ出たような緑色の液体だったが、煮詰まるにつれて薬草の繊維や色が消え、綺麗な青色の液体へと変わって来た。
その時点で火からおろして濡らした布巾の上に鍋を下ろして荒熱を取る。
大体熱が冷めたらポーション用の小瓶へ移し替えて栓をすれば完成となる。
出来上がったアイテムがこれだ。
『ポーション』 プレイヤーメイド品:作成者サキト
飲むか傷口にかけるかして使用。飲んだ方が回復量は多いが味は美味しくない。濃度によって回復量の上限が変わる。知識のない者が見よう見まねで作成した物のため効果は一般のモノよりも低くかなり苦い。
基礎値:HP回復量15
ちなみに冒険者ギルドや調合所で売られている店売り品はこれだ。
『ポーション』
飲むか傷口にかけるかして使用。飲んだ方が回復量は多いが味は美味しくない。濃度によって回復量の上限が変わる。
基礎値:HP回復量30
回復量が半分しかないし、おいしくない上に苦いときたものだ。
身体にかければ良いだけだがなるべくならもうちょっとだけでも質の良いアイテムが作りたい。
貰った薬草などのアイテムは大分残っているし、魔石は一つ砕けばゴブリン程度の魔石でも20回分は確保できるようだ。
実際に砕いた後の魔石がこれだ。
『ゴブリンの魔石の粉末』
ゴブリンから稀に取れる魔石を粉末化したもの。魔石は様々な用途に使用でき主に粉末は調合や錬金術の触媒として用いられる。魔石の濃度によって完成品の品質に差が出る。
これだけ見るとゴブリンからとれる魔石以外でもレベルの高いモンスターの魔石ならより良い物が作成できるのではないだろうか?
それにポーションの濃度でも回復量に差が生まれるのなら色々と作成に幅が生まれるという事だ。これは好奇心を刺激されるな。
その後も色々とゴリゴリ作成していたら3回目の調合終わりにクエスト達成となり『調合』と『錬金』スキルが手に入った。
しかし誤算だったのが回復量の違うアイテムは違う種類のアイテムとして認識されているようですぐにインベントリが埋まってしまい、手持ちの材料が尽きるまでに何度かアイテムボックスを使用するため外に出る羽目になった。
ちなみに『調合をしてみようを』クリアしたのがトリガーなのか新たに『錬金をしてみよう』というクエストが現れた。
『調合をしてみよう』 クリア!
始まりの町にある調合所で調合をしてみよう。3/3
※調合の成功、失敗にかかわらず規定回数をこなせば成功
報酬:調合スキル、錬金スキル、初級錬成炉、
『錬金をしてみよう』 NEW!
始まりの町にある調合所で錬金をしてみよう。0/3
※調合の成功、失敗にかかわらず規定回数をこなせば成功
報酬:スキルポイント+5、錬金レシピ
報酬の錬金レシピがすごい気になる!
どうやら借りていた調合部屋で錬金も可能だと聞いたので初級錬成炉をインベントリから取り出してみる。
出てきたのはA4用紙ぐらいの小さな紙2枚と、A3サイズの少し大きな紙が1枚の計3枚。
いずれも魔方陣が描かれていていかにも錬金術っぽい。
アイテムを取り出し並べると視界に始めて錬金を使用する人用のガイドが現れた。
「えっと。小さな魔方陣が描かれた紙を大きな紙を挟むように並べます。んで次に錬金したいアイテムをインベントリから選択し左右の魔方陣の上に置くと」
ガイドに沿って紙を並べ、インベントリから作りたてのポーション(失敗作)を2つ取り出して紙の上に置く。
「んでアイテムを置いたらその上に手を当ててMPを注ぎつつスキルを使用する。こうか?『錬金』!」
スキルの使用は声に出すか頭で念じれば良いらしいが、なんとなく錬金って叫びたかった。スキルの発動を検知して使用するMPが出てきたな。別に初回だからそんなに込める必要もないだろうとMPの消費を1にしてスキルを発動。そういえば両手をパンッ!て合わせるのを忘れてたな。
直後真ん中の魔方陣が光りだして左右のポーションが消える。
一瞬の後真ん中の魔方陣が強く光りだすと、次いで現れたのは『ボンッ!』という爆発音と共にはじけ飛ぶ何かとそれに巻き込まれた俺。
「ゲホ!ゲホ!くそ失敗か!? 爆発オチってどこぞのコントじゃあるまいし!」
ファンタジーなのに失敗はコメディーかよ!
煙が晴れてはじけ飛んだ何かを取り上げてみればそれは正に暗黒物質とでも呼ぶべき黒い何か。
思わず鑑定をしてみる。
『暗黒物質』
錬金により生まれたなにか良く分からない物。ある意味錬金という分野で言うならば成功か?はたまた失敗か?とりたてて価値のある物でもなく、正直ゴミと呼ぶのもおこがましい異形の業。使用用途は君次第!
価値:プライスレス!
ジョークアイテムの様な物だな。
失敗は成功の母だか父だか親戚だかとも言うし、後2回でクエスト自体は達成できるのだからあまり気にせず行こう。
アイテムがもったいないので錬金でできた暗黒物質はそのまま小さな魔方陣の片側に設置。
もう片方に再び効果の低いポーションを設置して今度はMP消費を5に設定して錬金を発動。
再び光る魔方陣。そして爆発!
くそ!なんか楽しいのが悔しい!
再びできた暗黒物質を片側に設置して再度ポーションを設置だ!
今度は出し惜しみなしで全MPを注ぎ込む!
「逝くぜ!錬金!」
今度は気合充分に両の掌をパン!と合わせて左右の紙の上に置く。
先ほどまでとは違う強烈な光に「成功か!?」と一瞬思った。
直後の安定の爆発。
思わず畜生と叫んでしまった俺を誰が攻めようか?
しかし個室でよかった。わりと爆発の勢いがすごくて吹っ飛ばされたからな。
込めたMPで失敗時の爆発の威力が変わるのだろうか?
「クエストはとりあえずクリア扱いだな。これでまともなレシピが作れるようになればいいんだが……」
爆発で寝ころんだままクエストクリアのウインドウを見て呟く。
「あぁ、やっぱり最初は薬草や水とかで調合とは別パターンでのポーション作りをやるべきだったか」
手に入ったレシピにはポーションの作り方が載っていた。効果は調合よりも少し低いが、大量生産には向いているらしい。
薬草は先ほど調合で全部使い切ったのでしょうがないと言えばしょうがない。
とりあえず調合と錬金は終わったし、次は鍛冶に行ってみるか?
起き上がって初級錬成炉を片づけようと起き上がった時、机の上に見慣れない塊が置かれているのに気が付いた。
「なんぞこれ?」
手にとって鑑定してみる。
『暗黒鉱石』
錬金により生まれたなにか良く分からない物。ある意味錬金という分野で言うならば成功か?はたまた失敗か?幾多の暗黒物質を圧縮した結果生まれた偶然の産物。元は何か別の物質だったものが超変異して鉱石へと転じたもの。残念ながら賢者の石ではないようだ。
価値:プライスレス!
黒い塊がなんか鉱石になっている。
鍛冶で使えるのかな?てか元は草で鉱石になる要素なんて入れてあった瓶ぐらいなんだが……。
まぁ面白い物が最後に作れたしこれはこれで次の鍛冶で使ってみよう。
ちなみに、帰りに受付のターニャさんに外に何度か出て行った経緯を聞かれて答えたら「あの部屋には自分のアイテムボックスへ繋がるボックスが設置されていますよ」と言われてしまった。
わざわざ宿屋へダッシュ使用してまで往復していた俺って……。
思わずorzな俺を見てターニャさんは笑っていた。
「まぁまぁ気を落とさずに。錬金もされてたんですよね?3回ほど爆発音が聞こえてきましたから」
ターニャさんの言葉に音が漏れてたのかと聞いてみた。
「はい。割とこの施設防音しっかりしてないんですよね。結構いるんですよ。何かの影響なのか錬金する人ってなぜか両手を合わせて錬金!って叫ぶんです。あれ?サキトさんどうしました?」
やめて!俺のライフはもうゼロよ!
両手で顔を覆って恥ずかしがる俺を見てターニャさんはひとしきり笑うと、こちらへフレンドカードを送って来た。
「次からは何か解らなければ質問してください。解る範囲でよければ教えますから」
親切な子やターニャさん!
気を取り直して次は鍛冶場へ足を運ぶサキトであった。
「ホントに変わったプレイヤーねぇ?」
サキトが立ち去った後の調合所の受付でターニャは呟く。
戦闘狂でない限りは店売り品でほとんどのプレイヤーが満足するためにあまり生産職は人気がない。
今回のアプデで不遇職の改善措置が取られたらしいがそれでも効果が出始めるのはもう少し後だろう。
ターニャはサキトが始めてログインした日にたまたま噴水広場で休憩していたので、あの騒動の現場を実は直接目にしていた。
相手は最近メンバーが増え始めた攻略組気取りの若人プレイヤーで、ひそかに絡まれていた女性プレイヤーを助けるべく動こうとしていたのだが、彼のレベル差を覆すプレイスタイルに魅かれてしまい、結局二人を助ける機会を逃してしまった。
それほどの強烈な彼のせいでその後、その時の光景を思い出しながらあの時サキトの言っていた制限を外すという行為を思い出し、設定で外すことができるチェック項目を全て外してしまったほどに。
2度と戻せないと躊躇したのは一瞬で、外した後は世界が変わってしまった。
全ての感覚が変わってしまい、実をいうと未だにこの世界の雰囲気になじめずにいる。
幸いに職業が商売人だったため、職業レベルを上げるためのギルドの仕事で動き回る事が少ないため事なきを得ているが、彼はログイン時からこの感覚だったのかと思うと余計に興味がわいてしまった。
「次はいつ来るのかしら?」
戦闘はまだ行っていないが、レベル自体はある程度上がっているため始まりの町周辺のモンスターではやられることはないだろう。
近いうちに戦闘の感触を確かめて彼とパーティーを組むのも悪くないかもしれない。
ターニャはまだ見ぬその日を思ってクスクスと一人笑っていた。
―――――――――ステータス―――――――――
名前:サキト 性別:男
種族:魂人種 Lv:12 スキルポイント:25→30→26(調合、錬金スキル取得)
HP(体力):31 MP(魔力):37
STR(力):12(+29)
MND(精神力):23(+0)
DEF(防御力):11(+14)
AGL(敏捷):11(+7)
HIT(集中力):11(+3)
LUK(運):10(+2)
スキル
『スキル補正EX』『鑑定』『クイック』『投擲』
『剛腕』『ダッシュ』『スナッチ』『錬金』『調合』(控え『解体術』)
所持金¥24000
装備
頭:黒銀の鉢金
胴:白兎の皮鎧
腕:白兎の皮篭手
腰:白蛇の皮帯
足:白魚の鱗靴
武器
右手:太刀魚のレイピア
サブ1:黒金の大剣
サブ2:紅竹槍
左手:黒金のククリ刀
サブ1:紅竹弓
サブ2:鎖鎌
装飾品
首:狼牙のペンダント
マント:白兎のケープ
指:鷹の眼の指輪
指:大鷲の指輪
指:銀狼の契約指輪
新規取得アイテム
ポーション(回復量バラバラ)×20
暗黒鉱石×1
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みなさんおはこんちわです~。
相変わらず不定期更新で申し訳ありません。
皆さまの変わらずのご愛顧を感謝しております。
次回もお楽しみに~!