あれから二週間後《鈴木Side》
王盛学園に入学してから二週間ほどたった。
入学式に前世(?)の記憶が戻ってから、徐々に・・・本当に徐々にだがギャルゲー以外の記憶を思い出していた。その度に甦った記憶の量に対して頭痛が起こるのがめんどくさかった。今はわかってるのは前世はこのゲームをやってた頃は30代ぐらいで、休日の時にギャルゲーをやってたぽいということぐらいだ。ロクな記憶じゃねー。
・・・とにかく、前世らしき記憶が甦った俺はあの日以降、本当にそうなのか、この記憶は確かなのかを確認して回ってる。といっても、特別なことはしていない。
ゲームにあった場所や部活などを積極的に回ってみた。本当にゲーム通りの場所にそのクラブはあるのか、ゲーム通りのクラブに攻略キャラはいるのか、と。
そこでわかったのが、この世界にはゲームと同じものとそうでないものがあるのだ。
理由はわからないが、ゲームではあった女子マネージャーがなくなったり、廃部寸前だった部に主人公以外の部員が入部してたりと微妙にゲームと仕様が違うのだ。
・・・いや、正確には理由については少しだが心当たりがある。
おそらく、この世界には前世の俺がやってたギャルゲーの世界だけではないのだ。
それがなにかはわからない。だがあの日、新入生歓迎会の時に聞いたのだ。
『なんだこれ・・・。ゲームにこんなのあったけ?』
この言葉を聞いたとき、俺以外の転生者がいる可能性を思い付いた。しかし考えてみれば、十分あり得たことである。さらに先程の台詞を鑑みるにこの転生者は俺とは違うゲームの世界だと思ってるんじゃないだろうか?
新入生歓迎会は俺がやってたギャルゲーの中ではかなり有名なイベントだ。スチルはかなりインパクトがあるしゲームの最序盤に起こるので、必ず一回以上はそれを見てるはずなのだ。見てないやつはモグリだ。
・・・とにかく、あんな印象的なイベントを知らないで俺と同じゲームの世界だと考えるのは正直難しい。そこで、さっき俺がいった『他のゲームの可能性』だ。これなら一応、筋は通る。そいつがどんなゲームの世界と思ってるのかは知らないが、おそらくうまくいかないだろう。なんせ、他にも知らないゲームが同じ学園で同じ時期に起こってるなんて普通は想像できないだろうし。
(俺だって、そいつの独り言が聞こえなかったらなんかおかしいぐらいで済ましてただろうな・・・)
今だって正直言って半信半疑だし。そもそも、本当にゲームの世界なのかが一番の疑問なんだよ。
まあそんなことは関係なく昨日、来年入学する予定の後輩キャラの一人が入部しようとして廃部になってるクラブ、『サバイバルゲーム部』に入ってみた。大した理由はない。
元からサバゲーに興味があったし、すでにもう一部はゲームと変わってるんだから、ちょっとぐらい手を加えても問題ないだろう。それに基本はやることないから好きに遊べるし。
・・・それよりも気になるのは他の転生者だ。俺は基本、傍観者を気取って少しは学園生活を楽しくしようとしてるだけだがもう一人がどうかは知らない。他のゲームはどんな内容なのか、そのゲームは俺に迷惑をかける内容なのか、そのゲームの知識をどう使うのか。それらはすべて未知数なのだ。
もっと言うなら、『俺と同じゲームの記憶を持つ他の転生者の可能性』も残ってる。俺が知ってるのは『違うゲーム記憶の保持者』だけだが、こちらだって十分可能性はある。そいつがもし、その記憶を使って悪用・・・、どうだろ?
正直俺がやってたゲームはあまり危険な要素の少ないほのぼの日常よりのゲームだ。例えこのゲームの知識を持ってたとしても悪用するの難しい気がする。一応、ヒロイン達の攻略方法は知ってるだろうからモテやすくなるかもしれないけど、ハーレムとか現実にできるのか?ゲーム時間は三年間とあるせいかそれなりに難しいらしく、先輩キャラの中には今年で卒業する人とかもいる。
もしかしたら二股ぐらいはするかもしれないが、それは当人同士の問題だ。俺には関係ない。結局・・・。
(俺が今やることと言えば、学園生活を楽しむぐらいだよなぁ)
記憶を持っていようとなかろうと俺は結局、名無しのモブなんだし。せいぜい主人公と仲良くなってイベントの近くにいても怪しまれないようにしよう。イベントの被害者も大体主人公だし。
あれから俺は主人公の木下と友人役の小手川、そしてルームメイトの早観と仲良くなった。三人とも俺の前の席だから、話しかけるのは簡単だった。
自然と俺を含めた四人で行動することが多くなった。
「なあなあお前ら、どこの部活に入んの?」
「剣道部と園芸部」
「サバゲ部」
「学級委員だから別に・・・」
「暗っ!おまえらせっかくの青春にそんな地味な部活に入ってどうすんだよ!」
「いや、別によくないか?」
現在は昼休み。俺たちは昼食を取りながら世間話に花を咲かす。
いきなり話題を降ってきたのは小手川勇気だ。主人公の悪役兼情報提供キャラでゲームではお世話になった。
性格は明るくお調子者だが、いざというとき義に厚い行動をする良キャラとして結構好かれてた気がする。
「サバゲ部って基本なにもやってないから好きに遊べそうでさ」
「元から俺は剣道と園芸が趣味だ」
「だとしてももっとこう、あるだろ!これぞ青春って感じのやつがさあ!」
「人それぞれだろ。それをいったら木下なんて学級委員に選ばれたからって部活に入る気ゼロだぞ」
「え、そんなことを言われても・・・」
「そうだよ、おまえなにやってんだよ!学級委員だからって部活やっちゃいけない訳じゃねえのによ~。なにやってんだよ~」
そう、主人公君はゲーム通りに学級委員に選ばれたあと、部活にも入ることができるはずなのにしそうな気配がない。何でかはわからないが、この調子でいくと一番好感度が上がりやすいのは来年生徒会長となるキャラだな。
「しっかし、じゃあ俺どこ入ろうかな~」
「・・・まだ決めてなかったのか」
「いやそれがさぁ、最初はかわいい女子マネのいるところに入ろうと思ったんだけどさぁ」
「ああ、今年からマネージャー制度は廃止なんだっけ?」
何でも去年、どこかの部が女子マネにセクハラをして廃部になり、その流れで他の部活もマネージャーを募集するのをやめたらしい。昨日、うちのクラスの女子と女の先生がそう話してたのが聞こえた。
「そ。おかげで部活への熱意ってやつが一気に萎んじゃってさぁ」
「・・・そんなに女子が重要なの?」
「重要だろ?むしろ学生生活は女子との交流以外すべておまけだ」
「・・・ここまではっきり言われると尊敬の念を抱いてしまいそうだ」
「いいんじゃねーの?ウラオモテが激しいよりずっとマシだと思うぜ」
「いいのかなぁ・・・」
しかし、こういうところは変わらないな。主人公は草食系だし友人は女好きだしで、性格とかは今のところ変化してる感じはしない。
他のキャラもそうだ。
立ち位置や状況に多少の変化は見られるが、主人公に強制イベントは起こってるしある程度だが行動はゲームと同じ感じだ。
少なくともゲームと性格が違うなんてことは今のところはない。
だとしたら、気になるのは早観の方だ。
こいつはギャルゲーには出なかったキャラのはずなのに、見てくれが整いすぎている。
たとえ男でもゲームに出ていたなら納得できるのだが、そうでないならこいつが『違うゲームのキャラ』かもしれない。だからなんだというものだが、気になるものは気になる。
ま、事件なんて起こらなければ、それで良いのだけれど。
「おまえら好き勝手言ってけどよ、俺だけじゃないんだぜ嘆いているやつ。この間も陸上部に入ったやつが去年まで女子マネがいたって聞いて嘆いてるの俺見たし」
「ああそれ俺も見てたけど、すごかったな。きれいに膝から崩れ落ちてた」
「・・・小手川みたいなやつが他にもいるのだな」
「男はみんな俺みたいなやつばっかりだぜ」
「・・・どっから出てくるの、その自信?」
なんて名前だっけな、あいつ。同じ一年のたしか・・・、田中とかなんかそんな感じのやつ。
まあいいや。今後ともそいつとは関わりがあるとは思えないし。
そう思ってたやつとあんな形で関わるとは、このとき思いもしなかった。