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ショッピングモールでのGW《遠藤Side》

 この学園の教師となって一ヶ月ぐらいたった。

 その間、大きな事件などなく私の教師生活は順調と言ってよい感じである。

 少なくとも自分が教えてるクラスの生徒の名前はたぶん全員覚えたし、校舎内の施設の場所もほとんど覚えたはずだ。

 そんなことより今日はゴールデンウィークである。去年まではただの休日だったのだが、教師になるとそうはいかない。


 GWでも学校に用があるやつのために、教師も出勤しなければならないのだ。

 少なくとも運動部はかなりの数が活動してるし、文芸部でも活動しているやつはいる。

 とはいえ新米教師の私はなんの部活の顧問にはなってないのだが、それでも急な客人に対応するための人員として休日出勤したのだ。今日は誰も来なかったけど。

 一見いいことかもしれないけど、他の方々が仕事がある中、一人だけボーッと座ってるのは居心地が悪くてしかたがない。かといって手伝えることってあまりないし。


 で、そんな苦行を終えて今はいつもより早い帰宅時間、私はペットの消耗品の補充をするため、ショッピングモールに来ていた。

 この消耗品の補充に関しては学校の経理の方に領収書を出せば全額支払ってもらえるそうなので遠慮なく買わせてもらう。

 相場はわからないが必要だと思うものは買えるだけ買い、帰ろうとする私の耳に謎の喧騒が聞こえてきた。

 何が起こったのかと野次馬根性を出した私は、そちらに向かって歩き出した。








 歩き始めて数分。そこはいわゆる普通のゲーセンなのだが、理由不明の人だかりができていた。

 あまりゲーセンには詳しくないが、私の想像通りならこんなことにならないと思うのだが。

 なぜこんなところに?と、思って見てると周りの声が聞こえてきた。


「なになに?なんの集まり?」

「いや、よくわかんないんだけどさぁ。なんか、喧嘩があったらしいよ?」

「えー!て、そんなことでこんなに集まったの?」

「いやそれがさ、なんか喧嘩は喧嘩らしいけど、なんか普通とは違うらしいよ」

「なにそれー?」


 ほんとになにそれー?もうちょっとわかりやすく言えよ。

 とりあえず私にとっては大した話じゃない、むしろまるっきり無関係だということはわかった。帰るか。

 そう思い至った私は踵を返そうとしたが、そこでさらに新たな情報が耳に入った。


「なんか近くの私立の学校の女子生徒と近くの男の大学生が喧嘩になって、女子の方が勝ったらしいよ?」

「えー、そんなことあるー?」


 おい待て。その女子生徒、うちの学校の生徒じゃないよな。近所の私立生とか他にもあるはずだよな。


「たしか、私立とかここら辺ならあの王盛とかしかなかったはずだけど」

「そ。しかもその女子、男相手に三対一で勝ったらしいよ」

「ウソ!・・・え、で、どうしたの?」

「さあ?店員にどっか連れてかれたらしいし、そのあとは知らねーけど?」


 ちくしょう、一気にうちの可能性が上がってしまった。

 ・・・まあ待て、私。もしそうだとしたら、すでにもう学校には連絡がいってるはず。

 私は改めて学校にこの事を報告して指示を仰ごうではないか。そう考えて、私は学校に連絡した。


「・・・もしもし、いきなりすいません。そちらに勤務している遠藤なんですが・・・」








「・・・わかりました。では」


 学校の方に連絡してみると、どうやらここで喧嘩したのはうちの生徒で間違いないらしい。

 そして近くにいるというと、話はついてるので私にその生徒を迎えに行けと指示された。 

 めんどくさいが仕方がない。

 そうしないと件の生徒が寮に帰す事ができないと言われ、私はさっきのゲーセンに向かった。


「すいません。ここで事件を起こしたという生徒の学校の関係者なのですが・・・」

「!ああ、すいません!わざわざ来ていただいて・・・」


 そんな感じで定型的なやり取りを終えたあと、うちの生徒がいるという事務室に通してもらった。

 事務室には簡素な事務机とパイプ椅子が数脚、それとうちの生徒と関係者らしき人間が数人いた。


「すいません。私、王盛学園から来た遠藤というものですが・・・」

「ああ、来ていただきましたか。・・・お早いですね?」

「丁度近くにいたので、今回は生徒の引き渡しだけで良いとの事なので私が来させていただきました」


 私が事の経緯を説明すると店側は理解したようで、それ以上は突っ込まないでくれた。


「えー、それでは一応事情は知っておられるでしょうから長々とした事はさておき、今回の非は向こうの大学生の方にあると結論になりましたが、それでも今後こんなことが起こらないよう、先生方の方からも色々と、その、お願いします」

「・・・はい、今回は失礼いたしました。今後はこのようなことにならないよう、注意します」


 そもそも事の始まりは、件の大学生が昼間から酒を飲んでいたのが原因らしい。

 羽目をはずして昼間から飲んでた学生どもはこのゲーセンでナンパを始め、その被害者がうちの生徒だ。

 最初は適当に流してたのそうだが、全く相手にされなくて大学生がうちの生徒・・・錆城に暴力を働こうとし、そのまま喧嘩に。

 状況が状況なので今回のことは大学生に非があると判断され、錆城の方には大したおとがめは無し。それでも喧嘩をした以上、反省文ぐらいは書かされると思うが。

 ていうかあれだな。酔っぱらってるとはいえ、男三人を一人で倒すとかこいつヤベーな。何かのスポーツ特待生だっけ?


「・・・話終わった?それじゃもう、帰っていい?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」


 隣で黙ってればいいのに、錆城が大分空気を読まない発言で周りが凍りついた。

 誰のせいでこんなことになってると思うんだ。いや、酔っぱらった大学生どもか。

 とはいえ、たしかにもう話は終わったのだから帰ってもいいのだが、その前に聞かなければならないことがある。


「・・・その格好でか、錆城?」

「え?・・・キャッ!」


 キャッ、ておまえ今更すぎるだろ。

 言ってなかったが、錆城は大分激しい喧嘩をしたのかTシャツだったであろう布はボロボロとなり、かなり際どい格好をしてたのだ。

 そんな格好で帰らすことは一教師として見逃すのはどうかと思い声をかけたのだが、気づいてなかったのか忘れたのか今になって顔を赤らめている。


「・・・とりあえず、私の上着を貸すから、これを羽織っておけ」

「・・・ありがとう、ございます」


 意外と素直に受けとるのだな。まぁ、こっちも無駄な抵抗されても困るんだが。

 その後、私は店の関係者にもう一度頭を下げ錆城と帰った。








「「・・・・・・・・・・・・」」


 錆城と一緒にタクシーに乗って学生寮の方に向かう。

 私のスーツの上着を貸したが、その格好で電車に乗せるのもあれかと思いタクシーに乗せた。

 ・・・それはともかく、実はお互い初対面だったりするので、結構気まずいのだ。

 なにか話すべきだろうか?でも。こんなときどんな話をしたらいいのだろうか?


「・・・あの、先生。質問いいっすか?」

「!ああ、なんだ?言ってみろ」


 気まずい空気に負けたのか、先に錆城が口を開いた。


「・・・先生はその、怒らないんですか?」

「?・・・なにをだ?」

「その、今回のこと・・・」

「ああ。・・・別におまえを叱ってもしょうがないだろ?」


 何をいってるんだか。話を聞いた限りだと、どう考えても錆城は被害者じゃないか。


「いやでもさ、前の学校の先生とかはこういうことがあった時、どう考えてもこっちが被害者だろって時も一緒に怒られたから・・・」

「それはそこの先生の方針だろ?大体、これはほとんど事故のようなものだ。それも向こうの方に問題があるから、おまえ一人の力だけではどうしようもないところがある。・・・個人的にも、おまえを叱るのは筋違いだと思うしな」


 個人的にはな?教師側としては面倒事を起こすな、というのが本音だから。

 多分、その前の教師も同じ理由でおまえを叱ったんだと思うぞ。


「まあ、どうしても注意するんだとしたら、もう少しうまい具合にあしらえるようにしろ、としか言えないな」

「・・・そうは言っても、ああいうのどうすればいいか分かんないし」


 そうだよね。分かんないよね、そういうの。

 私も大学卒業しても、うまいあしらい方とかわかんねーし。

 こう考えると、私の大学生活とかなんの意味があったの?とか思ってしまう。いや、大学出たお陰で教師になれたんだけどな。


「・・・先生はその、ナンパされたこととか、あるんすか?」

「・・・一応な」


 その質問、人によっては喧嘩を売ってるように聞こえるから、気を付けろよ?

 今回は錆城の顔を見るに、誰かに相談したいだけということが分かってるからいいけど。

 てかこいつ、ちゃんとこっちを見てなかったから微妙だったけど、ちゃんと美少女だな。この顔に『ナンパされたことある?』なんてイヤミかと思ってしまう。

 ちなみに私に返答だが、一応は嘘をついてない。といっても、一回だけだが。


「ど、どうしたんですか?」

「どう・・・て、少し話したあと、そいつは今度は他の女の方にいったぞ」

「え!ど、どんな感じでどうしたんですか!?」


 食いつくなよ、そんなこと。

 ていうか、ナンパされて困るなんて本当にあるんだな。こいつが例外なのかもしれないが。

 とはいえ・・・。


「・・・あまり参考にならんぞ」

「そ、それでもお願いします」


 それでもいいなら一応教えるが、果たしてあれは上手にあしらったと言えるのだろうか?

 そう疑問に思いながらも、とりあえず去年のあの時・・・人生初のナンパされたときのことを思い出す。









 去年の夏。私はバイトが終わり終電に乗るために足早に駅に向かってた。

 いつもはもう少し早いのだが、その日はバイト先でトラブルがあり残業を余儀なくされたのだ。

 そんな私に話しかける男が現れたのだ。


『おねーさん。もしかして、暇?』

『ちがいます』


 これが人生初のナンパである。

 しかし、この日の私はめんどくさい客が来たり、私が関係ないトラブルにより残業させられたり、自分を労おうとコンビニに買い物に行っても目当ての商品がなかったりと、イライラしていた。


『そ、そんなこと言わずに俺と遊ばない?』

『・・・・・・・・・・・・』


 それでも声をかけてくるナンパ男だが、私は無視した。だってめんどくさかったし。


『いや、ほんと時間とらせないから!美味しいところおごるから!ね、おねが『・・・おまえ、いい加減にしろよ?』・・・はい?』

『さっきからしつこいんだよ!わかんねーのか!』

『は、はい!すいません!』


 あまりにもしつこいナンパに私がついキレると相手の男は涙目になって謝ってきた。こんなことで泣くな。


『ていうか、やり方が間違ってんだよ!どう見ても急いで駅に向かってる人間に『暇?』って訊くんじゃねーよ!』

『は、はい!』


 そのまま、私が気がすむまで説教をした。

 そして言いたいことを言い終わると私はとある方向を指を指した。


『だからほれ、あっちだ』

『・・・?』


 私の指が指した方向には、何をするわけでもなく一人でうろうろしている女性がいた。


『ああいうのって、実はナンパ待ちだったりするから。変に回りくどいことしないでストレートにいけば、いけるんじゃないか?』

『え?ほ、本当すか!?ありがとうございます!』

『がんばれよ』

『行ってきます!!』


 そういうとナンパ男は私に笑顔でお礼を言ってその女の子に向かって歩いていった。

 これが私の人生、最初で最後のナンパ体験だった。


 今思えば、なにやってんだろ、私。








「・・・というのが、私の体験談だ。参考に・・・なってないな」

「・・・あはは。すいません」


 そりゃそうだ。話してる途中で錆城の顔が困った顔をしているのを確認していた。

 たぶん私も他人にこの話をされたら困っただろうな。

 さっきのナンパされた話を簡単に説明したのだが、反応がよろしくない。そこに初めてナンパされたことも、それ以降されたことがないのも必要ないので言ってない。


「・・・まぁ、基本はそっけなく断れば大体は脈なしとして普通は諦めるから。今回のことは運が悪かったと思うしかないな」

「は、はい・・・」


 人生で一回しかされたことがないくせにそれっぽいアドバイスをしてしまう。先生だから生徒に見栄を張りたくなるのだ。仕方がない。


「そ、そういえば先生!たしか先生は近くにいたから来たっていってましたけど、やっぱ買い物に?」


 話を変えたいのか、錆城が話題を振ってくる。そういえば今日は他の用事があったのだ。


「ああ、猫の消耗品の補充をな」

「先生、猫飼ってんすか?」

「いや、生徒のだ」

「・・・へ?」


 このことを言う度に説明をしなければならないがめんどくさいな。かといって、私のペットです、なんて言えないし。


「・・・ということで、今は私が面倒を見ている」

「・・・先生、大変ですね」

「まあ、その事はなんとかなってる。・・・それよりも、着いたぞ」

「は、はい!」


 気づけば錆城の学生寮の前まで来ていた。ここで錆城を下ろしたあとに私の借りてるアパートの方に行くようにタクシーの運転手には言ってある。


「それじゃ、おやすみ。スーツはまた学校で渡してくれたらいいから」

「あ、あの、せんせい!・・・今日は、すいませんでした」

「・・・何度も言うが、気にするな。今回の件はお前が被害者なのだから」

「いや、でも、そのせいで先生に色々と迷惑かけちゃってるし・・・」


 こいつ、見た目のわりにウジウジとめんどくさいな。言わないけど。


「・・・錆城。お前、見た目不良っぽいのに真面目だな」

「・・・・・・へ?」

「私が良いと言ったのだ。それでもう良いだろ。あまり悩みすぎると、体に悪いぞ」

「・・・・・・はい。ありがとう、ございます」


 ようやく納得したか。

 その後、私と錆城はお互い挨拶をして帰った。

 ・・・少しは教師らしいことをできただろうか?



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