ショッピングモールでのGW《鈴木Side》
入学式から一月経った。
その間に変わったことは起こってない。強いて言うなら俺の前世知識が増えたぐらいだ。
といってもわかったことは俺の前世はフリーターだったぐらいだけど。
コンビニや工事現場の雑用、他にも探偵や警備員など、日雇いから長期のまで色々やってたらしい。
うん、そんなことを知って俺にどうしろと?どう考えても今世の役に立ちそうにないんだけど。せいぜい、フリーターの年収が悲しいことぐらいしか感想がでないぞ。
・・・まあいい。真面目に定職に就かないと大変なことになるということを実感できただけ将来の役に立つかもしれん。そういうことにしておこう。
そんなことよりも、今日から高校初のゴールデンウィークだ。一応、いつものメンバーで遊ぶ予定があるし、そっちの方がずっと大事だ。
学生寮から電車に乗って一駅で降りたら、歩いてすぐそこのショッピングモール。
ゴールデンウィーク真っ只中でやることのない俺はクラスメートと一緒に遊んでいた。
「しっかし、男四人がGWで女の子と遊ぶ予定がないって」
「言うな」
「まあ、全員地元から離れちゃってるしな」
「まるで地元なら女のツテがあるみたいな言い方だな」
「・・・お、俺にはなくてもお前らなら」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
「そこで黙んなよ!いやごめん、おれがわるかった」
ていうか今気づいたんだけど、ゲーム通りなら木下のやつ、本来ならチュートリアルとかでヒロインとデートとかしてるはずなのに、全然そんなことないな。
そんなこと考えながら遊んでいると、気づけば昼をとるにはいい時間となっていた。俺たちは近くのファミレスに入って昼食をとることに。
俺たちの入った店の中は昼時だからかそれなりの多くの客で賑わっていた。
注文を終え、料理が来るのを待ってる間みんなで駄弁る。話題はさっきと変わらず俺たちの女関係についてだ。
「しかし以外だよな。俺たちならともかく、早観まで女のツテがないなんて」
「ん、そうか?」
「そりゃ、早観ってイケメンじゃんか。女の方が放っておかないぐらいのさ」
「そう・・・なのか?」
「自覚ないのかよ。・・・で、実際どうなんだよ?本当にないわけ?」
「期待に添えられず悪いが、去年まで俺は私立の男子校に通っていた。女子との出会いなんてまずない」
「そもそも早観の近くの女なんて、俺たちも早観レベルじゃないと相手にされないだろうが」
「顔が良くて、運動神経良くて、成績優秀で、親が金持ちレベルか・・・」
「俺たち人として見てもらえるかなぁ・・・」
「さすがにそれは言い過ぎだろう。第一、俺の肩書きや見てくれに近寄ってくる女なんて、こっちから願い下げだ」
「うおお、きっぱり言いやがった」
「そうは言うけど、お前に紹介してもらうって時点で向こうは勝手に期待が上がっちまうんじゃねーの?」
「・・・勝手に期待させとけばいいだろう。それより、お前達はどうなんだ?」
なんだか早観がこの話の矛先を変えようとしている。とはいえ・・・。
「俺が紹介できる女なんて、俺の妹ぐらいしかいないぞ」
「あれ?鈴木って兄弟いたの?」
「ああ。妹が一人。最近受験とかであまり話せてなかったけどな」
そうなのだ。実は俺には血の繋がらない妹がいるのだが、思春期のあれこれで一緒の家にいるのにまともに会話をしてないのだ。
まぁ今は関係ないのでまた機会があったら。
「ま、俺の事はともかく、木下は?」
「いや、僕の方もあまり・・・」
「まあお前さんはどうみても草食系だしな」
「・・・そうしょくけい?」
「あれ、早観は知らない?女に対して消極的なやつを草食系っていうんだよ」
へー・・・、と感心した声を出す早観に周りが詳しく教え始める。そんな光景を見ながら俺はここ最近出た自分の答えを思い出す。
(・・・多分だけど、早観って他のゲームのキャラかもしれない)
なぜそんなことを思い付いたのか?
まず、見てくれが整いすぎてる。なんていうか、世間一般的なイケメンとは一線を画してるレベルの顔に、高身長で細身のマッチョで一見黒髪なんだけど光の当たり方では灰色に見えたりと、キャラが立ちすぎている。
それでありながら、実家は金持ちで成績は超優秀。本人の性格も天然で世間知らずなところもあるが、真面目で誠実で非の打ち所がない。それでありながらクールな見た目の問題か、はたまたほかにも理由があるのか今まで友達らしい友達がいなかったらしい。
普通に考えて、現実にこんなやついる?
実際は確かめようがないからわからないが、悪いやつではなさそうなので問題ないだろう。
問題は、他の転生者が早観に対して何かをしでかすかもしれない可能性だ。
(ま、迷惑をかけないでくれるなら別にいいけど)
「・・・ところでお前ら。俺に対して訊くことはないのか?」
「・・・?小手川はないんだろ?」
「ろくに確認もせず断言しやがったよ!そうだけど!そんな分かりやすいか、俺!」
「まあ・・・」「なんというか・・・」
「そんな気まずい感じでこっち見るのやめろよ!やめろ・・・。やめてください・・・」
そんな感じで談笑していると、木下が入り口付近に目を向け、何かに気づいた。
木下の目線の先を追っていくと、三人ぐらいの女子が入り口当たりで揉めていた。
「どうしたんだろ?」
「なんか席が満席とか聞こえたし、そこら辺で揉めてんじゃねーの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうした、早観?」
「いや、知り合いかもと思ったのだが・・・」
「そういやあれ、うちのクラスの鳳凰院じゃね?」
「マジで?あの典型的なお嬢様みたいな?」
件の女子達をよく見てみると、たしかに鳳凰院とその友人の女子二人だった。あともう一人は?
「へー。あ、それじゃ、折角だし俺たちのテーブルに呼んだら?なんか、早観の知り合いっぽいし」 「僕はいいよ」
「俺も問題なし!むしろ喜んで!いくぞ、早観」
「え!あ、ああ・・・」
そう言いながら木下と小手川、それに早観はすでに歩き始めてた。以外と行動力あるな、あいつら。
見ていると少し揉めてるような雰囲気があったが、その後なにもなかったかのようにこちらに向かってきた。
こちらに歩いてきてるのを見ながら気づいたことがあるのだが、斉藤や鳳凰院がまっすぐこちらを見ながら来てるの対して館川だけ辺りを見回してそしてある一転を見た後、こちらのほうを見た。
「わりいわりい、ちょっと話が長引いてな」
「気にするな。まだ料理は来てないぞ。・・・鳳凰院さん達も適当なところに座ってくれよ」
「こんちわ~。今日はよろしくね」「失礼」「いや~、ありがとね」
三人とも思い思いに挨拶をしながら好きなように座る。
全員座ったらまた店員を呼び出して追加の注文をして、ようやく一息ついた。・・・今ならいいかな?
「・・・なあ、気になることがあるんだけど、いいかな?」
「いいよ~。バンバン訊きなさ~い」
「それじゃ、遠慮なく。・・・今日は姫園さんはどうかしたの?」
「お?気になる気になる?もしかして、鈴木くんは魅歌が好みな感じ?」
「勘弁してくれよ。いつも四人でいるのを見てたから、いないと気になってさ」
「はいはい、わかったわかった。魅歌は今日はね、デート中なんだ~」
「「「デート」」」
ハモるな男ども。今時、恋人がいるならGWにデートするぐらい当然だろう。
「マジかよ。高校入ってすぐに恋人いるとかそいつなにもんだよ?」「俺たちとは住む世界が違うな」「なんか、同い年の話とは思えないね」
「?どうかしたの、みんな?」
「いや、ちょっと、な。・・・それじゃ、みんなはここには遊びに?」
「え?・・・あー、うん、その・・・」
話を逸らそうとこちらから質問をすると、なんだか言いにくそうに館川が言葉を濁し始めた。
すると、さっきまで我関せずとしていた鳳凰院が口を開いた。
「ええ、今日はみんなでここでショッピングしながら回ろうかと」
「え!・・・う、うん!そうそう、そんなかんじ!」
「そ、それよりも!鈴木くんたちは今日はどうしたのかな?」
「斉藤さんたちと同じ感じでね。遊びながらここら辺の地理を知ろうかなって」
斉藤たちがかなり怪しい感じで話を変えようとする。
まあただの世間話として話を振っただけなので追求はしないでおこう。
そう考えてると小手川がだったら・・・、とこんな提案をしてきた。
「せっかくだし、一緒に回らね?ほら、どうせならたくさんのメンバーで動いたほうがたの「それはだめ!」・・・え?」
「あ、いや、ダメっていうか~その・・・」
そういいながら、館川の目線が宙を漂う。この反応、あきらかになにか隠してる。
思い返せば、こいつらは最初っから怪しい所があった。館川だけなにかを探すかのように目線を動かしまくってたし、席についてからも斉藤は俺たちの後ろの方に視線がいってるし、鳳凰院もうまく隠してるが視線がたまに違うところにいってる。
鳳凰院の方は落ち着いてるが、館川も斉藤もいつもと違って挙動不審だ。
俺が考えるに、こいつらはなにか理由があってここに食事を取りに来たのだ。
それはここにはいない姫園が関係してるのかわからない。だがもし、関係してるのだとしたら・・・。
・・・だけどそんなことは俺にとっては知ったことじゃないのだ。
「・・・フラれたな、小手川」
「え!今のそういうこと!?ウソ!?」
「残念だが・・・」「まぁ、こういうこともあるって・・・」
「やめろ!ていうかの今のそういうのじゃないから!ただのクラスメートとして・・・」
「わるいね、館川さん。小手川も別に悪気があった訳じゃ・・・」
「お願い聞いて!だから違うんだって!」
知るかそんな事。おまえの発言で変な空気になったんだから、おまえが犠牲になれ。
正直どうでもいいんだよ、真実への追求とか秘密の解明とか。別に悪いことをしてると決まってる訳じゃないし、無意味に訊く必要なんてないだろ。適当に誤魔化しとけばいいだろ。
「申し訳ありません。午後はみんな予定がありましてね」
「ほら!鳳凰院もこう言ってることだしさ!別に俺が嫌われてるからナンパに失敗したとかそういうのじゃないから!」
「すまないね、鳳凰院さん。気を使わせたみたいd「だからやめろぉ!」
さっきまでの微妙な空気を無くそうと鳳凰院も協力してくれたお陰で、また元の空気に戻った気がする。
その後頼んでた料理がきたので、そのままこの話題はお流れとなった。
「・・・んじゃ悪いけど、ちょっとトイレ行ってくるから、先食っといて」
俺はそういうと席を離れ、トイレに向かう・・・振りをしながらとある人間を探した。
もし俺の推理通りなら、探せばいるはずなのだから。
トイレから出てくると、丁度一人でドリンクバーの前にいる館川がいた。
「やあ、館川さん。今、一人?」
「やあやあ、鈴木くん。私一人だからこれ、一緒に持ってよ」
そういいながら館川が俺に複数のドリンクののったトレーを差し出す。
・・・ここでなら聞いても大丈夫かな。
俺は新しくドリンクを注ごうとしている館川になんでもない様子で話しかけた。
「そういえばさぁ、館川さん・・・」
「んー?」
「さっき気づいたけど、姫園さんここに居たんだね」
瞬間、館川がコップを滑らした。反応わかりやすっ!
館川は手から落ちたコップも取ろうとせず、見事に固まったまま黙ってしまった。しょうがないので俺が代わりに落ちたコップをとってやると、ようやく館川が返事をした。
「へ、へー。ソウダッタンダー。シラナカッタナー」
「・・・・・・そっか。すごい偶然だね」
ウソつけ!と、思ってしまうがそのままのってあげる。
この反応から察するに、館川たちはわかっててこの店に入ってきたのだ。
「そ、そう偶然なんだよ!いや、私もビックリしたんだよ!お店に入ったら偶然魅歌が見えてさ!」
「そっか。館川さんはさっきまで知らなかったはずだけど、姫園さんが見えてたんだ」
俺が意地悪な言い方で事実を教えると、面白いぐらい驚いた顔で固まった。うん、わかりやすい。
そう思いながら眺めているとえ、とかその、とかと言葉にならない声しか出さないので、俺の考えを伝えておく。
「もしかして、だけどさ。館川さん達って純粋に食事を取りに来た訳じゃなくって、姫園さんのデートが目的でここに入ったんじゃない?」
「・・・・・・・・・へ?」
そういうことで推理をしてみるとけっこー筋が通ると思うんだよ。
まず疑問に思ったのは俺が今まで何をしていた?という質問したときに、館川たちが答えに窮したときだ。
鳳凰院の言ってた通りただ遊んでいただけなら普通に答えればいいのに、あんなにも焦るなんて『何か隠してます』って言ってるようなものだ。
他にも小手川の誘いを断るときの感じとか、細かいことを含めて考えると今日はただ遊んでるわけではないことがわかった。
その目的はわからなかったが、もしそうだとしたらこの店にもなにか目的があって入ろうとしたのでは?
そう考えると気になるのは、入店したときの館川の目線だ。
館川が入店した時、この店にいるなにかを探してたのでは?だからあの時、キョロキョロと辺りを見回してたのでは?
そう考えた俺はトイレに行く振りをしながら最後に館川が目線を向けたところを探したのだ。
で、それはすぐに見つかった。ていうか、俺の斜め後ろのテーブル席で同い年くらいの男子と一緒いる姫園が居た。
つまり、姫園がデートをしてるのを注視してた、ていうことはそれこそが館川の目的だったのでは?という答えに行き着いたのである。
「・・・ていう、俺の勝手な考えなんだけど」
「・・・はあー、なんていうか、よくそんなの見てたねぇ」
「で、こんなこと訊くのなんだけど、どうなの?」
「・・・えー、その件につきましては秘書を通してほしいと言いますか」
「別に言いふらしたりしないから」
「・・・誰にも内緒だよ?」
「なるほどね。しかし、マネージャー廃止の問題がこんなところにまで影響を及ぼしてるとは」
「うう、結局全部しゃべってしまった・・・」
館川の話をまとめると、姫園は好きな人の部活にマネージャーとして入ろうとしていたが今年からマネージャーは募集しておらず諦めていたのに、今度はその好きな相手にデートに誘われて今、デートをしている最中だと。
そして館川たちは直前まで不安そうだった姫園が心配になりつい尾行してしまったと。何て言うか・・・。
「お人好しだねぇ・・・、館川さんは」
「・・・やっぱり、押し付けがましいかな?」
「別にいいんじゃない?純粋に誰かを思っての行動なんて、かなり難しいからね」
年を取れば取るほど善意だけの善行って難しいし、なんて年寄り臭いことを考えてしまう。
まあ、一言アドバイスするなら・・・。
「ただ自分が行った善行を周りにアピールすると手に終えないから、そこは気を付けた方がいいかもね。それに見返り無しの善行ってどうやって恩を返したらいいのかわかんないから、さ」
「・・・はい、気を付けます」
下手なアドバイスのせいで館川を落ち込ませてしまった。
ちなみにこのアドバイスは前世の体験談から適当に使わせてもらった。
「ところで・・・、目的の人物は今どんな感じ?」
「あ!そういえば、二人は今どんな・・・」
『もう、なんだよ~!俺、スゲー緊張したんだけど!』
『声大きすぎだよ~。ていうか、私だってそうだよ~』
今更ながら、当の二人を改めて見ようとしたらなんだか楽しそうな男女の声が聞こえてきた。
「・・・なんか、大丈夫そう、だね」
「だね」
よくわからんが、どうやら思いの外順調らしい。
こちらからは見えないが、楽しげな雰囲気がするし問題はなさそうだ。
「・・・あなたたち、こんなところで何をしてるのかしら?」
「おせーぞ、鈴木。どんだけ長いの出してんだよ」
館川と姫園カップルが仲良くしてそうな会話を聞いてたら、待ちくたびれたらしい鳳凰院と小手川がこっちに来てた。俺と館川は適当に誤魔化しながら席に戻る。
俺は先ほど館川から聞いた話を思い出しながら、目の前で会話をしている鳳凰院の事を考える。
鳳凰院がこんなことに付き合った理由はこの二人・・・いや、姫園を加えての三人の人柄にあるのだろう、と。じゃなきゃ、とっくの昔に帰ってただろうし。
あまり鳳凰院と交流がある訳じゃないが、それでもわかることはある。
鳳凰院は興味のないことには一切興味が持てないが、一度懐の内に入れたものにはかなり甘い質なのだろう。もっとも、懐に入るにはかなり条件が厳しそうだが。
ここに来てからも館川が困ってたから自分が前に出て話をつけたり、俺たちと話ながらもたまに目線が姫園がいた席にいってたりして、結構今回のことに真剣に取り組んでいた。
・・・おそらく、館川と姫園は斉藤経由の仲なのだろうが、それでも一ヶ月程度でここまで気に掛けてもらえるようになるとは。これは本人たちの人柄だろう。
斉藤?あいつはただのお人好しだ。
「あ、そうそう鈴木くん!私、気になったことあるんだけど!」
「ん?なに?」
考え事をしてると、改まって館川が訊いてきた。
「鈴木くんって何者!?探偵!?」
「いや、違うけど・・・」
それは前世のバイトの一つだ。今の俺には関係が・・・・・・・・・・・・あれ?
(・・・じゃあ、俺なんであんなこと出来たんだろ?)
言葉の裏を読み取って相手の考えを察することも、目線の動きで相手の心中を予測することも、少なくとも以前の俺にはできなかったことだ。
・・・心当たりがないわけではない。最近の俺は前世の俺がやってた仕事の記憶ばかりが蘇ってたので、それに多少は影響を受けてるのかもしれない。だが・・・。
(・・・なんだか気持ち悪いなぁ。そんなものに頼るつもりはないのに)
自分が知らない内に知らない技術を持ってるのは、以外と気持ち悪い。ましてや、今まで気づかなかったていうことは、これからもそういうことがあるかもしれない、ということだ。
そしてこれからもそういうことは増えていって、どんどん前世の俺に染まっていくのだろうか?
その場合、今の俺は?
少し知らない知識を覚えただけで終わるのか?今と前世が混じった状態になるのか?それとも・・・。
「・・・鈴木くん?鈴木くん!」
「!ああ、ごめん。ちょっとボーッとしちゃった」
「それはいいけど・・・」
「おまえ今、すごい顔してたぞ?」
言われて気づいた。どうやら嫌な可能性が頭をよぎったのを顔に出ていたらしい。
周りが心配そうに見てくるが、大丈夫だと伝えるとそれ以上追求はしないでくれた。




