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ショッピングモールでのGW《斉藤Side》

とりあえず、できてるところまで


 この学園に来てから、一ヶ月ほど経った。

 と、言ってみたが今日は学校にはいない。

 今日は学校はGWで、今は寮から近いショッピングモールに来ている。近いと行っても電車に乗らなければならないけど。


 前にも言ったが、この学園は全寮制である。

 それゆえどうしても生徒たちの生活は学園の施設内に限られてしまう。

 そのため、学園内には様々な施設が存在する。美味しいのに安い学生食堂や、勉強に必要な道具は格安で手に入る購買などもそうだ。

 他にも色々とあるがそれでもそこは学園、娯楽施設にはあまり力を入れられない。

 特に服に関してはどうしようもないところがある。さすがに服は制服以外は置けないのだ。

 ただ勉学に励むだけならそれでも十分だろうが、中にはその生活に馴染めない・不満に思ってしまう生徒もいる。私だって嫌だ。

 なのでそんな学園生活には関係ないものを買うときには、学園の外に求めるしかない。

 そこでこのショッピングモールというわけだ。

 別に他にも買うところはあるのだろうが、ここが一番近いし一通りのものが揃ってる。ゲームでもここは定番のデートスポットだったので、感慨深い。


 話を戻すが、今日このショッピングモールに来たのはただ遊ぶに来た訳じゃない。

 ここに来た理由、それは・・・。


『ごめん、待った?』

『う、ううん!今来たとこ!』


「・・・!目標、確認。接触開始しました。」

「こちらも確認した。予定より三十分早いな」

「・・・ねえ、私帰っても良い?」

「まあまあ、そういわずに・・・」


 ヒロインちゃんの初デートを覗き見しています。美琴ちゃんは帰りたがっています。








 話はGWより前に遡る。

 入学してから初のGWなので私とみんなはどう過ごすのかと盛り上がってるときに、ヒロインちゃんがこう相談したのだ。


『・・・と、友達に遊びに誘われたんだけど、どういう格好で行けば良いのかな?』


 私たちはその相談に乗る前に魅歌ちゃんからその事について吐けるだけ吐かした。

 分かったことはデートの相手が美作優詞・・・彼女の幼馴染みであること、一緒に初めて行くショッピングモールを見て回るという口実でデートをすることが判明した。

 なんでも昼休み、急に向こうから誘われて思わずOKを出してしまったそうだ。

 その経緯を聞いて私はゲームの記憶にこの事があったことを思い出した。


 おそらくこれは『チュートリアル』だ。

 乙女ゲーとはいえ、ゲームはゲーム。始めてやる乙女たちのために簡単にやり方ぐらいは教えてくれた。

 記憶ではこの乙女ゲーには『学校パート』と『休日パート』の二種類がある。今回の美作君のデートは『休日パート』のチュートリアルで強制イベントであったのを思い出した。


 まあ、だとしたらそんなに気にすることはないか。

 ゲームだとショッピングモールを一通りまわって多少の胸キュンイベントがあるだけで事件らしき事は起こらない。幼馴染みと楽しくデートをして終わりのはずだ。だから気になるのはそこじゃない。

 ゲームではここでヒロインは誰かに相談なんてしなかったのだ。少なくともチュートリアルでは服は自動で決まってし、友人キャラにもデートをすることを教えてる描写はなかった。

 なのにこうしてヒロインちゃんに相談をされている。ただ描写されてなかっただけなら良いけど、そうでないならいったい何が起こっているのか。


 そう考え始めると気になってしょうがなくなって、気づいたら大きい帽子にサングラスを着けてデートの待ち合わせ付近に来てしまっていた。いけないと思いつつその場を離れずにいると・・・。


『・・・あれ?』『・・・なんで、ここに?』


 顔を大きいマスクとサングラスで隠した思季ちゃんと出会った。さらに・・・。


『・・・何をやってるの、二人とも?』『『あっ・・・』』


 後ろから大きいサングラスを掛けて髪型を変えた美琴ちゃんに声をかけられた。

 私は詳しいことは言わず今回のデートが気になったと言うと、思季ちゃんは私と同じくデートの様子が気になり、美琴ちゃんはこそこそと私が行動しているのが気になりついて来たとの事。

 そんなことを話していると、美作君が来て話は終了。作戦は再開された。


『『・・・・・・・・・・・・』』


「開始早々、両者にらみあってます!」

「にらみあってないわね。微妙にお互い目線が下を向いてるわ」

「両者、にらみあってませんでした!これはどういう展開になるのでしょうか!」

「とりあえずどっちでもいいからなにか話せば良いんじゃないのかしら」

「なるほど!やはりこの膠着状態はよろしくないのでしょうか?」

「というか単純に暇よ。この調子だと舞もまだ帰る様子じゃないし、私だけ帰るのもそれはそれであれだし」

「・・・寂しいn「お黙り」


 美琴ちゃんが睨み付けるけど思季ちゃんはニヤニヤしながら見返している。こっちで睨みあってどうする。向こうで睨みあってたらそれはそれでおかしいけど。

 というか、二人が私の知らないところでだいぶ仲良くなってるんだけど。


「『きょ、今日はよろしく、な』『う、うん!よろしく!』」

「おっと美作選手!動きを見せた!」

「思ってた以上にぎこちないわね。本当に幼馴染み?」

「ま、あんたら二人と違って男女の幼馴染みは複雑なのさ」


 確かに二人の会話がぎこちないのは気になってた。

 というのもゲームではこのときの二人の会話はこんな感じじゃなくて、もっと気安く仲の良い感じだったはすだ。


『ごめんごめん、待った?』

『もう、遅いよ~』

『わりぃな。まあ遅刻してないんだし勘弁してよ』


 こんな感じでゲーム内では初のデートなのに緊張感ゼロな感じでスタートしたはずだ。ちなみに幼馴染みルートでわかるが、このときお互いの内心はかなり緊張していたという事が判明するシーンが個人的に萌えた。

 で、現実の方はむしろ逆。

 緊張感は隠せてないし、会話はぎこちなく、打てば響くようなやりとりは始まる気配がない。


(・・・なんかゲームの幼馴染みルートに入って初めてのデートの時並みに初々しいね)


 やはり何かあったのだろうか。ゲームと違うなにかが。

 私と美琴ちゃんの件は違うだろう。婚約者のルート関連ならともかく、幼馴染みルートでは二人はかすりもしないのだから。しかし、私が他に何かしたかと言えばヒロインと仲良くなってみようとしただけでなにも思い付かない。もしやバタフライ・エフェクトよろしく、私の行動が意図せぬ結果になってしまったとか?だとしたらもう私には予想がつかない。

話が変わるがところで・・・。


「・・・ねえ、もうそろそろ代わってほしいんだけど」

「何言ってるの?誰もあなたの代わりなんてできないわよ」

「ていうかなんで読唇術なんてできるの?」


 一部の人は気づいているかもしれないけれど、さっきから対象の二人の会話がなぜわかるのかというと、私が二人の会話を再現しているからだ。

 ヒロインちゃん達には気づかれたくないので距離を取らなければならないのだが、そうすれば当然二人の会話は聞こえなくなる。

 そこで昔とった杵柄というか、私の出番だ。

 美琴ちゃんが紹介してくれた先生の一人に読唇術を教わったのだ。以外と楽しかったのを覚えている。

 話を戻すけど、私以外の二人は読唇術ができないので自然と私が二人の会話を盗み見ることになるのだが、これが以外と寂しい。私も二人と仲良く会話したい。


「・・・『じゃ、じゃあ、行こうか・・・』『う、うん。いこ、ユウ君』」

「おっと、ホシはようやく動きを見せ始めましたぜおやっさん」

「見ればわかるわよ。それとあなた、キャラを一つに絞ってくれない?」

「・・・あ、向こうに行っちゃたね。これだと読唇術できないんだけど」


 さすがに顔・・・、ていうか唇を見ないで読唇術は使えない。


「別に良いわよ。少なくとも仲は悪くなさそうだし。・・・それで、このあとはどうするの?」

「もちろん、続行する!そもそもデートは始まったばかりだし!」

「まったく、何が楽しいんだか・・・」

「そういいながら付き合ってくれる美琴ちゃんが私は好きだよ」

「・・・軽々しくそういうこと言わないでよ」

「お、照れてる照れて「お黙り!」

「・・・二人とも仲良くなったね」

「変なこと言わないで!」「いや~、それほどでも~」


 うん、やっぱり仲が良い。でも何だか不思議な気分。

 ゲームでは二人の仲は良くはなかった。

 というのも基本的に二人には接点はなくて、できるときにはヒロインが美琴ちゃんの婚約者のルートに入ったときだけ。

 その時もヒロインの友人とヒロインのライバルというあまり良い関係ではない。数少ない接触も終始お互い喧嘩腰だった。

 それが今では、お互いにじゃれあっていると思うとなんだか感慨深いものがある。特に美琴ちゃんはゲームでも現実でも気が強くて難しい感じだったし。友達も私繋がり以外の子とかいる感じじゃなかったし。


「・・・舞、人を警戒心の強い猫が他の猫とじゃれあい始めてる光景を見ている感じで見ないでちょうだい」

「みこっちゃん、たとえがだいぶくどいと思うニャー」

「・・・っ、とにかく!やるんならさっさと行動するわよ!」


 そういいながら、美琴ちゃんは力強い足取りで魅歌ちゃん達のだいぶ後ろを歩き始めた。それに私と思季ちゃんがついていく形で行動を開始する。








 デートが始まってからそれなりに時間が経ち、少しお腹が空いてきた。

 それはターゲットの二人もそうなのか、近くのレストランへと入っていった。


「普通のファミレスだね」

「そうね。どこかのチェーン店では無さそうだけど、かといって斬新さや独特な感じもしない無難なレストラン、てところかしら」

「美琴ちゃん思季ちゃん、お店の前で普通とか言わないの」

「だってそうとしか言いようがないし」

「私は一言も『普通』なんて言ってないわよ。・・・ま、いいわ。入るわよ」


 そう言いながら美琴ちゃんは堂々とした足取りで二人が入っていったファミレス・・・『Mr.BIG』に入ろうとする、が。


「申し訳ありません。ただいま満席となってしまいまして・・・」

「あっちゃー」

「・・・どうする?私としては今日のところはこの辺りで辞めても良いと思うのだけど」

「え~。でもまだ全然面白いところとか見てないし~」

「でもここら辺って他に休めそうな店とかあまりないよね」


 どうしよう。ここで私たちの冒険は終わるのだろうか。そんな私たちに話しかける存在が現れた。


「あの・・・、どうかしたの?」

「たしか、同じクラスの鳳凰院さん達だよな」

「・・・失礼ですが、どこかでお会いしたことがありましたか?」

「同じクラスって言ったけど!?」


 困っていた私たちに話しかけてきたのは、自称同じクラスだという三人の男子だった。

 先程のやり取りでわかるだろうが、私たちはこの男子たちと会話をしたことはない。まあ、同じ学校であれば美琴ちゃんを知ってるのは当然だし、その友達である私たちをついでで覚えられるのはよくあることだ。

 そう思いながら男達の顔を改めて見ると、一人知ってる顔に気づいた。


「・・・やあ、鳳凰院さん、斉藤さん」

「・・・こんにちわ、早観君」

「こんにちわ」


 今挨拶したのは早観天恵。

 ゲームの攻略キャラの一人で、本来ならこの時期にはショッピングモールにはいないキャラだ。隠れキャラの一人で、ルートに入るには、色々と条件がある、攻略難易度は最上級のキャラだ。


 そして美琴ちゃんの元・婚約者、早観仙景の弟だ。


 昔、仙景の方に色々とやって美琴ちゃんの婚約話は解消されて以来、会うことがなかったのだ。

 今年から同じクラスになったのだからいつかは話をしたいと思ってたが、こんな不意打ちみたいな形になるとは。


「「「・・・・・・・・・・・・」」」

「なんか知んないけど、ここに用事があるんだろ?相席でよかったら、一緒にどう?テーブル席だからたぶん大丈夫だと思うんだけど」

「いいよいいよ~!さあ、行こう!ところでみんなの名前って何?」

「ああ、そういえば名乗ってなかったな。俺は小手川勇気。みんなに話しかけたのが木下。さっきから黙ってるのが早観で・・・」


 予想外の相手との対面で思わず固まってしまった私たちを無視して、思季ちゃんは他の一人と話を進めてくれていた。


「そしてあそこで座ってるのが鈴木だよ。全員同じクラスメートだから。よろしく」


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