あれから二週間後《田中Side》
俺がこの高校に入学してから二週間ぐらいたった。
その間事件らしいことは起こらなかった。って、そりゃそうだ。
なんせゲームが始まるのは六月なんだから。それまで俺もやることない。いや、勉強とか部活とかは頑張ってますよ。
ただ、ウグイスちゃんがいない以上事件も起こらないだろうし、下手に登場キャラの周りをうろちょろしてもあんま意味ないし。
ゲームでは主人公として『小林くん』がいたから、今のうちに仲良くなれば自然と溶け込めると思ったけど、あいつ『名字が小林』以外あまりデータがないんだよな。たしかいつも成績が平均点を取ってるていう設定だから、Dクラスとかそこら辺だと思うんだけど。
ていうか、よそのクラスだし部活も違うしで、どう関われば良いのかわからない。あとぶっちゃけ小林くんにはあまり興味がない。
ま、結局今やる事といったら真っ当に高校生活を楽しむぐらい、かな?
「それでは!これより、ホームルームを始める!」
ホームルームの時間、最初はビビってた大堂先生の挨拶も大分馴れてきた。
それでも自然と背筋は伸びてしまうが、これはもうしょうがない。
「今日は来月開催される中間テストについて話しておこう!まず場所だが・・・」
いきなり、嫌なことを聞いた。いや、学生なんだから当たり前なんだけれど。
・・・そうなんだよ、ここがゲームの世界でもテストは存在するんだよなぁ。
ま、仕方ないか。赤点取らない程度に頑張ろう。
「・・・注意点は以上だ。詳しいことはまた後日時間を取り説明する!他に質問はあるか?・・・ないなら、今日のホームルームは終わりとする!日直、号令!」
気づけばホームルームは終わってた。
これから俺は部活に向かう。陸上部の推薦で入ったので陸上部に入るのはほとんど決定事項だ。
放課後、四月の半ばなのに俺は陸上部で汗だくになっていた。
練習のせいじゃない。というのも、一年は最初はまだまともな練習をさせてもらえない。
じゃあ何をしているかと言うと、今は先輩方のユニフォームを洗ってる。
うちの陸上部・・・ていうか運動部全般は一年の間は下働きをさせられるんだけど、これが以外とキツい。
俺はスポーツ推薦なんだけど、そんなことはここでは関係ない。というか、推薦もらった人なんて毎年それなりにいるから、あまり特別扱いされないんだって。
一年は先輩方が運動しやすいよう下働き。それでも本来なら三年の先輩が引退したらかなり楽になるって話だったのに今回はどうなるかわからない。
去年までは女子マネージャーがいて、その子と一緒に仕事をする感じなのに、今年からマネージャーはいなくなったらしい。ふざけんな。
おかげで俺たち今年からの一年は例年より大変なのに、先輩方は容赦しねーし。
だがそれよりも気になるのが・・・。
「・・・女子マネージャーとか実在してたんだな」
「藪から棒になに?」
「いや、女子マネとか都市伝説だと思ってたからさ」
うちの中学に女子マネージャーとかいなかったぞ。
しかも、先輩いわくかなり可愛かったらしい。そんな二次元でしか聞いたことがない存在が実在してたとは!
・・・そしてもう会うことがない。そう思うとこう、腹の底からふつふつと込み上げてくるものがだなぁ。
ゲーム通りでも実際に自分がその立場になるとどうしようもないものがあるな。
ゲームでも確かこの事が原因で事件が起こるんだよな。
今年の秋ごろで傷害事件が起こってそこで女子マネにセクハラした事件の真相が暴かれるんだよ。
ちなみに被害者はセクハラでクビになった元教師で犯人はセクハラの冤罪をかけた元女子生徒だ。 とにかく、そのための下地とはいえその被害を現在被っている状態なんだよな、俺。
しかも被害はそれだけじゃない。
「おかげで一部は女子と合同の練習もあったのに、今年からはそれもないんだろ?マジ最悪だな」
「あはは・・・、まあ、事が事だしな」
「そうは言うけど、せっかくの出会いの場がさぁ」
ゲームの中では語られてなかったが、一部の競技は女子の陸上部と合同で練習とかしてたらしい
それも今年からは撤廃。男女完全に分けて時間をずらしての部活動となった。
これが思った以上に面倒。練習時間はどれも短くなったりして地味に困っている。
なんだかなぁ。ゲームで見たときにはこんな話大したことがないように聞いてたのに、いざ自分の立場になるとこんなにも困らされるなんて。
よくテレビなんかで見た『華やかな舞台のその裏側』を見た、ていうかその立場に立たされてるって感じだわ。まじしんどい。
あーやだやだ、くらいことを考えてると気が滅入ってくるわ。
そんなことより他の事を考えよう。
例えば今一緒に先輩のユニフォームを洗ってるやつとか。
「ま、そんなこといってないでさっさとこれ終わらせようぜ!じゃないと練習する時間なくなっちまうぞ」
「元気だねぇ鶴城。俺はもう汗かきすぎて着替えたくってしかたねーぞ」
「なんだよだらしねーな。まだ練習もしてないのに」
俺と同じ量の洗濯をしてるのに全然疲れた感じがしない返事をするのは俺と同じスポーツ推薦で入った鶴城弾。
顔は爽やかなイケメンで髪はショートカット。体は健康的な日焼けに長身で細身の筋肉質。典型的なイケメンスポーツマンって感じ。
イケメンだってのに女子にモテるよりも今はスポーツに集中したいって言う、若干変なところはあるが裏表のない感じの良いやつだと思う。
それでも女にモテまくってるのはムカつくけど。
正直、こいつの事はよく分からない。少なくともゲームにはこんなやついなかったと思うんだけど。
「たく、スポーツ推薦で入ったのになんでこんなことしてんだろうな」
「まあまあ、こんなことどこ行っても同じだって」
「・・・まあ、そうなんだけど、なっと!・・・こっちはこれで最後だな」
「お!それじゃ、こっちもあともうそろそろで「わるい、一年。これ追加な」・・・はぁい」
そういいながらこっちの返事を待たずに先輩方は俺たちに仕事を追加していく。
追加されたそれを見ながら考える。おそらく今日も下校時刻ギリギリまで練習はできないだろう。
正直、もう入学したのだから陸上なんてやらなくて良いかもしれない。
俺は将来の事とか考えないでゲームの世界を求めてこの学校に入学したのだから。
だが、陸上やってたおかげでここに入学できたのだから、入学と同時に引退なんて気が引ける。
まあ、こんなことするのは一年の間だけだろうし俺以外にも一年はいるんだ。
「・・・おし、やるか」
「・・・!そうだな!がんばってさっさと終わらせよう!」
ゴチャゴチャ考えるのは苦手だ。
とりあえず今は、目の前に追加された仕事をさっさと終わらせて少しでも練習時間を増やそう。




