97話 ドラゴンVSドラゴン
なんとまぁ、総代の娘という事はお姫様ですか。
まぁ、どうでもいいか。
「それで、君たちはどうしたいんだ?」
「どうとは……」
「いや、具体的に今後はどうしたいのか教えて欲しいんだけど」
「ワシらは散った仲間を集めたい。そして烏滸がましい事は承知で申す! 我らを救ってくれ!」
あぐらをかいた爺さんは握りしめた拳を地につけて頭を下げる。
なんか日本の武士みたいだ。
「分かった」
「おぉ」
「ただし条件がある。1つ、俺は今とても忙しい。用事が終わってからだ」
「ご助力を願えるのであれば謹んでお受けする」
「2つ、魔界で起きている情報を出来る限り教えて貰う」
「ふむ……情報か。これは確証のない話だが、どうやらその1つの過激派は魔王軍と名乗り、こちら側へ乗り込もうと考えておるそうじゃ」
とんでもない情報が出てきた。
それって最悪は人族の領地が火の海になるって事だよな。
「ありがとう、十分に有益な情報だ」
「何よりじゃ」
「あと俺が国に告げればその情報の出所を探られる。その時は君たちの事を教えるが構わないか?」
「うむ、どの道ワシらにはそうせざるを得ない」
「了解した。では今より君たちの身柄は俺が預かる」
泊まるところは俺が創ればいいから問題ない。
さてと、話し合いは終わった。
この人たちともう少し話したいが、先に面倒なのを片付けるか。
俺は立ち上がり、地に伏せたドラゴンの方を向く。
「よぅ、ドラゴンさん。カッコいいな」
(貴様ぁ! 早くこの呪縛から解き放て!)
「解き放ったらどうする?」
(無論、そこの鬼どもと貴様を噛み殺す!)
やだなぁ、随分とご立腹だよ。
フレンドリーにいきたいんだけど、
難しいかな?
「お前はどこかに属しているのか?」
(ふんっ、我は我以上の強者に従うのみ。今は魔王に付き従っているだけだ)
「なら俺のところに来ないか?」
(はっ、強者のオーラのかけらもない貴様に……ッ)
俺は体の内にある魔力を少し解放する。
すると、俺を中心に魔力の波動が波立つ。
「つまり、お前はその魔王よりも強い強者が現れたのならばそちら側につくと?」
(あ……ああ、その通りだ)
んじゃあ、手っ取り早くボコって去勢でもしようかな。
少しお肉を分けて貰うのもいいかも。
「うーん、餅は餅屋にって言うし。あいつにも部下くらい持たせるか」
(何?)
では、出でよ! ファーブニル!
俺が呼びかけると目の前のドラゴン以上に大きい魔法陣が現れる。
そこから現れたのはうちの番犬ファーブニル君。
(お呼びでしょうか、涼太様)
レイニーを上回る大きさのファーブニルは野太い声で挨拶をする。
「うん、お前に部下をとね」
(ほぅ、部下ですか。となるとそこの小童ですかな?)
「そうそう、そのヤンチャ君を躾けて欲しいのよ」
(承知しました)
ファーブニルはそう告げるとノソノソと四足歩行で3つ首のドラゴンを見下ろす。
「な、な……」
「何なのじゃ、このオーラは」
「涼太殿、お主は一体……」
「ただの冒険者ですよ。ちょっと規格外なところがあるだけです。っと……取り敢えず」
俺はここに居る3人と二匹を新たな空間へ移動させる。
そして障壁を張り、攻撃が来ない様にする。
仕上げにドラゴンにかけていた重力を解放する。
すると3つ首のドラゴンは立ち上がり、高速で後ろへ飛び距離を取る。
「んじゃ、任せた。どれだけ暴れても問題ないぞ」
(承知しました。ですが、暴れる必要など御座いません)
ファーブニルも俺たちの側から離れ、二匹のドラゴンがにらめ合う光景がそこには映し出される。
男ならば誰もが憧れるシーンだ。
(来い、小童。格の違いを見せてやろう)
(舐めるなよ、我は最強のドラゴン、ズメイだ。そう簡単にやられるか!)
なるほど、ズメイ君か。
良い名前だね。
と言うか、そのセリフはすでに弱者が強者に吐くセリフだぞ。
(喰らえ! 我が漆黒の炎、【地獄の息吹】)
ズメイ君から黒いブレスが放たれる。
ファーブニルはと言うと、ただ居座るのみだった。
何もせずに目の前の攻撃を眺めるのみ。
ズメイ君は勝ったと確信したのか、歯をむき出しにして口を三日月の形にする。
しかし、その攻撃はファーブニルの厚い鱗にせき止められる。
(温いな、気合が入っていない。そんな炎で私を倒そうとは笑止千万だ。小童、貴様に本当のブレスを教えてやろう)
ファーブニルは足元の漆黒の業火を気にせず、口を大きく開く。
すると何の前触れもなく一筋の光がズメイ君の鱗を掠める。
光線がぶつかったであろう山は大きなキノコ雲を立ちのぼらせながら跡形も無く消滅する。
それにより起こった衝撃はこちらまで襲い掛かり、草は大きくなびき、側にあった木はギシギシと悲鳴をあげる。
いや、ファーブニルさん。
創った俺が言うのも何だけど、強過ぎないか?
今のって、もうブレスではなく光線だったよ。
炎のブレスではなく、破壊光線ですよ。
某国民的アニメでドロドロの化け物が、大量のダンゴムシを屠るシーンより派手ですやん。
地表が綺麗な直線に焼き切れてるもん。
うちの番犬の規格外さを今知ったよ。
隣の爺さんらも開いた口が塞がらないと言う状態だ。
(ん? どうした、かかって来い)
ファーブニルはズメイ君に近づき、圧倒的存在感を放ち、上から眺める。
(し……)
ん? し……って何だろ。
(ししょぉぉぉぉぉッ!! 是非とも師匠と呼ばせて欲しいのであります!)
なにぃぃぃぃッ!?
くら替え早すぎだろ!
今の一発で何かに目覚めさせられたのか。
(なに?)
(今のブレスこそ我が求めし究極のブレス! 是非ともご教授願いたい!)
(ふんっ、覚悟は出来ているのか?)
(どこまでもついて行きます)
(ならば、我の創造主たる涼太様に先ほどの非礼を詫びよ)
ファーブニルがそう命令すると、ズメイ君はお腹を上に向けて俺の方を向く。
(先ほどは申し訳ありませんてました! 今後は涼太様の…そして師匠の忠実なる僕として生きていく事を誓います)
「あ、うん。頑張ってね」
あまりにも唐突な変わり様に呆気を取られてしまった。
(では私の用事は済みましたでしょうか)
「おぉ、後の事は任せた」
二匹は眩い光と共に神界へ消えていく。
「な、何じゃったのだ」
「気にしないで下さい。それよりもお腹は空いていませんか?」
ここまで必死で逃げてきたのだろう。
空腹のはずだと思う。
その言葉に体が反応したせいか、3人のお腹から大きな音が鳴る。
「いやはや、済まない。気がつけば3日は飲まず食わずでおったわい」
「お腹減ったのじゃ……」
「では入って下さい」
俺が創った部屋に案内すると、少しの驚きはあったものの今までの緊張がほぐれたのか、そのまま倒れ込み寝てしまった。
はぁ、かなり深刻だな。
何を作ろうか。
鬼と言えば、米と酒だ。
それだと白米を用意しよう。
おかずは和食全般でいいか。
クリスたちには悪いが、シャルの村には明日到着にしよう。
それから数時間が経ち、日は沈んで夜へと変わる。
「むっ……うぅ」
「おはよう、椿」
「おはようなのじゃ」
「悪いが2人を起こしてくれるか? ご飯が冷めてしまう」
椿は側に寝転んでいる2人を揺さぶり起こす。
「む、おお。寝ておったか」
「ですがお陰で少し楽になりました」
「飯の準備が出来ているから食べるぞ」
「かたじけない」
俺は3人をテーブルに案内する。
「おぉ、米か! まさかこちらで食べられるとは」
「やっぱり、主食なのか?」
「涼太殿はよくご存知であるな」
「まぁ、話で聞いただけだよ。合っていて安心した」
となると、鬼の国には米があると言う事。
慈善活動で助けようと思っていたが、気が変わった。
鬼の人たちは何としても守ろう。
「それにしても両腕があると便利であるな」
「あれ? 爺さんはさっきの戦いで腕を取られたんじゃないのか?」
「爺は若い頃に無謀な戦いに挑んで片腕を無くしたのじゃ」
「ハハッ、若気の至りってやつですわ」
爺さんは照れ隠しもせずに豪快に笑う。
「しかし、これで豪鬼様は隻腕の鬼神では無くなりましたね」
「なにそれ?」
「爺の2つ名じゃ。爺は鬼の国で最強の武人であった。魔王軍との戦いでも数千を屠ったのじゃ」
そんなに凄いのか。
人は見かけによらないって事か。
今の優しい顔からは想像出来ないな。
「それだけの強さならば魔王にも勝てるんじゃないのか?」
「いや、あやつは異質じゃった。何やら内にとんでもない者を飼っておる。奴の右手は切り落としたが、ワシも瀕死の重傷を負わされた。でなければ、先のドラゴンにも遅れは取らんかったわい」
「なら、俺よりも強いんじゃないのか?」
俺が尋ねるとフッとバカバカしいと言わんばかりの表情で首を横に振る。
「ワシは気をイメージとして感じ取れるんじゃよ。それでどの程度の実力かは戦わずして分かる」
「なるほど、俺のイメージはどうだ?」
「大体の輩は深くとも底が見える。だが、お主は分からんのじゃよ」
「どう言うことじゃ、爺」
「例えるなら……海じゃな。それもどれだけ潜ろうとも底の見えぬ上に激流にこちらが飲まれそうじゃ。だからワシは涼太殿に下がる事に決めた」
大きな比較
・ファーブニル:全長120メートル。
・ズメイ:全長35メートル。
例えると、スイカとリンゴ。
強さ比較
・ファーブニル:LV.6000
・ズメイ:LV.864
例えると、ゴジ◯とティラノサウルス




