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95話 シャルの村へ



 今日は学園では3連休だ。

 しかし、魔法聖祭が近々迫っているので、生徒は中庭や訓練場で各々の技量を高めているであろう。

 それは生徒だけでなく、教員も同じである。

 自身の生徒を鍛え上げ、魔法聖祭で大きな功績を残せば自身の箔が付く。

 なので教員もこの3連休は自主的に業務を行う。


 しかし、2ーA、Jを率いる涼太の姿は学園のどこにも居ない。



「ツッキー、冒険者ギルドについて来て欲しいんだけど」

「んぁ? 何で冒険者なんだ」

「依頼でこの前のお金を私の村まで持って行って欲しいんだよ」

「あー、そう言う事ね」


 以前にもそんな事を聞いたな。

 シャルの実家は酪農や放牧が盛んな村なんだっけ。


「私も冒険者ギルドに行きたいです!」


 クリスも手を上げて主張する。

 その姿はどこか生き生きしている。


「それじゃあ、みんなで行こうか」



 俺たちは私服に着替えて冒険者ギルドへ向かう。

 時刻は午前7時30分を過ぎた。

 ギルドでは早くから依頼の受注のために、多くの冒険者が仲間と共にいる。


 甲冑姿の冒険者もいれば、動きやすそうな皮の鎧を身につけた女冒険者もいる。

 その中で私服姿で女の上に子供を引き連れている俺たちは嫌でも目立つ。


「うぅ、なんか怖いよ」

「慣れだよ」


 すっかり萎縮してしまったシャルは俺の腕に捕まる。


「おはようございます、月宮さん。依頼の受注ですか?」

「いいえ、完了の知らせと、この子が依頼をしたいとの事なので付き添いです」

「なるほど、分かりました」

「どうせだ、自分でやってみな」


 シャルは冒険者に依頼を頼むのは初めての様だ。

 これからの人生で頼む事の方が多い生活になるかもしれない。

 何事も出来る時には練習するべきだよな。

 おどおどとするシャルに。後ろからクリスたちも動作で応援コールを送る。

 それに決心がついたのか、シャルは前へ踏み出す。


「あ、あの! ボクはシャルロットと言います! 依頼をお願いしに来ました」

「はい、どの様な依頼でしょうか」


 受付嬢さんも事情が分かっているのか、初々しい反応にクスッと笑いながらも優しく答える。


「お、お金をボクの村に持って行って欲しいんです」

「では指名依頼と通常依頼、どちらかの希望はございますか」

「何が違うんですか?」

「指名依頼は依頼者が直接名指しで冒険者に依頼出来ます。しかしその分だけ依頼料も割高になる事がございます」

「指名依頼……」


 シャルはチラリと俺の方を向く。

 当然予想はしていたよ。

 まあ、俺自身もシャルの依頼なら陛下の依頼よりも優先しちゃうから問題ない。


 俺はコクリと頷くとシャルは嬉しそうな表情へと変わる。


「あの! ツッキー……じゃなくて、月宮涼太さんに指名依頼がしたいです」

「承知しました。では月宮さん、指名依頼が入りました」

「はい、受注します」

「承知しました。ではこちらにサインをお願いします」


 渡された紙に新たシャルはサインをする。

 よし、これで完了だな。




「それじゃあ。どうしますか?」

「んー、シャルは学園に通ってから一度も里帰りをしていないんだよな」

「うん、ずっと学園に居るからね」

「ならこの3連休は里帰りをしてみたらどうだ」

「あっ! それいいかも!」


 俺の提案にクリスも賛同する。


「でもボクの村ってシュテム帝国に属しているから、ここから馬車で一週間以上かかるんだよ」

「それは……遠いところですわね」


 一週間か、

 俺1人ならスキルを使って本気で走れば1時間ちょいって距離か。

 でもその村って分からないから、シャルは必要だ。

 となるとアイツを使うか。


「多分だけど、数時間あれば着くと思うぞ」

「それって本当!?」

「ああ、大丈夫だ」

「なら早く家に帰って準備ですわね」



 4人は走って家まで戻る。


 若いって良いなぁ。

 俺の場合は身体は別として、精神は40代並みに使っていると思う。

 学校か、本当に懐かしい。


 あちら側に居たら神界での一年を合わせると俺はそろそろ卒業してもいい頃だったのかな。



「……ゆ……ず」



 今でも鮮明に浮かび上がる最後の顔。



「……ッ」


 あの顔だけが…あの顔だけはさせたくなかったなぁ。

 本当に何やってるんだろ、俺って。

 無能だった自分が本当に憎い。


 上を向けば快晴の青空。


 本当に地球に帰る方法がないのだろうか。

 迷宮、それが唯一の可能性だと思ったが、ロキに否定され希望が無くなった。

 願わくは……俺のことは忘れて、この澄み切った空の様な笑顔で生きて欲しいな。



「涼太さーん! 早くー!」

「そんなに急がなくてもいいだろ」

「楽しみなんですよ」

「分かったよ、準備が出来たら正門前に集合だ」




 俺は特に用意する物もないので、家に寄らずにそのまま正門前のベンチに腰をかける。

 女の子の準備は時間がかかるだろうから、何か店にでも入って時間でも潰そうかと思ったが、想像以上に早く、クリスたちがやって来た。

 クリスとミセルの服装は戦闘服で、シャルとロゼッタの服装は動きやすい服。

 見るからに王都から出て、魔物とでも戦うかの様な感じである。

 荷物については恐らくアイテムボックスにそのまま詰め込んだのであろう。


「いや……別に徒歩で行くわけじゃないぞ」

「ではどうするんですか?」

「ひとまず、人気のないところまで歩こう」


 俺たちは門から出て、草原の広がる大地へと足を踏み入る。


「うわぁ、ボクって外に出るのって久しぶりだなぁ」

「私もですわね。外は魔物がいるから出てはならないとお父様にも言われておりましたからね」

「そっか、2人はあまりないんだね」

「クリスちゃんはあるの? ミセルちゃんは当然だろうけど」


 シャルの投げかけにクリスは自慢げな表情を作る。


「ふふっ、私はすでに魔物とも戦ったんですよ」

「わぁ、凄いね」

「それに迷宮にだって入ったんです!」

「え、迷宮って……あの迷宮ですの?」

「どう? 凄いでしょ?」


 まぁ、確かにクラスの年齢でこのレベルは凄いと思う。

 魔物を1人で倒せる事自体が素人には難しいからな。


「まぁ、迷宮ではひたすら泣いてたけどな」

「そうですね、お嬢様は涼太様の背中にしがみつきながら、ひたすら泣いておられましたね」

「うっ、違うもん! あれは私を背負いながら、涼太さんがどれだけ戦えるか見てただけだもん!」


 なんともまぁ、恥ずかしい思い出を思い出したくないのか嘘をつく。

 事実を無理やり捻じ曲げ過ぎて、若干の見苦しさも出てくる。


 そんな話をしているうちに、元いた場所からかなり遠くまで歩いて来た。

 周りには……人の気配はいないな。

 あるのは魔物の気配。

 ゴブリンが10匹とオーガが1匹。

 珍しいな、オーガがこんな近くにまで現れるとは。



「「ヒッ……」」



 シャルとロゼッタは身の丈以上のオーガを目の当たりにして思わず悲鳴をあげる。

 反射的に近くにいた俺の側へと寄る。


「2人は魔物と遭遇したのは初めてか?」

「はい」

「うん……」


 まぁ、初めてなら普通はこんな反応だよな。

 目の前の2人を除いて。


 俺はその目の前にいる2人を見る。

 ミセルは腰の剣を抜き、完全に戦闘モード。

 クリスは嬉しそうな表情で敵を見据える。


「ここは冒険者の俺が出るところだと思うんだけど」

「嫌ですー! 久しぶりの獲物なんですから私が狩るんですよ」


 貴族の令嬢の発言ではない。

 何でそんなに楽しそうなんだよ。

 女の子らしく音楽でも流しながら女子会でもしてろよ、と嘆きたいが無意味なのは分かっている。


「服は汚すなよ」

「ラジャー!」

「当然です」


 2人ならオーガくらいは難なく倒せるだろうし問題はないか。

 俺は腕組みをして観戦する事に決めた。


「さて、終わらせますか」


 ミセルは足に魔力を乗せ、電光石火の如きスピードでゴブリンの集団を通り過ぎる。

 数秒遅れて、青い血しぶきと共に10匹のゴブリンは一斉に倒れ込み、指一つ動かない屍となる。


「んーんん♪ んんっ♪ んっんんー♪」


 クリスは鼻歌交じりでゆっくりとオーガへと近づく。

 その行動が遺憾だったのか、それとも女な上に子供であるがために喜びを表現しているのかは分からないが、オーガは雄叫びを上げてクリスに向かって走る。

 右手を振り上げ、クラスの脳天に叩き込もうとするオーガ。

 俺の側にいた2人は思わず目を瞑る。

 しかし、クリスはそれを紙一重で躱し、オーガの肌に手を置く。


「【凍結の右手フリーズタッチ】」


 そう呟いた瞬間に、オーガに薄い膜のようなものが広がりみるみるうちに凍らせる。

 オーガは夏の日差しが照らされる中で、冷凍保存をされたのだ。


「終わりました!」

「何の手応えもありませんね」

「お疲れさん」


 俺は倒れたゴブリンとオーガを分解して塵にする。

 後片付けは大切だ。

 放って置くとアンデットになるかもしれないし、ここを通るであろう人の迷惑にもなるからね。


「凄いですわね」

「本当に勝っちゃうんだ……」

「それじゃあ、ここら辺で呼ぶから俺の後ろに居てくれ」


 そう言うと、4人は俺の後ろに来る。

 よし、出でよ!


 俺が心の中でそう呟くと、目の前に大きな魔法陣が浮かび上がる。

 そこからゆっくりと姿を現したのは六本足の神獣スレイプニルのレイニー。


(Zzzz……肉うまぁ……)


 横たわって、ビクともしない巨大。


「寝てますわね」

「寝てるね」

「お休み中ですか」

「大きいですね」


 各々似たような反応をする。

 ねぇ、何してんのよ。

 お前には神獣としての誇りはないのか。

 呼ばれて寝ているってどこのクソニートだ。


「起きろ! この駄馬が!」


 後ろに回り込み、尻に強烈な蹴りをお見舞いする。



(ヒャアッ! 肉があぁッ!)

「おい、駄馬。目が覚めてない様だな。もう一発いくか」

(ぬおっ! 主人様ではありませんか! お尻が痛いのでありますぞ)

「起きたのならいい。悪いが目的地まで走って貰う」

(承知しました。ですが馬車がない様ですぞ)


 レイニーは辺りをキョロキョロと見渡す。


「今回は必要ない」


 俺はレイニーに手をかざす。

 すると特大サイズの鞍が創造される。

 その上にガラス張りの部屋を創造し、扉を付ける。

 これで道中も揺れる不快感も心配せずに旅が出来る。


「このままのサイズで目的地まで向かって欲しい。全速力だ」

(合点承知、では背中にお乗りください)


 レイニーは足を折り曲げて、鞍が地に着く様に座り込む。


「それじゃあ、乗ってくれ」

「はーい」

「流石ですね」

「本当に凄いや」

「感覚がおかしくなりそうですわ」


 鞍に階段を造り、ガラス張りの中へ入り、更にその扉の中へ入る。

 中は外の光景が360度モニター出来る形になっている。

 そしていつもと変わらない空間。


「出発だ」



もうすぐ100話を超えるのに幼馴染メインヒロインのうちの1人のはずの柚ちゃんが未だに出てこないとは……。

いや、すでにプロローグからフラグはビンビン立ってたんですけどね。

出したいんだけど、まだ先です。

もしかすると、第1部、第2部に分ける可能性もあります。

まだ書いていないので分かりませんが、柚ちゃんが本格的に始動するのは第2部でしょうか。

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