93話 本格的に開拓
俺は自室のテーブルの上に顔を伏せて倒れていた。
想定外だ。
朝まで付き合わされた。
更にお酒もたらふく飲まされた。
そして今、絶賛二日酔いを味わっている。
「ぎぼぢわるい……じぬ」
俺には【状態異常無効】のスキルがあるから大丈夫だと調子に乗ったのが運の尽き。
あくまでこのスキルは自身の命の危機が迫るであろう異常の時のみ発動するのが分かった。
二日酔いなんて発動するはずない。
クソッ! ポンコツスキルめ。
「涼太様、お水をどうぞ」
「ありがどう」
俺はミセルから水を受け取り、ゆっくりと喉に通していく。
回復魔法で治るかな。
試しに使ってみる。
あぁ、浄化されていく。
体から薄汚れた感情すらも洗われていく様だ。
「ふぅ、楽になったわ」
「それは何よりです」
「そう言えば、クリスは?」
いつも一緒なのに、この場にいるのはミセルだけ。
「お嬢様は日直なので先にみなさんと行かれました」
「そっか、俺は大丈夫だから行ってこい」
「はい、体にはお気をつけ下さい」
ミセルも駆け足で家から出ていく。
さて、今日は何をしようか。
ソフィーアちゃんとは約束したから午後のおやつの時間にでも行くとしよう。
となると……早めに武器屋でも造るか。
ん?
この場合は造ると創る。
どっちの表現が正しいのかな。
まぁ、創造は使うから創るでいいか。
俺は孤児院の前へ転移する。
「涼太にぃ!」
「おーう、元気か?」
孤児院の前でボール遊びをしている子供たちが俺の前へやって来た。
「アンさんのところに案内してくれるか」
「分かった!」
「こっち!」
手を引かれるがまま、俺は孤児院の中へ入っていく。
そこではアンさんは本を読まれていた。
「お久しぶりです」
「あら、涼太さん。お久しぶりです」
「少しお時間を頂けませんか」
「構いませんよ」
俺はそばに置かれたお茶を飲む。
アルコールを飲んでばかりだったで何気ないただのお茶だが身体中に温かさが染み渡る。
気のせいか、乱れていた心もホッとする。
「ではお話をしましょう。アンさんは算術などは学ばれておられますか」
「はい、最近は余裕もありますので子供たちも算術を教えています。将来に役立ちますからね」
おっと、
既にそんな事を考えていたのか。
なら話が早いな。
「良ければこれを使われてはどうかと思いまして」
アイテムボックスから完成したテキストの束を机に置く。
「これは?」
「俺からの差し入れみたいなものです。少しやり方が違いますが、こちらの方がより効率的なので子供たちに教えてくれると助かります」
「これだけの物を……ありがとうございます」
「気にしないで下さい。さて、思っていたよりも話が早く終わってしまいましたね。次の話に移らせて貰ってもよろしいですか?」
「はい」
何やら緊張されている。
別に変な事ではないんだけどなぁ。
「実はこちらの区画にお店を持ちたいのです。その報告と許可を貰いに来ました」
「許可もなにも、ここは涼太さんの土地ではないですか。話を通さなくてもよろしいですよ」
「ありがとうございます」
よし、許可も取れた。
早速やろうか。
俺は外に出て辺りをブラブラと歩き回る。
どうしようかな。
以前はスラム街よりも酷い不衛生でゴミのため置き場みたいな場所だった。
大きさも正直な話だが、俺の買った土地を合わさるとバカみたいに広い。
アウトレットが造れそうなほどだ。
他にも店を持つと考えると店を置くスペースと道も考える必要があるな。
どうせだ、やるか?
チートをフル活用するか。
俺の土地だ、自由にしよう。
「悪いんだけど、今からみんなは少しの間、孤児院の中へ入っていてくれないか? 絶対に出て来たらダメだよ」
「分かった!」
周りにいた子供たちはワァーと大きな声でみんなに呼びかけて孤児院へ入っていく。
俺はソナーを使い、本当にこの区画に誰も居ないか調べる。
うん、生体反応はなし。
始めよう。
俺は目を瞑り、全ての情報を頭に浮かべる。
「【重力】【重力】【重力】」
地盤を固める。
更に店と道を区切る窪みを。
炭素を生成、水素、酸素と結合しアスファルトを生成。物質変換、設定した土下10センチをアスファルトに変換。更に圧縮、圧縮。更に冷却と時間加速。
「うっし」
出来た。
突然の出来事に孤児院の子供たちが走ってこちらへやって来る。
「何これスゲーよ!」
「お兄ちゃん! 魔法だよね!」
「ああ、そうだよ」
「スゲェ! 魔法ってスゲー!」
「いいか、ここにはお店が立つ。当然他の人も来るし、貴族の人も来る。迷惑はかけちゃダメだぞ」
「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」
子供たちは大きな声でそう言う。
まぁ、アンさんにもお願いすればいいか。
「涼太さん、これは……」
「本格的に店を出す時に備えて形だけでもと思いましたね」
「なるほど……私に出来る事がありましたら何なりとお手伝いします」
「今は大丈夫ですので、そのうちお願いします」
「ではみなさん。涼太さんの邪魔にはなってはいけません。戻りますよ」
アンさんはその場にいた子供たちを連れて孤児院へ戻る。
さて、建物は少しずつ増やせばいいか。
ひとまず今手を加えた敷地を壁で覆う。
そして国の中央方向に門を設置し、門の扉が閉まると自動的に防犯結界が作用する様に設定する。
ふむ、目の前にある囲まれた空間が俺の自由に出来る場所。
なんか心が躍るな。
この中世に似合わない外見になるかもしれないがやろうか。
部分的チート革命を。
俺は門の入り口に近い場所に家を創造する。
木造建築だ。
広さは冒険者ギルドの3分の1程度。
街にあるお店よりは広いが、集会所よりは小さい。
二階建てで、一階は俺の創造した武器でも置く。
二階はスタッフルームで寝泊まりする事も出来る。
無論この程度ではチートなどとは呼ばない。
やるならば徹底だ。
エレベーターを設置。
地下B2までを創る。
B1がハルトさんの言っていた珍しい剣レベル。
つまり俺が迷宮で拾った武器を置く。
B2がグリムさんが言っていた聖剣にこれから巡り会うかもしれないのでそのスペース。
とりあえずはこれで良いだろう。
内装も綺麗に設置して、剣を創って樽に纏めて入れる。
B1の武器は壁に1つ1つ飾る。
ファンタジーでありそうな内装へとみるみるうちに変貌していく。
うん、終わりだな。
やったー、魔法って超便利!
あとは……店名か。
それは別の機会で良いか。
「今日は焼肉にします」
孤児院の裏に全員集合させてそう告げる。
「やきにくって何?」
「バカだなー、肉を焼くんだろ」
「肉! 肉いっぱい食いたい!」
「ごっはん♪ ごっはん♪」
俺は焼肉用の網を置いた台の下に木炭を入れる。
そして火を付け少し待つと熱気がゆらゆらと揺らめいているのが分かる。
俺は薄く切り分けた肉を網の上に置く。
するとジュウッと油が熱で溶ける音が聞こえる。
「っと、こんな感じで焼いていく。焼けたらタレにつけて食べていいぞ」
子供たちは元気な声で返事をしてトングを使い肉を網へ次々に乗せていく。
「あらあら、楽しそうね」
「アンさんも食べて下さい」
「えぇ、ありがとうございます」
♢♦︎♢
昼飯も食べ終わり、子供たちにも大満足だった。
ドラゴンの肉も喜ばれて幸せいっぱいの表情を見れてこちらも作った甲斐があるというものだ。
孤児院を柵で囲い大きなグラウンドを造って少しの間、ボール遊びや鬼ごっこなどして時間を潰す。
ソフィーアちゃんとの約束もあるので、子供たちに帰ると知らせたら引き止められたが、アンさんの説得でなんとか離して貰えた。
俺は目の前にそびえ立つ王城へ向かい歩く。
「どうも、門番さん」
「おぅ、エプロンの兄ちゃん。また陛下に呼ばれたのかい」
「そのエプロンはやめて下さいよ」
「いや、実際に今も付けたんじゃんかよ」
門番さんは紺色のエプロンを付けた俺を見てそう言う。
違うんですよ。
これは孤児院で料理した後にも色々と用事があって、付けておく方が便利だからなんです。
日常的には付けて……ます?
あれ…冒険者に行く時以外は基本的に付けてる気がする。
八百屋や肉屋に行く時もその後に料理するから、脱いだりするのが面倒で付けている。
誤解している様だから正すが、決して好きで付けてる訳じゃないんです。
「今日はソフィーアちゃんに会いに来たんですよ。あとついでに依頼」
「クハハッ、陛下からの依頼がついでか!」
「クソみたいな依頼内容で呼ばれるこっちの身にもなって下さいよ」
「やっぱ、兄ちゃんは大物だな。俺なら怖くてそんな事は言えねぇぜ」
門番さんは腕を組み大声で笑う。
「それじゃあ、行きますね」
「おう、頑張ってきな」
俺は門番さんに手を振って王城の中へ入る。
相変わらず広いな。
「あら、涼太さん」
廊下を歩いているとラミアさんがに出会った。
「こんにちは」
「もしかして、ソフィーア様に会いに来た?」
「はい」
「ごめんなさいね、ソフィーア様はお昼寝中なのよ」
「そうですか……」
どうしよう。
来た意味がないな。
どうやって時間でも潰そうか。
「それなら陛下の依頼を済ませてはどう?」
「そうします」
「陛下は自室に居るから」
「ありがとうございます」
俺はラミアさんと別れていつも通りの道順で陛下の自室まで進む。
コンコンッ
「うむ、入れ」
「お邪魔しまーす。依頼を受けにやって来た冒険者でーす」
俺は扉を蹴り、強引な態度で中へ入る。
陛下は何やら暇そうに本を読んでいた。
「お前……それは国王に対しての態度ではないぞ」
「ならただの呼び出しを依頼にしないで下さいよ」
「うむ、今度は直接言いに行こう」
「よろしくお願いします」
そうだよ。
わざわざ家と王城が繋がっているんだからそれで良いじゃんか。
「では先に業務を済ませておくか」
「はい?」
業務に関係する様な依頼は受けていないぞ。
「お主はラバン王国国王の誕生祭と魔法聖祭については知っておるな?」
「ええ、陛下も行かれるのですよね」
「うむ、そこでお前には転移で送って貰いたい」
「いやいや、無理ですよ」
公爵家ならば公の場でも転移で送れる。
しかし、国王を送るとなると話は別だろ。
一国の国王が公の場で移動するには大掛かりな準備が必要だ。
それをいきなり転移でパパッと移動なんて軽く済ませられる訳ないだろ。
大体、俺が移動をするという事は転移なりゲートなり俺が側に居なくてはならない。
目立つのは嫌です。
「お前には今回だが護衛について貰いたい」
「はぁ!?」
「無論、お前だと悟られないためにも変装して貰う。ここまで言えば分かるか?」
「……つまり、翡翠の騎士になれと」
「うむ、翡翠の騎士はこの国だけでなくラバン王国にも噂は広がっている」
「……陛下。あなた自慢したいだけでしょ」
公の場に国の英雄が護衛につけば、周りにも良い宣伝になる。
「報酬は期待して良いぞ?」
「俺は学園で講師をしているので、魔法聖祭では護衛を遠慮したいんですが」
「ずっとではない、始まりと終わりぐらいで問題ない」
「はぁ、分かりました。受けましょう」
「そうか、助かるぞ」
陛下の頼みだから無下には断れんわな。
「それで俺は何をすれば良いんですか」
「うむ、今夜の夕飯はお主に作って貰いたい」
「いきなり見も知らぬ輩が調理場に入るのはどうかと思うんですが」
「それについては問題ない。プリンのレシピを渡せば、直接会いたいとの申し出があった」
それなら安心かな。
厨房にて……。
「涼太殿、お見それしました。この様な料理方法がまだあったとは……」
「お世辞は必要ありません。俺も作り終われば食事に呼ばれているので手伝えません。頭に叩き込んで下さい」
それに一致団結し厨房に居た料理人は息を合わせて返事をする。
と言うか、なんで俺が指揮をしているのか謎だ。
端でひっそり作業させて貰うはずだったのに。
「涼太殿、この醤油という調味料はどこで調達されたのだ?」
「ユバ料理長、それは自家製です」
「なんと! この様な深みを持つ調味料が埋もれていたとは……」
王室直属の料理長、ユバさん。
歳は50を超えたあたりで、膨よかなお腹がチャームポイントな人だ。
俺の出した醤油を使って料理し感動されている。
醤油は無論、大豆から作った。
時空魔法で時間を加速させてだ。
時間を進め過ぎれば腐敗し悪臭を放つ失敗作が生まれる。
この大豆も家畜の餌として売られている物を直接契約して定期的に買い取っている物だ。
二日がかりで家に引きこもり、何度も試行錯誤をして俺はようやく醤油を作り上げることが出来た。
そんな万能調味料に感動しているユバさんをスルーし、俺は用意したいくつもの区切りがあるプレートに料理を乗せていく。
鳥や昆布から出た旨味を濃縮した汁でご飯を炊く。
薄っすらと色の付いた炊き込みご飯をクマさんの形にして耳や目、口を海苔などで再現する。
その他にも子供が好きそうなオカズと野菜を上手い具合に飾る。
「ほぅ、何とも愛らしい」
「子供には喜びそうですからね」
「間違いなくそうですな」
「大体の料理は出来ましたので俺は戻ります」
「はい、残りはお任せ下さい」
俺はユバさんに後は任せて陛下たちが待っているテーブルへ移動する。
「おにいちゃん!」
「やぁ、来たよ」
すでに椅子に座っていたソフィーアちゃんだが、俺の姿が見えると椅子から降りてこちらにやってくる。
「こら、ソフィーア。席に座りなさい」
「ごめんなしゃい」
「ソフィーアは涼太さんの隣に座る?」
「はい! おかあさま!」
プリシラさんがそう言うと、1人の執事がソフィーアちゃん用に座高を合わせた椅子と俺が座るであろう椅子を隣に近づける。
俺は小さな手で引っ張られて椅子に座る。
そうすると厨房から料理の数々が運ばれてくる。
「お主が作ったか。楽しみだ」
「俺も手伝いましたが、ソフィーアちゃんのを除き大部分は王城の料理人が作った物です」
「あら、それは楽しみね」
そして、フタをしてソフィーアちゃんの前にプレート皿が運ばれてくる。
「わぁ……」
ソフィーアちゃんは開けた途端に目につく可愛らしい芸術に目を煌めかせる。
「クマさんだよ!」
「ほぅ、素晴らしい」
「あらあら、可愛らしいわね」
喜んでくれた様で何よりだ。
「では頂くとしよう」