92話 カオスな俺の家
話を区切ると違和感があったので1話に纏めさせて頂きました。
2〜3話分の長さになっています。
ここは俺の家の最上階。
幻影魔術により、窓ガラスには夜の幻想的な夜空が映し出されている。
そして尋ねたい、
どうしてこうなった……。
俺は疑問を抱かずにはいられないのだ。
目の前にはグリムさんとラミアさん。
更に陛下にプリシラさん。
そして残りの四大公爵の方々もいる。
極め付けはアルマス公爵家現当主のジグルさんとそのご夫人。
国の最大戦力とも言える方々のオンパレードである。
それが酒に酔い、日々の疲れを解放するかの様にはしゃいでらっしゃる。
「おい、涼太! 新しい酒だ!」
「ちょっ、ジグルさん。何本目ですか!」
「良いんだよ、今日ほど特別な日を楽しまなくては損だ」
酒に酔いハイテンションなジグルさんに俺は新しいお酒を一升瓶渡す。
「さぁ、ガウス陛下。どうぞ」
「おっと、貰おうか。ジグルよ」
他国のトップに快くお酒を注ぐジグルさん。
なんともカオスな空間だ。
「涼太! お前も来い! 飲もうではないか」
「つまみを作ってんのに、んな暇はありません!」
陛下は無理な注文をする。
既に4つの作業を同時に行なっている俺にそんな余裕はない。
「そうよ、あなた。涼太さん、このホワイト・レディをお願い出来るかしら」
「妾はダイキリじゃ」
「ハルさん、他にも色々あるんですよ?」
プリシラさんは手元にある画像付きのメニューをハルさんに見せる。
「ふんっ、妾はコレが気に入っておるのじゃよ。ほら、早う作らんかい」
男性陣は部屋の中央に配置された机の周りを囲む椅子に座っている。
女性陣はいわゆるガールズトークをしながらバーテンダーに並び座る。
「ご主人様! 鳥の軟骨唐揚げが出来ました!」
「よし! 席へ運べ!」
下の厨房で料理が完了した物をグリムさんたちが居る席へ持って行く様に指示する。
「フゥ……この綺麗な星空の元でこの様な美酒を頂けるとは良いものですね」
「おい、ナバール! なに1人で浸ってやがる! こっちに来て飲みな! 一番若いだろ!」
グリムさんは強引にナバールさんを呼び立てる。
一応言わせてもらうが、ナバールさんはセリア王国の四大公爵。
国を守護する最大戦力の一角である。
上に立つ者として威厳ある行動をされている。
……が、このカオスな空間では下っ端に過ぎない扱いを受けておられる。
俺を除いた在籍人数は8名。
一番上が国王、一番下が公爵。
おかしいって、
幅が狭過ぎるだろ。
もう一度言おう。
どうしてこんな事になった。
♢♦︎♢
「おっし、全員の無詠唱にての魔法発動おめでとう!」
俺の投げかけに中等部2学年のA、Jの生徒たちは喜びの雄叫びを上げる。
「やったぜ! これで次のステップに移れるぜ!」
「では約束通り魔法を教えてくれるんですね」
「ん、まあ約束だからな」
「どんな魔法ですか?」
どんな魔法にしようかな。
クリスやミセルは大丈夫だと分かっているから教えていたが、殺傷性のある魔法を教えるわけにはいかない。
となると補助魔法かそのあたりだよな。
うーん、安全なものか……。
「クリス」
「はい?」
訳が分からずにクリスは俺の方へ来る。
「ほい、防御だ」
「へっ? キャァァァァァァァァッ!」
俺から放たれた火炎放射をクリスは反射を使い俺に返す。
そっちかぁ。
別の魔法で防いで欲しかったんだけどなぁ。
俺は目の前から襲いかかる魔法を縮小サイズで展開した魔法障壁で防ぐ。
「クリス君、反射は酷いんじゃないの?」
「急に魔法を放ってくる人に言われたくありません」
ごもっともです。
「あー、今のクリスのやつは別のだからな。今俺が展開した魔法を教えたいんだからな」
「先生、魔法を使ってたのか?」
「使っていたぞ、ほら」
俺は手のひらに収まる程度の魔法障壁を見せる。
「んな小さいの分かるかよ!」
「あー、冗談だよ。通常サイズはこれな」
手をかざした先に直径1メートルほどの円が描かれた魔法陣が生成される。
「これは魔法障壁だ。自身の魔力で障壁を作る。簡単に言えば薄くて壊れない板が自分の目の前にあると考えろ。分かったか」
生徒たちは早速言われた通りに行動する。
まぁ、足に魔力を通わせるって事が出来たんなら何もない状態よりはスムーズに進むだろう。
「20時までには帰っとけよ。俺は用事があるし帰るわ」
誰も聞いていない独り言を大きな声で呟いて俺はその場から立ち去る。
別に悲しくなんてないから。
時刻は18時00分。
今朝にグリムさんと約束していた時間まであと少し。
早めに行こう。
俺はグリムさんの屋敷へ転移する。
「むっ、来たか」
「待っていたわよ」
既にお二方は行く準備が出来ている模様である。
「どうしますか? 恐らく完全下校時刻ギリギリまで帰って来ないと思われますが」
「構わんよ、お前の家にある物で暇を潰そう」
コンッコンッと何か小小物を置く音が聞こえる。
「ふむ…ナイトは動かさないべきだな」
「…………」
グリムさんがチェスの駒を進め、俺が次に無言で置く。
既に戦況はグリムさんの手の内。
俺はただ敗走し、敵兵に追われるのみの兎。
なんでこんなに強いんですか。
勝てると思ったのに強すぎるでしょ。
そりゃ、俺だって娯楽としてでは無く本気で戦えば別かもしれない。スキルとか使って。
だが、初見でここまで圧倒するなんて聞いてない。
「それにしてもこのチェスとやらは良いな。己の戦術をボードで競い合う。画期的なアイデアだ」
「そうですか」
「それにこの駒の造りも凝っておるな」
「ええ、本当に凄いわ」
グリムさんはナイトの駒を目の前にやる。
それはまるで芸術品を鑑賞するかの様にだ。
たかがボードゲームだぞ?
「さて……お茶でも入れ直しましょう」
俺は立ち上がり、キッチンへ向かう。
すると、廊下で誰かがこちらへ向かってくる音が聞こえる。
クリスたちが帰って来たのかな。
「おにいちゃんです!」
扉を開けて入って来たのは王族一行様。
ソフィーアちゃんが俺を見た途端にこちらへやって来た。
「元気だった?」
「おにいちゃんにあえてうれしいです」
そのまま、ピョンとジャンプして俺の懐に飛び込んで来る。
俺はそのまま肩車をする。
「全く同じ家が繋がっているとは不思議なものだな」
「あれ、なんでこっちに?」
「ラバン王国行きの立て札があると思えば扉も開いておった。更に話し声が聞こえるのならば行かない理由がないだろう」
「あー、そうですか」
やっべ、閉め忘れか。
閉めてこよう。
「ソフィーアちゃん、少し降りてくれるかな?」
「ヤッ!」
ソフィーアちゃんは断固として俺の肩から降りようとしない。
ご丁寧に髪の毛をハンドル代わりとしている。
下手をすれば抜けそうだ。
「それじゃあ、一緒に行こうか」
「はいです!」
俺は部屋から出て玄関の方へ行く。
すると、先ほど造ったライアット家行きの扉が開かれる。
「むっ」
中から着替えを持ったゲイルさんが出て来た。
「あっ! おじさんです!」
「おお、ソフィーア様。お久しぶりですな」
「おにいちゃんのおともだちです?」
「うむ、風呂に入りに来たのだよ」
「わたしとおなじです!」
ゲイルさんは見た事もない笑顔を見せる。
やっぱり子供には弱いって事かな。
「それにしては物音が聞こえんが……」
「あー、陛下たちはこちら側に居ますので来られますか」
「うむ、ではそうさせて貰おう」
ゲイルさんは俺というか肩車をしているソフィーアちゃんの後に続く。
扉を開けると中では早くもキッチンに置いてあったお酒が開けられている。
自分勝手過ぎるんですが……。
「おお、ゲイル。お主も来たか」
「陛下も来られていましたか」
「うむ、では風呂へ向かうとするか」
陛下とグリムさんは持っていたグラスを置く。
「では私たちも行きましょうか」
「うふふっ、女同士ゆっくりと話しましょう」
ラミアさんとプリシラさんもお互い王城でいる事が多いのか仲がよろしい。
「おにいちゃんは?」
「ごめんね、まだ用事があるんだよ」
「むぅ」
「ソフィーア、行きますよ。涼太さんに迷惑をかけてはいけません」
「……はいです」
ソフィーアちゃんは渋々俺の肩から降りて、プリシラさんの手を握って女湯に入っていく。
「お前は入らんのか」
「俺はクリスたちの夕食の用意です。みなさんは夕食は済まされたのですか?」
「うむ、心配するな」
そう言い、グリムさんたちも男湯に入っていく。
さて、夕食の準備でもしようかな。
俺も腹が減っている。
軽く済ませるか。
キャベツを刻んでその上に唐揚げを山盛り乗せる。
自分の皿に分けてレモン汁をかける。
あー、美味いな。
1人で飯を食うというのも落ち着く。
ワイワイと騒ぎながら食べるのも乙だが、静けさの中で食べるのも好きだ。
「ただいまー!」
元気な声が下から聞こえる。
ごっはん、ごっはん、ごっはーんー♪
と鼻歌交じりでやって来る。
「おかえりー、ご飯にする? お風呂?」
それとも……グリムさんが来ていると死刑宣告?
まぁ、いずれ分かるだろう。
くくっ、楽しみだ。
さぁ、最後の晩餐だ。
「お風呂はみんなで入って来たのでご飯にします!」
「今日は頑張り過ぎましたわ」
「ボクお腹ペコペコだよ〜」
「…………」
「どうしたんだ、ミセル」
「いえ……なんでもありません」
ミセルは何かを感じ取ったのか周りを見渡す。
もしかしてグリムさんたちが来ているのが早くもバレたのかな。
「んじゃあ、白米は自分でよそえよ」
クリスたちは自分の茶碗を棚から取り出し、お茶碗が山盛りになるぐらいに盛る。
「そう言えば、ツッキーはいつ授業にくるの?」
「明後日だな。自習にでもしようかな」
「それって大丈夫?」
「おいおい、俺のモットーは気ままにだ。自由にやるのが一番だろ。と言うか放課後に見てるんだからいらいいだろ」
授業内容なんざ知ったことか!
地球の様なカリキュラムに沿って行われている縛りプレーなんざお断りだ。
ガウスさんにも好きにしろと言われたので好きにする。
俺の授業では俺がルールだ。
よし、自習にしよう。
余談だが以前に高校で先生が授業でひたすらやれと言われていた教材をその先生が本当にオススメしているのか気になった。
仲も良かったので放課後に聞いてみれば、自分は学生時代は別の教材を使ってたと、
更に学校で使っている教材よりも違う方が使いやすいとさえ言われた。
絶対オススメだから買ったほうが良いとさ。
嘘つき!!
とまぁ、実際にあった体験談を話すのはここまでにしよう。
「ひょうははん! ふぁふぁひはへんへんふぉーふぇーへふ(涼太さん! 私は全然オッケーです)」
「飲み込んでから喋りなさい!」
口いっぱいにご飯と唐揚げを含んだクリスを注意する。
貴族の令嬢なんだからもっとおしとやかにしろよ。
「涼太様、少しよろしいでしょうか」
「なんだ?」
「少しお聞きしたいので席を外して貰ったも構いませんか」
「分かった」
俺はミセルに連れられて下の階へ降りる。
そうして玄関の前に立つ。
「もしかしてグリム様がお来しになられましたか?」
流石はミセル。
やはり気がついていたか。
「来てるぞ。現在進行形で」
「どうしましょう」
「安心しろ、別に俺の家に住んでいるって事は怒ってなかったから」
「そうですか、安心しました」
ミセルはホッと胸をなでおろす。
やはり心配は一応していたのか。
「なんで気がついたんだ」
「なんと言うか……気配でしょうか」
「流石は異名持ちの実力だね」
「私なんてまだまだですよ」
ピーンポーン
インターホンが鳴る。
なんだ、来客が今日は異様に多いな。
玄関が目の前という事もあり、俺はドアと開ける。
「今回は居たか。来てやったぞ」
「あ、どうも」
ロゼッタの父親ことジグルさんだ。
隣に居るのは……。
金髪美人の女性だ。
ロゼッタほどではないが縦ロールが目立つ。
「あなたが涼太さんですわね。初めまして、私はロゼッタの母親のロセよ」
「月宮涼太です。初めまして」
「ロゼッタはどうしている?」
「ご飯を食べてますが」
「ならば少し様子を見せて貰おう」
「構いませんが……」
「何か問題でもあるのか?」
「いえ、大丈夫です」
ジグルさんとロセさんは靴を脱ぎ場所を知っているのか、そのままクリスたちが食事をしているリビングへ行く。
どうしよう……。
マズい、非常にマズいぞ。
地下では陛下たちが風呂に入っている。
いくら公の場ではないとは言え、他国の公爵と国王が居るんだそ?
本当にどうしよう。
「お父様!? それにお母様まで! どうされたのですか」
「お前の様子を見に来たのだよ」
「私は娘がお世話になっている人がどんな人か見に来たのよ」
ロゼッタは突然の両親の登場で驚く。
シャルは急いで箸を置き、立ち上がり深くお辞儀をする。
緊張しているのか体が硬い。
クリスは軽く会釈をして再びご飯をかき込む。
「私は1人の親として来たのだよ。改まる必要はない。普段通りにしたまえ」
「は、はい」
シャルを安心させる為か優しく声をかける。
シャルも少し安心したのか、再びご飯を食べるが緊張は全くほぐれていない。
これって陛下たちが風呂から上がってきたらマズいんじゃないのか?
想像を絶するプレッシャーで心臓が停止する可能性もある。
どうする…最悪は蘇生魔法を使うか。
「美味そうな匂いだな」
「食べますか」
「うむ、少し貰おう」
「ではそちらの席にお座り下さい。お飲物は何になさいますか?」
「酒を貰えるか」
台所へ行き、先ほどグリムさんたちが飲んでいた酒を出す。
「あら、私の分まで……嬉しいわ」
「いえいえ、どうぞご賞味下さい」
「うむ」
2人は唐揚げをフォークで刺し口に入れる。
カリッと小気味の良い音が聞こえる。
「ロゼッタの話から聞いたが…お前は本当に冒険者か?」
エプロン姿の俺に疑わしい目を向ける。
エプロン姿ですが何か?
ご希望ならばこの姿のままドラゴンでも狩りに行きますよ。
「本当に美味しいわねぇ。この美味しさを毎日味わえるなんて羨ましいわ。もう少し貰えないかしら」
「ありがとうございます」
俺は皿を受け取り、新しく唐揚げの乗った皿を渡す。
「おにいちゃーん!」
ソフィーアちゃんが部屋の扉を開けて俺に抱きつく。
「おふろはいったの!」
「気持ちよかったかい」
「うん!」
腰を下ろしてサラサラになった髪を撫でる。
綺麗な金髪だな。
子供だけど見惚れてしまう。
「お前、妹が居たのか?」
「んな訳ないでしょう。髪の色がまず違うでしょ」
「可愛い子ね」
「ソフィーアなの!」
「あら、偉いわね」
「ん? ……ソフィーア。どこかで……」
「因みにセリア王国の王族。お姫様です」
俺の発言にその場に居た全員が停止する。
その一瞬はまるで【時間停止】を使ったかの様だ。
あ、シャルがむせた。
蒼白な顔で涙を浮かべながらドンドンと必死に自分の胸を叩く。
ジグルさんは緊張の走った顔へ変わる。
「涼太よ、もしや……」
「はい、陛下もこちらにおられますよ? そろそろお風呂から上がってくると思います」
ソフィーアちゃんがお風呂から上がってきたという事は、女性陣も上がってきたと解釈が出来る。
それがフラグだったのかプリシラさんとラミアさんがフワフワのバスタオルを首にかけてやって来た。
「お母様!?」
「あらあら、クリス。久しぶりね」
「なぜお母様が……」
「お風呂を借りていたのよ」
シャルに続けてクリスの顔も蒼白になっていく。
「と、という事はお父様も……」
「当然よ、たぶん陛下とサウナで長時間戦っているのではないかしら。隣からそんな声が聞こえていたわ」
自身の死刑執行を察したのか。
俺の方をグルリと振り向いたので、顔を晒してソフィーアちゃんのほっぺを突く。
子供の肌ってプニプニだなぁ。
ジグルさんとロセさんが立ち上がりお風呂から上がった2人の前に立つ。
「お初にお目にかかる。私はアルマス公爵家現当主のジグルと申します」
「妻のロセと申します。以後お見知り置きを」
「あら、こんな格好で申し訳ありません。私はプリシラ、セリア王国の王妃です」
「私はハイゼット公爵家の夫人、ラミアです」
お互い軽く会釈をする。
「ガイア、私の方が我慢強かったな」
「何を言うか、私の方が長かったであろう」
「何を比べておるのじゃ、お主らのせいでゆっくり出来んかったわい」
あ、男性陣もお風呂から上がったのか。
「むっ、どちら様かな」
「あなた、こちらはアルマス公爵家のジグルさんと夫人のロセさんよ。娘の様子を見に来たらしいわ」
「お初にお目にかかります、陛下」
「久しぶりだなジグル殿」
「おお、グリム殿。こうして直接会い見えるのは2年ぶりか。それにライアット公もご無沙汰です」
「うむ、久しいな」
あら、グリムさんとジグルさんって知り合いだったのか。
相変わらず顔が広い。
「ここで会ったのも何かの縁、良ければ一緒に飲みませんかな?」
「おぉ、それは願っても無い。お互い娘の友人の親御。語り合いましょう」
「ではその前に……クリス」
「ひゃい!」
目の前に来たグリムさんの投げかけに、クリスは直立不動になり目を泳がせる。
「ふぅ……正直な話だが私はお前を怒ろうかと思った。しかしもう吹っ切れたよ。クリスよ」
「はい……」
「涼太ならばお前を守ってくれるだろう。存分に迷惑をかけろ!」
「はい!」
はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?
意味わかんないんですけど。
何でそうなるの!
マジで吹っ切れやがった。
面倒ごとは全部俺に押し付ける気だよ、この人。
「ふふっ、涼太さん。頑張ってね」
「ラミアさんまで……」
もう諦めよう。
この家族は一度決めた事は基本的に何があろうとも曲げない。
「よし、話も済んだ様だな。では最上階へ向かうとしよう」
「陛下はここへよく参られるのですか?」
「うむ、ここほど自分を解放出来る場所はない。お前も楽しめ。ここでは無理に気遣う必要もない」
「ガイアよ、あまり羽目を外し過ぎるなよ」
「問題ないわい。さぁ飲みまくるぞ!」
ハイテンションな状態で男性陣はとっととエレベータの方へ向かい、最上階のバーテンダーへ向かった。
残ったのは学生と夫人のお二方にソフィーアちゃんと俺。
「お前らはどうする、上に行くか?」
クリスたちに問いかけると全員が否定を示す。
「それじゃあソフィーアをどうしましょうか、上のうるさそうな中には入れたくないわ。ソフィーアはどうしたい?」
「おにいちゃんといっしょ!」
「うーん、でも涼太さんは上に来て欲しいのよねぇ」
上のガヤガヤした空間にはソフィーアちゃんにはまだ早い。
俺もどうせツマミを用意しろとか言われるから無理。
「うーん、クリスたちに任せようか」
「あら、それは良いわね。ソフィーア、お姉ちゃんたちと遊んで貰ってはどうかしら?」
「おにいちゃんは?」
「今日はダメなんだよ。明日会いに行くから、ね?」
「やくそくです?」
「ああ、約束は守るよ」
そう言うと分かってくれたのかソフィーアちゃんは嬉しそうな表情を見せる。
「クリス、後は任せた」
「仕方ないですね、分かりました」
他の3人も分かってくれた様だ。
「では行きましょうか」
「何があるのかしら」
「ふふっ、ロセさん。驚かずにはいられませんよ」
「あら、それは楽しみですわ」
セリア王国側の2人は知っている口調だ。
そりゃ、グリムさんや陛下だけが利用するはずないもんね。
そんな話をしている内に最上階に着いた。
「これは……素晴らしいわね。幻想的ね」
ロセさんは早くも幻想的な空間に呑まれる。
「私たちはカウンターにしましょう。涼太さん、メニューを見せて貰えるかしら」
「どうぞ」
棚から3つのメニューを取り出して、各々の前へ置く。
俺は混ぜる酒と容器を準備する。
「どれも見た事がないわ」
「じゃあ定番のダイキリから頂こうかしら。以前に見せたパフォーマンスも見たいわ」
「ラミアさん、それはちょっと……」
パフォーマンスとはご存知の通り、カクテルを作る際に行われるパフォーマンスだ。
お客様に喜んで頂くための芸だが、以前に俺が趣味で練習をしているところをラミアさんに見られた。
正直な話、恥ずかしいんだよなぁ。
「それは気になるわ。私からもお願いするね」
プリシラさんも興味津々だ。
やるしかないか。
俺はグラスを3つ用意し、大きめのシェイカーを用意する。
ここからだ。
ラム酒のビンを取り出して動きに区切りを付けて素早くシェイカーの中へ入れ、ライムジュースと砂糖を加えシェイクする。
途中で瓶などをジャグリングし、パフォーマンスを加えて生成し砕いた氷の入ったグラスへ注ぐ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「お酒を容器に入れ、振るなんてね」
「どんな味がするのかしら」
3人は目の前に置かれたグラスを口に付ける。
「まぁ、上品な味」
「美味しいわね」
「ええ、本当に美味しいわ」
おっとりとした口調でラミアさんがそう告げる。
「おい、涼太」
「何ですか、陛下」
スッカリ酔いがまわった陛下が俺を呼ぶ。
あー、やだなぁ。
嫌な予感しかしない。
「ちょっくら他の2人も連れて来い」
「2人って誰ですか」
「んなもん四大公爵の残りに決まっているだろう。どうせだ。あやつらも呼ぼう」
何とも自分勝手な陛下だ。
「迷惑ですよ」
「いいから連れて来い! 王命だ! クハハハッ」
クッソ、職権乱用かよ。
あと人使いが荒い。
「はぁ、行ってきます」
「任せた」
俺はハルさんの屋敷の前へ転移した。
「止まれ! こんな時間に何用だ」
当然ながら門番さんに止められた。
ですよねー、分かってます。
真夜中にエプロン姿の男なんざ即不審者扱いですよね。
「ハルさんに国王陛下から緊急の呼び出しです」
俺は王家とセルビア家のバッジを見せる。
「ハッ! 失礼しました」
「場所案内は必要ありません」
俺は直行でハルさんの自室へ向かう。
「失礼します!」
「うおっ、ノックくらいせんかい。涼太か、依頼の件か?」
「ナバールさんの家に連れて行って下さい。それから陛下の命令で俺の家に来て貰います」
「なぜにエプロン姿…と言うかお主、少しやつれておらんか?」
そりゃ、こんな事になればやつれもするさ。
俺は何があったのか説明する。
聞いている内にハルさんは嫌だ嫌だと感じ取れる表情へ変わる。
「随分と楽しそうじゃないか、酒に酔って呼び出しをくらうとは妾の人生の中で初めてじゃ」
「そこを頼みますって!」
「お主が何とかせぃ」
断固として行こうとしないハルさん。
仕方ない、最終手段を取るか。
「あー、残念だなー。折角ハルさんの依頼で迷宮の魔物を損傷なしの状態で倒したのに。仕方ない…代用品でも探すか」
「待て」
「何ですか」
「それは誠か?」
「因みに始祖がつく魔物です」
それから十数分が経ち……。
「ナバールさん! あなたを王命で連行します!」
俺はナバールさんの自室へ殴り込みに踏み入る。
「涼太さん!? それにハル殿までどうされたのだ」
「理由は聞くな。涼太……やれ」
「うっす」
「ちょっ! まァァァァァァァァッ!」




