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91話 ライアット家へ

100万PV達成!

ご愛読ありがとうございます。



「さぁて、次は……どうしようかなぁ」


 ぶらぶらと歩きながら次の事を考える。


 依頼は多いと言えば多い。

 ライアット家の依頼の期限が近いから終わらせるか?

 でも場所が分からない。

 めんどいし今度にしよう。

 なんか言われても陛下の依頼があったと言えば渋々納得してくれるはずだ。


 それにしても暑いなぁ……。

 もう少しで涼しくなると思うけど夏って長いなぁ。


 俺は大きめのサイズな果実水を屋台で頼んで木陰に腰を下ろして涼みながら辺りの風景を眺める。

 昼前という事もあり、屋台で昼食を頼んでいる人もちらほらいる。

 辺りを見渡すと少し離れた空き地で子供たちが遊んでいる。


 アレは……ボールか。

 俺が以前にギルドと特許を契約したものだ。

 子供たちが手で羽根つきをしたり投げたりしてる。

 随分と微笑ましい光景だなぁ。


 俺は飲み干した果実水を側に置き大の字で寝る。

 そうすると草木が風でなびく音が聞こえる。


 はぁ、クリスたちの授業が終わるまでここに居ようかな。


「おや、涼太殿ではありませんか」

「んぁ?」


 思わず変な声が出た。

 目の前には1人の男性。

 スカしたイケメンことのハルトさん。

 ライアット家の懐刀で2つ名が疾風の人だっけ?


「お久しぶりです。大侵攻以来ですね」

「こんなところで出会うとは偶然ですね。何をされていたんですか?」


 なんて答えようか。

 ただ何も考えずにポケーとしてましたとは言い辛い。

 かと言っても嘘をつくのは罪悪感が出てくる。


「実はこの後にライアット家の依頼を受けに行こうかと思っていたところなんです」


 全力で嘘を付くことに決めた。

 罪悪感?

 そんなものは元いた世界に置いてきたわ!


「それではご一緒にいかがですか?」

「是非お願いします」


 俺はハルトさんについて行く。


「そう言えば、ハルトさんは何をしていたんですか?」

「私は買い物ですよ、何か良さげな武器があれば良いなと思ってね」

「ハルトさんの武器って何ですか?」

「メインがレイピアでサブが双剣です」


 ハルトさんは腰に刺している二本の短剣をポンポンと叩く。


「あれ? メインは持ち歩かないんですか?」

「あいにく以前の大侵攻で使い潰してしまったんですよ。長年使ったいたので寿命です。しかしアレは掘り出し物なだけあって中々代わりの武器に巡り会えないのですよ」


 へぇ、そうなんだ。

 武器選びって大変なんだなぁ。


 しばらく周りながらハルトさんと喋っていると大きな屋敷に着いた。


「ここがライアット家です」

「立派ですねー」


 門の前にライアット家の騎士が立っている。


「こちらはゲイル様の依頼を受けに来た冒険者の涼太殿だ。私が案内する」

「どうも」

「はっ! どうぞ、お通り下さい」


 快く門を通してくれた。

 中は豪華な装飾はなく質素なイメージが強い。

 しかし所々に飾られていたり、置かれている品は素人の俺から見ても一級品だと見て取れる。

 ハルトさんがとある扉の前に立ちノックをする。


「誰だ」


 中からは低く野太い声が聞こえる。


「私です、涼太殿が参られました」

「うむ、入れ」


 俺とハルトさんは部屋の中へ入る。


「よく我が屋敷に来てくれた。歓迎しよう」

「お久しぶりです」

「では行こうか」

「どちらへ?」

「お前の家だ」

「ピャッ!?」

「どうしたんだ?」

「いえ……何でもありません」


 デジャブだ。

 今朝のグリムさんとの会話がまんまだ。

 あまりの出来事に驚いてしまった。

 何でウチなんですか。

 歓迎もクソもねぇじゃん!

 ここで済ませましょうよ。


 ゲイルさんは立ち上がり部屋から出ようとする。


「では馬車で向おうか」

「ゲイル様、それは必要ないかと思われます」

「む……ああ、そうか。涼太よ、お主には転移魔法があったな。ハハハッ、つい癖が出てしまったわい」


 ゲイルさんは豪快に笑う。

 おかしい。

 サラッと流したがとんでもない発言が出たぞ。

 えっ……いつもの癖でって何ですか。

 ゲイルさんって俺の家に通い詰めているんですか?

 頑固でお堅い人ってイメージが俺の中で構成されていたんですけど。

 早くも崩れそうな予感がする。



「すまんがワシの家にも陛下と同じ扉を付けてはくれんか? その方が楽だ」

「ゲイルさんって俺の家に頻繁に来られるんですか」

「うむ、お主の用意した酒も見事ながら何よりも風呂とマッサージチェアは素晴らしい。アレは老骨の身に染みわたる」


 知らん間に俺の風呂が使われていたんだね。

 日が変わる毎に自動的に【クリーン】を発動する様に設定して、メイドたちにも風呂は沸かしてくれと頼んでいるから問題は無いんだけど。

 そう言えば、陛下の依頼にプリシラさんがシャンプーを欲しがっていたって依頼があったな。

 という事は、あの人らも俺の風呂を使ってたんかい!


「分かりました、防犯防止の為にも登録者以外には扉が開閉しない仕組みになっています」

「うむ、問題ない」

「はい、分かりました」


 了承も得た事だし俺は自宅行きの扉を設置する。


「向こう側にも設置して来ますので少々お待ちを」



 看板には【ライアット家行き】の看板を立てかける。

 隣には王城行きの看板がある。

 何ともシュールだな。


「お待たせしました」


 俺は扉を開けて、ゲイルさんたちを招き入れる。


「うむ、ではお主の部屋で済ませよう」

「分かりました」


 分かりました。

 完全に今朝との再現が行われている事が分かりました。

 となれば必然。

 この後の行動も読める。


「もしかして昼食は俺の家で取られるのですか?」

「ほぅ、よく分かったな。頼めるか」

「了解です」


 俺は部屋の中を開ける。

 すると目の前には散らばった武器が並べられている。

 ヤベッ、放りっぱなしだった。

 これだけ多くの武器を使う気は無いし、使わない物は置いておいても仕方がない。

 どうしよう……捨てるか?


「すいません、片付けます」

「涼太殿、少し待ってくれないか」

「どうしたのだ、ハルトよ」


 突然の言動にゲイルさんも疑問を抱く。


「別の部屋に寄せて貰っても構わないからこれらを見せて頂けないでしょうか」

「となると……これらはお主の目から見ても一級品だと?」

「はい、恐らくはこの中で低い物でさえ数ヶ月に一度巡り会えるかどうかの代物です」

「ほぅ、ならば私も見させて貰おう」


 2人はその場に腰を下ろす。

 ハルトさんは几帳面に剣を取り、じっくりと眺める。

 そのウットリとした表情は目を背けたくなる。


「すばらしい……」

「ほぅ、これはどこで手に入れたのだ?」

「えっと……ほら、ダンジョンとかに宝箱ってあるじゃないですか。そこで見つけたり、落ちていた物を拾いました」


 嘘はついていない。

 迷宮で落ちていたやつだもん。


「因みに涼太殿はこれらをどうされるのですか?」

「使い道がないので処分しようかと……」


 俺が思っていた事を発言すると、ハルトさんは血走った目で俺の肩を掴んで来た。


「それは勿体無いです! 何よりこの剣たちが可哀想です!」

「は……はぁ」


 クールビューティーはどこへ行ったのか、

 今のハルトさんはただの武器オタクにしか見えない。

 豹変し過ぎだろ。


「ふむ……涼太よ。それならばお前は店を持ってはどうだ?」

「おお、ゲイル様。それは良い案です」

「えっ……俺がっすか」

「うむ、冒険者しかり騎士も己の武器は最高の物を欲しているだろう。特にこの武器たちは貴族も観賞用として欲しがる者も少なくないぞ? ワシもほしいし


 店か…確かにそれも一案だよな。

 この武器たちも俺のアイテムボックスの中で眠るよりも使われた方が武器として良いだろう。

 それに今後の事も考えると、俺の自作の武器がもしも売り物になるのであれば商品としておいて置く可能性も出てくる。

 だが、俺には致命的に欠点がある。


「しかし、店を任せる人材が……」

「ならば私の部下を貸そうか? 信用ならば我がライアット家の名にかけて守ろう」

「それでしたら……俺自身が人を見繕うまでの間をお願い出来ますか」

「うむ、そうしよう」

「では雇うにあたっての日給についてですが……」

「それについては必要ない」


 日給は必ず必要だろう。

 無償で働かせる訳にはいかない。

 どういう事だ?


「しかし……」

「お主には普段から世話になっておるからな。その礼じゃ。どうしてもと言うならば、美味い飯でも食わせてやれ」


 世話ってなんだ?

 もしかして風呂の事かな。

 別に俺自身が迷惑してる訳ではないから問題は無いんだけど。

 これが上に立つ者の威厳ってやつか。

 謙虚は良いが、誠意受け取らないと言うのも失礼だ。

 ここは有難く受け取っておくか。


「ありがとうございます。では是非そうさせて貰います」

「それでは後ほど行こうか……おっと忘れるところだったな。これが国王誕生祭の献上品だ。任せたぞ」


 ゲイルさんは手元にあった袋から包装された物を取り出す。

 薄い割に縦幅が長い包装だな。

 推測するに剣か槍の類か。




 その後に手っ取り早く昼飯を作る。

 卵を使った和のフルコースは大変喜ばれたので作った甲斐がある。

 腹を満たしたゲイルさんはハルトさんと屋敷へ戻った。


 さて、行こうかな。

 俺はいつも通りの道順で商業ギルドへと向かう。

 中へ入ると職員が一斉にこちらを向く。


 おいコラ、なんだその一致団結な眼差しは。

 一般人様のご来店だぞ。


 1人の職員が急いで奥の部屋へ駆け出して行った。

 はぁ、なんで俺の来店だけでこんなにも慌ただしくなるんだよ。


「お久しぶりです、涼太様」

「どうも、エルザさん」

「本日はどの様なご用件でしょうか」

「えっと……実は店を……」


 俺の声にザッと団体行動でよく聞く綺麗に統一された時に発する物音が聞こえる。


 もうヤダァ。

 帰りたい。

 このギルドの人たちおかしいよ。

 冒険者ギルドよりも怖いもん。


「ほうほう、それは素晴らしい。因みにどの様なお店でしょうか」

「武器屋を開こうかと」

「「「「「「「「「「チッ……」」」」」」」」」」



 君たちぃ。

 何が不満なんですか!

 いいじゃん!

 誰がどんな店を開こうとその人の勝手じゃん!

 なんでそんなに残念がるんですか!

 泣いちゃいますよ。

 俺のメンタルって実はカバーガラス並みに脆いんですよ!?

 デコピンをしたら割れちゃうんですよ!


「因みに何か他に出されるご予定はありますか? 例えばプリンとか」

「いえ、それはまだ未定です」

「それは失礼しました。 チッ…



 何も聞こえない。

 圧政の声なんて聞こえない。

 日に日にストレスでも溜まってるんですか?

 怒っちゃうぞ。


「あー、ではこちらの用紙にご記入下さぁい」


 急に雑な態度になるエルザさん。

 ハッハー、そんな態度を取ってもいいんですか?


「せっかく作って来たんですが…どうやら気分が優れないご様子。でしたら代わりに冒険者ギルドにでも新作・・お菓子を届けに行こうかなぁ」

「直ぐにお茶のご用意を」

「ハッ!」


 入れ替わり速いなオィ。

 迅速にお茶が俺の前に出される。

 周りのギルド役員は清々しいほどの営業スマイルだ。

 俺はその間に登録書を書く。

 店の場所は孤児院付近の空き地で良いか。

 在庫処分程度の感覚だし、儲かる事は考えない。


「本当によろしいのですか? 街中に近い方が繁盛しやすいかと思われますが」

「大丈夫です」

「分かりました。ではこの立地は涼太様の物なのでお金は発生しません。以上で手続きを終わります。それで……」

「あー、はいはい。休憩の合間にでも食べて下さい」


 俺はお菓子の詰め合わせを机に置き立ち去る。

 ギルドを出た途端に黄色い叫び声が聞こえたのは幻聴だと思いたい。



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