表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/234

90話 誕生祭の相談

現状、柚ちゃんの登場は6章のプロローグになりそうです。



 早朝、俺はセリア王国へ移動する。

 冒険者としての依頼を実行する為だ。

 家の開通した敷地から隣のハイゼット家へ移動する。


「おぅ! 涼太じゃねぇか、久しぶりだな」


 タンクトップ姿のアザンさんが俺に気が付いてこちらへ近づく。


「何してるんだ?」

「早朝訓練が終わって涼んでいたところだ」


 確かに日が出て間もないから外は涼しい。

 早朝訓練は俺は出来ない。

 朝はのんびりしたい人だから。


「何しに来たんだ?」

「依頼だよ、グリムさんの」

「なるほどな、なら邪魔しちゃ悪い。頑張れよ」

「おう」


 俺はアザンさんと別れて、グリムさんの自室に向かう。



 コンコンッ



「入れ」

「失礼します」

「なんだ……涼太か」

「お久しぶりですね」

「悪いが少し待ってくれ」


 書類に目を通しているいつものグリムさんだ。

 山の様に積み重なった書類は気苦労が見て取れる。

 手を動かし、キリが良いところまで終わらせる。


「では移動しよう」

「どちらへ?」

「お前の家だよ」


 あっ、俺の家っすか。


「悪いが朝食はコイツの家で済ませる」

「承知しました。料理長にはそう伝えさせて頂きます」


 グリムさんはメイドにそう告げ、椅子から立ち上がり自室から出て行く。

 俺もその後について行く。


「あら、久しぶりね」

「お久しぶりです」


 廊下を歩いている最中にラミアさんと反対方向から出くわした。

 朝だが綺麗な服に髪もセットしてある。


「あなた、どちらへ行かれるの?」

「依頼の件で涼太に相談だ。ついでに朝食を食べに行く」

「あら、それなら私もご一緒でも構わないかしら」

「俺は別に構いません」



 という事で2人は俺の自室の方へやって来た。

 2人なので大きなダイニングテーブルで食べる必要もなく、厨房へ行く手間も省く為だ。

 2人は丸い4人用のテーブルに座る。

 4つ置かれている椅子に隣同士で座るあたり、本当に仲の良い夫婦が主張されている。


「何か食べたい物はありますか」

「私はサンドイッチを頼む、カツが多めだ。飲み物はコーヒーを貰おう」

「私は…そうね。甘い物が食べたいわ。紅茶をお願い、あとデザートも楽しみにしてるわ」


 グリムさんの方は至って普通。

 カツが多めは俺も同意権だ。

 やはりサンドイッチと言えばカツだよな。

 パン屋でいろんな種類のパック詰めのサンドイッチを食べる時は俺もカツを最期の楽しみとして取っておく。

 この考えを共有できる人は多いはずだ。


「朝から甘い物は気持ち悪くならないか?」

「偶には良いじゃないの」

「まぁ、お前が大丈夫ならいい」



 俺は時間停止型冷蔵庫から作り置きしていた食パンと具材を用意する。

 手早く魔法を併用していくうちにサンドイッチの具材は出来上がった。

 あとは挟むだけ。


 次にラミアさんの方だ。

 何にしよう。

 甘い物……ホットケーキは普通過ぎて面白みが足りない。

 となるとパンケーキか!

 フワフワパンケーキにしよう。

 アテナたちにも絶賛だったから問題ないはずだ。


 俺は牛乳や小麦粉をボールに入れ、ダマにならない程度に混ぜる。

 そして卵を数個用意し卵黄と卵白に分ける。

 卵白の方をミキサーでメレンゲ状にして先ほどのボールの中に入れる。

 ここでグチャグチャに混ぜれば台無しなので、ヘラでメレンゲを優しく包み込むかの様に混ぜて、弱火で熱したフライパンの上にゆっくりと流し込む。


 頃合いを見て裏返し、薄く茶色の焦げが付いたら皿に乗せる。

 粉砂糖を振りかけ、カットしたルビーストロベリーとホイップクリームを乗せて完成だ。

 見栄えを良くする為にミントを少し乗せる。

 別の容器にベリーの酸味と甘みを調和させたジャムと蜂蜜を用意した。


 うん、我ながら芸術だな。

 日に日に凝っていくよなぁ。


 紅茶とコーヒーはポットを用意して2人の前に置く。

 その程度は自分でして下さい。


「お待たせしました」


 グリムさんの方に盛り付けたサンドイッチを、ラミアさんの方に作ったフワフワパンケーキを置く。


「わぁ、凄いわ! 芸術ね」

「なぜだろうか、並べると私のサンドイッチが霞んで見えるな」


 味の方は何も問題はない。

 サンドイッチはグリムさんの好物だ。

 しかし、確かに並べてみると見栄えは三ツ星レストランのシェフが作った一級品と食堂のおばちゃんが作った栄養満点の定食ほどの差が滲み出ている。


「あら、あなたはサンドイッチが好きなのでしょう。取り替えはしませんよ?」


 ラミアさんがそう言うとグリムさんは何か頼み込むかの様な表情でこちらを向く。


「……分かりました。残った物で作るのでサイズは小さめになりますよ」

「おお、助かる」


 俺は再びキッチンに戻り同じ作業を繰り返す。

 そうして小皿に乗った可愛らしいパンケーキが完成した。

 俺もエプロンを外し、先ほど作ったサンドイッチとコーヒーをテーブルに置く。


「では頂こう」


 グリムさんとラミアさんは初めに気になって仕方がなかったパンケーキに手を付ける。


「えっ……」

「ぬっ……」


 何も力を入れていないはずなのにフォークがパンケーキを切った。

 2人は今まで体感した事のない出来事に驚く。


「まるで雲ね」

「コレは本当に食べ物なのか?」


 2人は恐る恐るそれを口に運ぶ。


「「ッッ!」」


 口に入れた瞬間に2人は驚き目を見開く。


「凄いわ、本当に雲を食べているみたい……」

「お前は本当に常識を超えるな」

「ありがとうございます」

「それにしても、付け合わせが……ふふっ。流石は涼太さんね」

「はい?」


 イチゴジャムをたっぷりパンケーキに付け、幸せそうな表情のラミアさんが何かを言う。

 どういう事かな。



 食器を片付け、ゆっくりとした食事が終わる。

 2人は食後の余韻に浸るかの様にマッタリとした雰囲気を醸し出す。


「美味かったぞ」

「ごちそうさま」

「お粗末様です。そう言えば護衛の件ではご迷惑をお掛けしました」


 俺は依頼を忘れていた事を謝る。

 少なからずグリムさんに迷惑を掛けたと思う。


「気にするな。お前はクリスを無事にラバン王国へ送った。重要なのはそれだけだ」

「そう言えば、クリスはどうしてるのかしら? 学園が始まって涼太さんと離れ離れだと大丈夫かなと心配なのよ」


 ラミアさんが頬に手を当てて困った表情を作る。


「心配し過ぎだぞ、ミセルもいるのだぞ」

「あー、それについてなんですが……」



 俺はクリスを送り届けた後の一連の出来事について2人に話す。

 話しているうちにラミアさんは面白おかしそうな表情に、グリムさんのこめかみに血管が浮かんだが、すぐに呆れた表情へ変わる。


「何というか……迷惑を掛けたな。いや…現在進行形で迷惑を掛けているか」

「あらあら、私はその方が良いと思いますよ」

「お前は普段どうしているのだ?」

「俺はなぜかケイオス学園の学園長に頼まれて週に一度の臨時講師をしています」


 俺の言葉にグリムさんは納得する。


「という事はクリスは夏から涼太さんとずっと一緒なのね」


 むしろ一緒にいる頻度は明らかに増えた。

 朝起きれば顔を合わせるし、放課後は基本的に訓練で2ーAとJと一緒だ。

 帰ってからも……どんだけ一緒なんだよ!

 もう家族レベルに過ごしているぞ。


「はぁ、クリスはいつ学園から帰って来る?」

「放課後に魔法聖祭の練習を行うので19時過ぎに帰宅すると思います」

「分かった。一度クリスと話をするから、もう一度こちらに来てくれ」

「分かりました」


 どうやら今晩はクリス被告の裁判が開かれそうだ。

 ドンマイ!

 俺は第三者なのでワインを片手に楽しませて貰おう。


「ふむ……どうやら相手がお前だと、冒険者に依頼を頼むという感じになれんな」

「あら、それは1人の友人としてかしら、それともクリスの婿候補としてかしら?」


 ラミアさんがとんでもない爆弾発言をする。

 それはもう孤島に戦略級ミサイルを撃ち尽くし、核爆弾を落としたかの様な発言である。


 俺はギギッとサビきったネジを回すかの様にグリムさんの方を向く。

 するとグリムさんは腕を組んで目を瞑り、眉をひそめる。


 それはまるで悩んでいると受け取れるポーズじゃありませんか。

 あれぇ!?

 お前なんぞに娘はやらん! とか言われると思ったのに何ですか! その反応は!


「あらあら、満更まんざらでもないのかしら」

「正直な話だが、クリス宛の縁談の話はそれなりにきている」


 マジっすか。

 まだ中学生だぞ!?

 いや…この世界の結婚年齢は早い。

 更にクリスは公爵家令嬢、縁談が無い方がおかしいのかな。


「どこの馬の骨とも知らんやつに娘はやらん。お前はすでに四大公爵家どころか国王すらの後ろ盾がある。更に財政面でも既にそこらの貴族よりも安定している。そのカリスマ性は十分評価出来る。何より私はお前の事を信用している。お前が私の後を継いでも何の支障も出ないだろう」


 やめて!

 そんな目で見ないで下さい。

 この人、本気で俺を取り込もうとしてるんじゃないだろうな?

 そう思ってくれているのは嬉しいが、それとこれは別だと思う。


「第一、俺は平民です。貴族と釣り合いが取れるはずありません」

「確かに普通ならばあり得ないだろう。だが国益に生ずる働きをした者にはその資格があると見なされる事もある。お前は既にヨルムンガルドの討伐という大業を成した。陛下も問題なく了承すると思うぞ?」


 なんて事だ…すでに水面下ではその様な事が考えられていたのか。


「うふふっ、私は歓迎するわよ」


 ラミアさんも上機嫌に俺へ優しい言葉をかける。


「折角の誘いですが、今の俺には考えられません。クリスは……その……手のかかる妹みたいな感じです」

「ふっ……妹か。言い得て妙だな。今の事は胸の内にしまっておいてくれ」

「そうさせて貰いますよ」


 本当にビックリだよ。

 まさかグリムさんがそんな事を考えていたなんて。

 俺の人生の中で驚いた出来事ベスト5には入るぞ。


「では依頼の件について話そうか」


 ようやくか、依頼を受けに来たのに前置きが長過ぎだ。


「取り敢えず、これがラバン王国の王城へ持っていて欲しい書類だ」


 俺は1つの封筒を受け取る。


「受け渡し人はいますか?」

「私の名前を出せば、国王に直接出会える。よろしく頼むぞ」


 陛下を名前で呼ぶほどの仲と言い、何なんだろうなこの人は。

 グリムさんの方こそカリスマ性が高すぎるだろ。


「分かりました。必ず届けます」

「うむ。それと同時に国王誕生祭の祝いの送りたいのだが、思いつかないからお前に相談したいのだよ。あいにく私の立場は忙しくて間に合いそうにない。私は国王誕生祭の前日に出発だ」

「前日って間に合いませんよ?」

「おいおい、何のためにお前がいるのだ」


 何をバカな事を聞いているんだと言う表情を俺に向ける。

 そうですか、俺の魔法ならひとっ飛びですからね。

 チクショウ! 便利に使いやがって!


「それで何か無いか? 珍しい物が出来れば良い」


 うーん、珍しい物か。

 プレゼントを選ぶのって苦手なんだよな。

 俺はアイテムボックスの中にある物で見合う物がないか考える。


 宝石は男だし喜ばないだろう。

 クリスたちが来ている服とか?

 自動体温調節機能や防御システム、死に至る外傷を一度だけ防ぐ事の出来る機能などがある。

 でも王様へのプレゼントに地味な服一枚渡しても打ち首になるだけだ。

 武器は…確か黒の迷宮でドロップした物があったはず。


 俺はアイテムボックスからドロップした武器を床に並べていく。

 結構な数があるな。


「コレは……涼太、済まないがアザンを呼んで来てくれないか」

「分かりました」


 俺はハイゼット家へ移動しメイドさんたちに聞いて回る。

 アザンさんは自室で筋トレの真っ最中だった。




「及びでしょうか」

「うむ、アザンよ。お前にはこれらの武器がどう見える」

「拝見します」


 アザンさんは床に置かれた武器を手に持ってじっくりと眺める。


「……これは、本物ですか?」

「やはりそうか」


 なに?

 なんかヤバい物なのか?

 俺には分からないが迷宮産ってヤバいのかな。


「これは聖剣だ」

「はぁ……」

「聖剣と言えば、この世界で十数本しか確認出来ていない代物だ。魔を討ち亡ぼす国宝の代物だ」


 おお、凄いじゃん。

 そんなにレア物とは知らなかった。

 俺って基本的に敵は力技で倒しているから気にした事がなかったよ。


「それじゃあ、これで決まりで良いのでは?」

「うむ……しかしコレをお前から買い取るにしても金額がな……」

「必要ないですよ」

「ダメだ、そこは私のプライドが許さない」


 俺は本当にどうでも良いんだけどなぁ。

 今後も使わないだろうし、宝の持ち腐れというやつだ。

 でも、グリムさんも自分の意思は曲げない人だからな。


「それなら貸し一つでどうですか」

「なに?」

「俺が面倒ごとを持って来た際にはグリムさんが責任を持って助けて下さい」

「ふっ……私に貸しを付けようとはな。分かった。何があろうとも一つ、お前を助ける事で手を打とう」


 俺とグリムさんはお互いに握手を交わす。


「それでは2つをよろしく頼むぞ」

「分かりました、依頼をですからね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ