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89話 しっぽ取り



 俺は出来たとは言え、どの程度に出来ているのか知りたかったので学生+レナさんに障害物を使って出来具合を見る事にした。


 どうせなので障害物コースを創造する。

 内容は15メートルのロッククライミングに池に浮き輪を置いただけのコース、更に幅5センチの平均台。

 あとは適当に設置する。

 地球での運動会をイメージだ。


 ここで俺は自分の見積もりが甘かった事に気がつく。

 この世界は弱肉強食の世界。

 戦いなど縁がない温室育ちの元いた世界の住人ではない。

 地盤がハイスペックな上に魔法というチートを使う。


「何だよ、簡単じゃん」

「足に魔力を補ってジャーンプ! やったーブイッ」

「物足りねぇー」


 全員が余裕でその障害物をこなす。

 鼻歌交じりでこなす生徒すら出て来る始末だ。

 何だよ、その哀しげな表情は。


「先生、これカモ過ぎんぞ?」

「楽勝楽勝」

「涼太さん、去年の障害物競走よりは難しいですがそれでも簡単ですよ」


 既に全員が5種目の内、1種目を攻略した。


「先生さぁ、俺らを舐め過ぎだぜ」

「本当に凄いの?」

「正直、落胆だわぁー」


 2ーA、Jの生徒は余裕の表情だ。


 俺の事を深く知っているクリスとミセルは何も答えない。

 恐怖に染まった顔をする。

 まるで自分たちに災厄が降りかかる前兆を知っているかの様だ。

 そうだ、よく分かっているじゃないか。


 俺はニッコリと笑い、両手でパンッと平手打ちをする。


「それじゃあ、しっぽ取りをしよう ♪」




 ♢♦︎♢



『ハァハァ、こちらチームB。1人狩られた。至急応援をたの……ギャァァァッ!』

「ロイッ! クソッ、やられたか!」


 ジャッファルは悔しげな表情を見せる。

 周りには草木で生い茂った森がある。

 この空間の森林エリアだ。


 ザザッと周りで音がし、ジャッファルは腹ばいの姿勢で身を隠す。

 それはまるで野生の獣。

 そう、獣である。

 今の姿は耳は人族であるが、お尻の付け根に獣人の特徴でもあるフサフサした尻尾が付いている。


(マジであの先生何でもありかよ!)


 悔しげな表情をする。


(ッッ! ヤベェ!)


 何者かの足音が聞こえたと同時に、ジャッファルは瞬時に息を殺す。

 そこに現れたのはクルクルとククリ刀を回しながら辺りをキョロキョロと見渡す黒い影。

 涼太が創造した黒鬼と言う魔物。

 その特性は獣人の尻尾を狩る。


 このしっぽ取りのためだけに創った。


 生徒は恐怖に逃げようとするが、直ぐに追いつかれて自分のチャームポイントを狩られる。

 この黒鬼の武器は幻想形態なので実際に外傷を負うことはない。

 例え体を斬られても【透過】を付与させた武器の効果ですり抜ける。

 ただし、尻尾のみは例外で痛覚が共有されている。

 尻尾を狩られた生徒は激痛と共に森林から強制転移させられる。


 これこそ涼太が考えたしっぽ取り。

 先ほど言われた要望通りの楽しい訓練だ。

 魔法聖祭の訓練にもなる上に、尻尾を大切にしている獣人の気持ちも分かる一石二鳥の訓練だ。


「ジャッファル君」


 突然背後からかけられた言葉にビクッとジャッファルは驚く。

 後ろを振り向くと猫の尻尾をユラユラと揺らめかせるシャルの姿。

 その後からクリスたちがやって来た。


 斑点模様がチャームポイントの猫の尻尾を生やしたクリス、狼のフサフサした尻尾を生やしたミセル、ウサギの丸みのある尻尾を生やしたロゼッタ。


「ハイゼット、生きていたか」

「ええ、何とか生きてました」

「他の奴らはどうなった?」

「私が最後に見たのはレナちゃん先生が涙目で狩られるところでした」

「そうか、レナちゃん先生は逝ったか……」


 ジャッファルは涙を拭う。


「残り時間は10分、こんなにも長く感じる10分は初めてだぞ」

「本当に何であんな事を言ったんですか」

「正直、数日で強くなった事を口実に先生の事を軽視していたわ」

「全くです……ッ!」

「おい、どうし……」


 会話に夢中になっていたクリスたちは警戒を緩めてしまった。

 その行為が命取りとは知らずに。


 何やら気配を感じたクリスは右を振り向く。

 それにつられて、その場に居た全員も同じ方向を向く。


 そこに居たのはチェーンソーを持った黒鬼と先ほどのククリ刀を持った黒鬼。

 距離は十数メートル。

 まだ距離はある。

 しかし、目が合ってしまった。



『『ミィ……ツケタァ……』』


 二匹の黒鬼は不気味な声を上げてクリスたちの方を向く。



「「「「「キャァァァァァァァァッ!」」」」」



 その場に居た全員は悲痛の叫びを上げて全速力で逃げる。

 あまりの恐怖にアドレナリンが溢れ出てる。


「ヤベェ、マジでヤベェ!」

「あなた! 何で悲鳴が私たちと同じなんですか! 女の子ですか!」

「しゃあねぇだろ! 釣られたんだよ!」


 男としてのプライドが高いジャッファルだが、そんな事に構っている暇はない。

 逃げなければ狩られる。

 狩られる側とはこんなにも怖いのかと身に染みて分かる。


「お嬢様、このままだと追いつかれます。ここは私が!」

「ダメよ! 一匹ですら私たちが力を合わせてギリギリで倒せたじゃない! それが二体よ!」


 クリスは自ら狩られようとするミセルを必死に止める。


「では囮作戦でいきましょう。ジャッファルさん、よろしく」

「はぁ!? 何で俺なんだよ!」

「男の子でしょ、死んで来て下さい」

「それなら狩られる可能性が低い奴が行くべきだ、例えば尻尾の短い奴とか」

「それ私ですわよね!? ウサギは寂しいと死んじゃうんですわ! 道連れにして差し上げますわ!」


 いがみ合いをするがお互いの傷を舐め合っているだけで何も解決しない。

 そして更なる絶望が目の前に現れる。


「三体目ですか……」


 目の前には腕だけが肥大化した黒鬼が現れる。


「クソッ、挟み討ちか」

「尻尾の引き抜きコースですか、なら斬られた方が……」

「ミセル! 諦めないでよ!」


 5人はお互いを背にして円陣を組む。

 三匹の黒鬼は逃すまいと三方向から囲む。


「どうやら戦うしか選択肢はないようですね」

「お嬢様、どうしますか」

「私とミセルで武器持ちを、他のみんなは素手のをお願い」

「分かった、死ぬんじゃねぇぞ」


 5人はお互いの敵を見定めて行動に移す。

 クリスはチェーンソーの黒鬼を、ミセルはククリ刀の黒鬼を。

 ミセルは腰に携えていた愛刀を。

 クリスは魔法により生成した氷刀を握る。



【しゅーりょー!】



 狩られる覚悟をした途端に頭上から終了の合図が流される。

 気がつけばクリスたちの目の前にはお菓子を頬張っているクラスメイトがいる。




「お疲れさん、どうだった?」

「死ぬかと思いましたよ!」


 クリスは必死に俺へ抗議する。

 いやぁ、見てる側としては楽しませて貰いましたよ。


「良かったじゃないか、今日だけで他の組とは比べ物にならない程の濃密な訓練が出来たぞ」

「それはそうですが……」

「クリスちゃん、もう終わったんだから食べようよ。はい、どうぞ」


 皿いっぱいのドーナツを乗せ、口に運んでいるシャルが止めに入る。

 クリスはパクリとシャルの持っていたドーナツを齧ると幸せそうな顔をする。


「そうね、食べよ」


 クリスは今のやり取りを忘れ、スキップをして自分の欲求を満たしに行った。

 何か食べよう。

 リーフパイとクッキーを皿に乗せて空いている椅子に座り口へ運ぶ。

 やっぱりサクサクお菓子は美味いなぁ。


「涼太さん」

「どうしたんですか、レナさん」


 俺の隣にレナさんが座る。

 その表情からは吹っ切れた様な自信が見て取れる。


「私は教師として生徒に接してきました」

「教師ですからね」

「いいえ、それは本当の意味で教師ではないと思うんです」

「どういう事ですか?」

「人の成長は無限です。あの子達を見て分かりました」


 レナさんは楽しそうにしている生徒たちを見る。


「私が習って教えてきた事は生徒の限界を留めていると常々感じます」

「それは俺も思いますよ」

「生徒や教師以前に同じなんですよね。だから私は生徒と同じ歩幅で歩んでいこうと思います」

「それで良いと思いますよ」

「だから……その……気付かせて貰いありがとうございました。それだけです」


 レナさんはそれだけ告げてその場から去って行く。

 一体何なんだろう。

 生徒と同じ目線で接するって事かな?

 俺の場合は普通に殴りかかって来るから良いものではないと思うんだが。


「涼太さん! レナちゃん先生と何を話していたんですか!」


 手に綿菓子を持ったクリスが迫って来る。


「別に何でもないよ」

「それにしては親密でしたねぇ! ねぇ!」

「気にするな、それよりもどうする? ここで夕食を作るか」

「涼太さんの料理は美味しいですから、みんなも楽しみにしていると思いますよ」

「分かった。夕飯作るから食べ過ぎんなよ」

「了解です!」



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