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87話 お金を受け取りに


 放課後を知らせるチャイムが鳴ったと同時に俺は2ーAクラスへ向かった。

 長く直線に広がる廊下では各クラスの扉が開かれ、生徒たちが出てくる。

 俺はそれに紛れて進む。


「おーい、クリス。終わったか」


 俺の声にクラスに居た生徒全員がこちらの方を振り向く。


 息が合い過ぎて、団体行動をしているかの様だ。

 何ですか、とても怖いです。


「どこ行ってやがった!」


 ジャッファルが借地で俺の懐に入り、強烈なアッパーを放つ。

 俺は手のひらでそれを受け止める。

 何かが破裂した音が響き渡る。


 クリスの回し蹴りは服がクッションになってそこまで音は出なかったが、素肌だと凄い響くな。

 廊下に居た連中までこっちを見てるぞ。


 というか君ら……。

 血の気が多過ぎないかい?

 なんで再開早々攻撃を仕掛けてるのさ。


「俺じゃなかったらヤバかったぞ」

「先生だから安心して全力で殴れるんだよ」


 仰る意味が分かりません。

 俺って教師だよ?

 教師に実践授業以外で暴力振るったら停学ものなんだよ。

 その俺ならいいやって考えは改める必要があります。


「調子はどうだ?」

「おぅ、確実に進化してんぜ! 今すぐ図書館裏に行こうぜ」


 ジャッファルはウキウキと己の力を見せたいのか、やる気に満ち溢れている。

 よく見ればクラス全員が同じだ。


「悪いが先約があるんだよ」

「はぁ? 誰だよ」

「私たちよ」

「何の用事だよ」

「ヒ・ミ・ツ ♪」


 クリスは人差し指を口に当ててウィンクをする。

 どこからどう見てもアザといが、やられてる側としてはドキドキしなくもない。


「はぁ? キモ……」

「あ?」


 俺は瞬時にジャッファルの口を後ろから塞ぐ。

 バカか!

 何で自殺行為に走るんだよ!

 俺でも背筋が凍る声音だったぞ。


「クリスは美人さんだから、思わずドキッとしちゃったよ」

「えへへっ、そうですか?」


 クリスは鬼の形相から天使の微笑みへと変わる。

 あ、危ねぇ。

 女って本当に怖い。


「ジャッファル、時間はかからないと思うから先に行ってろ。今日は好きなだけ付き合ってやる」

「おっし、約束だぜ!」


 そう言うとジャッファルを含めたクラス全員は教室から出て行った。


「それじゃあ行こうか」



 そう言い、俺たち5人は学園から出て行き商業ギルドへ向かう。

 商業ギルドの中へ入ると中では何やら揉め事が発生している様だ。


 揉めている相手は中年男性かな。

 フードを被っているせいでよく顔は見えない。

 隣に執事がいるからそれなりの身分の人か。


「届く見込みはあるのか?」

「申し訳ございません、未だ未定に御座いまして……」

「そこを頼みたいのだよ」

「しかし……」


 どうやらお困りの様だ。

 あれを処理しないと俺たちの出番は回ってきそうにないな。

 仕方ない、仲裁するか。


「何かお困りでしょうか」

「む……ギルドの者…ではないな。気にするな」

「もしかしてお探しの物とは文房具の事ですか?」

「そうだ。娘が買ってきて試しに使わせて貰ったが、素晴らしいの一言だ。しかし時すでに遅し、売り切れで困っているのだよ」


 すいません、俺のせいでした。

 そんなに凄かったですか。

 俺が片付けるしかないな。



「おや、月宮様ではありませんか!」

「あ、どうも」


 家を買った時の担当さんだ。


「お客様、私は当ギルド長を務めておりますゼノスと申します」

「ギルド長か、それで品の宛でも見つかったのか?」

「勿論に御座います」

「ほぅ、聞こうか」


 チラッとゼノスさんは俺の方を向く。

 あー、この人。

 俺に面倒ごとを押し付ける気だ。

 やだなぁ、分かっちゃった。

 当てます。

 ゼノスさんは次にこう言うでしょう。


「(こちらにおります月宮様が文房具の考案者に御座います)」


 ほらぁ!

 言った通りだよ。


「ほう、お主がこの文房具の考案者か。ならば今持っておるか?」

「……はい。では奥でお話しをしましょう」

「では、私がご案内致します」


 クリスたちを含めた俺たちはギルドの奥へ向かう。



「ねぇねぇみんな、ツッキーなんか慣れてない?」

「涼太さんですから」

「涼太様ですからね」

「そう言えば、お父様の時も何か慣れてらっしゃいましたね」


 おいコラ、それで片付けようとすんなよ。

 確かに冒険者ですが、政治や商業に関わる方が多いですがぁ!


 俺と貴族の方は4人は座れるであろうソファーに対面する形で座る。

 クリスたち学生は後ろで立ち、ゼノスさんはお茶を用意する。


「ゼノスさん、商品を公式に販売するのに許可は必要なんですか?」

「はい。本来は必要ですが、今回は例外と見ましょう。この後に行います」

「分かりました」


 寛容な持ち主でありがたい。


「お客様はどの様な商品をお求めでしょうか」

「あのシワひとつない純白の紙とインクが入っているペンは欲しい。他にも見せて欲しい」


 うーん、取り敢えず学園に出した同じやつでいいか。

 俺は机の上に紙やらペンを出していく。


「ほう! 多様であるな!」

「お探しの商品は御座いましたか?」

「どうせだ、全て試させて貰おう。全ての商品を10ずつ貰おう」

「かしこまりました」

「それで……いくらだ」


 隣にいた執事が硬貨が入っているであろう袋を出す



「銀貨3枚と銅貨2枚に御座います」

「ほぅ……これだけの物がその値段か。安過ぎないか?」

「いえ、これは元々学生の為に用意した物なので良心的な値段にさせて頂いております」

「その心遣い見事だ。お主の名を聞かせてくれるか」

「月宮涼太と申します」

「覚えておこう、また来よう」



 そう言い部屋から出て行く。

 何だろう……妙に威厳のある人だったな。

 凄い人が発する圧を感じたよ。

 まぁ、何にせよ問題は解決だ。


 俺は出された紅茶を飲み干す。


「それでは文房具についての商談を始めましょう」

「いえ、その前にこの子たちの要件を済ませたいです。宝石の件です」


 後ろにいたクリスたちを指差す。

 ゼノスさんは理解した表情で頷く。


 元々クリスたちの要件の為にギルドへ来たんだから俺の要件を先に済ませるのは御門違いだろ。


「という事は月宮様が保護者と言う事でよろしいでしょうか」

「はい。クリスたちこっちコイコイ」


 手招きをして俺が座っているソファーに座らせる。

 5人だがちょうど座れる大きさで良かった。


「ではこちらが買取の金貨に御座います。お客様は4人分に分けさせて頂きました。以前にお渡しした金額を引いて4億2千万に御座います」


 ゼノスさんは4つの箱に綺麗に置かれた硬貨を見せる。

 ミスリル金貨一枚と金貨四枚、銀貨が百枚ってところか。

 確かに一般人からして見れば大金だよな。

 硬貨の入った小箱は各々の目の前に置かれる。


「ご確認をお願いします」


 ゼノスさんがそう言うとクリスたちは目の前に置かれた硬貨を数える。

 最初に数え終えたのはクリス。

 数秒間、直視して俺へグッドサインを送る。

 相変わらず速いっすね。


「い……いち、にい、さ……さぁん……」


 1人だけガチガチに固まって目を回している人物がいた。


「シャル、あなたの分も間違ってないわよ」

「ほ、ほんと!? クリスちゃん!」

「だから慌てないで」

「わ、分かった」


 動揺を隠せていたいシャルをクリスが落ち着かせる。


「ボクこんなお金怖くて持てないよぉ」


 シャルはプルプルと小箱を震わせながら大事に持つ。

 アイテムボックスに入れるならば問題ないだろうが、心配なのかな。


「なら俺が預かっておこうか?」

「ツッキーが?」

「必要な時は言ってくれたらいいよ。それに成人になればギルドで口座も作れるからその間だけだよ。どうする?」

「それ! それでお願いします!!」


 シャルは必死に首の上下運動をする。


「なら私もお願いします」

「お嬢様が仰るならば私も」

「そ、それなら私もですわ!」


 それに便乗するかの様に他の3人も俺の目の前へ小箱を置く。


「分かったよ、預ろう」


 俺は小箱をアイテムボックスに入れる。

 目の前に置かれた大金が無くなったのか、シャルは平常心を取り戻す。


 そこまで心臓に悪かったか。


「それじゃあ、後は俺の商談だけだから先に訓練を始めておくか?」

「はい! 待ってますね!」



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