83話 VSエラー
【一時的な神化により、神器創造の限定が解除されました】
目を閉じる。
それだけであたり一帯の空間が俺と死神のオーラで埋め尽くされている事が分かる。
誰も一切の余地も入ることの許されない空間。
その空間すらも薄くメッキを剥がすかの様にボロボロと崩れていく。
それほどまでに緊迫した狭い空間。
「創造」
俺は1つの空間を創造する。
この空間で争えば壊れる。
誰もいない渓谷のみが広がる世界。
奴も一切の動揺を見せずに俺との距離を開けずに地に足をつける。
「【天門】」
俺の後ろに門が出現する。
その中から4人の熾天使が現れ、俺の前で膝をつく。
「セラフィエル」
「はっ!」
「ガブリエルの命を繋ぎとめてくれ」
「承知しました」
「残りの3人は結界を展開し離れた場所で2人を守れ」
「「「はっ!」」」
よし、これで良い。
【天門】を使ったのはいいがここの外は次元の狭間だ。
どんなところかは知らないが、目の前のレベルがいる事は称号から見て取れる。
変に誤作動を起こして次元の狭間に飛ばされるよりはここの方が安全だろう。
天使たちは瞬時にこの場からいなくなる。
(いくぞ)
「おぅ、レーヴァテイン」
俺の手に黄金の剣が現れる。
陽炎を立ちのぼらせ圧倒的な存在感を放つ。
その柄を握り一振り。
その攻撃は山を焼き斬った。
それは蛇口から流れる水に指を通したかの様にだ。
ただし奴は攻撃をすり抜けて無傷。
攻撃が来る。
死神の大鎌を初見とは比べものにならないスピードで俺へめがけて上段から降り下げる。
俺もそれに合わせるかの様に力を込めて下から振り上げる。
お互いの武器がぶつかり合った空間に亀裂が入る。
衝撃波が生まれ、あたりの渓谷には大きなヒビが数え切れないほど出来上がる。
(クハッ、バケモンかよ。こりゃ俺もガチでレベリングしねぇとなぁ)
「いつものじゃダメなのか?」
(あんなのは業務をこなしているに過ぎねぇよ。力なんかつく訳ねぇだろ)
「なるほどな」
交わす言葉はそれだけだ。
そんな無駄話をしている余裕などこの場には無い。
奴は両手に持っていた大鎌を左手に持ち、右手を俺に目掛けて刺突する。
ゾクッ!
第六感が危険信号を放った。
この右手だけは回避しなくてはならないと。
俺は剣で受けようとしたが、紙一重で回避する。
奴の手はそのまま渓谷の壁へぶつかる。
「おいおい、ヤバいな」
(ああ、奴のスキルはお前の【超再生】すら屈服させる。当たるなよ)
その攻撃は一瞬にして山を散りに変えたのだ。
まるで突然風化したかの様に砂になり消えていく。
しかしどうしたもんか……。
魔法は効かない。
【透過】のスキルがあるのも厄介だ。
このスキルは強力だが、攻撃をする時には必ず実体化しなくてはならない。
つまり敵が攻撃している時のみ攻撃が当たる訳だが、それはこちら同じ条件にならなくてはならない。
お互いが一瞬の隙を伺う。
一撃を喰らえばそこでゲームオーバー。
お互いの武器がぶつかり合い、体ごと弾かれる。
ッッ!
奴の大鎌に禍々しいオーラが凝縮されていく。
見ただけで分かる。
アレは……ヤバい。
《 カ、カキ…喰ラおうゾ。ヨノ理ヲ外れシ暗黒ノヤミ。すべてヲ無にカエセ【祖は全てを破壊し永遠の闇へ葬る】》
それは全てを飲み込む漆黒の光線だった。
光線は俺へ目掛けて一直線に進む。
(涼太!)
「【不滅の神重盾】!」
俺の前に何重にも重なった神盾が生まれる。
漆黒の光線は俺の創造した盾に弾かれてあらゆる方向へ乱射される。
空間に穴を開けた光線はそのまま次元の彼方へ消えていく。
お互いが同等の力を振りかざす。
倒すべき宿敵。
しかし、俺の心臓は鼓動を高めるばかりだ。
紛れも無くこの感情は高揚だ。
感覚が麻痺したのかもしれない。
俺は神速で死神に近づき、剣を振るう。
死神は一瞬の反応が遅れる。
その大鎌は俺の息の根を止めようと振り切られる。
……が。
俺の剣は死神を、死神の大鎌は俺をすり抜ける。
「ここだぁぁぁッ!」
俺は【透過】を大鎌が体を通過し切ったあたりで解き、体を捻らして死神の右腕を断ち斬る。
死神の左腕が右手に触れようとする。
【死の右手・生の左手】は敵を絶命に至らしめる右手に、回復を与える左手。
このチャンスだけは逃さない!
(絞り尽くせぇぇぇぇッ!)
「ハァァァァァァァッ!」
俺は死神の左腕を両断する。
コイツには動く暇すら与えるな!
隙を与えて仕舞えばこちらの勝機は無くなる!
死神は焦っているのか上へ緊急回避をする。
が、逃さない。
俺は足骨を掴み下へ振り下ろす。
《ガッ……バKァな》
クレーターの中心で悶える死神は苦しげな表情を浮かべる。
俺は剣を両手に持ち、渾身の力を擦り絞る。
「これで終わりだァァァァァァァッ!」
最後の一振りが死神を含めた大地を焼尽と化した。
♢♦︎♢
熾天使たちはウリエルのテレポートにより、数キロ先の渓谷の一角へ降りる。
「やるですよ!」
「「はい」」
ウリエルの合図にメタトロンとラファエルは三角の陣形を築く。
すると正四面体の結界が生まれる。
「セラフィエル、ガブリエルの様子はどうですか」
メタトロンは気を失っているガブリエルの状態を訪ねる。
「なんとか繋ぎとめているわ。でも呪いが強すぎて侵食を遅らせるのが限界よ」
「我がマスターしだいと言う事ですか」
「マスターなら勝てるです。今のマスターは最強です」
「ああ、涼太様は我らの主人だからな……ッ!」
空気の張り裂けるような破裂音が聞こえた。
熾天使たちは一斉に音のした方角を向く。
「ここまで衝撃波が来るとは……」
「近くに居たらヤバかったですね」
「ふむっ……」
ラファエルは何か不満足そうにする。
「どうしたんだ」
「いや……このままでは空間がもたないのではないかと思いました」
「それなら大丈夫なのです」
「どういう事ですか、ウリエル」
「強者同士の戦いは長引かない。そうヘファイストス様が以前に言っていたのです」
「なるほど」
熾天使たちは異次元の闘いを見守る事しか出来ない。
(なぜだ……なぜ……私は……)
メタトロンの唇からは微かだが紅い鮮血が見えた。