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79話 再び呼び出し



 ようやく長ったらしい授業が終わる合図のチャイムが鳴る。

 学生たちはフゥとため息をつく。


「くっ……全員合格だ」


 教師も全員が合格するとは予想だにしていなかったのだろうか思わず悔しげな表情を露わにする。

 納得いかなかった結果にチッと舌打ちをしてその場から立ち去っていく。


 その場に残った生徒たちは互いに喜びを分かち合う。


「ボク……ボクできたよ……ウゥ」

「しかも無詠唱とは……素晴らしいですわ」

「ありがとう、ロゼッタちゃん」


 シャルはあまりの嬉しさにロゼッタに抱きつく。


「しかも無詠唱って凄いじゃない! あの先生の度肝を抜いた時は清々しかったわ」

「えへへっ、ツッキーのおかげだよ」

「ツッキー?」

「うん、月宮だからツッキー」


 シャルはデレデレと頬を紅く染める。

 いつも自信のない表情をしているシャルロットがまさか、この様な表情をするとは思わなかったのだろう。

 友人の成長はこっちも嬉しく思っちゃうわね。


「じゃあ教室に戻ろうか」

「そうですわね」


 背伸びをして体を伸ばす。

 体に溜まっていた疲れが少し抜ける。


 教室に帰る道中でこちらには向かってくる人物。

 この学園の秘書であるパルメラさんだ。




「クリスさん、学園長がお呼びです」

「学園長が?」

「はい、では失礼します」


 パルメラさんは一礼してその場から立ち去る。

 一体何があったのだろうか。

 自分が学園長に呼ばれる様な事をした覚えが一切ない。

 私は眉をひそめた。

 何かしたかしら。


「お嬢様、何かされましたか?」

「いえ……全く記憶にないわ。でもちょうどよかったかも」

「と言いますと?」

「ほら、黒板の件で設置してくれないか頼んでみるのもいいかなと思ったのよ」

「確かに……それは良い考えですね」

「では着替えが終わればいきましょう」


 手を掴んで小走りをする。


 そうして若干の重い足取りで学園長室までやって来た。



「失礼します」

「待っておったぞ」


 学園長は自身の机に腰掛けて私たちを見てくる。


「どの様なご用件でしょうか」

「まぁ、お茶でも出そう。座りたまえ」

「そうですね」


 私はは部屋の中央に置かれている来客用の机へ座る。それに続いてみんなも空いている席に座る。

 秘書のパルメラさんはあらかじめ冷やして置いたグラスに飲み物を注ぐ。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 冷たく冷やされた果実水。

 先ほどの授業で少なからず動いていたので、渇いた喉に潤しを与える。


「なんじゃい、早く要件を言えと言われると思ったんじゃがのぉ」

「こちらも少しお願いしたい事がありますので」

「ふむ……まあ、それは後にしよう。ワシからは伝言を頼まれたのじゃよ」

「誰からですか?」

「涼太からじゃよ」


 え……涼太さんから?


「ちょっと出かけてくると言っておったぞ」


 私は思わずポカンとした表情になる。

 何も聞いていないんですけど。


「お嬢様、涼太様も事前に出かけるとおっしゃっていたではないですか」


 確かに冒険者だから依頼で出かけるから、いない時には自分たちで頑張れと言っていた。

 でも出かけるのであれば事前に言って欲しい。


「まぁ、遠出ではないからのぉ。今日中に帰って来るのではないのか?」

「どこへ言ったのかご存知なのですか」

「気になるのであれば帰ってから本人に聞けば良いじゃろう。ワシは知らん」


 口ぶりからして知っている気がするのだけれど、確かに涼太さんに聞くのが一番早いわね。

 それに言いたくなさそうだから、追求しても嘘を言う可能性の方が高そう。


「分かりました」

「うむ、ワシからの要件は終わりじゃ。次はお主らじゃぞ」


 学園長は両膝をついた状態で手を組み、そこに顎を乗せて何やら面白い事を期待するかの様に私たちに問いかける。

 それはまるでサプライズを期待する子供だ。


「私は……というか私たちは学園に黒板の設置を申請します」

「ほぅ! 黒板とは確か涼太の家に行った時にあった緑色の板の事か。確かにアレは便利そうじゃ」

「黒板は授業をするにあたって必需品と言っても過言ではないと思います」


 アレは絶対に必要。

 あるに越した事はない。

 というか、学園長は知ってたんだ。


「しかし…私の方でも調べましたが、どこの商会にもそんな物は売っていませんでした。商業ギルドにも行きましたが、分からないの一点張りです」

「……となると、黒板は涼太のオリジナル商品か? いや、販売されていないから商品ではないか」


 パルメラさんが黒板についての情報を出す。

 やっぱり涼太さんのオリジナルなんだ。

 流石だ。


「どうですか?」

「学園長、確かにクリスさんの提案は悪くないかと思われます。設備の発展は学園の向上に繋がります」

「そうじゃのぉ、パルメラまで言うんじゃ。職員会議の案に出そう」

「ありがとうございます」


 後ろではシャルたちもガッツポーズで喜んでいる。

 良かった、これだけ前向きなら大丈夫よね。


「では涼太には小さめのサイズで良いから実物を持ってきてくれと言っておいてくれ。実物があれば話も通りやすいからのぉ」

「分かりました」




 言うべき事は言い終わったので私たちは学園長からでる。

 シャルは出されたお菓子を急いで口に入れてお辞儀をして私たちの後に続いて出る。

 そんなに慌てなくてもいいのに。

 どこにでもあるお菓子じゃない。


「ねぇねぇ、みんな。この後はどうする?」

「ジャッファルさんは教室に残れと言っていましたわね」

「でも涼太さんの訓練目当てでしょ? 当人が居ないんじゃ意味ないでしょ」

「確かにそうですわね」

「なんか、やる気が出ないわ」

「そうだね」


 気の無い返事に沈黙が訪れる。



「そうだ! 久しぶりに遊びに行かない?」

「私は構いません」

「そうですわね、休暇も必要ですわね」

「じゃ、じゃあボクも!」


 ♢♦︎♢


 ジャッファルは教室にいなくなったクリスたちを捜している。

 理由は涼太の姿が見えないところから、クリスたちと同伴していると推測しているからだ。


「ったく……どこに行ったんだ?」


 既に図書館の裏に設置した扉の中では、昨日に行っていたサラ先生たちが涼太に言われた通りの事を行なっていた。


 学園内に居ない事から校舎の外を出てブラブラと歩いていると校門前で帰るであろうクリスたちを発見した。


「おい、お前らー!」

「んぁ? ジャッファルさんですか。どうしました?」

「おい、クリス。どこに行くんだ」

「遊びに行くんですが」


 何をバカな事を聞いているんだと思わされる表情をクリスは見せる。

 見た所では他の3人も遊びに行く様だ。


「訓練はどうするんだ?」

「今日、涼太さんは出かけている様なのでね」

「え、マジで?」

「マジです」


 ジャッファルは驚いた表情をつくる。


「それじゃあ、頑張って下さい」

「お、おう……」








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