71話 臨時講師
あけましておめでとうございます。
すいません、遅れました。
俺は朝に依頼で出て行くとクリスたちに言って、学園へ向かう。
学園の臨時講師も冒険者としての依頼だからね。
本当に楽だわ。
目の前に学園がある上し、なんの準備も必要ない。
いや、俺が作った冊子やらを持って来る時はあるな。
あれ?
校門前に秘書のパルメラさんだ。
「おはようございます」
「おはようございます、月宮さん。では、学園長室へ案内しますね」
俺はパルメラさんについて行って、学園長室へ向かう。
かなり、学生の姿も見えるな。
朝早いのに、魔法の練習をしている生徒もいる。
クリスたちはいつもギリギリ登校だからそんな事もないか。
「ふむ、来たか」
「俺は何をすればいいんですか?」
「お前さんには、一時限目に実戦練習に付き合って貰いたい。冒険者という事もあるからのぉ、体術でも教えてやってくれ。二時限目は魔法の理論の授業じゃ。終われば好きにしてよいぞ」
「分かりました」
学食って食えるのかな?
美味い飯だったらいいな。
終わったら、図書館に本を借りに行こう。
♢♦♢
クリスたちは一時限目の実習に向けて、着替えていた。
「ねぇ、聞いた?」
「どうしたの」
「なんか、実習で新しい先生が来るんだって!」
「ああ、生徒に痴漢してクビになった代わりの人?」
「そうなのよ。聞いた話だと若い男の人だって!」
「へぇ、どんな先生だろうね」
「わかんないけど、結構いい感じの人みたいだよ」
女生徒たちは、新しい教師の情報に胸躍らせている。
壇上別に行われる実習に手を出す男子教師も少なからずいる様だ。
「あの変態野郎の代わりですの、まともな先生だといいですわね」
「そうだね」
「お嬢様は私がお守り致しますのでご安心を」
「そうね。結局は駆けつけたミセルにボコボコにされて退職になったもんね」
そうして、訓練所に集まった女生徒たち。
現れたのは、秘書のプリシラさんと俺こと月宮涼太さん。
「「「「ふぁあ!?」」」」
「「「「「「キャァァァァァァ!!」」」」」」
反応は二つに分かれる。
黄色い声を上げる女生徒たちと、驚きの声を上げるクリスたち。
「では、紹介します。今日から週に一度のペースで戦闘訓練を担当して下さる。冒険者の月宮さんです。実戦経験も豊富な方なので遠慮なく気になったことを聞いてくださって構いません」
「月宮涼太です。週一の勤務ですが、皆さんの勉強を見ることになりました。よろしくお願いします」
それを聞いた途端に、クリスは猛ダッシュでどこかへ向かおうとする。
俺はすかさず結界魔法でクリスの動きを止める。
「離して下さい、涼太さん」
「どこへ行こうとするんだ、クリス」
「学園長室です」
「学園長からは正式に月宮さんとの契約をしていますから無駄ですよ」
「まあ、そういう事だ」
「うぐぐ……」
クリスは渋々納得した。
「では、月宮さん。よろしくお願いします」
「まあ、適当にやらせて貰いますよ」
パルメラさんは去っていく。
「涼太さん! どういう事ですの!」
ロゼッタは俺の襟首を掴んでブンブンと揺らす。
「家にかえったら説明するから落ち着け」
「分かりましたわ、きちんと説明して貰いますわ!」
「せんせー!」
一人の女生徒が手を上げる。
「どうしたんだ?」
「先生はクリスさんたちと仲が良さげですけど、どういった関係なんですか」
「同じ屋根の下で共に過ごしている中です!」
クリスが胸を張って答えた。
再び黄色い悲鳴が訓練所に響き渡る。
おい、言い方が悪いだろ。
間違ってないけどさ。
「おい、実習訓練を始めるぞ。以前はどんな事をしてたんだ? 悪いが見せて貰いたい」
そう言い、女生徒たちは木製であろう槍を合図と共に行進の如く突いたりなぎ払ったりする。
問題は誰もいないただの素振りだという事だ。
素振り事態は悪いとは言わないが、非効率的ではあるよなぁ。なんか、ただカリキュラムをこなしていますってだけだ。
「涼太様だから言わせて貰います、この訓練は必要ないかと思われます」
「うん……そうだねミセル。俺もそう思うよ。どんな事をしたい?」
「実践的な事をお願いします。来月にある魔法聖祭で各クラスごとに戦うのですが、それに役立つ様なものが好ましいかと思われます」
体育祭の様なものかな。
「分かった、接近戦の練習を中心にはじめようか。まずは魔法を併用した歩法でも練習しよう」
「先生、それは意味があるんですか?」
「ある、魔法を主体として戦う者が一番気をつけないとダメな事は何だと思う?」
「魔法をきちんと放つ事?」
「それは大前提だよ、正解は敵を近づかせない事だ。魔術師は魔法を使える分、接近戦ができる人は少ない。武器を持った人が懐に入られたらそれで終わりだ」
試しに、俺は魔法と歩法を合わせたもので一気にシャルまで距離を詰めて肩に手を置く。
「こんな風にされたら何も出来ないだろう?」
急に自分たちの中に現れた俺に驚く女生徒たち。
「はわわわ、見えなかったよぉ」
「これは足の裏に魔力を貯めて、一気に放ち懐に入り魔力で体を固定して止まるという事なんだよ。最初は難しいから、まずは魔力を足に集めるところから始めよう」
女生徒たちは各々で訓練を開始する。
「涼太さん、私はどうすればいいですか?」
すでに習得しているクリスは自分が何をすればいいか尋ねてくる。
「そうだな、それじゃあ天井を歩いてみようか」
「ほへっ?」
俺は土の壁や障害物を出し、重力に逆らう様に歩いていく。
あり得ない現象に、自分の訓練を行っていた学生も一斉にこっちを向く。
「足に魔力を集め、接触部分を一体化すればこういう事も出来るんだよ」
「やってみます!」
クリスとミセルも俺のやっていた様に真似をする。
しかし、当然上手くはいかずにずり落ちる二人。
天才肌のクリスもこれはイメージとは少し違うから手こずるだろうな。
あー、何か暇になっちゃったよ。
自習状態だ。
まあ、生徒たちは夢中になっているからいいんだけどね。
どうすれば上手くいくか、手探りで行なっている。
たまに俺からアドバイスを求めに来る子もちらほらいるくらいだ。
キーンコンカーン
終わったよ。
さて、帰るか。
生徒たちも、着替えの時間があるのか急いで戻る。
俺は寝起きジャージなので問題ないです。
はやく講義の方も終わらせるか。
「先ほどの授業で知っている人もいるが、月宮涼太という。臨時講師をする事になったからよろしく頼むぞ」
クリスの所属する中等部ⅡーAクラスにやってきた。
男子生徒は初めて顔を合わすので一応挨拶は必要だろう。
「先生って高等部の人らと同じ年齢だよな。授業なんか出来んのか?」
「黙りなさい。涼太さんは、無能な教師共とは次元が違います」
クリスはバンッと机を叩き、男の子を睨み倒す。
うん、ちょっと怖いだろ。
そんなに、睨んでやるなよ。
「確かに俺は君たちとさほど年齢は変わらないだろうな。大した事がないと思ったら聞き流してくれて構わないよ、他の勉強をしてくれても構わない」
他の教師ならあり得ないんだろうな。
俺の発言に驚く生徒たち。
俺もよく授業中にテキストとかやってたからな。
「それじゃあ、時間も迫っているし講義を始めようか。まずは、今で使っていた教科書はしまってくれ。必要ない」
俺は昨日に作ったプリントと筆記用具類を渡す。
「筆記用具はプレゼントだよ。購買に置いとくから、欲しかったら買いにでも来てくれ」
俺は科学について、ゆっくりと詳しく授業をしていく。
生徒たちは必死に板書をする。
なんか新鮮だな、俺が先生か。
キーンコンカーン
「よし、終わったな。まあ、いきなりこんな事を言われても混乱する人もいるだろうから地道に深めていけばいいさ。それじゃあ、またな」
俺は教室から出て行く。
「涼太さん!」
「何だよ、クリス」
「ご飯を食べに行きましょう」
「行こうか」
「はい!」
学生食堂は大勢の学生たちで賑わっていた。
値段もお手軽で安いものでは400ペル、高いものは1万ペルを超える。
恐らくは、貴族向けの料理なんだろうな。
「それで、何で涼太さんが教師になっているんですか!」
「そうですわ、説明をして下さいまし」
メニューを頼んみ、席に座り昼食を口に入れた途端に質問をされる。
そういえば、後で説明するって言っていたな。
「クリスたちが学園へ向かった数時間後にガウスさんが来たんだよ。その際に、臨時講師を頼まれたんだよ」
「涼太さんは迷惑ではなかったのですか?」
「いや、多くても週一の勤務だから問題ないよ。それに自由に学園を出入りする事と、図書館に入れるようになったからな」
「涼太さんがそう言うなら良いんですけど」
クリスは納得はしていないもの、理解はした様なのでおとなしくなる。
「では、涼太様はこの後は図書館へ?」
「うん、夢中になって時間を忘れてるかもね」
「でしたら、夕食の時間になったら私が呼びにいきますね!」
「ああ、よろしく頼む」
♢♦♢
ⅡーA教室にて
Aグループ
「なあ、月宮先生の授業すごかったな」
「授業ってああ言う事なんだ」
「俺よく分かんなかったよ。でも、すげー事をしてるのは分かった」
「話に夢中で板書を取れなかったから見せてくんね?」
「おう、いいぞ」
Bグループ
「先生ってどこにいると思う?」
「さぁ? ハイゼットたちとどこかに行ったからな」
「俺、女子から聞いたんだけど、体術っていうか歩法? なんか壁を歩けるらしいぞ」
「まじか!? かっけーじゃんかよ、よし放課後に探しに行くぞ!」
「おう!」
Cグループ
「購買に行ってくるわね」
「私も行くわ! 凄いペンね、家族の分も買うわ」
「学校中が知ったら争奪戦になりそうね」
「今この事を知っているのは私たちのクラスだけだからね」
「よし、行きましょう!」