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69話 学園長と



 クリスたちは、元気よく学園へ向かった。

 シャルとロゼッタは昨日の出来事が嬉しかったのか、朝からテンションが高かった。

 何かご褒美でもあげようかな。



 カタカタと何かを打つ音が部屋に聞こえる。


「ご主人様、これは何ですかニャ」

「パソコンだよ」

「何ですかニャ、それは」

「何て説明しようか。仕事をするための機械だよ」


 そう。

 俺はと言うと、テキストを作成していた。

 足し算やら掛け算のだ。

 夏季休暇にはクリスとミセルにだけ教えていたので、その場で問題を作ればいいと思っていた。

 しかし、シャルやメイドたち、孤児院の子供たちにも教えるとなると面倒だ。

 なので問題を一気に作成してしまおうという事だ。


 ちなみに、テキストの作成にはパソコンを。

 複製にはチートである現代兵器の業務用コピー機を創造しました。

 やってしまいました、ですが後悔はしていません。

 超便利です。

 動力源は魔石で補う事にした。

 という事で、俺は元ネタの問題を作るためにキーボードを打っている最中なのだ。

 俺ってこういう地味な作業が好きだわ。

 どうせなら、科学の知識も教科書にしようかな。


 それにしても【完全記憶】って凄いな。

 地球ではタイピングは覚えられずにゆっくりとカタカタ打っていた。

 しかし、すでにどの場所に何があるか把握出来ている。

 高速で早打ちを可能にした。


「ご主人様、もう一時間はずっと座っておられます。一度休憩をなさって下さい」

「うーん、そうだな。一度、休憩にしようか」


 家計簿つけも今日中に終わらせたいな。

 節制しなくてはいけない。

 最近は金遣いが荒いと思う。



「ご主人様、クッキーを焼いてみました。食べてみて下さい」


 俺はメイドたちから用意されたクッキーと紅茶に手をつける。

 メイドたちは俺が食べるのを神妙な顔つきで眺めている。

 いや、別に査定をするとかじゃないからいいだろう。


「うん、美味しいよ。上手く出来ているじゃないか」

「良かったです!」

「やったニャ」


 俺の称賛の声に、メイドたちは大喜びする。




 ピーンポーン


 突然、玄関のインターホンが鳴った。

 誰だ?

 仕方ないな、出るか。


「はい、どちら様ですか」

『ぬぉ! 何じゃ、どこから声が!』


 おじいさんかな?

 インターホン越しの声に驚いている。

 錯覚だし、メイドたちにやって貰おう。


「ラン、アイ、ファラはお客様を客間に案内してくれるかな。コニーとシェイはお茶を用意して欲しい」


 俺の合図に、一斉に散りばむ。


 さて、中途半端だけど後片づけをしないとな。

 それにしても、俺の家に何の様だろう。

 この国の知り合いって、ジグルさんぐらいしかまだいないのに。


 俺は客間へ向かう。

 ん?

 おじいさんと女の人が一人か。


「初めまして、俺はこの家の家主の月宮涼太といいます」


 それに対しておじいさんは。


「むぉ! なんじゃあ、見たこともない物がわんさかあるぞい! これは、何じゃ? 棒か? いや、ペンか! この様な物が有るとは!」


 全く人の話を聞かずに部屋にある物に夢中だった。


「ふんっ!」


 隣にいた女の人がおじいさんを殴りつける。


「学園長、家主の方が参ったのにいつまでうつつを抜かしているんですか!」

「おっと、すまなんだ。ついのぉ」


 今、学園長って言わなかったか?


「突然の訪問、大変ご迷惑をお掛けしました。私はケイオス学園の秘書を務めております、パルメラと申します」

「いやはや、すまんかった。私はケイオス学園の学園長をしているガウスと言う」

「なぜ、学園長ともあろう方がうちに?」

「いや、なに。ちょっと遊びに来たんじゃよ」

「はぁ」


 遊びに?

 マジで意図が読めん。


「私の方から説明します。こちらに、クリスさんやロゼッタさんが住まわれているのは確かですね?」

「ええ、そうです」

「今回の学園の試験において、ミセルさん、クリスさんは異常とも言える成績を収めました。一介の学生には到底出来る所業ではありません。その謎を知るために調べた結果、うちの三名の学生が退寮をして四名の学生がこの家に入っていくのを見ました」


 あー、確かに学園の前だから丸わかりだもんね。


「更に四名のうち三名は成績の上位三つを独占しております。うちの学園は言ってはなんですが、試験を難しく設定しております。それなのに、あの様な高得点を叩き出すということは何かあると探りを入れたのです」

「なるほど。しかし、それだけでは、この家に来る理由にはなりませんよ」

「単刀直入に聞きます。月宮さん、クリスさんとミセルさんの異常な成長にあなたは関与しておられますか?」


 あー、返しようのないストレートな質問だな。

 隠すことでもないし別にいいか。


「確かに、俺はハイゼット家と関係を持つ様になりました。その際、夏季休暇中だけ魔法やらを教えましたね」

「ほうほう、やはりか! ワシの見立てに間違いはなかったぞ! お主は一ヶ月足らずであの実力にまで持ち込んだというわけか。一体どうしたのじゃ?」

「ガウスさんはなぜ火が燃えるか説明出来ますか?」


 二人は何を当たり前のことを、と言った表情だが質問の意図に理解する。


「む、むーう。火は燃えるもの……いやそれでは起こった事象を述べているだけであって説明ではないな。そう言われると、説明はできんな」

「俺が教えたのはそういう事ですよ」

「つまり、お主はその原理が分かるのか?」

「はい。それが分かったので、クリスたちは急激な成長をしたのだと思いますよ」


 その為に来たのか。

 まあ、自分の学生が異常な成長をしたら不思議に思うわな。


「くくくっ、はっはっはっは。素晴らしい! それはこの世の理を暴いたのも同然の事じゃ! 素晴らしい、実に良い。涼太よ、お主を是非私の学園へ招きたい。お主の年齢からすると、高等部か? 特待生としてはどうじゃ?」

「ちょっと! いきなり何をおっしゃっているのですか、学園長!」

「で、どうじゃ?」

「はぁ、入るわけないでしょう」


 俺はガウスさんの誘いをきっぱりと断る。


「なぜじゃ?」

「まず第一に、俺は冒険者です。学生ではありません。第二に、俺は縛られた生活は嫌いです。最後に、とても今の学園に入る気にすらなれません。クリスの教科書を読ませて貰いましたが、9割は嘘と無駄な知識しか書いていません」

「ほう、言い切るのぉ」

「事実です。実際にロゼッタさんとシャルロットさんにも学園の知識を忘れて教えたら、一日で無詠唱ができる様になりましたよ」


 その言葉に二人は目を見開いて驚く。


「ロゼッタさんは詠唱短縮をすでに獲得していましたので、まだ分かります。しかし、シャルロットさんもですか。彼女は魔法の成績は芳しくないはずですが。本当ですか?」

「ええ、次回の試験では間違いなく上位に食い込めると思われますよ」

「それは凄まじいのぉ。訂正しよう、お主を学園の臨時講師として雇いたい。どうじゃ?」

「先ほども言ったでしょう。俺は冒険者だ、それに色々と忙しいので学園に回す時間を取れるか分かりません」


 孤児院や王城や冒険者の依頼もある。

 あれ?

 そう言えば、冒険者ギルドに行ってなくね?

 やばっ!

 シーダさんに知られたら説教されそうだ。

 護衛依頼の達成を報告しに行かないと。


「毎日じゃなくても良い。週に一度だけでも顔を出さんか? 出来るならお主の望みを叶える事も出来るぞい」

「週一くらいなら大丈夫かな。忙しい日は来れないかもしれませんが、構いませんか?」

「無論じゃ、それで何が欲しい?」

「では学園にある図書館の使用許可を下さい。あと、学園を自由に出入りする許可が欲しいです」

「構わんよ、それで本当に良いのかな?」

「はい、構いません」

「パルメラよ、手続きのほうを頼む」

「はい」


 パルメラさんは、大きなカバンから書類やら何かの魔道具を出す。

 ギルドにあったカードを作るやつに似てる。


「ここでやるのか。準備がいいのぉ」

「この様な事態も想定していましたから」


 俺はギルドと同じ様に項目に書いていく。


「はい、完成しました。これを見せればどこにでも入る事が可能です。無くされた場合は再発行しますので私にお申し付け下さい」

「ありがとうございます」


 俺はカードを受け取る。


「さて、話は終わりかのぉ?」

「一応は終わりでしょう」

「涼太よ! この家を案内して欲しい。それにこの家の広さは何じゃ、入って来たときに驚いたぞい」

「俺の魔法です」

「凄いのぉ、こんな事が出来るとはワシの見てきたものは一部にすぎんかったのか。この様な高揚感は初めて魔法を使えた時以来じゃ!」


 はしゃぐのはいいけど、年寄りなんだから年齢にそぐわない行動は謹んで欲しい。


「では見て回りましょうか」


 俺はメイドと案内をする。

 パルメラさんも目移りしている状況だ。


「これだけ凄いとなるとのぉ。涼太よ、ワシと模擬戦をしてみないか?」

「学園長、あなたは賢者の称号を持つ方です。自重して下さい」

「嫌じゃ、涼太となら術比べを楽しめそうなのじゃ! ワシと戦える相手なんぞ滅多におらんからのぉ」

「俺は別に構いませんよ」


 学園の長の実力は見ておきたい。

 賢者というのも気になる。




「準備は良いかのぉ?」

「あの、月宮さん。学園長は本当に手がつけられなくなりますがよろしいのですか?」

「まあ、大丈夫でしょう」


 そうして、俺と賢者との模擬戦が始まった。


「まずは小手調べじゃ。【アイスギロチン】」


 俺の上空に無数の巨大な刃が生成され、落下してくる。


「【マグマ弾】」


 俺の上空に放ったマグマの塊は最も容易く、氷を溶かす。


「やるのぉ」

「気をつけて下さい。攻撃は終わってませんよ?」


 上空に放たれたマグマは放物線を描き、俺たちに襲いかかる。

 俺はプリシラさんとメイドたちと自分に結界を張って、その攻撃を防ぐ。

 さあ、どうする?


「ほう、結界か。多様じゃのお」


 そう言い放ち、ガウスさんは土魔法で壁を作る。

 マグマは壁に阻まれて散りばむ。

 あの壁、かなりの密度で構成されてるな。


「ならば。こちらも無粋を承知で全力でいかせてもらおう!【黒雷】」


 晴れた訓練部屋に雲が生成され、稲光が鳴り響く。


「さあ、どう防ぐ? ワシの全力の魔法じゃ。当たればタダでは済まんぞ?」


 やだよ、怖い。

 殺しにきてるじゃん。

 黒い稲妻って何だよ。

 絶対にヤバイだろ。

 さて、火には火を。

 雷には雷をだ。


「ちっ、【紫電】」


 地に向かい放たれた黒き雷と、天に向かい放たれた紫電が衝突し、辺り一面は荒れる大地へと変貌する。


「はははっ、良いぞ。まさかとは思ったが素晴らしい!」

「おい、ガウスさん。当たったらヤバイじゃねえか」

「なら、防いでみよ!」


 ガウスさんは手を上空にかざす。

 何をしているんだと疑問に思ったが、変化はすぐに現れた。


 ゴゴゴ、という音と共に落ちてきたのは隕石。

【メテオ】かよ。

 このじいさん、危険人物じゃねぇか。

 砕くにしても、大き過ぎる。

 下手をしたらプリシラさんにも影響が出る。

 となると使うか。


 俺はモードを切り替える。


 元素魔法はやめだ。

 少し本気を出そう。


「滅べ」


 俺は隕石に向かってジャンプし、当たる寸前で消滅魔法を使う。

 すると、隕石は外側からどんどん小さくなり消えていく。


「もういいですか? 十分でしょう」

「うむ、楽しかったぞい」

「驚きました、凄まじい攻防でしたね」

「涼太よ、最後の魔法は何じゃ?」

「秘密です」

「そうか、言いたくなければ聞かんよ。では、ワシらは帰るとするかのぉ。明日からよろしく頼むぞい。一時間目にクリス君のクラスに配属しよう」

「分かりました」



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― 新着の感想 ―
[一言] 依頼達成の報告を忘れるとか冒険者業を舐めすぎ。
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