67話 家と家
朝、俺は全員分の食事を用意する。
学園は目の前という事もあって、全員まったりと取ることが出来た。
「今日の放課後から特訓をお願いしますね」
「分かったよ、また放課後な」
俺がそう言うと、少女たちは放課後が待ちきれないかの様に喜びの声を上げる。
「行ってきます!」
「おう、行ってらっしゃい」
エプロン姿の俺は元気に家から出ていく少女たちを見送る。
さて、ここから俺の新しい舎監生活がはじま……るわけねーだろ!!
俺って冒険者だよね。
何で学生をエプロン姿で見送ってんだよ!
おかしい、絶対おかしい。
なんか称号にも【学生の舎監】ってのが増えてるし、ふざけんなよ。
そうだ!
メイドたちの存在を忘れていた。
家を買ったら呼ぶって言ってたな。
呼び出そう。
俺は玄関にセリア王国の家と繋ぐ扉を開け設置し、移動する。
扉には、セリア王国行きの札を貼っておこう。
「あれ? 暗いな、まだ起きていないのか」
時刻は午前7時、学生は登校する時間だ。
しかし、セリア王国にいた時の俺は基本的に9時か10時起きだったのでメイドたちもそれに合わせていた。
となると、部屋か。
メイドたちの自室に行くが、メイドたちの姿は見え見当たらない。
もしかして……。
俺の部屋に行くと、メイドたちは仲良くスヤスヤと俺のベットで眠っていた。
「おい、起きろ」
ペチペチとシェイの顔を叩く。
「……ニャァ、おやすみニャァ〜」
ぐっすりかよ。
ほかのメイドたちもそんな感じだ。
致し方ない。
俺は声帯変化を使ってガブリエルの声真似をする事にした。
「あなたたち、いつまで寝ているつもりですか! 起きなさい!」
俺はビシッと叱りつけるように声を出す。
「おはようございます、師匠!」
「寝坊などしていません!」
「おはようございますニャ!」
効果はてきめんだ。
メイドたちは反射的に声に反応して起き上がる。
「やあ、おはよう」
「ご主人様?」
「数日ぶりだな」
「ご主人様ニャァァァ!」
「こら、大声を出すな。近所迷惑だろ」
「長かったのニャ、ようやく会えたのニャ」
俺はヨシヨシと頭を撫でて、落ち着かせる。
「何か変わった事はなかったか?」
「はい、会議場所をここにするとのことで陛下と公爵様方が来られました。怖かったです!」
何してんの、俺の家を会議室にしないでほしい。
あとでグリムさんに文句でも言おう。
「それと、孤児院の卵を入れるパックが足りなくなりそうです」
「そんなに増えたのか?」
ニワトリってそんなにポンポン卵を産むっけ?
創造した俺の鳥たちだから少し普通と違うのかな?
「分かった、一度孤児院の方へ向かおう」
朝一番に鳥を出すと言ったから、起きてはいるはずだ。
俺はジャージ姿で、メイドたちはメイド服に着替えさせて孤児院の方へ向かった。
「あー、お兄ちゃんなの!」
「りょう兄だ!」
「お兄ちゃん!」
孤児院のみんなは俺に気がついて、走って寄ってくる。
「ちゃんと、ニワトリの世話はできてるか?」
「お外に出して、掃除が終わったところなの!」
「そうか、偉いな。院長先生のところに案内してくれるか」
院長は新しい孤児院の中で、朝食の準備をしている最中だった。
ルリーや年長者も手伝っている。
「あら、涼太さん。申し訳ありません、今手が離せない状態で」
「俺も手伝いますよ」
三十人以上いるんだから、朝食一つを作るのも大変だろう。
俺たちはテキパキと朝食をつくり、テーブルに並べる。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
子供たちは手を合わせて、出された朝食に手をつける。
子供たちの体をみると、痩せ細った体をしている者はいない。
かなり肉も付いてきた。
順調で何よりだ。
「涼太さん、本当にありがとうございます。こんな生活を送れるとは夢にまで思いませんでした」
「俺も子供たちには元気に育ってほしいですからね。そう言えば、卵が思った以上に取れている様ですね」
「はい、まさかここまでとは思いませんでした」
「負担になってませんか?」
「いえ、子供たちは毎日楽しくやっておりますので大丈夫ですよ。しかし、少々ではありますが鶏舎の大きさとニワトリの数が合わなくなってきている気がします」
そっか、ニワトリも増えれば大きくする必要があるな。
迂闊だった。
「それじゃあ、鶏舎は移動しましょう」
俺は孤児院の隣の空き地に大きな鶏舎を用意する。
ニワトリを解放するスペースも十分に取る。
「あの…この敷地は他の方々の土地ではないのですか?」
アンさんは疑問に思い俺に問いかける。
「ここら一帯の空き地は俺が全て買い取ったので心配ありませんよ」
「全てですか、凄いですね」
新しく出来た建物に子供たちも反応する。
「何これー!」
「おっきいね」
「広いー」
「ここは新しい鶏舎だ。悪いけど、ニワトリたちをこっちまで運んでくれるかな?」
「任せるの!」
孤児院の子供たちは手慣れた手つきで、ニワトリを優しく捕まえて鶏舎に移動させる。
古い鶏舎は取り壊しだな。
♢♦♢
クリスたちは夏の日差しに照らされながら、学園の中を歩いていく。
「暑いですわね」
「我慢ですよ、あと一ヶ月もすれば涼しくなります」
「クリスちゃん、涼太さんの訓練ってどんな事をしてるの? 凄くキツイ?」
「そんな事ないわよ。どちらかと言うと、学園の実習の方が無駄に大変だわ」
「確かにそうですね、その割には訓練の成果が恐ろしいほど身についている感覚があります」
「へぇ、それは楽しみですわね」
ブラブラと建物の影の中を通りながら、教室へ向かう。
すると、学生たちが集まっているのが見える。
「もう昨日の結果が張り出されているんですか。見に行きましょう」
クリスたちは可能な成績を見に行く。
座学が200、魔法の方が100点の合計300点換算である。
〜〜〜〜〜中等部二学年成績順位〜〜〜〜〜
一位 クリス・フィル・ハイゼット 300点
二位 ミセル 280点
三位 ロゼッタ・フォン・アルマス 265点
…………………
……………
………
…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「くっ、やはりですわね」
「やったわね、ミセル」
「驚きですね」
まさか、自分が二位に入るとは思わなかったんだろう。
ミセルは驚愕に目を見開いていた。
「シャルはどうだった?」
「はわわわ、ヤバイよ。本当にヤバイよ」
赤く線で仕切られたちょうど下にシャルロットの名前が書かれていた。
「ほ、補習だよぉ」
「座学はそこまで悪くないけど、やっぱり魔法試験が痛かったようね」
「うぅ、ボクだけピンチだよ」
シャルは頭を抱え込み、その場に倒れる。
「大丈夫よ、シャル。放課後は私たちがいるんだから座学は教えるわよ」
「魔法試験はどうすれば……」
「それこそ大丈夫よ。涼太さんが教えてくれれば、私たち四人が上位を独占する事も可能よ」
「うぅ、頑張る」
「そう言えば、お嬢様。学園長の件はどうされますか?」
「そうね、授業が終わったら行きましょうか。ロゼッタたちも付いてきてくれる?」
「分かりましたわ」
「分かった」
クリスたちは教室に行き、先生の授業を受ける。
「クリス君、君は授業に身が入っていないようだがね。この私の授業を聞けることに対してありがたいとは思わんのかね?」
「すいません、先生」
クリスの発言で再び授業を始める教師。
はぁ、何でこんな無駄な魔法の知識を自慢げに話せるのかしら。
苦痛だわ、早く終わらないかしら。
キーンコンカーン
そうして、ようやく授業から解放された学生は散らばりと教室から出て行く。
「私たちも行きましょうか」
クリスは嫌々と学園長室へ向かう。
「失礼します」
「おお、待っておったぞ」
学園長室には、学園長と秘書の二人がいた。
「要件は何でしょうか? 忙しいのでとっとと終わらせたいのですが」
クリスは敢えて苛立ちを込めて学園長に話しかける。
「ワシのこと嫌いかの?」
「出来るなら、関わりたくありません」
「泣いちゃうぞ」
「で、何の様ですか?」
「ふむ、クリス君。私の見立てだが、君は夏季休暇前とはまるで別人の様になった。何があったか教えて欲しいのじゃよ」
どうしよう。
嘘はすぐに見抜かれる。
となると、本当の事を混ぜて話すしかないわね。
「学園の教育内容とは別の事をしていただけです」
「ほう、誰の指示を仰いだのかな?」
なっ!
何でこの発言だけで誰かに教わった結論に至るのよ。
これだから嫌なのよ。
「学園長に言う必要はありません」
「むう、釣れないのぉ。なら私の方で調べるとするかの」
「どうぞご勝手に。では話は以上ですか?」
「それともう一つじゃよ。君たちに私の研究を手伝って欲しいのじゃがどうかな?」
その言葉に隣にいた、シャルとロゼッタは驚く。
賢者でもある学園長の研究に居合わせる事の出来る人物は数少ない。
数多の魔術師が憧れる事だ。
普通ならば、喜んでイエスと答えるところだが……。
「お断りします。私はそこまで暇ではないので。では失礼します」
クリスは学園長の誘いを断り、早々と去って行く。
その後に続いて、ミセルたちも学園長室から出て行った。
「まずいわね、完全に目をつけられたわ」
「涼太様の存在は誤魔化すことが出来ただけ良いと思いますよ」
「そうね、そう言うことにしましょうか。それじゃあ、帰りましょう」
♢♦♢
クリスが去った後の学園長室にて、
「ふむ、ワシの誘いも断るとはのぉ。これは面白いものがあるに違いないわ」
「不謹慎ですよ、学園長」
「良いではないか。最近は刺激がなくて退屈しておったところじゃ。ちょっとあの子たちについて、調べてはくれんかのぉ?」
「私は秘書です。その様な業務は含まれておりません」
学園長にきっぱりと断る。
「そこを頼んでおるのじゃよぉ」
「はぁ、仕方ありませんね。ですが、ほどほどにしてください」
「分かっておるわ。くくくっ、何が出てくるやら。楽しみじゃのぉ」




