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65話 クリスvs宮廷魔導師



 と言う事でやって参りました。

 大きなお屋敷ことロゼッタの家へ。

 来ちゃったよ、何でいつも公爵家なんだろう。

 貴族の中でも一番偉いのに、緊張感がないよ。


「あ、あの。ボクなんかがお邪魔しても良いの?」


 平民の出のシャルロットは屋敷に着いた途端に体をガチガチに硬ばらさる。

分からんでもないよ。


「お帰りなさいませ、ロゼッタお嬢様。そちらの方々は?」

「私の友人たちとお父様に紹介したい方です」

「承知致しました。どうぞ」


 門番さんは快く通してくれた。

 ロゼッタとクリス、ミセルは当たり前の様に通る。

 俺とシャルは門番さんにお辞儀をしてから入る。


「ふわぁ、凄く綺麗なお庭ですね」

「本当ね、凄いわね」


 門を入った途端に、美しい花々で飾られた庭園が俺たちを迎えた。


「お母様の趣味なのよ」

「良い趣味じゃないの」

「ありがとう、クリス」


 俺たちは屋敷を眺めながらロゼッタの父親であろう人物がいる場所へ向かった。



「お父様、私です」

「ロゼッタか、入りなさい」

「失礼します」


 俺たちは続いて、部屋の中に入る。

 この屋敷であろう当主を見た途端に俺とシャルはビクリとなった。

 ヤクザじゃん。

 怖すぎるだろ、めっちゃ厳ついよ。

 ガンを飛ばされたら、反射的に土下座をしてしまいそうだ。

 シャルなんか俺の腕にしがみついて、足が生まれたての子鹿の様だもん。


「ほう、お前が学友を招くなど珍しいな。紹介をしてくれるか? 私はアルマス公爵家当主のジグル・フォン・アルマスだ」

「私はセリア王国公爵家令嬢のクリス・フィル・ハイゼットです」

「私はハイゼット家の騎士を務めております、ミセルと申します」

「ボ、ボクはシャルロットです。ロゼッタさんのお友達でしゅ!」


 ガチガチになり過ぎて、噛んでしまうシャル。


「ほう、ハイゼット家令嬢か。君の噂はロゼッタから聞いているよ。それでそちらの男は誰かな? 制服は着ておらんが」


 ジロリと俺の方を向くというか睨む。

 すんません、何かすんません。


「俺は月宮涼太と言います。冒険者です」

「お父様、今日はこの涼太さんにお願いがあって屋敷に来て貰ったのです」

「聞くのは良いが、お前はもう直ぐ家庭教師の時間だ。長くは取れんぞ」

「その件についてもです。お父様、私の家庭教師を解雇して下さい」

「何? 家庭教師が要らないだと、わざわざ宮廷魔導師を雇っているのにか?」


 ロゼッタの発言にジグルさんは不機嫌になる。


「ならどうする? 学園の授業だけで事足りると思わんが」

「それについては私から説明させてもよろしいでしょうか?」


 クリスが会話に割って入った。


「何だ、申してみよ」

「魔法に関して、私たち四人はここにいる涼太さんに学ぶ所存なのです」

「その男は見たところ、ただの冒険者の様だ。とても私の娘を教えるのに値するとは思えんぞ」

「それは愚考ですよ。涼太さんの右に出る魔法の使い手はこの世に存在しないと私は思います」

「ふむ……少しその男と話させて貰いたい。二人にさせてくれるかな?」

「分かりました」


 え……。

 やめて、行かないで下さい。

 無理です。

 どうすれば良いんだよ。



「涼太と言ったか」

「はい」

「私はお前さんの事を知らん。何かお前自身の価値を証明する物はあるか?」


 えー、証明する物か。

 冒険者のギルドカードに商業ギルドカード。

 あとは……バッジくらい?


「これでどうですか?」


 俺は内側に留めているバッジを見せる。


「それは本物か?」

「偽物ならば、不敬では収まりませんよ」

「確かにそうだな。驚いたぞ、セリア王国の四大公爵に国王か。これは私も迂闊な発言はできんな」

「そんな事もないと思いますが」

「もしも私がお前さんに敵対すれば、私はセリア王国と敵対したと言うことになる。何者だ?」

「陛下からは口にするなと言われているので詳しくは言えませんよ。俺自身はただの冒険者のつもりです」

「なるほど、分かった。私もお前さんとは有効的な関係を築こう」

「ありがとうございます」


 良かった、身元の保身はついたか。

 ひとまずは一段落だな。


「それで、先ほどハイゼット家令嬢が言っていた事は本当か?」

「自分の実力を自分で言うのは少し引けますが……そこはジグルさんの見立てで判断して下さい」

「分かった。それで、お前さんはロゼッタを成長させられるのか? ロゼッタには申し訳ないが、あやつには才能がない。家でも寝る暇なく勉強をしてようやくあの成績なのだよ。宮廷魔導師を家庭教師として雇ったのも、少しでもあの子の足しになればという事からだ」


 学年次席だからクリスと同じ天才かと思ったら、努力家だったのか。


「昨日なんかは、どうやら学園の試験の結果が芳しくなかったのか家でひたすら泣いていたのだよ。私は心が痛い。最近では、宮廷魔導師も手を焼いているのだ。なぜ、上手く出来ないのだと。お前さんに聞く、お前はロゼッタに救いの手を差し伸ばしてやることは出来るか?」


 ジグルさんは深いため息をついて俺にそう尋ねる。


「御心はお察しします。しかし失礼を承知で言わせて貰います。俺からすると、魔法に才能の有無は大した障害にはなりません。現状は学生も宮廷魔導師も、どんぐりの背比べ状態なのですよ」

「どういうことだ?」

「そもそも、魔法に対する考え方から間違っているんですよ。言ってしまえば、現代の魔法に関する膨大な知識は無駄な知識に他なりません」

「貴様! 私の娘を愚弄するか」


 ジグルさんは血走った目で、俺を睨む。


「なら、試してみましょう」

「何をだ?」

「あなたの雇った宮廷魔導師と俺が一ヶ月間だけ教えたクリスで模擬戦をするんですよ」

「バカな!? たかが一学生が宮廷魔導師の相手になるはずがない!」

「それを実証するための模擬戦です。正しい知識と理解をしたクリスの実力を見てもらいたいのです。もしも、あなたの納得がいくような結果ならば、その時は俺の事を信用してほしい」

「分かった、その時はお前を信用しよう」






 宮廷魔導師はいかにもプライドが高そうな人……いや、奴だった。


「当主様、いくら私でも学生を苛める趣味はございません。それに私の相手になるなど笑止、そこの薄汚い冒険者でもあり得ないのですよ」


 パサっと自分の髪をたくし上げる。

 ナルシストじゃん。

 それを聞いたクリスは不機嫌な顔になる。


「涼太さん、やっちゃっていいですか? あのプライドをへし折りたいです」

「奇遇だな、俺もそう思っていたところだ。思う存分にやってやれ、死んでも俺が生き返らせる」

了解です。まずは顔面パンチをあのいけ好かない顔にお見舞いしてやります」

「お嬢様、言葉が汚いです。令嬢らしく振舞って下さい……と言いたいところですが、私も今回は同意です。どうぞご存分に」


 クリスとナルシストは騎士団の訓練場所で対峙する。


「模擬戦の判断は私がする。では始め!」


 ジグルさんの合図で模擬戦が始まる。



「子猫ちゃん、良かったらこの後にこの麗しの僕とお茶でもどうかな?」

「お気持ちだけ受け取っておきますね。 (……キモッ)


 あれ……なんか聞こえなかったか?

 まぁ、気のせいか。


「おや、照れているのかな? 大丈夫、僕に全て任せればいいさ。そう! この僕にぃぃっっ!」


 ヤバいです、想像以上にヤバいやつです。

 クリスは鳥肌が立っている。


「ロゼッタちゃん、大変だったんだね」

「そ、その……はい」


 認めちゃったよ。

 だが、分かる。

 こんな家庭教師をよく今まで頑張って我慢した。


「さて、どうしようか。僕は君を傷つけたくない。出来ればこうさ……ブヘッ!」

「鬱陶しいんですよ、クソ野郎」


 おお、俺の教えた縮地も完璧に使いこなしてるな。

 相手は一瞬にして消えて、目の前に現れるから手の出しようがない。


「この、よくも僕の顔に! 燃え出る炎よ、我が敵を焼き払え! 【炎槍ファイアランス】」


 男から三本の槍が生成される。


「ふはは、三本同時発動だ。もう、泣いて謝っても許さないぞ」


 槍はクリスに目掛けて突き進む。

 俺とミセルを除く全員はクリスの危機に焦る。


「はぁ、鬱陶しい」


 ミセルに当たる寸前で、槍は空気に溶け込むように消えた。


「涼太様、お嬢様は何を? 反射ではないようですが」

「あれは、相手の発動した魔法に直接結界魔法をぶち込んでレジストしたんだよ。ゴリ押し魔法だな。この短期間で慣れたもんだ」


「なっ、僕の魔法が! ならこれはどうかな? 素は暖かさを求めた、素は燃え出る炎を望んだ、紅蓮の灯火よ、全てを焼き払う炎すなわち業火、大地を燃やし尽くせ【インフェルノ】」


 へぇ、やるじゃん。

 流石は宮廷魔導師だな。


「涼太さん! 早く止めないとクリスが死んでしまいますわ!」

「まあ、見てろ」


 迫る地獄の業火。

 クリスは仁王立ちでそれを見上げる。


「クソ長い詠唱に加えて、この程度の規模ですか。くだらないですね。【コキュートス】」


 全てを凍結させる魔法が放たれた。

 クリスの放った魔法は最も容易く、炎を飲み込む。

 あまりの冷気に回りの人たちはガチガチと口を鳴らす。


「チェックメイトです」


 最後の留めにクリスは男の四方八方の空間に埋め尽くすほどの氷の矢を生成する。


「…………」


 男はそのまま気絶した。


「そこまで!」


 ジグルさんの合図で模擬戦は終わる。


「涼太さん、やりましたよ!」

「グッジョブだ、よくやった」

「はい!」


 そこにジグルさんが近づいてくる。


「本当に今のをたった一ヶ月で可能にしたのか?」

「まあ、クリスの才能も勿論あります。ですが、娘さんもこのレベルに育て上げられることは保証します」

「お前を信じよう。娘の事は任せたぞ」

「はい」


 ジグルさんと俺は力強く握手をする。


「お父様、もう一つお願いがあります」

「何だ、ロゼッタ」

「涼太さんは家を買うらしいので、紹介状を書いて欲しいのです」

「なんだそんな事か。少し待て」


 ジグルさんは先ほどいた自室に戻り、紹介状を俺に渡した。


「ありがとうございます」

「うむ、気にするな」

「では、商業ギルドに行きましょう!」




 俺はクリスたちに案内されて、商業ギルドまで行く。

 かなり中央の方にある。

 少し、学園からだと遠いかな?


「いらっしゃいませ。どの様なご用件でしょうか」

「家を買いたいんですが」

「紹介状はお持ちですか?」

「はい、これを」


 先ほど貰った紹介状を渡す。


「これもお願いします」


 クリスはアイテムボックスから手紙の様な物を受付嬢さんに渡した。


「クリス、今のは?」

「お父様が涼太さんが家を買う際にと渡してくれました」

「そうか」


 グリムさん、ちゃんと考えてくれてたんだ。


「確認致しました。何かご希望の物件は御座いますでしょうか?」

「学園から近い場所と庭付きがいいです」


 俺の代わりに答えるクリス。

 もう、任せようかな。


「となりますと……値段の方が高い順から一億、七千万、五千万、三千万、五百万の物件が御座います」


 なるほどな、五百万は安すぎるから怖いし止めよう。

 学園周辺の物価は高いだろう、三千万の物件も外そう。

 となると上三つだな。


「実際に見に行くことは可能ですか」

「はい、勿論に御座います」

「それじゃあ、上三つを値段の低い順からお願いします」

「承りました」


 俺たちは職員さんに連れられて、一つ一つ見て回ることにした。


「こちらが五千万の家になります」


 学園の入り口から200メートルほど離れている家だ。

 うーん、なんかしっくりこないな。

 庭も少し狭い。

 訓練は部屋を創造すれば問題は無いけど、ここで何かをするとなるとちょっと足りない。


「次をお願いします」

「承りました」


 そう案内されたのは学園の正に目の前。

 近いな、学生は便利そうだ。

 庭も申し分ない。

 気に入ったかもな。



「最後のをお願いします」


 そう言い、案内されたのは屋敷だった。

 普通に貴族が住みそうな屋敷だ。


「こちらは数年前に亡くなられたご夫妻が使われていた屋敷に御座います」


 死んだ後に売ったという事か、なんか怖いな。

 お化けが大の苦手な俺には少しハードルが高そうだ。

 よし、二つ目にしよう。


 俺は一度商業ギルドに戻って、契約書にサインをして即金を払う。

 クリスたちは家の中に何かないか、散策中だ。



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