61話 ラバン王国
「見えて来ました!」
「あれが、ラバン王国か」
「はい、そうです」
ようやく見えたラバン王国。
セリア王国に負けず劣らず大きい国だ。
門の前にも多くの馬車が止まっているな。
あそこに並ばなきゃいけないのか。
「では行きましょう」
クリスは門とは違う方向に誘導する。
「門から入らないのか?」
「貴族専用入口があるんです。そちらから入りましょう」
俺たち正門から少し離れた場所にある門に着いた。
誰もいない。
二人の門番さんがいる。
クリスとミセルは貴族と従者と分かったのでそのままスルー。
俺は護衛として来た冒険者だと言ったら快く通してくれた。
六本足のレイニーは騒がれたら困るので、俺が普通の馬に擬態させる。
「それじゃあ、私たちは学園の方に向かいます。一時間後にあの時計塔の前で落ち合いましょう」
クリスは中央にある時計塔を指差す。
「分かったよ、馬車の事は任せてくれ」
「お願いします」
俺とクリスたちは早速別れて進む。
さて、先ずは宿探しだな。
いきなり家を購入はやめておこう。
馬車は亜空間にでも入れておけばいい。
だけど、レイニーもいるんだから人目のつく場所では行いたくないな。
(主様、お腹が減りました)
レイニーはそう言い、目の前にある屋台の方をじっと見る。
食べたいのか。
「宿を取る前に軽食をしようか」
串焼きか、どこにでもあるよな。
「串焼き三十本下さい」
「三十本も食えんのかい?」
「うちの馬が食べたい様なのでね」
「へぇ、えらく太っ腹なご主人様じゃねぇか。良かったな」
串焼きのおっちゃんはレイニーの頭をポンポン叩く。
(主様、蹴り飛ばしてもよろしいでしょうか?)
「愛嬌を振りまけ、飯抜きにするぞ」
レイニーは必死で店主の顔に自分の顔を擦り付ける。
やれば出来るじゃないか。
「おう、可愛いやつじゃねえか。二本おまけにしてやるよ、持っていきな!」
「ありがとうございます」
(主様、早く食べたいです)
「少し待ってくれ。おっちゃん、この辺で良い宿はないか? 見ての通り馬車もあるんだよ。高くても良いから教えてくれないか」
「その馬車は貴族様のやつか。となると、坊主は護衛か何かか?」
「そうだよ」
「大変だな、一番良い宿はここから真っ直ぐに進んだ『黄金の猫亭』って宿をだな。警備や接待もしっかりしてくれるが、その分メチャクチャ高い。後は次の角を曲がった辺りにある『狐の安らぎ』って宿なら馬車も入れるぞ」
「そうか、ありがとな。また串焼き買いに来るよ」
「おう、いつでも来い」
黄金の猫亭か。
金はあるし、そこにしようかな。
(主様)
「分かったよ、木陰に移動しよう」
俺たちは側にあった広場へ向かう。
串焼きなので、串から外して容器に入れ渡す。
(おお、美味いです)
「お前って、草食動物だよな?」
(草食動物が肉を食べてはいけないと言う決まりはありません!)
いや、確かにそうだけどさ。
食い過ぎて、腹を壊すなよ。
この串焼きって鳥かな?
焼き鳥だ。
セリア王国では肉は牛らへんが主流だったけど、こっちは鳥なのかな?
まあ、美味いに変わりはないんだけどな。
(ふぃー、美味かったです。馬だけに)
「これからお前の食事は雑草になりそうだな」
(あ、すいません! それだけは勘弁を!)
「ほら、とっとと行くぞ」
俺たちは、おっちゃんの指示にあった通りの道を進む。
すると、大きな建物が見えてきた。
黄金の猫亭と大きく書かれている看板が見える。
あそこか。
さっさと受付を済ませるか。
入ると、中は綺麗に清掃されている。
高級感が溢れ出ているな。
「当店にようこそお来し下さいました」
「宿を取りたいんだが、部屋は空いていますか?」
「申し訳ありません、只今一般の部屋は満席になっております」
「一般と言うことは他にもあるんですか?」
「スイートルームはございます。しかし……」
俺の服装をチラチラ見る。
ああ、ごめんね。
こんな見窄らしい格好じゃ、とても泊まれる客とは思わないよね。
「これで足りませんか?」
ちょっと、ムカついたのでミスリル金貨をカウンターの上に置く。
「ッッ! 申し訳ありません!」
「泊まれますか?」
「勿論にございます。スイートルームは一泊で金貨一枚になりますがよろしいでしょうか?」
一泊で100万か。
高級宿の更に、スイートルームなんだから仕方ないな。
「構いません」
「何泊されるご予定でしょうか?」
「そうだな、家を買うまでは泊まらせて貰おうかな。数日間だろうがよろしく頼むみます」
俺はそう言い、白金貨を一枚渡す。
「お釣りは必要ありません。泊まる日が伸びれば、また払います」
「誠に本日は当店をご利用頂きありがとうございます。では、スイートルームにご案内致します」
「よろしく、外に出ている馬車は移動させておいてくれ」
「承知しました」
案内されたのは、最上階。
広いな、ベットも大きい。
「昼食はいかがなさいますか?」
「必要ありません」
「何かあれば何なりとお申し付け下さい」
「ありがとう」
さて、それじゃあ集合場所に行きますか。
「あ! 涼太さん。お待たせしました」
二人ともここにきた時の服装ではない。
同じ服を着ている。
ミセルは腰に愛刀を下げて来た様だ。
「へぇ、それが制服か」
「どうですか?」
「新鮮だな、二人とも凄くいいよ」
「えへへ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、飯にでもするか」
もう昼時だ。
レストランは賑わっている。
「でしたら私のオススメがあります。付いて来て下さい!」
クリスに連れられて来たのはオシャレな店だ。
いかにも女子が好きそうな外見だな。
客も女性客がほとんどだ。
男の俺は入りづらい。
ミセルは察したのか申し訳なさそうだ。
「いらっしゃいませ、三名様でよろしいでしょうか」
「はい」
「では、席にご案内致します」
案内されたのは、四人が座れるテラス。
「クリス、ここは何の店なんだ?」
「ここのサンドイッチとデザートは美味しいんですよ」
「へぇ、じゃあサンドイッチを頼もうか」
出て来たサンドイッチはレタスやハムが挟んである物だ。
切ったゆで卵も入っている。
若干とろみのついた加減だ。
うちの卵は黄身がオレンジ色だけど、この卵は黄色。
何が違うんだろう。
品種かな、分けて違う餌を与えてみるのもいいな。
「あら、クリスさんじゃありませんか」
ん?
金髪縦ロールだ。
初めて見たな。
「こんにちは、ロゼッタさん。偶然ですね」
「こんな所で会うなんて偶然ですわね」
初めて見たよ、ですわねって言う人。
なんか感動。
お嬢様言葉だよ。
「何のご用件ですか? 私たちは見ての通り食事中ですよ」
「あら、それが久しぶりに会ったライバルに対しての口の聞き方ですの?」
「それで?」
「見てなさい! 明日の試験では私の夏の成果を存分に見せて差し上げますわ」
ますわぁ。
復唱してみました。
縦ロールはそれを言って、立ち去っていった。
「ミセル、あの縦ロールって誰なんだ?」
「彼女はロゼッタさんです。ラバン王国の公爵家の方ですね。お嬢様が学年主席。ロゼッタさんが次席でいつも争ってられるのです」
クリス天才説がまた一つ実証された。
「クリスって凄いんだな」
「涼太さん、私を何だと思ってるんですか!」
いや、アホの子だと。
暇だ暇だと馬車の中で転がってるやつだし。
迷宮で大泣きしてたし。
「涼太様の基準で考えないで下さい。所詮は学生。プロと比べてはいけません」
「ミセル、私は悲しいわ」
「さっきの縦ロールが言っていたんだけど、学園が始まったら何かするのか?」
「はい、試験があります」
「何のだ?」
「魔法と座学ですが?」
クリスは何故そのような事を、と言った表情で俺を見る。
「頼むから自重はしてくれよ」
「どういう事ですか?」
「お嬢様はすでに宮廷魔導師級の使い手です」
「お前に教えた魔法は危険なものもある。技ってのは隠してこそ意味があるんだよ。あまり見せびらかすなよ」
「当然です、涼太さんに教えて貰う時に約束した事ですから」
「ならばよろしい」
クリスのことだ、約束は守ってくれるだろう。
「そう言えば、涼太さんはどこに泊まっているんですか?」
「黄金の猫亭スイートルームだけど」
「本当ですか! 行きたいです!」
「家を買うまではダラダラしてるから午後なら来ていいよ」
「ありがとうございます!」
そういう訳で、俺たちは色々見て回り帰る事にした。
「お帰りなさいませ、月宮様。お夕食の方はいかがなさいますか?」
俺の担当になった宿の職員というかオーナーさんが迎えてくれた。
「部屋の方で食べるから持って来てくれるか?」
「承知しました」