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57話 挨拶回り



 朝から俺ははたまたグリムさんに呼び出されたのだ。

 何かあるたびに俺を呼ぶのはやめてほしい。

 昨日の疲れも残っている。

 俺の分身たちが寝ている俺に向けて、350億と囁き続ける夢を見た。

 悪夢だったよ。


「おはようございます」

「うむ、おはよう」

「何か様ですか」

「お前に頼みたい依頼がある」

「それは冒険者としてですか?」

「その通りだ」


 なら、別にいいかな。

 公爵家の依頼ってポイント稼ぎには持ってこいだし。


「内容は何ですか?」

「クリスから明後日に学園に向けて出て行く事は聞いておるな」

「ええ、まあ」

「お前にはその護衛についてもらいたい」

「ハイゼット家の護衛じゃダメなんですか?」


 グリムさんは椅子にもたれて腕を組み、ため息をつく。


「この国の帰郷途中の事を忘れたのか? 今回は少数精鋭かつ私の信頼に於ける人物に頼みたい」

「そこで俺ですか」

「お前さんほどこの条件に当てはまる人物を私は知らん」


 信用されてる事は嬉しいな。

 ラバン王国に行くきっかけにもなる。


「護衛はお前とミセルの二人だ」

「少なくないですか?」

「お前さんら三人の方が気楽に行けるだろう」

「まあ、確かにそうですね」

「では出発は明日だ」

「あれ? 明後日じゃないんですか?」

「その一日はクリスの実戦に付き合ってほしい」


 実戦って魔物を狩るという意味だよな。


「クリスの歳では早すぎませんか?」

「いつ何が起こるか分からん。クリスの実力は申し分ない、だが実戦と訓練とでは勝手が違うことは知っているだろう」

「まあ、そりゃあね」

「お前さんが補助をしてくれて構わんから頼む」

「極力は安全を第一に考えさせて貰いますよ」

「無論だ、助かる」


 となると、挨拶回りとか必要だよな。

 今日中に済ませてるしかない。

 ギルドには顔を出そう。

 まずは商業ギルドだな、冒険者ギルドでは絡まれそうだ。



「ご主人様、朝食ですニャ」

「ありがとう」


 いつも通り、朝食の席につく。

 地球では朝食を食べなかったが、今では毎日食べる様になったな。

 食べないと本当に体がもたない。


「明日に俺はしばらくラバン王国に滞在する事になりそうだ」


 俺が何気なくメイドたちにそう言うと、メイドたちは揃って涙目になった。


「あ、あの。わ、私はどうすれば……」

「ご主人様と離れ……」

「離れ離れは嫌ニャァァ!」


 そんな、捨てられそうな猫みたいになるなよ。


「ラバン王国にも拠点を置こうと思う。家を買って、セリア王国と繋ぐ扉を設置する。数日の辛抱だよ」

「その間は私たちはどうすれば……」

「お前たちは普段通りに孤児院の面倒をみてくれ。グリムさんも偶に来るからもてなしを頼む」

「分かりました」


 俺はいつもの冒険者の服装に着替えて家を出る。

 昨日とは打って変わって静かだな。

 早朝だからか?

 俺もいつも以上に早い外出だ。



「涼太さん、今日はどの様なご用件でしょうか?」

「しばらくはラバン王国に滞在しそうなので、挨拶に来ました」

「いつ頃帰るご予定ですか?」

「ちょくちょくは帰って来ると思いますよ」

「そうですか、安心しました」


 エルザさんはホッと胸をなでおろした。

 そして、他のギルド職員も同じ反応をする。

 何で?


「そうだ、リバーシの売れ具合はどの程度ですか?」

「それにつきましては、素晴らしいの一言です。貴族の方々から一般の方々まで注文が殺到して、生産が追いつかない状態になっておりますね」

「そんなにですか?」

「娯楽が少ないこの世の中です。売れて当然だと思われます」

「そりゃ、良かったです」

「また何か御座いましたら、是非お申し付け下さい」

「はい、そうさせて貰います。あと、これをどうぞ」


 箱に詰めたお菓子やらをエルザさんに渡す。


 ガタッ!


 他のギルド職員たちが一斉にこちらへ振り向いた。


「こら! あなたたち、仕事をしなさい! すいません、前に涼太さんが持ってこられたプリンがあまりにも絶品だったので皆、虜になってしまった様です」

「そ、そうですか。それは何よりです」

「涼太さんが店を持つであろう日をギルド総員、楽しみにしております」


 ねえ、何でみんなそんな事言うの?

 何で俺が店を持つ事が決定事項になってるの?

 圧力をかけないで下さい。



 続いて冒険者ギルドに立ち寄る。

 そして即座に正座させられました。


「涼太さん」

「はい」

「またですか?」

「はい、すいません」

「それに最近は依頼を受けていないじゃないですか。別に強制ではありませんよ。しかし、サボりぐせはダメだと思います」

「おっしゃる通りです」


 何で毎度の事だが、シーダに怒られるんだろう。

 おい、そこ!

 笑うなや!

 確かにギルドカードの更新は忘れてました。

 でも、違うんです!

 依頼が出来なかったのは、色々な事件に巻き込まれていたからなんです!

 孤児院とかメイドの面倒をみる方が楽しかったなんて、断じて御座いません。


「ではギルドカードを貸して下さい」

「どうぞ」


 ギルドカードを渡して、シーダさんは更新にかかる。


「おいおい、お前何度目だよ」

「ぷぷっ、毎回恒例になってきてるな」

「学習しろよ、アホか」

「ちょっとは、ギルドに顔出せや」

「シーダさんに罵られる方法を教えてくれ!」


 ギルド連中が絡んできた。

 若干一名、アホがいたが無視する。


「悪かったって」

「なら、酒でも奢れや」

「何でそうなるんだよ」

「知ったんだぞ、うちの知り合いがオークションで取引してるお前を見たって話をよ」


 おいおい、情報漏洩だぞ。

 狙われるのは嫌だ。


「確かに居たよ」

「で、いくら稼いだんだ?」

「言う訳ないだろう!」


 360億なんて言えない。


「なるほど、相当稼ぎやがったな」

「ちっ、しゃあねぇな。飲めや!」

「ヒャッホウ! 分かってるじゃねぇか! 飲め! 飲みまくれ!」


 ウォォォォォォォォ!


 ちょっとは自粛しろよ。

 はたまた、ギルド内は宴と化す。


「涼太さん、更新が終わりました。おめでとうございます、Dランクです」


 やはり、ハルさんの依頼が大きかったのかな。

 そこまで依頼はやっていないが、ランクが上がった。


「涼太さんはこの後のご予定は何かありますか?」

「えっと、明日にはラバン王国に行く事になりそうです」

「え……」


 ギルド全体が静寂に包まれる。


「確保だー!」

「「「「「任せろ!」」」」」


 ちょっ、待てよ!

 さっきの騒ぎはどうした!

 何でみんな俺に近づくのさ。

 やめて下さい、怖いです!


「おいコラ、どう言う事だ」

「何、勝手に逃げようとしてんだ」

「行かせねぇぞ」

「誰が俺たちの酒代を出すんだよ」

「そうだよ、せっかくシーダに訪れた春を潰すのかい?」

「ちょっ、ルーナ! 何を言ってるのよ!」


 縛り上げられた俺は鬼の形相の連中に縛り上げられた。

 なんで、ルーナさんも参加してるんだよ。


「何の騒ぎだ! またお前か、涼太」


 ガッツさん、俺を問題児発言しないで下さい。

 どこからどう見ても、俺って被害者でしょう!


「誤解だ、護衛の依頼でラバン王国に行くだけだ」

「何だ、それなら早く言えよ」


 言う間もなく縛り上げられたんですが、


「で、いつ戻ってくるんだ?」

「さあな、俺ってラバン王国に行った事ないからしばらくは滞在すると思うぞ。とは言っても、こっちを行ったり来たりの生活になるだろうな」


 やっぱり孤児院の卵の件は心配だ。

 ソフィーアちゃんにも定期的に会う約束もしたしな。


「それなら、紹介状を書く。あっちのギルドで見せれば、お前の事を少しは融通してくれるはずだ」

「助かるよ、ガッツさん」


 どうせだ、ギルドの厨房を借りて何か作ろう。

 肉でも食べるか、結構時間が経って昼になろうとしてるし。

 唐揚げと串焼きだ。

 あと餃子も用意しよう。


「おい、テーブルの上をどけろ。唐揚げだ」

「待ってました! おい、グラスをどけろ。唐揚げ様のお通りだ」

「涼太の料理って絶品だよな。料理人でも生きていけるんじゃねぇのか?」

「俺は自由に過ごしたいんだよ」

「くはは、やっぱお前は冒険者気質だな」





二章終

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