54話 オークション準備
「ガブリエル、あの子たちの様子はどうだ?」
俺は神界の方のうちで数日ゆっくりとしていた。
ガブリエルの入れてくれた紅茶を飲みながら、地上で買った本を読む。
ふと、あの子たちの事が気になったので聞いてみた。
「覚えは早いですね。一般教養は一通り教え終わりました」
「そろそろ地上に戻ろうかと思う。教育は、また今度頼むよ」
「承知しました。少々お待ちください」
ガブリエルは部屋を出て地上の方のメイドたちを迎えに行った。
あー、少し神界で過ごしすぎたな。
あんまり無断で外出しているとクリスたちも心配するだろうな。
卵の生産具合も気になる。
孤児院にも顔を出さないとな。
「ご主人様ニャー!」
「ご主人様ぁ」
シェイたちが猛ダッシュで俺に抱きついてきた。
「おう、久しぶりだな」
「メイドって大変なのニャ」
「よしよし、頑張ったな」
「フニャァ〜」
俺が頭を撫でると気持ち良さそうにするシェイ。
「あなたたち、数日ぶりに主人様に会えたからって気が緩みすぎです」
「ニャ! ごめんなさいニャ」
「すいません、師匠」
「ごめんなさいです」
ガブリエルの一喝で俺から離れて背筋を伸ばすメイドたち。
見事に主従関係が成立している模様だ。
一体何があったのか。
「ガブリエル、ありがとう。定期的にまた教育をお願いするよ」
「はい、いつでもお待ちしております」
ガブリエルは深くお辞儀をし、他の熾天使たちも見送りのために同じ行動をする。
「それじゃあな」
俺はメイドたちと地上へ転移する。
「涼太さん、どこへ行っていたのですか!」
「涼太様、心配しました」
クリスとミセルが俺たちの騒がしい音に気がついたのか部屋に入ってきた。
「ちょっとした用事だよ」
「出て行くなら一言声をかけて下さいよ」
「悪かったって、そう怒るなよ」
ポカポカ叩かないでよ。
今度お詫びをするからさ。
「遊んで下さい!」
「お嬢様、夏休みの課題は終わられたのですか?」
「う、あともうちょっとなのよ。ミセル、良いじゃないの」
「あともう少しなら、終わらせてから涼太様にお願いして下さい」
「うぅ、分かったよぉ」
「終わったら遊んであげるから頑張ってこい」
「はい、すぐに終わらせてきます!」
クリスは元気な挨拶をして屋敷の方へ走って行った。
忙しいやつだな。
「あ、涼太様。グリム様がお呼びでした」
グリムさんがか?
「分かったよ、すぐに行く」
メイドたちには帰ったばかりなので、ゆっくりして貰う事にした。
何用だろう。
コンコン
「入れ」
「何か俺に用ですか?」
「涼太か、来たな。実はガイアからお前さんを王城に連れてこいとの連絡が入ったのだよ」
「陛下からですか?」
「そうだ、今日か明日にでも向かってくれ」
「分かりました」
「それからもう一つ、これを見ろ」
グリムさんは一つの用紙を俺に見せる。
オークション開催。
そう言えば、商業ギルドにも張ってあったな。
「お前さん、何か面白い物があるなら出品してみないか?」
「冒険者ギルドでも言われたんですけど、貴族の御婦人って宝石類に目がないのですか?」
「まあ、嫌いな女はいないだろうな。なんだ、お前さんは宝石類を出品するのか」
「使い道が無いですからね。他にも売れそうな物は一気に売り払おうかと思っています」
「ふむ、ならば楽しみにしておこう。私たちもオークションには参加する。お前さんも行くのであれば声を掛けよ」
一通り話が終わったので俺は早速オークション会場に向かう事にする。
商業ギルドの近くともあって、迷わずに行けた。
会場の中に入ってみると中は凄く広い。
コンサートホールだな。
ちらほら役員の人たちが見える。
「すいません、オークションの出品ってどこでやっていますか」
「む、冒険者か。カードを拝見してもいいか?」
カードを渡す。
それが本物か役員さんはじっくりと確認しているようだ。
何を疑ってるんだよ。
「確かに、では案内しよう」
俺は一度会場の外に出て移動する。
ちらほら他に出品する人たちも見えるな。
明後日がオークションだ。
俺だけ遅れて出しているのだと思った。
案内されたのは綺麗に掃除された小部屋だ。
「涼太様、この度はようこそお来しくださいました」
「どうも」
「私はこの度のオークションを管理しているバゼトと申します。以後お見知り置きを。して、涼太様はいかような品を出品するご予定でしょうか」
「まあ、使わないから処分を含めて出品しに来たんですけどね。まずはこれをお願いします」
俺はアイテムボックスから大量の宝石類を机に出す。
それを見た瞬間にバゼトさんは営業スマイルから驚きの表情に変わる。
「驚きました。少し鑑定させて頂いてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」
バゼトさんは係委員を呼んで一つ一つ鑑定していく。
偽物だったら大騒ぎになるから仕方ないよな。
「確認致しました。素晴らしいですね、希少価値の高い物もこんなにあるなんて驚きです。御婦人たちも喜ばれるでしょう」
「やはり貴族の御婦人には人気なのですか?」
「はい。近年、徐々に宝石類の出品は減っており苦情が絶えないのです。今年は成功すると安心しました」
「安心しているところ悪いんですが、宝石類は処分であって売りたいのは別にあるのですが」
この程度で俺のチートが収まるはずない。
今回はボロ儲けするんだ。
これからが本番である。
俺は四つの出品を机に出す。
一つはジュエルシリーズ。これは普通に需要が高いので売れるから出すのは決めてた。
二つ目と三つ目はミスリルとアダマンタイトの剣だ。
そして、四つ目のアイテムボックス。
以上四点である。
「え、これ。えっ、本物ですか」
「何を驚いてるんですか、オークションなら出品されてる物ではないのですか?」
「確かにアダマンタイトとミスリルの剣は稀に出品されています。しかしジュエルシリーズとアイテムボックスは初めてです。ちなみにアイテムボックスの許容量はとの程度でしょうか」
「そうですね、この部屋の半分程度でしょうか」
バンッ
「おい、この部屋の警備を強化しろ!」
「「はっ!」」
バゼトさんは大慌てで役員にそう告げる。
え? 何?
なんかマズイ事でも言ったのか?
バゼトさんからは冷や汗が流れる。
「申し訳ありません、予想外の品に驚きを隠せませんでした」
「いえ、気にしていません。そんなに凄い事なのですか?」
「このアイテムボックスは国宝級ですよ。世界でも指で数えるほどしかない代物です」
やっちゃった。
でも後悔はしないぞ。
「厳密にお願いしますね」
「当然です。オークションは年の行事の中でも最も金が動く行事です。出品とその出品者の安全も私たちの業務に含まれておりますのでご安心を」
「それだけ大掛かりな行事なら盗難の恐れもあるのではないのですか?」
「当日までは私たちが二十四時間、数十人体制で管理しております」
「なら出品を動かす当日は? 」
「それこそ安全というものです。当日はオークション会場の中にも外にも貴族様方の護衛で密集しています。出品を盗むという事は楽しみにされてるお客様に対して挑発してるのも同然。盗むにはリスクが高すぎます」
あー、嫌だ。
考えただけで恐ろしい。
大勢の貴族を相手にするって面倒以外のなにものでもないだろ。
なら安全だな。
俺は出されたお茶とお菓子をつまみながら、契約書にサインをしていく。
なるほど、落とされた出品の1パーセントは委員会に入るのか。一割は取られると思っていたので良い誤算だ。
それにしても、ここ最近は契約書やらばかりを書いてる気がするな。
金のやりとりだから仕方ないけど、俺って冒険者だよね。
冒険者って狩をして、ギルドで騒ぎまくるイメージだ。
何だよ、この対極の行いは。
「そう言えば、オークションには貴族以外にどんな人たちが来るんですか?」
「そうですね、陛下もお来しになられます。涼太様のアダマンタイトの剣を求めて、冒険者の方々も来られます。あとは大商人の方々ぐらいでしょうか」
へぇ、以外にオープンなんだな。
貴族以外はダメという事はないのか。
「ちなみに涼太様もオークションにご参加なさいますか?」
「ええ、一応は」
「でしたらこれだけの品を出品して頂いたお礼に当日はVIP席へとご案内致します。いかがでしょうか」
「当日はハイゼット家と一緒に行くので必要ないと思いますよ」
どうせ公爵家なら良い席を取ってるだろう。
陛下も来るんだったら、最悪は隣にでも座らせて貰おう。
「申し訳ありません。涼太様の認識を変えなくてはなりませんね」
「勘違いしないで下さいよ。俺はごく普通の一般人です。ハイゼット家とは少し縁があってお付き合いしてるだけです」
「その公爵家とお付き合いする事自体が既におかしいのですよ。私も勉強不足ですね」
一通り終わったのでオークション会場を出る。
飯にでもするか。
ちょうど昼ごろだしな。
屋台で買い食いをしよう。
メイドたちの分も買って帰るか。
「おい、涼太。こっち来い」
フラフラと見て回っていると、八百屋のおっちゃんから声がかかる。
「何だよ、おっちゃん」
「お前、一体何をしやがった」
「何って、なんだよ」
「孤児院の子供たちに決まってるだろ。あんな笑顔で俺の野菜を買いに来てくれたんだ。おまけをし過ぎて後で嫁に怒られたじゃあねぇか」
知らんよ。
自業自得だろ。
「ちょっと手助けをしただけだよ。俺が面倒を見る事になったんだ」
「なるほどな、お前のおかげか。ありがとよ、ここら一体の連中もみんな心配してたんだ。助けてくれた事に感謝するぜ。おい、お前ら! 救世主様だぞ」
それを聞いた屋台の人たちが俺の周りに集まってくる。
「ありがとよ、兄ちゃん。これはお礼だ」
「あんたやるじゃないか。これも持って行きな」
「子供の幸せな顔を守ったんだ。誇れよ」
「うちのもやるよ!」
俺の手には次々に野菜やら食い物が集められる。
重い。
多過ぎんだろ。
「ありがとう」
「気にすんなや、これは俺たちからの気持ちだ」




