52話 《神界のメイドと地上のメイド》
パァンッ!
空気の破裂する音が聞こえる。
それからも風を切り裂く音や突き抜ける音が鳴り響く。
「ふぅ」
なかなか上手くいかないもんだな。
想像以上に手こずる。
「凄いです、ご主人様!」
「凄い音だニャ」
メイドたちはタオルと冷たい飲み物を俺に差し出す。
「ありがとう、助かるよ」
俺は今、気の練習をしている。
ヘファイストスに教えて貰った方法と俺の想像で何か新しい技はできないかと模索中なのである。
気とは本当に面白いものだ。
エネルギーを物量に変換することの出来るこの力は本当に極めれば魔法なんかよりも凄いと実感だきる。
魔法の優越感に浸っている奴を粉砕出来るな。
俺は精神を落ち着かせて目の前の大岩に構える。
「はっ!」
俺は拳を岩の前で寸止めする。
ビキビキ
岩にはいくつもの亀裂が入る。
あー、ダメだわ。
気だけで壊せるかなと試してみた。
俺が直接殴れば普通に壊れる。
それじゃあ、ダメなんだよなぁ。
上手く使えんわ。
「本当にどうなってるのニャ? ニャ!」
シェイは岩に疑問を持ったのか、岩に向かって猫パンチをする。
「うぅ、痛いニャ」
実際タダの岩なので殴れば普通に痛い。
「シェイ、何バカな事をしているんですか」
「いけると思ったのニャ」
いや、無理だと思うぞ。
岩を砕くって普通に考えれば不可能だもん。
「ご主人様、どうしたら強くなれると思いますか?」
「何だ、強くなりたいのか?」
「メイドはご主人様の盾であり剣です。無力なままの自分は嫌なのです」
うちの天使たちと同じ事を言うんだね。
ピロンッ
【主人様、その子たちを連れて神界へお越しください。 byガブリエル】
すいません、フラグを立ててしまいました。
えー、連れて行くのか。
まあ、久しぶりに行くのもいいな。
「お前ら、もう一度聞く。本当に強くなりたいか?」
「「「「「はい(ニャ)」」」」」
全員か。
「分かった。お前たちをこれから強くするためにとある場所に行く」
「どこですか?」
「俺の家だ」
メイドたちは何を言っているのか分からずに首を傾げる。
「ご主人様のお家はここではないのですか?」
「確かにここも俺の家だ。ただしもう一つ、本拠地的な場所がある。そこの存在は厳守して貰う。いいな?」
コクコクとうなずくメイドたち。
いざとなれば、契約を使えばいい話だからいいか。
「よし、お前ら。少し目を瞑れ」
【神界への鍵を使いますか? YES or NO】
俺たちは光に包まれて、神界へ移動する。
内装は全く同じなので、何が起こったか分かっていない様だ。
「付いてきてくれ」
俺は自室に移動する。
扉を開けるとドタバタと誰かが走ってくる音が聞こてる。
「キャッホウ! モフモフです!」
「させるかよ!」
俺はアテナにアイアンクローをかます。
お前がどうするかは目に見えている。
予想通りの反応をありがとう。
「ヒッ、ご主人様。この方はどなたですか?」
「おい、アテナ。怖がらせてるんじゃない」
「酷いです。私はスキンシップを取ろうとしただけですよ」
プリプリ怒るアテナさん。
そのスキンシップが過激なんだよ。
「お待ちしておりました、主人様」
ガブリエルが突然現れてお辞儀をする。
ステルス使わなくてもいいんじゃないの?
うちの少女たちも混乱している。
「あの……天使様なのですか?」
「はい、そして主人様こそ私たち天使を創造された神にあらせられます」
違います!
創造はしたけど表現がいちいち大きすぎます!
「ご主人様は神様なのかニャ?」
「シェイ、今俺が掴んでいるアホは正真正銘の神だ。だけど、俺は違うからな。誤解はするな」
空中で悶えているアテナに疑わしい目を向ける。
そう、それでいいんだよ。
こいつが神様なんて認めない。
「主人様、お願いが御座います」
「何だ? ガブリエル」
「そこの娘たちは主人様のメイドです」
「うん、そうだね」
「ならば主人様のメイドである私が教育するのが筋というもの。メイドとは何かを一から教え込みたいのです」
あー、確かに一理あるな。
この子たちは奴隷でもあるから、教育なんてものは受けた事がない。
メイドなら、お偉いさんを相手にさせる事もあるだろう。
礼儀を教えるという意味ではガブリエルに任せるのが一番だな。
「分かった、ガブリエル。お前に任せるよ」
「感謝致します、主人様」
「ご主人様は一緒じゃないのかニャ?」
「あなたたちは先ほど強くなりたいと言いましたね。主人様を頼ってばかりではいけません」
「まあなんだ。頑張れよ」
ガブリエルは少女たちを連れて行ってしまった。
「そう言えば、アテナ。パラスたちはどこに居るんだ?」
他のみんなが見当たらない。
「パラスたちは雪合戦をしてますよ。私たちも行きましょう」
夏なのに雪合戦か。
俺の家は春夏秋冬関係ないから快適に過ごせるんだけどね。
俺はアテナと地下へ移動する。
「む、涼太ではないか。どうしたのじゃ?」
ガラス張りの小屋の中で、じいさんはコタツに入ってぜんざいを食べている。
「あれ? オーじいはやらないのですか?」
「わしは寒いのが苦手なのじゃよ。ぬくぬくとお主らが滑っておくのを見てるぞい」
お、気が合うじゃないか。
俺もコタツの中に入ってぬくぬくする方が好きだ。
よっこしょっと。
あー、ぬくいなぁ。気持ちいい。
「りょう君、何でコタツに入っているのですか。行きますよ」
あぁぁぁ。
引っ張られる。
嫌だぁ、出たくないよぉ。
「涼太、来たわねぇ。私たちを助けてぇ」
既に攻防は始まっていた。
女神陣とヘファイストスとアポロンの二人。
ドゴォーン!
「ちょっと! ヘファイストス、危ないじゃないの!」
ヘファイストスの雪玉が女神陣の壁を粉砕する。
「ガハハ、ならお前らもかかって来いよ! 当てられるんだったらの話だがな。ガハハハ!」
「ヘファイストス、パンドラには当ててはダメですよ」
明らかに男性陣が優勢だな。
それなら俺は女神陣に参加するか。
「おい、涼太。お前は男だろ、こっちに来いよ」
「うるさいですよ、りょう君は私たちの希望です。あげるなんて出来ません」
「そういう訳だ。悪いな、ヘファイストス」
「なら手加減は無しだ! ぶっ潰してやるぜ!」
ヘファイストスは大きく振りかぶって雪玉を投げる。
ビュン!
ふぁ!?
今、見えなかったぞ。
後ろを振り向くと作られた雪だるまが粉々に粉砕されていた。
地味にアートと化している。
「あー! うちが作った雪だるまが! ぶっ殺すっす」
テミスの傑作だったのか。
「おいおい何だ、その程度か? かかって来いよ」
上等だコラ。
俺は気を乗せて雪玉を投げる。
パシッ
何!?
普通に掴まれた。
「おら、返すぜ!」
ヘファイストスの雪玉がまた一つのクレーターを作る。
俺の知っている雪合戦と違う。
当たったらマジで死ぬ。
「だったら喰らえや! 【絶氷球】」
これも雪玉。
ただし、当たれば氷漬けだ。
「甘いな、【地獄炎】」
なっ! 魔法を使いやがった。
俺の雪玉は黒い炎に包まれて消える、
おい、ジジイ!
神界での魔法使用は禁止のはずだろ。
小屋の方を見ると、うつ伏せになって寝ているジジイ。
もういいです。