50話 ハルさんの屋敷
さてさて、俺は冒険者だ。
少し忙しくなり過ぎて一週間程行くことが出来なかった。
サボりぐせはよろしくない。
ということで、ギルドに行こう。
Eランクからも早く抜け出したいからな。
あれ?
ギルドの前に大勢の騎士たちがいるな。
揉め事か?
「あ! 涼太さん、来ましたね。急いでついて来て下さい!」
「わっ、ちょっ、何ですか」
「本当にマズイんです。いいから来て下さい!」
俺はシーダさんに連れられてギルマス部屋にやって来た。
「ギルドマスター、涼太さんを連れて参りました」
「おお、よくやった。入れ」
俺は無理やり部屋に押し込まれてバランスを崩し倒れ込む。
おや、ハルさんじゃないですか。
お久しぶりです。
大侵攻の会議以来ですね。
「拘束せい」
「「「はっ!」」」
俺は部屋にいる騎士たちによって、ロープでいもむし状態に縛り上げられる。
「久しぶりだな、涼太」
「お久しぶりです、ハルさん。今日はどの様なご用件でギルドへ?」
「前に妾の屋敷に来いと言ったはずだ。お主はいつまで妾を待たせるつもりだ?」
あー、言ってましたね。
すいません、サラリと流していたので忘れてました。
テヘッ!
ごめんなさい、そんな怖い顔をしないで下さい。
「目的も果たせた、邪魔をしたな」
「いえ、こちらもご迷惑をおかけしました」
ハルさんはズリズリと俺をひっぱって部屋を出て行く。
地味に痛いです。
階段とか痛いです。
あ、カインだ! おい助け……てめぇ、知らん顔をしてんじゃねぇよ!
目を合わせろや!
このウルウルした目を見ろや!
他の冒険者たちも見て見ぬふりをしている。
くそっ……ダチだと思っていたのに。
俺は馬車に詰め込まれてカタカタとハルさんと一緒に屋敷へ向かった。
「あの、そろそろ縄を解いて欲しいんですが……」
「そうだったな、解いてやれ」
あー、やっと解放された。
全く体が動かないって辛いんだなぁ。
屋敷はハイゼット家に負けず劣らず立派だ。
流石は四大公爵。
「それで、俺に何の用ですか?」
「ああ、そうだったな。少し人体実験を……「帰ります」」
「冗談だ。そんな事するはずが無いだろう」
クスクス笑うハルさん。
こっちは本気でビビリましたよ。
「取り敢えずは私の自室に来て欲しい」
「分かりました」
俺は屋敷の外観を眺めながら、ハルさんについて行く。
ちらほら強そうな魔物の剥製がある。
研究のためかな。
「さて、お前して貰いたい事は二つだ。一つは魔術の研究やら解読を手伝ってくれ。お前の技量は貴重だ」
「まあ、それぐらいなら良いですよ」
「二つ目だが、涼太よ。お前は迷宮に行き、生還したどころか迷宮の魔物を狩っておるな?」
「迷宮とは何ですか?」
「しらを切るな、二頭虎の件についてだ。お前がギルドに提供した事は分かっている」
「ハルさんがあの虎を買い取ったという事ですか?」
「そうだ、あのレベルの異質さと異常さは迷宮以外ありえん」
「災害級の魔物ではないのですか?」
どうにかして誤魔化したいんだけどなぁ。
完全にバレてるよな。
「普通の魔物の魔石の色は透明だと知っているだろう?」
「はい、冒険者ですからね」
「迷宮の魔物の魔石には色がついている。これを見ろ」
机に黄色い魔石と黒い魔石が置かれた。
「黒の方はお前さんが狩った虎から出てきたものだ。黄色い方は以前に黄の迷宮を生還した者たちが入り口付近で死に物狂いで倒した一匹から出てきた魔石だ」
そういう事か。
迷宮の魔物を料理した時に出てきた黒い石は魔石か。
黒ってゴミみたいな色だから捨てそうになった。
保管しておいて良かった。
「確かに俺は迷宮を攻略しました」
「何! お前、攻略したと言ったか!」
「隠すのもめんどくさくなりました。それに四大公爵ならバラしても人に話さないでしょう?」
「随分と妾を高く買っている様だな」
「信用してますからね」
椅子に座りひとまず落ち着く。
「それで迷宮はどこにあったのだ? 黒の迷宮は発見されていなかったはずだ」
「聞いてどうするんですか。行っても死ぬだけですよ?」
「迷宮の恐ろしさは知っておる。聞きたいのは迷宮には王という魔物がいると伝承にある。それは本当か?」
「確かに居ましたね」
「どうだった」
俺は黒の王との戦闘を思い出す。
「例えると、ヨルムンガルドと王とではオーガとオーガエンペラーほどの差があるといえば納得してくれますか?」
「実に分かりやすい例だな。それは国を……いや、世界を滅ぼす事が出来る。この世界にまだそんな魔物がいるとは恐ろしい世に生まれてきたものだ」
それを聞いたハルさんは飲み物をグイッと一飲みして大きな溜息をつく。
「それをお前は倒したとな……世界でも征服するか?」
「嫌ですよ。何でそんな面倒な事をしないといけないんですか」
「否定せんあたりが驚きだ」
「俺はほのぼのと日常を過ごしたいだけですからね」
「くはは、そうか。安心したよ。それでお前に頼みたい事だが、迷宮の魔物を狩ってきたら私に買い取らせて欲しい。もちろん報酬はそれに見合った物を出そう」
「それなら、今見つかっている迷宮に入る許可が欲しいです」
「妾に言われても困るぞ。迷宮は別の国にあるのだからな。まぁ、妾も顔は広い。頼むだけ頼んでみるとしよう」
俺は用意されたお菓子をパクパクと食べる。
それにしても美味いなぁ。
流石は公爵家の料理人だ。
いい仕事をする。
「研究の件だが、お前の家にかけられておった魔法は何だ?」
「秘密です」
「まあいい。深くは追求せんよ。珍しい素材などがあれば是非持ってきてくれ」
「それは依頼という形でですか?」
「無論だ。お前は冒険者だからな」
なら、ランク上げにも使えるし頑張ろう。
それからもしばらく話しているうちに時間が過ぎていく。
「俺はそろそろ帰ります」
「うむ、時間を取らせて済まんな。今日は依頼という形になっておる。帰り側に冒険者ギルドに寄るといい」
「そうさせて貰います」
俺は屋敷を出たあたりで冒険者ギルドまでダッシュで行く。
「おう、涼太。帰ったか」
「帰ったじゃねぇよ! よくも無視しやがったな」
俺はカインにチョークスリーパーをキメる。
「しゃあねぇだろ! 公爵家なんて恐ろしくて相手に出来るかよ! 分かったよ、一杯奢るから許してくれ」
「よし、お前ら! カインがみんなに一杯奢るってよ!」
「ちょっ、何でそうなるんだ!」
俺も憂さ晴らしに頼む。
結局やりたい依頼は出来なかったが、今日の事は忘れるとしよう。
そのまま呑んだくれているうちに日は沈んでいった。
まずい! すぐに帰ってくるとメイドたちに言ったんだった。
「悪い! 俺帰るわ」
「おう、またな」
俺は転移して家に帰る。
「ご主人様!」
「寂しかったのニャ!」
予想通りに、泣きながら抱きついてきた。
ごめんね、まだ来て間もない子供を一人では無いがほっておくべきでは無かった。
俺はよしよしと頭を撫でて風呂に入れてから、みんなで一緒に寝ることにした。




